藤原歌劇団上演の
- マスネ作曲「ナヴァラの娘」
- レオンカヴァッロ作曲「道化師」
を見てきました。
二本立てです。
場所は上野の東京文化会館。日曜日なので14時開演でした。
道化師は「衣装をつけろ」の歌で有名ですね。
道化師は短いオペラなので、通常はプッチーニの外套やジャンニスキッッキと合わせて上演されることが多い中、
今回はナヴァラの娘という、聞いたことがない演目と一緒に上演されました。
これがとてもよかったです。
ナヴァラの娘
ナヴァラの娘というオペラは日本初演だったんですね。
日本初演ということにまずとてもワクワクです。
こんな機会はなかなかないからです。
作曲したマスネは「タイースの瞑想」と言う曲が有名で、それはそれは美しい旋律なのですが
そしてナヴァラの娘も美しくて悲しくて叙情的で情熱的でした。
さて、今回久しぶりに藤原歌劇団のオペラを見に行ったのですが、気がついたのは、字幕用のパネルに、
ナヴァラの娘 日本初演 2018年1月
道化師 日本初演1962年
と最初に日本初演の年がでていたこと。
これまで見たオペラでは初演の年度をこんな風に字幕で表すのは記憶がありませんが、私としてはいいなと思いました。
そもそもオペラの初演の年と初演の場所というのは、どこに依頼されて作った作品なのか、何歳の時に作ったオペラなのかなど、
色々見えてくるものがあるので、大事だと思うんですよね。
道化師日本初演の1962年といえば、日本では戦後の高度成長の真っ只中。
オペラ公演が増え始め、NHKでも盛んに海外のオペラが紹介され始めたころで、その頃にこのオペラも日本に初めて紹介されたのかと、短い間ですが思いました。
そして今回のオペラで気がついたのはパンフレットにある総監督の折江忠道さんの名前。
とても有名なバリトン歌手ですよね。私がオペラを見始めた今から30年ほど前にバリトンといえばこの人の名前が出てきていました。
そういう人が総監督になっていくのね、と思いました。
さて、ナヴァラの娘は愛する人のためにお金欲しさに人を殺してしまうが、結局愛する人も失ってしまうという、超悲劇的なオペラ。
オペラにはそもそも悲劇が多いのですが、その中でもかなり暗いストーリーだと思います。
まず、序曲。旋律は美しく覚えやすいのだけど、とにかくずっと鳴り続ける小太鼓。
こんなに小太鼓を使う曲は聴いたことがありません。
それだけにインパクトがかなり強く、
不安を掻き立てられ、この物語の不安と暗い成り行きを予感させます。
道化師もそうですが、ナヴァラの娘のようなヴェリズモオペラと呼ばれる演目は、歌唱力はもちろんのこと歌手の演技力が非常に求められるんですよね。
今回見た日ののナヴァラの娘の主役アニタは西本真子さんという歌手でしたが、迫真の演技と歌唱で感動でした。
声はビブラートが少し強めなので、情熱的なこの役にとても合っていたと思います。
西本さんの経歴を見るとトスカとかヴィオレッタ、カルメンのミカエラもやっているようですが、今日の演技と声を見る限りミカエラよりカルメンの方が合っているんじゃないかと勝手ながら思いました。
蝶々夫人のタイトルロールもやっているのは、まさにぴったりはまっていそうな感じがします。
聴いてみたいですね。
恋人役のアラキルも歌、演技共に良かったです。
アラキルとその父親は明らかに実年齢が逆転していたと思いますが、オペラではよくあることなので、気にはなりませんでした。
魔笛のパミーナより母親の夜の女王の方が年下、っていうこともよくありますしね。
ラストで恋人アラキルが死んでしまうのですが、そのシーンは本当に感動的でしたね。
アニタは気がおかしくなるのですが、ルチア(ドニゼッティ作曲ランメルモールのルチア)のような静かな狂乱ではなく、奇声をあげる錯乱とでもいったほうがいいでしょうか、
そこに最初に聞いた、インパクトの強い序曲のテーマが流れてきて、これがなんとも言えず効果的で、
ググッとこみ上げる感動がありました。
西本真子さんの演技と歌唱もさることながら、音楽の力というのはやはりすごいものです。
こんなオペラがあったのかと、感動したと共に、今回見ることができたことは嬉しい限りです。
