すごい公演になる予感
- 2021年9月12日
- 場所:新国立劇場オペラパレスにて
- ベッリーニ作曲「清教徒」
- 藤原歌劇団
まだ緊急事態宣言中ということもあり、入場者カードの記入、検温、消毒があり。
また飲食はロビーでも禁止。飲み物は一応売っていますが、飲んでいる人はまばら。
そんな光景にもちょっと慣れてきました。
座席は前3列を空けての公演。
少し前は特注のシールドをして歌手の人たちが歌っていましたが、今回は主要な出演者はそれもなく、
合唱だけはマスク着用でした。よかった…。
つい先日の東京文化会館の魔笛では誰もマスクをつけていなかったのですが、やはり公演によってまだまちまちですね。合唱は人数が多くて密になってしまうからマスクっていうことなのかも。
さてオペラの中でもベッリーニは特に好きなのですが、実は清教徒を生で見るのは初めて。
刻むような独特な出だしで音楽が始まると柔らかいホルンの音色。
初演当時は主役4人のあまりの素晴らしさに「清教徒カルテット」と言う言葉ができたらしいです。
当時の大スター達の声を聞いたこともないし、比べちゃいけないと思いつつも、どうしても今日の清教徒カルテットはいったいどんなだろうと思ってしまいます。
最初の合唱に続きまず登場するのはリッカルド。
その風貌と特徴のあるビブラートはいかにも魅力的で期待が高まった私、
次にエルヴィーラ、ジョルジョが登場、そして最後にカルテット4人目のアルトゥーロの素晴らしい声を聞いて
「これはもしかしたらすごい公演になるかもしれない‥!」という予感がしたのでした。
そして実際私にとって忘れられない舞台になったのです。
演出など
今回の舞台は比較的簡素。柱が目立つのと、中央の階段があるくらい。
第三幕では階段に変わって噴水になっていました。
数日前に見た魔笛のように、舞台は簡素だけどバックにプロジェクションマッピングを駆使するのもありだけど
今回はそういうのはなし。
ベッリーニの場合、(私の場合ですが)音楽をもれなく聞きたい!っていう気持ちが強いので、映像はなくても良いなあと思いました。
演出ってやっぱりオペラによって違うというか、合う合わないとかいろいろあるんですね。
ちなみに今回の清教徒は合唱も全く動かずでした。直立不動で歌ってる感じ。
動いているのは主要なキャストだけ。
あと、小ぶりな階段には白いベールと花が添えてあってそれだけで婚礼感が出るものなのねとちょっと感心しちゃいました。
今回の合唱は藤原歌劇団のほか新国立劇場の合唱団、二期会の合唱団と3つの共催なんですよね。
もしかしたらその辺の事情もあるのかも?とは思いつつ、今回のベッリーニの合唱にはこの動かないやり方が妙にマッチしていると思いました。
あと清教徒のアリアは喜怒哀楽だけを歌うアリアと違って、物語の重要な進行を語るアリアだなと、それを思いました。
しかも言葉が端的でわかりやすい(これは字幕の対訳がよいのかもですが)。その代わりちゃんと字幕も見て内容を確認しないといけないアリアだと思いました。
そのアリアもよくあるように単独で歌ってパチパチ拍手!というのとは違って、独唱、重唱、合唱付きなど通常のアリアより複雑。それがまた効果的ですばらしい。
清教徒はベッリーニ最後のオペラだけど、こういうのをもっともっと作って欲しかったなあと改めて思ってしまいました。
最後にクロムウェルの勝利で急転直下の結末になりますが、その辺りは「えーと、ピューリタン革命ってどういう流れだっけな」と思い出せないまま終わっちゃったので後でググりました(笑)。
歌手について
今回は主要な4人がとにかく素晴らしかった。初演時の伝説となった清教徒カルテットの声はわからないけど、きっと同じくらいあるいはなんならそれ以上に素晴らしかったのではと思うほど。
4人のうち最初に出てきたのはリッカルド役の岡昭宏さんというバリトン。
もっと悪役っぽいリッカルドの時もあると思いますが、今回は慈愛たっぷりのリッカルド。
最初の歌でエルヴィーラへの強い思いが切々とわかりました。こういうリッカルドなんだなあとちょっとうれしくなり…。
岡昭宏さんはビゼーのジャミレっていうオペラを見た時に確か従者役をしていて、あの時は全体に声が会場に聞こえてこなかったにも関わらずキラッと光っていたので覚えています。
