チマローザの日本初演のオペラ
今回はチマローザ作曲の「悩める劇場支配人」というオペラをみてきました。
- 2021年3月5日
- 作曲:チマローザ
- 場所:新国立劇場中劇場
新国立劇場オペラ研修所修了公演とのこと。
よくある○○修了公演、とか○○卒業公演とかそういうのってほとんど行ったことがなかったのですが、今回は珍しいチマローザのオペラということで行くことにしました。
チマローザって名前だけはちょいちょい耳にするんですけど、何しろほとんど上演されないので、みたことがなかったんですよね。
なので一体どんなオペラなんだろうと興味津々。
みた感想をざっくりいうなら
チマローザのオペラに関しては「ふうん、こういう感じかあ」という感じ。ワクワクするわけでもなくがっかりするわけでもなく、普通におもしろい‥そんな感じかな。
思ったより歌が難しそうということと、時間も思ったより長いのねというのは思いましたね。
それよりも今回の感想で強かったのは、出演者の人たちが想像していたよりすごくよかったこと。もちろん研修所の中でもとりわけ上手な人達が出ているのだとは思いますけど、なんなら普段見る大ホールのオペラに出ている人よりうまいんじゃないかな?と思う人も‥。
実際すでに舞台もこなしている人たちのようで、当然といえば当然なのかもしれませんが、申し訳ないけど私は単なる学校の卒業公演のように思っていたので、ちょっとびっくりという感じでした。
衣装もちゃんとしてるし舞台セットも簡素だけどちゃんとあるし、もちろんオケも。
4400円で日本初演のこのオペラをこのクオリティでみられたのはなんだかお得!と思っちゃいました。
チマローザについてはアジリタっていうのかな、ロッシーニの早口アリアみたいな感じ、あれって男性が歌うイメージが強かったんですけど女性役に結構あってへえと思ったり、あと声もかなり高めで大変そうだなと思ったり。
ただ、終わってみると印象に残るフレーズとか、アリアはなくて‥。
だから今はあまり上演されないんだろうなと思ったのでした。
あとレチタティーヴォについて、
古い時代のオペラにはレチタティーヴォを専門に作る人がいたっていうのは何かで読んだことがあるのですが、もらったパンフレットに当時のギャラを想像させてくれる記事が書いてあってそれがおもしろかったです。
もちろん今と貨幣価値が違うので、正しい金額はわかりませんが、比較はできて、作曲が250、台本が100、レチタティーヴォ作曲が10など。
レチタティーヴォってかなりボリューム的には多い気がするけどギャラはすごく少ない。まあこれは仕方ないのかなとか。
また、台本のギャラってなんなら作曲家より高かったんじゃないの?って思っていたのですが、これをみる限りそうでもなさそうとか。ただし、この100は部分的な書き直し代とあるので、おそらく台本作家ってやっぱりかなりもらっていたのかなあ‥などと想像(笑)。
今回のチマローザのレチタティーヴォは特徴的とも書いてありましたが、私には正直なところよくわからなかったです。ただ、ちょっと華やかな感じはしましたね。
あとアリアが割と長めなのねという感想。ブッファってそれほど長い印象がなかったので、思ったよりしっかり長い。フィオルディスピーナのアリアとか、メルリーナのアリアもドルラバもしっかりと。
ヘンデルのアリアも長いなと感じるのですが、やはりこの時代の特徴のひとつなのかも。プッチーニなんかと比べると結構長い気がする。
そして「悩める劇場支配人」のようにオペラの裏側を題材にしたオペラが当時は結構あったっていうのもまた興味深いし、実際にこのオペラみたいなゴタゴタはあったんだろうなと思うとなかなか生々しい(笑)
実在する人をもじったブッファも結構あったらしいけど、今回出てきたスカリオッティっていうのはもしかしてスラルラッティのこと?とか、きっとそういうおもしろさもあったんでしょうね。
