今回はニーベルングの指環の中の第一夜「ワルキューレ」についてです。
作曲はリヒャルト・ワーグナーです。
ニーベルングの指輪は4つのオペラで一つの壮大な物語になっています。
楽劇と言われていますね。
- ラインの黄金(序夜)
- ワルキューレ(第一夜)
- ジークフリート(第二夜)
- 神々の黄昏(第三夜)
ワルキューレはこの中の2番目の物語です。
今回はワルキューレの特徴や見どころについてです。
ワルキューレの騎行の人気
ニーベルングの指環4作品の中で最も人気があるのがワルキューレです。
ワルキューレの騎行の音楽は、映画「地獄の黙示録」やCMにも使われているので、おそらくワーグナーのオペラの中では最も有名な音楽かもしれません。
勇壮な音楽でワルキューレの登場にはぴったりですね。
ではそもそもワルキューレって何かというと
北欧の神話に出てくる女性で、ゲームの勇者のような恰好をしています。
ワルキューレの役目は、戦場における戦士達の誰を生かして誰を死ぬ運命にするかを定めることで
神話では白馬に乗っていたり、白鳥の衣をつけていたりするんですね。
オペラの中のワルキューレ達は白馬に乗っています。
中でもワルキューレの一人ブリュンヒルデが乗るのはグラーネという愛馬で賢く勇敢で従順。
ブリュンヒルデが長い眠りにつくときは一緒に眠りにつき、死ぬときも一緒。
強い絆で結ばれていてグラーネの存在も静かで感動的で私は好きなんですよね。
さて、ワルキューレの使命は戦士の生死を決めることなので、ブリュンヒルデはジークムントの運命も決めることになるのですが
最初は「生きる」だったのに、急に「死ぬ」運命に変わってしまったんですね。
理由はジークムントが双子の妹ジークリンデと近親相姦になってしまったため。
これについては、個人的には近親相姦を云々言うほど神話って清廉潔白だったっけ?と私なんかはつい思っちゃうのですが…。
というのも神話には誘拐、略奪、強姦がよく出て来るんですよね。
そもそもワルキューレに出てくる神々の長ヴォータンにしても、いったい何人の女性との間に子供がいるの?と思っちゃうし。
とはいえ近親相姦はだめよ、ということでジークムントは死ぬ運命になるわけです。
そしてここからブリュンヒルデの苦悩が始まるんですよね。
純愛ストーリー
ワーグナーって純愛ストーリーを描くのがメチャクチャうまいと私は思います。
それはワルキューレのジークムントとジークリンデの愛のシーン。
一目会った時から惹かれあって(そもそも生き別れた双子なのですが)
二人は熱烈な純愛に陥ってしまうのです。
ジークリンデが悪い男につかまっているのでかわいそうな状況にいるからなおさらのこと。
一気に燃え上がった二人の愛を見ていると、近親相姦が何でいけないの?かわいそうすぎるとまで思ってしまうんですよね。
実はかつてワルキューレの上演に友人を連れて行ったことがあります。
たまたまチケットが一枚余ってしまったので
オペラを全く見たことが無い人だったのですが、一緒に行ってもらいました。
オペラがはじめてなのにいきなりワーグナーのオペラに連れていくというのはかなりあり得ないことで、
場合によってはこの長時間のオペラを見ることを拷問に感じる人だっているんじゃないかと思います。
ところがその友人は、一幕を見終わって
「素敵な恋愛ストーリーねー」と言ったんですよね。
確かにジークムントもジークリンデも上手かったし、舞台は素晴らしかったです。
それにしてもワルキューレってはじめてオペラを見る人でも感動するんだということがちょっと驚きというか
私の中では意外でした。
それくらいワーグナーの音楽ってやっぱり心に響いてくるのではないでしょうか。
それと、ラインの黄金(序夜)を見ていなくてもワルキューレは恋愛ものとしておもしろいということですね。
4つの中で一番人気があるのもそんな理由からなのかなと思います。
ワルキューレ初演のバイエルン国立歌劇場
ワーグナーの恋愛
ワーグナーってかなり強烈な個性の持ち主だったようで、敵も多くいたんですね。
ワルキューレのミュンヘンの初演の時は、本人は追放されていていなかったというのもそれをよく物語っていると思います。
でも、そんな中でもワーグナーの熱烈なファンというのは当時からいて、だからこそ現代でも聞くことができているんですよね。
ルートヴィッヒ二世のワーグナーに対する熱烈ぶりは一番有名ですが、
もう一人ハンス・フォン・ビューローという人もいます。
この人はミュンヘンの歌劇場(今のバイエルン国立歌劇場)の音楽監督だった人で
トリスタンとイゾルデとマイスタージンガーの初演の指揮者でもありました。
