今回はワーグナーの「ニーベルングの指環」の中の第二夜「ジークフリート」について書いてみることにしました。
正直なところをいうと、ブログに書きたいのに、何を書けばいいのかわからずなかなか書くことができなかったオペラです。
ワグネリアンについて
このオペラブログでは様々なオペラについて書いているのですが、
実はワーグナーのオペラについては、後回しになっていました。
ニーベルングの指環の4作については特にそうです。
なぜ後回しになっていたかというと、ワーグナーは好きだけどなぜか書けない、ということがあります。
そしてその理由の一つは好きな理由がうまく言えない、ということがあります。
世界中には熱狂的なワグネリアンが数多くいるようですが、
好きな理由を、うまく言える人がはたしてどれだけいるんだろうか、とも思います。
好き嫌いは感覚的なものが大きいと思いますしね。
さて、そうはいいつつも、無理やり好きな理由を言葉に出してみたいと思います。
- これほど美しい旋律があるだろうかと思う瞬間がある
- 悲しい場面でもないのに涙が出るときがある
- 音楽が流れ出した途端、来て良かったと幸福感を感じることがある
- 音楽を隅々味わいたいと思ってしまう
- 長いのに長さを感じない(お尻は痛くなりますが‥)
なんか漠然としていますが‥。
そして、自分の好きの度合いがわからないので、ワグネリアンまではいかないと思っています。
大抵の人が、ワグネリアンかと聞かれると、否定すると言いますが、それは私のような理由かもしれませんし、
またはヒトラーの存在と微妙に関係しているのかもしれません。
とにもかくにも、ニーベルングの指環についてそろそろ触れようかなと思ったわけです。
そしてその4つの作品の中で最初に取り上げるならやはりジークフリートだと思いました。
ジークフリート・指環で最初に見た演目
ニーベルングの指輪というオペラは
- ラインの黄金(序夜)
- ワルキューレ(第一夜)
- ジークフリート(第二夜)
- 神々の黄昏(第三夜)
の4つの作品からなる大作オペラなのですが
当初、作曲したワーグナーはジークフリートが最も人気が出るだろうと予想していたといいます。
ところが実際には、現在最も人気があるのは、ワルキューレの方です。
ワルキューレの騎行の音楽は、地獄の黙示録という映画にも使われて一躍有名になったということもあるでしょう。
ジークフリートは恐れを知らぬ英雄の物語で、神話要素が強く、言葉を変えるとおとぎ話にも似た部分があるのに対し、
ワルキューレは男女のかなわない恋愛が軸になっており、抒情的で、言い換えると大人の恋愛ストーリーとなっています。
以前オペラをほとんど見たことがない友人を、おそるおそるワルキューレに連れて行ったことがあったのですが、
退屈がるどころか、
「こんな素敵な恋愛ストーリーだったのね」と感想を言っていたことがあります。
その人にとってはうっとりする恋愛ストーリーに思えたようです。
さて私はというと、ワーグナーの思惑通り、最初に好きになったのはジークフリートでした。
ノートゥンを鍛えるシーンの音楽が好きでしたし、
大蛇を恐れずに倒すのもおもしろく感じたのも事実です。
また、ワーグナーを歌うテノールはドラマティックのさらに上を行く重厚な役柄で、
中でもジークフリート役は最も重い役と言われています。
そんなジークフリートの迫力ある声も魅力的だったことは確かです。
オペラを見る人たちは、見る順番がどうだったかというのも少なからず好き嫌いに影響するのではないかと思います。
私の場合ニーベルングの指環のなかで、たまたま最初に手に取ったのがジークフリートだったということも実は大きかったのかもしれません。
最初にラインの黄金を見ていたら、果たして全部見たかどうか…と思ってしまいます。
ジークフリートの中では、ふいごを使いながら剣を鍛えるシーンがお気に入りで、何度もそこだけ見たのを覚えていますね。
ルネ・コロのジークフリート
どのオペラを先に見たかということが、その後の好き嫌いに多少なりとも影響すると言いましたが、
最初に見た歌手が誰だったかということも、実はかなり影響するのではないかと思います。
そのオペラを好きになるときは、大抵その時演じていた歌手を好きになっている時ではないでしょうか。
また、歌手も時代とともに変わっていきますから、
どの時代に、誰が全盛期の時に見ていたかという時代の影響も大きいような気がします。
