2018年1月6日
上野の東京文化会館でプラハ国立歌劇場の「フィガロの結婚」を見てきました。
お正月ということで着物姿の人もちらほら。
会場は空席もありましたが、まあまあの入りで男女半々程度かなという割合。
今回のフィガロの結婚は私が今まで見た中では、最もわかりやすい上演でした。
音楽
有名な序曲が終わると拍手になるのは、いつものことだと思うのですが
拍手にこたえるようにオーケストラ全員が立ち上がったのは珍しい光景でした。
その後も音楽は軽快に進んでいき、歌手もオーケストラも息のあった様子なのは、さすがに慣れた演目なんだなという印象。
管弦楽が大人数では無いということもあるのでしょうが、レチタティーヴォや歌がとても聞きやすかったです。
チェンバロが入るにもかかわらず、ヘンデルのようなバロックとは全く違い、
躍動的な音楽と凝ったストーリーのオペラだと改めて思いました。
そしてそれは諸所に出てくる重唱のせいなのか、
特に2幕最後のあたりの7人による重唱は圧巻で、モーツァルトってすごい!と思いましたね。
以前はそれほど好きでもなかったモーツァルトなのに、最近は聞けば聞くほど好きになっていきます。
今回も、聞こえてくるフレーズが多彩で耳を澄ましたくなる部分があちこちにありました。
これがあるからモーツァルトにはまっていくのかなと思いました。
プラハの管弦楽団は、チェンバロをのぞくとほぼ男性でしたが、女性が少ない楽団なのかもしれません。
プラハ国立歌劇場引っ越し公演
今回のフィガロの結婚はとても満足度の高いオペラでした。
引っ越し公演にもかかわらず、S席21000円という値段は比較的安価。
プラハはスカラ座ほどの知名度が無いとはいえ、かなり有名な劇場です。
プラハ国立歌劇場の引っ越し公演にしては安かったので、
何かあるのかなと思っていたのですが、普通のちゃんとした引っ越し公演でした。
今回の主催、コンサートドアーズにも感謝です。
舞台セットは凝ったものではないけど、歌と演技が引き立つもので十分だったし、
オケはもちろんのこと合唱も全員プラハのメンバーです。
唯一、バレエ団と書いてあるけどバレエらしいものがなかったのはちょっと残念ですが、この値段でバレエまで望んではいけないかなと思う公演でした。
独特の演出
フィガロの結婚は4幕まであり、各幕も短くはないのですが
今回の上演は1、2幕と3、4幕を続けて上演し、休憩は一回だけというやり方でした。
少しでも早く終わるために、日本では休憩を一回にしているのかと思ったのですが、
1幕−2幕の間と3幕−4幕の間では、カーテンから数人が出てきて観客の笑いを取っていましたが、
その慣れた様子から、母国でもこのやり方でやっているのかなと思いました。
寸劇の間に後ろでセットが変わっていたわけで、観客を飽きさせないサービスですよね。
言葉がわからないので、笑いのツボがいまいち伝わってこない感じはありましたが、場は和んでいたと思います。
また、この時に出てきていたのは、出演者とよく似た服装をした別の人達だったのですが、
プラハ国立歌劇場の演出はこのパターンが好きなのか、今回ケルビーノも二人いる演出でした。
もともとケルビーノは女性のソプラノがが若い男性役をやるいわゆるズボン役なのですが、
ケルビーノが女装するシーンでわざわざ男性に変わるのは不思議な演出というか、あそこだけはちょっとよくわからなかったです。あれも独特のプラハ流?
