グノー作曲のオペラ「ファウスト」を見てきました。
英国ロイヤルオペラの引っ越し公演で、場所は上野の東京文化会館です。
今年最も豪華なオペラがおそらくこれ!値段もS席59000円と超高価ですが、
見終わってみればこれだけのものを持ってきて、これだけの豪華絢爛な舞台と充実した内容なら仕方ないねと思える満足の公演でした。(ちなみに私は59000円の席ではありません笑)
一言でファウストの感想を言うならこれぞグランドオペラ
日本でこの時代にグランドオペラを見ることができたということに感動でした。
いやーよかったです!会場も惜しみない拍手とブラボーの渦でした。
ファウストとグランドオペラ
グランドオペラなんて19世紀のパリのもので
現代のしかも日本においては、もう当時のような舞台は見られないんだろうなあと
実は思っていました。
ところが今日見たファウストは、これぞ19世紀パリのグランドオペラがこんな感じだったのでは?!と思えるような舞台。
まず舞台が豪華、豪華というよりスペクタクル。
十字架が折れたり、銅像が動いたり、パイプオルガンが割れたり。
そして合唱が実に効果的。
セリフも音楽もこれほど躍動的な合唱が頻繁に出てくるのはグランドオペラならでは。
5幕まであり場面の変化が多いのもグランドオペラならではですが、今回は前半1、2、3幕を一気に上演し、後半に4、5幕という二部制。
つまり休憩は一回だけというやり方。
そのため前半は2時間近くありましたが、これがグノーのファウストの色彩豊かな音と舞台のおもしろさで
2時間を長いと感じなかったんですよね。
また今回の上演は歌も最高レベルで、世界のレベルの高さを見せつけられた気がしました。
楽しみにしていた5幕のバレエも独特きわまるもの。バレリーナが声を出すのは初めて見ました。
ファウスト演出
今回のファウストは演出が派手でスペクタクルで正直ワクワクしました。
しかもそれが一回ではなく何度も。
音楽と同時に幕があくと、右手にパイプオルガン、床には椅子がいくつかあるファウストの暗めの書斎。
登場したファウストは腰を曲げカツラを被った年老いた老人。
若くなる変身では、メフィストフェレスのマントに隠れてカツラをとっての変身。
第一幕はなんとなく予想通りの演出ですが、
第二幕では広場のキリストの像がいきなり倒れて、十字架が折れるというスペクタクル。
倒れたキリスト像はかなり大きな像だし、
しかも十字架は完全に折れるのではなく中途半端に折れているんですよね、逆にあれって難しいんじゃないの?って思っちゃいました。
第二幕ではパリのムーランルージュを彷彿させる華やかな踊り子達も登場でまたまた華やか。
第三幕はファウストとマルグリートの愛の場面で、唯一静かな幕。
そして第四幕では十字架に変わってピエタ像かと一瞬と思ったら、像は動き出して悪魔のメフィストフェレス。
像が動き出すというのは、当時のスペクタクル性としてよくある演出だったとは思うけどなかなか不気味でハッとするし、よかったです。
怪しい男性達のうごめくような踊りも効果的。
第四幕は全体として不気味感たっぷりの幕。
地獄に落ちろと言われて大きなお腹を抱えてもだえるマルグリットの演技も迫真。
そして諸所に出てくるパイプオルガンの音も効果的でした。
そして決闘のシーンは迫力満点。兄がまたいい味をだして‥。
5幕は悪魔のワルプルギスの夜。
5幕の注目はバレエだけどその前のクレオパトラ達も絢爛豪華で目を引きましたね。
(とにかく目でも楽しませてくれる今回のオペラ)
メフィストフェレスは毎回衣装を変えますが、5幕では黒の肩出しドレスで登場。ちょっと三輪さんぽくて存在感ある感じ。
オペラのバレエは通常独立している感があって、純粋にバレエを楽しむ時間ですが
今回のファウストについてはバレエもストーリーがあって非常におもしろかったです。
まずオペラで声を出すバレリーナ達ってはじめて見ました。
ウー!とかエッとか笑ったり、どちらかというと不気味な声。
メイクもちょっと悪魔っぽくて、一人はお腹の大きな踊り子。
この人がバレエでも責められて(マルグリットの象徴だと思いますが、)ゾンビも出てきてかなりシュールなバレエ。
ここまで物語に沿ったバレエというのははじめて見ました。しかもかなり長いです。
音楽も多彩で不思議な太鼓の音もあり、ほんとに目が離せないオペラでした。