特に最初に衝撃的な感動を受けてしまうと、どうしてもその時の歌手の印象はなかなか消えず、
その人をベースとして比較してしまうような気がします。
さて私の場合は、最初にジークフリートを見た時のタイトルロール役がルネ・コロという歌手でした。
20世紀を代表するヘルデンテノールです。
そのため、ジークフリートというと、長らくルネ・コロのイメージが抜けなかった気がします。
特にビブラートが特徴的だったので、この役を歌う人はこういうものだとすら思っていました。
そして、ジークフリートというオペラが好きになると同時に、ルネ・コロが好きになっていたわけです。
ジークフリートは恐れを知らない勇者という名の通り、このオペラの前半では、森で生きる強い男。
だけど知恵はあまりなさそうなところが、なんとも魅力的でおもしろく感じたのです。
はじめて恐れを感じるのは、恐ろしい敵を見た時ではなく、美しいブリュンヒルデに出会った時だった、という設定は
私がいいなと思う部分の一つです。
そして、出会いの後の二人の歌は、このオペラの見どころ、
と通常書かれている本が多いですね。
個人的には二人の出会いから後の部分は、前半のジークフリートの雰囲気とはちょっと異なっていて、
どちらかというとワルキューレに近いものを感じます。
そのため前半のつもりで見ていると、なんか最後のところは、愛の歌を歌っているのが延々と続いて、事が運ばないなあなんて思ったものです。
急におとぎ話の雰囲気が無くなるからかもしれません。
もっともジークフリートというオペラは、ワーグナーが作曲を始めてから、途中で約10年もの間中断しています。
途中で雰囲気が変わっているのは、間が空いてしまったことによるのかもしれません。
オペラというのは見るたびに発見があったり、好きな部分も変わっていくのですが、少なくとも最初のうちのジークフリートの印象はそんな感じでしたね。
ノートゥンを鍛えるシーンは今でも好きですが、
最近良いなと思うのは、エルダが登場する第三幕のシーン。
メゾの中でも低い声や、アルトが担当することが多いこの役柄と、エルダのシーンの曲は最近とても気に入っている部分ですね。
またエルダの登場の演出も気になるところの一つです。
上演時間とあらすじ
初演と上演時間
- 初演:1876年
- 場所:バイロイト祝祭劇場
- 初演の指揮:ハンス・リヒター
ワーグナーは1856年からこの作品に取り掛かっていますから、初演までになんと20年もかかっているんですね。
初演の指揮者であるハンス・リヒターはニーベルングの指環を全曲初演しています。
<上演時間>
- 第一幕:約85分
- 第二幕:約75分
- 第三幕:約80分
正味4時間という長さ。二回の休憩を入れると約5時間になります。
オペラの夜の公演は大抵の場合19時開始か、早くても18時開始なのですが、
ジークフリートの上演の時は、夕方の16時ころの開始になることがあります。
働いていると駆けつけるのが大変です。
簡単あらすじ
<第一幕>
第一幕はジークフリートが育った森でのシーン。
育ての親ミーメは、育てたにもかかわらず、愛情は全くなく、それどころかジークフリートを利用して殺そうとしています。
一方ジークフリートも全く恩義を感じておらず、不思議な関係の二人のやり取り。
ヴォータンもさすらい人としてやってきてミーメに三つの問いかけを。
そしてミーメが、割れたノートゥンを鍛えることができないので、ジークフリートが見事に自分で作り直すシーンは見もの。
<第二幕>
第二幕は大蛇を倒すシーン。
大蛇の血をあびたジークフリートは小鳥の言葉がわかるようになったり、隠れ頭巾を手に入れるところなどは、おとぎ話っぽい部分でもあります。
隠れ頭巾は次の神々の黄昏で大事なアイテムになります。
<第三幕>
第三幕は炎の山に行ってブリュンヒルデを目覚めさせるまで。
眠っている姫を目覚めさせる白雪姫のような設定。
永い眠りから覚めたブリュンヒルデとジークフリートの二人のシーンは最後の見どころ。
この時が二人の愛の絶頂期ですね。
神々の黄昏では、それが崩れていきます。
ジークフリートは北欧やドイツの神話をもとにして作られたストーリーです。
あまり読んではいませんが、かなり過激な殺し合いなどもあり、結構残酷なんだなと思う反面、神話っておもしろいと感じましたね。
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