今回のフィガロの結婚を見て、思ったのは
「そうそう、フィガロの結婚ってこれだよね」という率直な感想です。
楽しめるオペラ・ブッファだと素直に感じたのは今回が初めてかもしれません。
それは伯爵のキャラクターの影響が大きかった気がします。
伯爵のキャラが際立っていた
フィガロの結婚って題名を見るとフィガロが主役なんですけど
オペラを見る限りフィガロはそれほど目立っていなくて、
一番目立つのは、スザンナと伯爵だと思うんですよね。
中でも伯爵がどんなキャラか、どんな役作りをしてくれるかで随分とオペラのイメージが変わると思うのです。
今回の伯爵役はロマン・ヤナールというバリトン。
この人がなかなかの芸達者で、ちょっとした仕草や態度が絶妙におもしろくて、
初めてこのオペラがブッファだったと実感したと言ってもいいかもしれません。
普通に歌うだけだとこんなに笑えないんですよね、このオペラは。
伯爵って全くしょうもない人!と思わせると同時に
それが実は堕落した貴族の風刺オペラで、そのためにあまり上演されなくなった時があったのも
理解できた気がしました
このオペラって、貴族の風刺なのねと実感したというか。
このロマン・ヤナールという人は、後半すごく声もよく出ていて、あれ?歌も上手なんだと思うくらい
演技がうまかったですね。
4幕最後に伯爵が「わしが悪かった」としみじみと神妙に歌うアリアがあるのですが、
あそこで観客から笑いが起きてしまうくらいですから、すっかり彼の演技に心をつかまれたと言ってもいいと思います。
それにしてもちょっと複雑なストーリー
とはいえ、登場人物も少なくないし、なんども騙し騙されするフィガロの結婚のストーリーは決して簡単ではないと思うんですよね。
はっきり言って複雑だと思います。
1幕目からこれって誰?という人が続々出てくるし、入れ替わったり、騙したり。
かくいう私は今回やっと初めて全容をちゃんと理解したような気がします。
というのも今回は登場人物の衣装が個性的だったので、入れ替わっても、誰なのかがわかりやすかったのですが、
衣装が似ていたり、背格好が似ていたり、声質が似ていると何が何やらわからなくなるんですよね。
そのため、前々から、なぜフィガロの結婚がそんなに世界中で人気があるのか不思議でした。
ダ・ポンテ三部作の一つで、フィガロの結婚は台本がよくできていると言われるのに、私にはわかりにくい!と思っていたんですよね。
初演当時の観客はパイジェッロのセビリアの理髪師を見ていたから、人物設定をよくわかっていたのかもしれないけど‥。
今回の公演で全体がよくわかったし、今回のような楽しい演出なら何度もみたいと思ったのも事実。
何より、世界中で上演され続けているのはやはりモーツァルトの音楽が良いからなのねと再認識しました。
また、最近はオペラに有名なアリアがあるとか無いとかは気にならないのですが、
でもやっぱりケルビーノの「恋とはどんなものかしら」をはじめ良い曲がたっぷりです。
誰かが言っていた、いろいろ見るとモーツァルトに戻るよという言葉を思い出しました。
歌手について
全体にレベルが高くてさすがプラハという印象。
スザンナは小柄だけどよく通る声で役柄にぴったり。
伯爵夫人を演じたのはエヴァ・メイで、彼女は先月新国立劇場のファルスタッフで見たばかり。
もしやずっと日本にいたの?と思っちゃいました。
若いスザンナの声も良いのですが、エヴァ・メイの光沢のあるまろやかなソプラノはさすがでした。
フィガロは体も大きく、風格がありすぎのフィガロで、とても従僕には見えなかったけど、
その分、題名になっている割に普段は目立たないフィガロが今回は比較的目立っていたような気がします。
実はフィガロの母親だったというマルチェリーナは母親にしては若すぎでしょ、とちょっと思ったけど
まあそこはいいとして、
バルバリーナが可愛らしかったですね。
ズボン役のケルビーノは女性にしてはかなり長身のソプラノでアルジュベータ・ヴォマーチコヴァーという人。
ズボン役の人を見ると必ず思うのは、いつもはどんな感じなんだろう、女性役をやるとどんな風だろうということ。
この人についてもそんな思いがありました。
ケルビーノってサカりのついた動物のようにしょうがない人という感じの役なのですが、
続編では戦場で死んでしまうんですよね。
今回のケルビーノを見ていると、彼はこれから戦場に行って死んじゃうんだなあとなぜか思ってしまう
一抹の儚さを感じました。
最後に今回は字幕もなかなか楽しくて、
「援助交際」という今時の言葉が出てきたり
部屋に潜んでいたケルビーノがいう「聞かないように努力した」という訳など
小気味のいい字幕に思わず笑ってしまいました。
何はともあれ、お正月にオペラっていうのも良いものです。
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