19世紀にグランドオペラが流行ったはずだわと思いましたね。
私だってこういうのがあれば何度でもみたいですから。
なんなら19世紀にタイムスリップして見に行きたいです。
5幕ではパイプオルガンまで煙と共に動いてこれもスペクタクル。ここまでやるのかという演出でした。
いやあ、演出についてはキリがないくらい書きたいけど、これは舞台で見なくちゃというものですね。
グランドオペラはやはり生の舞台で。
ファウスト歌手について
日本のオペラってかなりレベルが高いと思うんですが、
今回も歌手は一流ぞろい。
ファウストを歌ったのはヴィットリオ・グリゴーロという人。
この人ははじめて見ましたが、めちゃくちゃ上手。
メフィストフェレスの方が目立つかと思いきや、この人の声がツヤツヤと響きかつ叙情的な声なのでメフィストフェレスよりめだってました。(まあ主役ですし当然か)
「清らかな住まい」はやはりいい曲です。(耳からしばらく離れなかった)
演技も熱演。イタリア出身で40代なので、今最も脂が乗った時かも。
情熱的な歌はヴェルディもぴったりの感じです。
メフィストフェレスを歌ったのはイルデブランド・ダルカンジェロというこちらもイタリア出身のバスかな、バスバリトンかも。
前半3幕を続けて上演するので前半が長いわけですが、ファウストもこの人もいきなりの美声がでてました、さすが。
安定した声ときりりとした容貌はメフィストフェレスも合うけど良い役にも合いそうな感じです。
ワーグナーなんかも歌えそうだけど、経歴を見るとイタリアものが多いみたいです。
メフィストフェレスのような個性的な役は、やはり海外の歌手の方がビジュアルも合うんだろうなと感じました。
個人的にはメフィストフェレス役は、「子牛の歌」の時は闘牛士のような派手な格好もしていたとはいえ、
もっと目立って、全体にエッジが効いた感じが欲しかったけど、その分ファウストが目立ってそれはそれで良かったのかもしれません。
そしてマルグリート役を演じたのはレイチェル・ウィリス=ソレンセンという人。
この人はドイツ生まれでまだ30代。
顔は細くて清楚な雰囲気ですが、背も高いし体もかなりしっかりしているからか、声がすごく出るんですよね。
マルグリート役はあまり高い声を張り上げる印象がないのですが、
この人の声を聞いた時はメゾのような声だと前半思ったんですよね。それくらい低い声が響く人です。
ところが後半高い声もやすやすとしかもこれが大きく響く声。
メゾから高音のソプラノまでいけそうですごく上手い人だなあと思いました。
マルグリートの兄役のヴァランタンを演じたのはステファン・デグーという人。
今回この人がすごくいい味を出してました。
妹思いの優しい兄の雰囲気から一変して決闘して死ぬ間際に妹を呪いつづける様子は迫真の演技で良かったです。
ここまで言われたら妹は狂っちゃうわなあと。
そして役としては地味で目立たないけど、声は目立っていたのが密かにマルグリートに思いを寄せるジーベルで
ジーベルを演じたのはジュリー・ボーリアンというメゾの女性。
いわゆるズボン役ですが、この人の声も良かったです。大きな拍手をもらっていました。
一点不思議なのは3幕の恋人同士のシーンでの隣のおばさんとメフィストフェレスの組み合わせ。
あの不思議な関係はなんなのかなあと今もわからない‥。
夫が死んだと聞いても特に何も感じないおばさんと、なぜか変な関係になるメフィストフェレスでした。
最後に合唱の素晴らしさ。
グノーのオペラというかこの時代のグランドオペラの特徴だと思いますが
合唱がすごく効果的。
特に第四幕の「先祖の栄光よ」の合唱は力強くてゾクゾクするような合唱。
どの合唱も聞き応え十分だけど特に印象的でした。
全体に世界の歌のレベルは高いと改めて感じた公演でした。
上演は難しいと言われる19世紀のグノーのオペラ、5幕8場もあるこのオペラをこんな風に豪華に上演してくれたことにひたすら感謝です。
見られてよかった!の一言。
グランドオペラって当時は成金趣味と言う人もいたのかもしれないけど、やっぱり楽しいからみんなが見に行ったんでしょうね。
それにしても若くなりたいというファウストののぞみ、
そして野に咲く花よりやっぱり高価な宝石に目が行女性のさがは
やはり普遍のテーマなのかなあと。
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