ラヴェルの「子供と魔法」は時計や椅子がしゃべりだすファンタジーなオペラ。
見た目は子供向け、でも中身は大人向けのオペラです。
ラヴェルのオペラ
- オペラ:子供と魔法
- 作曲:モーリス・ラヴェル
- 初演:1925年
- 場所:カジノ歌劇場(モンテカルロ)
ラヴェルは1875年フランスのバスクで生まれた人です。
バスクという地域はスペインとフランスの両方にまたがるところで、フランスだけどスペイン色が強い場所なんですね。
ラヴェルがスペイン狂詩曲という曲を作っているのも生まれからきているのだと思います。
でもラヴェルで一番有名なのはバレエのボレロや亡き王女のパヴァーヌ。
あとはムソルグスキーの「展覧会の絵」という曲をオーケストラに編曲した人というイメージでした。
この曲は元はピアノの曲なのですが、ラヴェルのオーケストラ版の方が有名なんじゃないかと思います。
ラヴェルはオーケストレーションの魔術師なんて言われていますよね。
という具合で、実はラヴェルにはあまりオペラのイメージがなかったです。
比較的新しい時代の人ですし、日本での上演もほとんどないので、
ラヴェルのオペラを見たのはつい最近のことでした。
そんなラヴェルはオペラを2つ作っていて、その一つが今回の子供と魔法です。
一言で言うと子供と魔法というオペラは、ストーリーはファンタジーで一見子供向け、
だけど音楽は大人向け、そんなオペラではないでしょうか。
そしてオーケストラピットが見たくなるオペラだと思います。
オペラって通常は歌手に注目してしまうのですが、
ラヴェルの子供と魔法というオペラは、実にいろんな音色が登場するので、
「ん、なに?この音」という具合に
オーケストラが気になって仕方がないオペラです。
生で見るなら私なら2階か3階の横から見る席を取りたいオペラかなと思います。
初演はモナコ
モナコという国はフランスとイタリアの境にある小さな小さな国です。
かつてハリウッド女優のグレース・ケリーが王妃となった国でもありますよね。
ラヴェルの子供と魔法というオペラの初演は、このモナコなのです。
モナコはタックスヘイブンを導入している国で、外国人が多数占めている国でもあります。
小さいけど裕福な国と言うイメージ。
さて、モナコがイタリアとフランスのしがらみから解放されて今の領土になったのが1861年。
そして翌年にはまず豪華なカジノが建てられ、そのあとにコンサートホール、そしてオペラハウスが建てられたのです。
子供と魔法が初演されたのはこのオペラハウスというわけです。
そのため初演の場所はカジノ劇場となっていますが、現在はモンテカルロ劇場とも言われていますね。
このオペラ劇場は定員約500名なので規模は小ぶりなのですが、
カジノ全体はまるで王宮のようなゴージャスな造りです。
カジノのほか、バレエやコンサート、ボクシングなどのイベントも行われる場所。
日本にはそのような場所は無いですよね。カジノは悪、と思ってる人が多いみたいで‥。そんなこと無いと思うんですけど。
まあ、それはさておき
ゴージャスなカジノを設計したのはシャルル・ガルニエという人で、この人はパリのオペラ座を設計した人でもあります。
二つを比べるとどちらも豪華で重厚でよく似てます。
パリのオペラ座は別名ガルニエ宮とも呼ばれ、モナコのカジノとほぼ同時期に作られているんですね。
パリ・オペラ座の絢爛豪華ぶりは、私が見た中では一番なのですが、あれとよく似た建物がモナコにもあったとは‥とびっくり。
さて、子供と魔法はもともとはパリ・オペラ座の依頼だったものが、モンテカルロのカジノ劇場に移って初演に至った経緯があります。
当時奔走したのはモナコのカジノ劇場の劇場監督だったラウル・ギュンスターという人。
モナコという小さな国、しかも500人ちょっとの小さな劇場で、
子供と魔法のほかにも
プッチーニのつばめや、マスネのドン・キホーテなども初演されているんですよね。
ラウル・ギュンスターの手腕もあったと思いますが、モナコっていう国の豊かさを感じてしまいますね。
子供と魔法見どころ
では、子供と魔法の見どころです。
まず注目したいのは演出。
子供と魔法に出てくる人間は少なくて、
猫や、椅子、カエルや、時計などがたくさん登場します。
まるで不思議の国のアリスか、ディズニーの美女と野獣かと思いますね。
これらをどうやって演出するのかは、このオペラの見どころだと思います。
そして、もう一つの見どころは先にも言った、オーケストラが醸し出す様々な効果的な音。
普通のオペラでは聞こえてこない楽器の音がたくさん聞こえてくるのでそれが見どころ、聞きどころです。
もともとこのオペラは、コレットというフランスの女性作家が娘のために書いたと言われる作品。
主人公は幼い男の子で、ママの言うことを聞かずにコップを壊したりペットをいじめていたのが最後は良い子になるという
いかにも女性的なお話です。
ストーリーだけ見ると、明るい子供向けのミュージカルのようなものを想像してしまいますが
実際に、子供を演じるのは落ち着いたメゾソプラノの声で、母はさらに低いコントラルト、
衣装は子供だけど、オペラ歌手が歌うとやっぱり重いし、ラヴェルの音楽も軽くはないので、
オペレッタにも見えないです。
どう見てもオペラ。しかも子供向けの音楽というより、しっかり大人向け。
ラヴェルという作曲家は、民族主義を尊重していた人で、
ヨーロッパの真似ではなく、自分たちの音楽を尊重するべきという考え方だったようです。
管弦楽の魔術師と言われた独創性やボレロに代表される、独特のバレエ。
そして子供と魔法というオペラを見ても、ラヴェルにしかない独自性を感じますね。
何はともあれまずは、オーケストラピットの音を耳を済ませて聞くのがいいんじゃないでしょうか。
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