マスネ作曲のオペラ「エロディアード」を見てきました。
少し前にマスネ作曲のウェルテルを見たのですが、同じ作曲家なのに二つはずいぶん様相が違います。
とはいえ、音楽はやはりマスネ。
ロマンティックで、内に秘めた情熱が湧き上がってくるようなマスネの音楽はやはり美しかったです。
二つのサロメ
今回は二期会の公演でしたが、二期会では「二つのサロメ」と称して、
- マスネのエロディアード(エロディアードはサロメの母)
- リヒャルト・シュトラウスのサロメ
を4月と6月にやるという試みのようです。
オペラの上演も、企画をいろいろ考えるんだなと思いますね。
先日も
- フィレンツェの悲劇
- ジャンニ・スキッキ(舞台がフィレンツェ)
の二つを一緒に上演していましたが、これはどちらもフィレンツェが舞台という共通があるので選んだようでした。
エロディアードというオペラのタイトルはサロメの母なのですが、このオペラはサロメという題で上演されることもあったオペラで、どちらにもサロメが重要な役で出てくるんですね。
とはいえ同じサロメでも原作本は別の人で、
- エロディアードの原作はフローベール
- サロメの原作はオスカー・ワイルド
フローベールはフランスの小説家でボヴァリー夫人の作者でもあります。
オスカーワイルドはアイルランド出身の作家で、退廃的な作品が多く、サロメもドロドロした会話形式の原作戯曲がそのままオペラになっています。
こちらはゆがんだ愛、理解できない世界という感じ。
それに対してエロディアードは至極まともな愛、普通の愛という感じがしました。
エロディアードのサロメはただのかわいい恋する乙女ですしね。
また、R・シュトラウスのサロメははっきりとサロメに焦点があるのだけど
このエロディアードというオペラはその点なんとなくぼんやりしている気が‥。
タイトルロールはエロディアードですが、上述した通りサロメとして上演されることがあるくらい
サロメも存在感があるし、さらに言うならエロデのサロメに対する愛情もそれなりに必死感があって物語の中枢にある気もしました。
3幕から4幕にかけてはエロディアードが一瞬母親としての母性に戻るかのようなあたりから
クライマックスまで、音楽も歌も圧巻でさすがに引き込まれはしたものの
前半は誰の話なのかな、誰が中心なのかななんてちょっとモヤモヤしながら見てました。
また、マスネのエロディアードはグランドオペラと書いてあるものもあるのですが
初演が1881年と遅めだし、これはグランドオペラだったのかなとちょっと思ったり‥。
とはいえ、4幕7場とシーンが多く、2幕冒頭はここは通常バレエが入るシーンか?と思うところもあり、また幕の途中で何度もクライマックスかのような盛り上がりの音楽が出てくるところはグランドオペラっぽい感じもしました。
合唱も重要で、存在感がありましたし。
ただ、あまり見たことがないオペラってどこで拍手していいかわからないんですよね。
今回もしたりしなかったり、観客はちょっとバラバラでした。(まあそれはいいんですけどね)
演出と舞台
今回のエロディアードはセミステージ形式。
舞台にオーケストラが乗って、その後方に高めの舞台があるというもの。
オケが前にいて奥で歌うので、普通だと声が聞こえにくいと思うのですが、
舞台が高くなっていたのでちゃんと聞こえて来ていました。
特に2階以上の席には見やすく聞きやすかったかもしれません。
逆に一階の前方はオケの音が大きかったんじゃないかなと、(これは前方にいなかったのでわかりませんが)
また舞台のバックには場面ごとにお城や牢獄、ジャンの処刑では血が滴る感じなど雰囲気を感じる映像が映されていました。
最近はバックに映像を写すオペラが本当に増えました。
増えたということはオペラの映像を作る裏方さんの仕事も増えているんだろうなあなんて、そんなことまで考えちゃいました。
舞台が高くなっていたのですごく見えやすくて良かったのですが、一点個人的に残念だったのは
登場人物の衣装がすべて黒っぽかったこと。
舞台が全体的に黒っぽいので、衣装が同化してしまって‥。
せっかくセミステージでやるのなら、もっと衣装に色があれば、それぞれの存在感が出たんじゃないかと思うし
見ていても色がある方が私は好きですね。
音楽と歌について
マスネの音楽にはしばしば独奏が入ってきて
チェロだったり、サクソフォーンだったり、それがとても印象的でした。
またハープの出番も多くて、マスネにはハープが合うなあなんて思いながら聞いてました。
今回のエロディアードの上演は全体に落ち着いた感じ。
無難に見えたのは衣装が地味だったせいもあるのかも。
初めて見たオペラだったので、「フムフム、こういうオペラなのね」という感じで聞いてました。
エロデ役は枡貴志さんというバリトン。
第三幕でのサロメへの思いは純な若者のようで、なんとも好感がもてました。
(エロデについてはR・シュトラウスのエロデと違いすぎる‥笑)
それに対するサロメはそっけなくてちょっとかわいそう感が。
ただ、その後に流れるオーケストラの音楽がきれいでしたね。
全体に歌もレベルが高かったと思うのですが、終わってみると若干印象が薄いなあと感じるのは
登場人物に強烈なキャラクターがいないからなのか、台本のせいなのか‥。
ただ、3幕からは音楽も内容も盛り上がりました。
特に4幕最後の音楽は感動的。
とはいえ要はエロディアードやエロデの嫉妬の物語だったような気もする。
同じ暗いストーリーなら、ナヴァラの娘くらいインパクトがある方が見応えはあるかなとちょっと思いましたが
それでもマスネの音楽ってやっぱり美しい、そんなことを感じた今回の公演でした。
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