ビブラートがちょっと特徴的で、それがこの人らしさで(と私は思いました)舞台姿から醸し出る誠実な雰囲気と丁寧な歌、そして体からは想像できない思ったより太い声がとても魅力的。
リッカルドが狂ったエルヴィーラを見る時の姿と声は愛情に満ちていて見る側に染み入ってきました。立ち姿の雰囲気っていうのも人それぞれ持ってるものがあるのかなあと改めて思いました。
今回すごい公演になるのではと思ったのは、この岡さんのリッカルドの声と最初のアルトゥーロの声を聞いた時。
アルトゥーロを演じたのは澤﨑一了さんというテノール。
ぱっと見はアルトゥーロとリッカルドがなんとなく逆?な感じもするのですが、そんなことは歌を聞いているうちにどうでもよくなるくらいのいきなりのアルトゥーロの美声!。
澤﨑一了さんは昨年のカルメンのホセで後半狂気をはらんだかのような「新しいホセ」だな思った人で良く覚えています。
あの時も最初から声がすごく出ていたけど今日も「おおー!」っていう感じで、始まって
「これはすごい公演になるかも」と嬉しい予感が走ったのでした。そしてそれは本当になり…。
清教徒のアルトゥーロにはとんでもない超高音が後半に出てくるんですけどそれもばっちりでした。この声が出せる人がいたんだというような驚き。
まるでカウンターテナーとテノールの声を聞いているかのような(こういう表現が良いのかどうかはわかりませんが)そんな気がしました。
第一幕アルトゥーロのアリアから2重唱そして婚礼の合唱になるあたりはとても壮大。まるでグランドオペラを見ているような気持になりました。
合唱がまた随所で良いんですよね。効果が抜群で美しい!
そして最も重要な主役のエルヴィーラ役は佐藤美枝子さん。
チャイコフスキーコンクールで1位を取られた時からずっと知っていたのに実は機会が無くてちゃんとしたオペラを見るのは初めて。単発では聞いていたけど。
日本にもこんなに上手な人がいるんだと、当時ワクワクしたのを覚えています。
そしてようやく見られた今回の舞台。
まず思ったのは声の表現力。おそらく目を閉じて聞いても情景が浮かぶんじゃないかと思うくらいでした。
さすがの歌唱力だなあと。すごいです。
福井敬さんの歌を聞いた時に感じたものと同じような印象を受けました。
あの長くて難しくてベッリーニらしいアリアを美しく情感たっぷりに歌ってくれました。ブラボー!
そしてカルテットのあと一人はジョルジョおじさん。
今回ジョルジョをうたったのは伊藤貴之さんというバス。
第一幕はそうでもなかったんですけど、第二幕から地鳴りのようなすごい声が出ていてかっこよかったですねえ。
風格も声もジョルジョにぴったり!
エルザの状況を語るときは問いと答えになっていてそれがなんとなく新鮮。いつものアリアとは違うし、レチタティーヴォでもないんですよね。
特に清教徒では第二幕のリッカルドをジョルジョが諭すシーンが好きなのですが、今回やはり二幕のこの二人の歌、重唱、そして合唱は素晴らしく良かったです。
そして、おかしくなったエルヴィーラ…。アルトゥーロは出てこないけど、第二幕はこのオペラのすごくいいところ、醍醐味だと思うんですよねえ。よかったあ!。
そして第三幕ではまたまたアルトゥーロが大活躍。やっぱりのびやかですばらしい声。カルメンの時よりさらにパワーアップした感も。
歌をうたってエルヴィーラを誘うという設定はベッリーニの音楽にまさにぴったり。
清教徒は4人の良さがとても際立つ音楽ばかりです。
今まではノルマが一番好きだと思っていましたが、やっぱり清教徒の方が好きかもと今回思ったのでした。
それにしても緊迫感があるし、わかりやすいストーリーで引き込まれるオペラ。
ベッリーニってやっぱりいいですねえ。
こんな楽しい時間を過ごせてほんとに幸せな時間でした。これだから生の舞台はたまらないです。
ブラボーは言っちゃいけないけどもしオッケーならきっと大きなブラボーが飛んでいたことと思います。
その代わり拍手拍手が鳴りやまず…。いつまでも酔いしれていたいひとときでした。
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