歌手について
タイトルにもなっている支配人のドン・クリソーボロを演じたのは井上大聞さんというバリトン。今回4人の男性のうち3人はバリトン。ブッファらしく低い声が多いということかなと。
この井上さんという人、パンフレットの写真と舞台姿が全然ちがっているのですが、とにかく全身を使った演技がすごく上手!。若いのに困り切ったおじさんにしか見えない(笑)。歌うシーンはそれほどなかったのですが、低めのバリトンの声もとても魅力的でした。
3人のオペラ歌手達がそれぞれプリマにブッファとかジョコーゾ、セリアとついているのもおもしろいなと。
こういう言葉使いをしていたんですね。ナポリ派時代独特の言い方なのかな。
そんなプリマ・ブッファ役フィオルディスピーナは井口侑奏さんというソプラノ。
高い声になる程すごく強めのきれいな声が出る感じの人。
メルリーナとの喧嘩がなかなかおもしろかったです。
メルリーナ役は和田悠花さんというソプラノ。
写真だと全然違うのに舞台ではメルリーナとフィオルディスピーナの二人の顔立ちがちょっと似ていて一瞬あれどっち?と思った時もありました。
見せ場が一番多くて華やかな声。研修生とはとても思えない安定度でした。
これまで演じた役をみると、和田悠花さんがドンナ・アンナで、井口侑奏さんがツェルリーナっていうのをみて「うんうん、そんな感じ」と妙に納得でした。
そしてドラルバを歌ったのが杉山沙織さんというメゾソプラノ。
この人がまた上手いんですよね。声だけ聞くとメゾかな?ソプラノかな?どっちなんだろうって思う人です。メゾっぽいけど高い声もすごくちゃんと出るし。
アルトではないのねっていう感じかな。芯のある声とでもいうのか、すごく安定した声だったのと見た目が他の二人の女性とは全く違っていたのでそれも良かった気がしました。
ドルラバっていう役は、別日はソプラノの人が歌っているので、メゾとソプラノどちらもいける役っていうことなんでしょうね。
台本作家役ペリツォニオ役は仲田尋一さんというバリトン。
男性の歌ではこの人が一番出番が多い感じで目立ったました。
作曲家といいこの台本作家といい、他から持ってきてコピーするとか、適当感が当時の実情を皮肉ってるのかなあと。
ジェリンド役は増田貴寛さんという方。唯一テノール。
一人だけ高い男性声であのどっしりした体躯だったのでなんだか一番ブッファ感がでてました。
シリアスなオペラのテノール声は英雄に聞こえるのに、ブッファのテノール声ってなぜか声だけでちょっと笑いになるのねとも思っちゃいました。
そして最後にドラルバのファンストラビーニオを歌ったのは森翔梧さんというバリトン。まじめなのかドラルバにぞっこんなおとぼけ役なのかいまいちキャラがよくわからなかった気もするけどお坊ちゃん感はでていました。
オペラっておじさんが亡くなって遺産が入るっていうストーリーが結構あるような気がするんですけど、なぜ父親じゃなくおじさんなんだろう?と。
これは余計な疑問(笑)
何かとお金の話が多い「悩める劇場支配人」ですが、ストラビーニオに至っては入る予定の遺産でオペラの興行主になるという奇抜さ?!ブッファならではですよねえ。
それでもドラルバとストラビーニオだけはなんとなくまともに幸せになりそうでちょっとホッとする二人なのでした。
というわけでこういうオペラは中劇場がとても聞きやすいと思いました。規模的にはぴったりなんじゃないかなと。
あと若い歌手の方が多かったので、役の年齢に近いというかそれってやっぱりいいですよね、華やかだし。
というわけで初めてのチマローザを楽しんできました。
チマローザのブッファって私流に言えば「おしゃれな喜劇」っていう感じかなと思いました。
また機会があれば珍しいオペラを見てみたいです。
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