ニュルンベルクのマイスタージンガー

ワーグナーのオペラは、上演時間がとても長い演目が多いのですが、

中でもニュルンベルクのマイスタージンガーは最も長く、

上演時間は約4時間半です。

 

はじめてワーグナーのオペラを観るとしたら、

さまよえるオランダ人が良い、と言われることがあります。

 

さまよえるオランダ人は正味2時間半ワーグナーとしては短いことや

ストーリーもわかりやすいことが理由だと思います。

しかしながら、時間が長いことを我慢すれば、

ワーグナーの中でもっとも聴きやすいのは

ニュルンベルクのマイスタージンガーではないでしょか。

 

ニュルンベルクのマイスタージンガーの成立と特徴

 

  • 初演:1868年
  • 作曲:ワーグナー
  • 原語:ドイツ語
  • 初演場所:ミュンヘン宮廷歌劇場

 

ニュルンベルクのマイスタージンガーは、

ワーグナー特有の半音階が続く音楽ではなく全音階が中心の、

ほぼ長調のオペラです。

そのためワーグナーの半音階音楽に慣れない人でもすんなり聴くことができるのが

ニュルンベルクのマイスタージンガーだと思います。

 

かくいう私も、ワーグナーのオペラは

さまよえるオランダ人タンホイザーニュルンベルクのマイスタージンガー

の順番で聞いたのですが、

オランダ人とタンホイザーまでは、全くピンと来ず

 

マイスタージンガーを聞いた時に、はじめてワーグナーという作曲家に興味を持ちました。

そのきっかけがなければ今ほどワーグナーを好きになっていないかもしれません。

私のワーグナーの入り口は、ニュルンベルクのマイスタージンガーだったわけですね。

 

ニュルンベルクのマイスタージンガーは、ワーグナーが初期の頃に書いた「恋愛禁制」というオペラを除けば

唯一ワーグナーが書いた喜劇的な明るいオペラです。

 

喜劇といっても部分的に笑えるところがある、ということで、

全体としては雄大なオペラです。

 

さて、ワーグナーがマイスタージンガーの作曲に本格的に取り組んだのは、トリスタンとイゾルデというオペラの後だったのですが、

この二つは全く趣が異なるオペラです。

トリスタン和音と呼ばれるワーグナー独特の音楽から、一転して、マイスタージンガーのような

調ががはっきりした喜劇的オペラを書いていることは、ワーグナーの天才、奇才ぶりを改めて感じます。

 

ちなみにマイスタージンガーを手がけていた頃のワーグナーは、

ハンス・フォン・ビューローの妻で

後にワーグナーの妻となるコジマと不倫恋愛中で、そんな楽しさ?が音楽にもでているのかもしれませんね。

 

ニュルンベルクのマイスタージンガーのあらすじと上演時間

 

<ニュルンベルクのマイスタージンガーあらすじ>

若い娘エファと、騎士ヴァルターの恋愛物語です。

二人の恋愛は中世の歌合戦を軸に、ヴァルターの歌の成長とともに繰り広げられます。

教会でお互いに見初めた二人ですが、エファは、ヨハネ祭の歌合戦で優勝した人物と結婚しなければならないことになっています。

そのためヴァルターも歌合戦に出ることを決心。

厳しい歌の規律を教えてもらい、試験に臨みますが、1度目はまったくダメで失格。

ところがダメな中にも光るものを感じたハンス・ザックスはヴァルターのために協力します。

歌合戦の本番では、最初のダメな音楽が見違えるほどに変化し、ヴァルターとエファの結婚は認められ祝福されるというストーリーです。

※騎士とは、中世の封建制度において領主などの主君に使える、階級。
その精神は、忠義、勇気、至誠、礼節と言った気高い精神性も求められる。

<上演時間>

  • 1幕・・・約80分
  • 2幕・・・約60分
  • 3幕・・・約120分

約4時間半、休憩を入れると約5時間半になりますね。(長いです…)

 

 

ニュルンベルクのマイスタージンガーでは、

エファに思いを寄せるベックメッサーという変な男が、このオペラを大変楽しくしています。

実はこの役が私は大好きです。

エファと間違えて、窓の下から乳母に向かって恋心を歌ったり、

ヴァルターの作品を盗もうとして、逆にしどろもどろで歌えなかったり、

ベックメッサーはドジでしょうもない性格なのですが、彼が歌う変な歌がなんとも面白く、

そこにもワーグナーの奇才ぶりを感じます。

 