今回のように一つの公演で、二つの演目をやり、しかも場面が変わるたびに舞台は変わることは、裏方さんは非常に大変だと思います。
今回も積み上げた椅子が瞬時に片付けられていたのはさすがです。
基本的なセットは両方のオペラで同じ台と同じ壁を使っていましたが、全く違和感なく、こういう使い方もあるんだ、と感心しました。
かといって現代風な一切を削ぎ落としたハリークプファーのような舞台でもなく、時代背景がうかがえる舞台でした。
オペラって歌、演技、演奏、舞台と、全部あって本当に面白いです。
道化師
さて後半の道化師。
「衣装をつけろ」の曲があまりに有名。
余談ですが、曲が有名になりすぎると、本来この曲を歌うような声ではない人が、テレビで披露したりして、ちょっと違う、なんかかわいそうと思うことがあります。
それはさておき
過去に私が見た映像の中ではやはりプラシド・ドミンゴのパリアッチが好きです。
とりわけドミンゴのファンというわけではないのですが
道化師のように、悲しくて悔しくてどうしようもない役は、やはり迫真の演技をするドミンゴの名前が浮かんでしまいます。
ルチアーノ・パバロッティの映像もよかったです。
通る声はもちろんのこと、巨体に着たピエロの衣装がなんともみっともなくて、
これじゃ若いネッダに浮気されても仕方ない、と思ってしまうカニオでした。
それがまた存在感があってよかったんですよね。
パバロッティって、そんなに演技派のイメージがなかったのですが、
道化師では、コロンビーナに迫る殺気に凄みがあり、やっぱり演技もうまいと思ったのを覚えています。
もっと昔では往年のマリオ・デル・モナコがあのスコーンと通る声でこの役をやったようですが、生で見たかったなと思います。
往年の名歌手と比較するわけではありませんが、今回の公演は引けを取らないくらいよかったのではないかと、私は思います。
主要なメンバーは5人ですが、全て歌唱力が高く、誰が主役でもいいのでは?と思うほどでした。
このオペラは道化師のカニオが主役で、浮気される役なんですが、
このオペラで一番目立つのは実はトニオですよね。
プロローグで、最初に出てくるし、今回は1幕と2幕の間にも、幕の前でトニオだけが登場していましたし、衣装も派手だったので、とにかく目立っていました。
トニオは性悪の役ですが、こういう人がいるからストーリーがおもしろいんですよね。
このトニオ役は須藤慎吾さんというバリトン歌手ですが、すごく上手いのでびっくりしました。
リゴレットのタイトルロールも合いそうだと思ったら、すでにやられているようですが、ヴェルディ系のバリトンは全て合いそうな方ですね。
演技がまた上手で、日本のオペラ歌手は、層が厚くなってきたと改めて思いました。
パリアッチ役の藤田卓也さんは、どう見てもいい人そうな顔立ちで、まだ若そう。
今回の役は、嫉妬と怒りで顔も心もぐちゃぐちゃになるパリアッチというよりは、恋人を取られた気の弱いかわいそうなパリアッチ、という雰囲気でした。
ネッダ役は佐藤康子さん。演技がうまく、華奢な体のわりに芯のある声。
特に2幕の劇中劇で、カニオの殺気を感じながらも無理に平静を繕おうとする様子など本当にうまかったですねえ。
見た目も可愛らしく、オペラ歌手は太めの人が多いので(その方が舞台映えもしますよね)ダンスを踊れないイメージがあるのですが、身軽に踊っていました。
ペッペとシルヴィオも存在感がありました。
今回の道化師は本当に私の中で、歴史に残る素晴らしい公演でした。
それにしても短いオペラながら、道化師はよくできたストーリーだと思います。
そうそう、オペラって1800年代にできたものがたくさんあって、さらにすごいのはちゃんと初演の情報が残っていることです。
道化師はトスカニーニが25歳の時に初演の指揮者をやっており、
場所はミラノのダル・ヴェルメ劇場 Teatro dal Vermeというところです。
この劇場は戦乱のため、元の姿ではありませんが美しいコンサートホールなので、いつか行ってみたいですね。
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