新国立劇場でファルスタッフを観てきました。
ヴェルディのオペラの中ではあまり上演されない演目で、生で観るのは初めて。
なので、特に楽しみにしていた演目です。
一言で言うと、ヴェルディらしい重厚なブッファでした。
新国立劇場オペラパレスにて
- 日時:2018年12月9日(日)14時開演
- 場所:新国立劇場オペラパレスにて
会場は少し空席があったものの、日曜日ということもあってか、かなりの人の入りでした。
マイナーなオペラの割に多かったですね。
特に4階は満席。
珍しいオペラになると決まって上の階ほど埋まっているのはいつものこと。
オペラファンはたくさんのオペラを観たいから高いオペラのチケットは買えないですよねえ。
今回の公演は比較的若い人が目立ちました。中学生かなと思う人たちも。
今回のファルスタッフの公演は、新国立劇場のシーズンパンフレットを見ると、初心者向けにはなっていませんでしたが、
観終わってみると、これって初心者向きにしてもいいんじゃないのかなと思いました。
というのも終演後あちこちで「よかったわねー」「おもしろかった!」「来てよかった」という声が聞こえてきました。
こういう言葉がこんなに聞こえてくる公演は少ない気がするんですよね。
とはいえ、内容的にはヴェルディの最後のオペラだけあって、軽快だけど重厚な音楽でした。
ファルスタッフ音楽について
序曲もプロローグもなく、幕が開きます。
ファルスタッフはセリフと音楽、芝居が融合しているので、
アリアらしいアリアはなくて、テンポのいい音楽が多いなと言う印象。
テンポがいいけど、ロッシーニとは違って、ヴェルディの音楽はやはり重厚。
だから、歌手も負けない声が必要というわけか、
歌手の声も一流どころが揃っていました。
どの人の声もホール全体にとてもよく通っていて感心しちゃいました。
普通は聞こえない人がちょっといたりするのですが‥。いなかった‥。すごいです。
第一幕では時々ロッシーニを思わせるような音楽もありましたが、
音楽はやっぱりヴェルディ。
特に第三幕はヴェルディらしい感じでした。
最も盛り上がったのは第二幕のドタバタのシーン、特に第二場は緊迫感たっぷりで楽しかったです。
音楽も躍動的で「行け、老練なジョン」の曲も印象的。
カゴに入れられたファルスタッフを川に放り投げるシーンではバッシャーンと全員が言ってましたが
これも台本にあるセリフ?。だったらおもしろいなと。
最も従来のアリアっぽいところは第三幕の若い二人が歌う部分でしたが、ここも拍手を入れる間はなく
ストーリーは音楽とともに進んでいきましたね。
もともと時間が長いオペラではないけどブッファだったし、音楽が生き生きとしているので、
とても短く感じたオペラでした。
久しぶりにあっという間に終わったオペラだったなという感じです。
ファルスタッフ演出
ファルスタッフは第三幕までありますが、今回は一幕二幕を続けてやったので、休憩は一回だけでした。
それも早く終わった理由でしょう。
今回の演出はジョナサン・ミラーということで、大御所。
ファルスタッフの音楽を知り尽くした演出という感じで、
ヴェルディの音楽がとても躍動的に見えた理由は、音楽と出演者の動きがとてもピタッと合っていたということがあったのだと思います。
飛んだり、這いながら前進したり、細かな動きも音楽にぴったり。
何気なくやっているけどこれって練習大変だったのかなと後で思いました。
さて、舞台は、大きな箱のようなものが、時には外から見た家になり、
時には開いて家の中になり、反転して別の家になったりと、回りながら変化していく舞台でした。
いつもながら演出って、おもしろいしよくできてるなーと感心します。
実は、映像でファルスタッフをみた時はブッファだけどあまり笑える印象がなかったのですが、
今回の演出ではなんども笑いが‥
また、このオペラの主人公はファルスタッフだけど、キーマンはクイックリー夫人かなと思いました。
