ワーグナーのオペラ「ローエングリン」を観てきました。
2018年2月25日場所は上野の東京文化会館です。
今回は4日間の公演の千秋楽だったのですが、東京文化会館の席は若干空いていました。
ビゼーの「真珠とり」がほぼ満席だったことと比較すると、不思議な気もしましたが、やはりワーグナーなので、
さらっとは聴きにくいのかもしれませんね。
なにしろ、休憩を入れて4時間以上です。
それでも、意外に高齢の女性も多かったですね。
ワーグナーにしては女性が多いのはローエングリンならではだと思います。
(ローエングリンは王子様が助けに来るという、女性が好きなストーリーなので)
ローエングリン演出について
舞台演出
今回は前評判とか演出、舞台、出演者など事前に何も調べることもなく、まっさらな状態での観劇でした。
タイトルロールを誰が歌うのか、場所が東京文化会館なのかすら知らなかったくらいです。
舞台が始まり、最初からうろうろしていた人が突然歌い出し、その人が主役だったのでちょっと驚きでした。
というのもローエングリンらしい人がもう一人いたので。
今回の演出はローエングリンが二人(一人は歌わない)出てきたり、舞台に大きな電子時計が現れるなど、
正直なところ第1幕は、頭の中にハテナマークがたくさん浮かび上がり、若干音楽に集中できなかった感がありました。
途中から、フリードリッヒ2世とローエングリンを重ねているのだろうと気付きましたが、
俳優の丸山敦史さんがローエングリンの格好をして歩いているのはなんだろう?と不思議感が拭えなかったので
1幕が終わった時点で、普段は買わないパンフレットを買いました。
買ってもはっきりとした演出の意図は私にはよくわからなかったのですが‥(申し訳ないです)。
ことあるごとに場内が明るくなる演出は、残念ながらどうなのか、と疑問に思ってしまいました。
神の神々しさをホール全体で感じるという舞台演出の意図があったのかどうかはわかりませんが、
率直なところ、舞台に集中していたのが、明るくなると、観客席の人の頭が見えすぎてしまい、
ローエングリンの世界から東京文化会館という現実の場所に戻される感覚は否めませんでした。
物語が始まると舞台の巨大な三角形が上に上がっていって、
最後にまた降りて人々が押しつぶされそうになっていましたが、あれは何を意味するのか、いろいろ思いを馳せました。
何かを問いかけているんですかね。
また、ノイシュヴァンシュタイン城のミニ模型を置くなど、細部にこだわった舞台は興味深かったです。
ワーグナーについては、過去にも様々なおもいきった舞台演出がなされてきているので、今回の演出も
定着すれば気にはならない気はするのですが。
ところで丸山敦史さんという俳優さんはとても人気があるようで、ロビーの花束はほとんどこの方宛てでしたね。
下が東京文化会館のロビーのお花です。
人物像の演出
ローエングリンの人物像については、きらびやかな衣装に身を包み、いかにも神の使い、神々しいという演出が多いと思いますが、
今回のローエングリンは、エルザが禁断の質問をしてしまったことに対する、ローエングリンの悲しみが全面に表現されている人物像でした。
「お前を愛したかった」と悲しみに沈むローエングリンの様子が人間臭く、
聖域では恋ができないの?と若干下世話な事を思ってしまいましたね。
演出によってはエルザが禁断の質問をした途端、他人行儀になるローエングリンもいますから。
またオルトルートの人物像については独眼竜のような丸い眼帯を外すと苦悩し、悲しむ様子は、抱えているものがあるのを彷彿とさせる演出でした。
何があったんでしょうね。
今回のエルザは最初と最後は青の衣装。
純粋無垢なエルザは白のイメージだったので、濃い青は若干きつめに見えましたが、これは婚礼の白い衣装を際立たせる効果があったのかなと思います。
ただ、ローエングリンの3幕の衣装だけは、どうしてもかわいらしく見えてしまいました。
特に横から見ると短いスカートが膨らんでいて、バレエのチュチュにしか私には見えず‥アイドルの衣装に見える‥。