ベックメッサーはバスかバリトンが歌いますが、演技が軽妙で歌がうまいと、このオペラはとても引き立つと思います。

私が最初にワーグナーに興味を持ったのはまさにベックメッサーの歌からでした。

 

さて、このニュルンベルクのマイスタージンガーの中軸になっているのは、中世のマイスター制度の一つの行事である歌合戦です。

中世は現代のように国家資格などが無い時代

金細工や、靴屋、歌手に至るさまざまな技術は、現在の組合にあたる組織が、技術を伝承するための仕組みを作っていたんですね。

それがマイスター制度です。

駆け出しの頃から徐々に位があがり、各業界の最高位にはマイスターと呼ばれる称号がついたと言います。

マイスタージンガーのジンガーは歌い手という意味。

今のような音楽大学などない時代ですから、歌手も技術を学ばないとちゃんとした歌は歌えなかったわけです。

歌詞の韻の踏み方や、音楽の作り方など厳しい規律を覚えて作詞作曲していったわけですね。

音楽の父と言われるバッハが出てくるのは17世紀後半なのでそれよりも前の時代の話です。

 

当時のマイスタージンガー達によって、いったいどんな曲が作られていたのか興味があるところですが、

現代に残っているドイツの民謡の中に、もしかしたら残っているのかもしれませんね。

物語に出てくるハンス・ザックスという靴職人のマイスターは、実在の人物です。

 

 

ニュルンベルクのマイスタージンガー聴きどころ

 

ニュルンベルクのマイスタージンガーは長大なオペラにもかかわらず初演は成功したといいますから

この長さを飽きさせないワーグナーの台本と作曲の力とともに

当時のドイツの人々の音楽性の高さが想像できます。

[1幕の聴きどころ]

〇冬の日の静かな大炉端で、の歌。

ヴァルターがマイスターたちの前で歌う自己紹介の歌である

最初の試験でヴァルターが歌うところ

歌はまだ未熟そのもの。そしてベックメッサーが××とマイナス採点して、明らかに敵意がむき出しの、面白いシーンです。

 

[2幕の聴きどころ]

ザックスが歌う「ニワトコのモノローグ」

ヴァルターの歌が採点は悪かったものの、魅力的な何かを感じている心情を歌ったしっとりした歌。

 

ベックメッサーが間違えて乳母に恋心を歌うシーン

途中からザックスが小槌を鳴らして邪魔をする、笑える場面です。

 

[3幕の聴きどころ]

〇ザックスのモノローグ

ザックスのエファに対する秘めた思いと、二人に協力しようとする微妙な思いの歌。

 

〇ヴァルターの夢の歌

本試験の前の粗削りな状態の歌。まだまだ未完成ながら、美しさが垣間見えます。

 

〇ベックメッサーが歌合戦で歌う歌。

ザックスのところから盗んできた詩を歌うが、うまくいかずしどろもどろになる。なんとも小気味の良いシーンです。

ヴァルターが歌う朝夢の謎解きの歌

このオペラの最も盛り上がるところです。ベックメッサーと同じ歌詞ですが、朝の粗削りさはなく、すばらしく感動的な歌になっています。

 

ニュルンベルクのマイスタージンガーは実在の人物ハンス・ザックスが主人公で、聞きごたえのある歌が随所に出てきます。

ヨハネ祭の歌合戦が軸になっており、オペラを通して、ヴァルターの歌が明らかに成長していき、それを一緒に見守っているような気持ちになります。

朝夢の謎解きの歌のシーンは、最もこのオペラの見どころだと思います。

最後のヴァルターが歌う完成した歌は誠に感動的で、見ているほうも、こんなにも成長したのか、と思ってしまいます。

また、そんな成長していく様子を、曲で表現できるワーグナーはすごいです。

ニュルンベルクのマイスタージンガーは、上演時間が長いのを覚悟しつつ、

ベックメッサーの面白さと、ヴァルターの成長に注目して、

ぜひ観てもらいたいオペラですね。

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