あちこちで登場して甘い声をかけて誘導する役。
ファルスタッフは悪者が登場しないオペラで、純粋に楽しめる内容でした。
ファルスタッフ歌手について
タイトルロールのファルスタッフを歌ったのは、ロベルト・デ・カンディアと言う人。
この人は昨年だったかな、プッチーニのジャンニ・スキッキで主役を演じていましたね。
見た目はお腹が出て、赤ら顔の気持ち悪いおじさんで、ファルスタッフのイメージなのですが、
声がなんとも知的で上品な人なんですよね。
どんなに見た目を変えても声が上品過ぎて、品のある人にしか思えないのは、この場合いいのか悪いのか、と思っちゃいました。
声質的には好きな声なのですが、ジャンニ・スキッキの方が合ってるかなあと。
ただし、それはロッシーニのセビリアの理髪師とか愛の妙薬をイメージしちゃうからそう思ってしまうのかも。
これはヴェルディのブッファだから、と考えればこういう声がいいのかもしれないし。
うーん、どうなんだろう。
同じように感じたのはフォード役。
フォードはマッティア・アリヴィエーリというイタリアの人。
結婚する娘がいるようにはとても見えない、若いフォード。
実年齢もまだ30代前半だから本当に若くて、お父さんには見えないけど、まあそこはオペラなのでいいとしても、
嫉妬深い夫にも見えないのはかっこよすぎるから。
それでもって歌もすごく安定してるしうまいんですよね。
なんかこの人、ドン・カルロのロドリーゴとか合いそう、なんて思いながら聞いてました。
これまでやった役をちょっと見てみたら、ドンジョバンニとかカルメンのエスカミーリョも。
なるほど、合いそう。
ファルスタッフって主要な男性役が二人ともバリトンなんですよね。
二人の声質は違ってはいたけど、どちらも正統派の知的バリトン。
そんなこともあり、またヴェルディの音楽ということもあり、ブッファだけど
とても重厚なブッファだと感じました。
今回はさほど出番が多くはない召使役に妻屋秀和さんが出ていたし、
若い恋人役のフェントンは村上公太さんという人で、この人の声も絶品のテノール。
恋人役の幸田浩子さんはもちろんうまいしと、
すべて上手な人揃いで、重厚なオケにも負けない声がビンビンに聞こえてきていました。
フォード夫人のアリーチェ役はエヴァ・メイ。
この人がまだ20代の頃、愛の妙薬のアディーナを演じていたのを見たことがあります。
確かサントリーホールのセミステージ形式だったかと。
彼女もいつの間にか50歳になっていたんだなあと、すごく時の流れを感じました。
アディーナの時とは声も重く変わって、貫禄もでていましたが、やはりオーラがある人で
美しかったです。
そして今回エヴァ・メイに劣らないの拍手をもらっていたのは、クイックリー夫人役のエンケレイダ・シュコーザというメゾソプラノの人。
この人もまだかなり若いと思うのですが、すごく美声のメゾで、妖麗な声。
クイックリー夫人はあちこちで登場する役で、
こういう動き回る役にまじめ系のメゾを持ってくるのは不思議な気もしましたが、そこがヴェルディならではなのかも。
いずれにしても、今回のファルスタッフはそのまんまヴェルディの悲劇ができる歌手陣でした。
ヴェルディが当時どんな歌手によるファルスタッフを望んでいたのかわかりませんが、これほど重厚で高級なブッファは
後にも先にもないんじゃないかなと思う、そんなオペラでした。
最後に第三幕の最後で、ファルスタッフが太っていることを、
ベッド潰し、脂肪の塊とか、ちくちくとさんざんに全員が言ってました。
これって、太った人がオペラを見ていたら辛いだろうなあ、と思うくらい言われまくっていましたね。
とはいえ、最後は大勢のフーガも聞けたし、ヴェルディらしいブッファが生で見られて貴重な経験になりました。
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