驚くのは、ワーグナーの妻コジマはワーグナーと結婚する前はハンス・フォン・ビューローの妻だったのです。
しかもマイスタージンガーの初演は1868年で明らかにコジマが彼と別れてワーグナーが一緒になった後なんですよね。
普通ならありえないというか、
妻を取られた憎き相手のために指揮をするほど、ワーグナーの音楽的才能を認めていたということじゃないかと思います。
それともそれくらいハンス・フォン・ビューローは人格者だったんだろうか‥。
顔もすごく徳がありそうな感じではありますが。
なかなかできないことだわ‥。
ワルキューレの初演は少し後の、同じくミュンヘンで1870年に行われたのですが、この時の指揮はフランツ・ヴュルナーという人。
ところがワーグナー自身はヴュルナーの指揮よりもハンス・フォン・ビューローの指揮の方が好きだったというのですから、
ますます二人の関係は不思議というか、
それほどワーグナーの音楽をハンス・フォン・ビューローが理解していたということですよね。
いずれにしてもワーグナーは、コジマとワルキューレのジークムントとジークリンデ並みの大恋愛に陥ってしまったということでしょうか。
ブリュンヒルデの苦悩と情
ワーグナーの恋愛はさておき、
ニーベルングの指輪に出てくる人物の中で重要な人物の一人はブリュンヒルデではないかと思います。
ブリュンヒルデはワルキューレの中の一人でヴォータンの最もお気に入りの娘。
彼女はラインの黄金(序夜)には登場しませんが、その後の
- ワルキューレ(第一夜)
- ジークフリート(第二夜)
- 神々の黄昏(第三夜)
の全てに登場します。
ワルキューレでは神々の長である父ヴォータンの命令に背いてジークムントを助けようとし、その罰で炎の山に眠らされてしまうんですよね。
本当はジークムントを死なせたくないという父ヴォータンの気持ちをブリュンヒルデはちゃんとわかっているし
ジークムントは、愛するジークリンデを不幸なまま置き去りにできないからと、愛するゆえに自分の手で殺そうとまでするんですよね、
そんな状況を見たら、父の命令に背いても助けようとするのは仕方ないよねと、ブリュンヒルデの苦悩がわかりすぎるくらいわかるわけです。
ブリュンヒルデってそれくらい情に厚いわけです。
結果的に神の怒りに触れてジークムントは死ぬ運命になるのですが、
ブリュンヒルデはジークリンデを連れて逃げるんですよね。
そして死にたがるジークリンデに子供がいるから生きるようと諭すわけです。
父ヴォータンに背いたブリュンヒルデは仲間からも助けてもらえずまさに一人で頑張る女性。
これほど高貴で情に厚い人がいるだろうかという、奇特な女性なのですね。感動!
という具合にワルキューレはブリュンヒルデの人となりがすごくわかる章になっているので、
これを見ないと最後の神々の黄昏(第三夜)ははっきり言ってちゃんとわからないんじゃないかなと思うのです。
神々の黄昏だけみると、ブリュンヒルデはただの気の強い嫉妬している女性になりかねないんですよね、
ワルキューレをちゃんと見ていると、ブリュンヒルデがとても厳かに見えるわけです。
ワルキューレ見どころ
ワルキューレの見どころは大きく言うと
- ジークムントとジークリンデの愛
- ヴォータンとブリュンヒルデの親子愛
の二つではないかと思います。
初めてオペラを見た友人が感動したように、前半はジークムントとジークリンデの運命的な出会いと、燃え上がる愛が見どころではないでしょうか。
ワーグナーの音楽で情感たっぷりの叙情的なオペラ(楽劇ですね)になっています。
ワーグナーは圧倒的に男性ファンが多いのですが、ワルキューレは女性が見てもきっと感動するのではないかなと思いますね。
また後半はヴォータンとブリュンヒルデの親子愛が見どころ。
父の気持ちをくむ娘と、それをわかりつつ娘を罰しなければいけない父の悲しみと愛情。
その親子愛がワーグナーの音楽で情愛溢れる物語になっています。
最後に岩山に誰も近づくことができないよう、炎で包まれるのですが
それをどんな風に演出するかも見どころですね。
私などは改めてワルキューレのストーリーを読むと、本当によくできているなと思いますし
オペラの感動が呼び起こされてゾクゾクする感じすらあります。
ワーグナーは自身で台本も書いているのですが、これほどよくできたものはないのではないかと思うくらい
感動のストーリーだと思います。
正味4時間近くあるので、大変長いのですが体力が有る限り(大げさですが)劇場で見続けたいオペラの一つですね。
こちらもバイエルン国立歌劇場です
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