今回の公演は、演出が不思議だったので、素人なりに、演出の難しさが少しわかった気がしましたが‥。
ローエングリン演奏と歌について
第1幕
バイオリンが奏でる前奏曲の演奏がはじまるだけで、涙腺が緩みそうになるのは私だけでしょうか。
さらに前奏曲の高まりになると、ぐっと胸が熱くなるんですよね。
ワーグナーはワルキューレなど勇壮な曲が有名ですが、ワーグナーの静かな旋律には、時として信じられないほどの美しさを感じてしまいます。
ローエングリンの前奏曲などもその一つですね。素晴らしかったです。
今回の指揮は準・メルクルさん。
2000年頃から日本に来ていると思いますが、端正な顔立ちもいつの間にか年月がすぎて
良い感じに年をとったなあと思いました。60歳くらいですね。
さて、エルザ役の木下美穂子さん(ソプラノ)は最初こそ硬さがありましたが、
すぐにスコーンと抜けるソプラノで、それは最後まで響いていました。
第1幕でローエングリンが歌い出した時は、あれ?、この人が主役だったの?と驚きましたけど。
タイトルロールのローエングリンを歌ったのは、小原啓楼さん(テノール)。
銀髪は地毛でしょうか。とても役柄に合っていましたね。
これまでモーツァルトやヴェルディなど幅広い役をこなしているようですが、正統派の美しい声。
ワーグナーをずっと歌うのかどうかはわかりませんが、端正な顔立ちは雰囲気的に悲劇のヒーローに合っている感じの方ですね。
第1幕最後の全員が歌う演奏の際、オルトルートの声が強く響いてい他のが印象的でした。
第2幕
これまでのイメージだと第3幕の、寝室でエルザが名前を教えて欲しいと言ってしまう演奏のシーンがもっとも見所だと思っていたのですが、
今回は2幕のオルトルートの出番がもっとも印象的でした。
オルトルート役は清水華澄さん(メゾソプラノ)。
この人の声を聞いているだけで、感情が高ぶってきて、ものすごくお芝居に引き込まれていくのを感じましたね。
それくらい素晴らしい歌唱でした。
清水華澄さんはルサルカでも印象的でしたが、今回のオルトルート役は更に迫力満点、伸びのある声がホール全体に響き渡っていました。
日本人も本当に層が厚くなったと感じますね。
数十年前のオペラの演奏だと、外人歌手に混じって日本人歌手が入ると、線が細くて見劣りがしたものですが、今は全く遜色ないと思います。
さて、テルムラントは妻のいいなりになる、気弱な夫の感じがでていて役柄にあっていたのではないかと思います。
第2幕はホールの観客全体が舞台に引き込まれている雰囲気なのを感じました。
最後の方で客席が明るくなってしまったのは、やはり残念だったかもしれないです。
第3幕
第3幕の1場寝室での、やりとりはなんとなくあっさり感を感じてしまいましたが、
声は二人ともよく響いていましたね。
テルムラントが襲いかかってきて、逆に倒されるシーンがいまひとつわかりにくく、
第3幕の次の場で、テルムラントを殺してしまった事について、ローエングリンが釈明をする際も
テルムラントがいたような気がしたのですがあれはどういうことだったんでしょうね(勘違いかもしれませんが)。
亡くならない設定だったのか、その辺わからないまま終わりました。
もっともテルムラントと王の伝令の二人が見た目が似ていて、どっちがどっちかわからず・・
顔形、ヒゲの生え方まで同じで、二人ともバリトンで、衣装も似ていたので3幕はまたハテナマークが浮かんでしまいました。
とはいえ、ローエングリンが自身の事を明かす「グラールの語り」はやはり感動しますね。
ローエングリン役の小原 啓楼さんの演技が迫真で、哀愁が漂っていました。
終わった後も感無量の感じでしたね。
歌も演奏もよかったと思うのですが、ブラボーが出なかったのは最近にしてはちょっと珍しい気がしました。
演出については賛否あるかもしれませんが、私は歌が良いのが一番なので、満足の公演でした。
言う勇気はないけど、「ブラボー」と言いたかったですね。
下は東京文化会館の入り口。チケットを切るところです。
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