フィデリオ・ベートーベンが作った唯一のオペラ

フィデリオはベートーベンの唯一のオペラです。

オペラをたくさん作曲したのに、現代上演されている演目はほとんどない、

という作曲家が意外に多いのですが、

ベートーベンは、生涯でたった一つのオペラしか作曲していないのに、有名なのです。

オペラは作曲家にとって最終的に行き着くところ、ともいわれます。

モーツァルトやハイドン、ヘンデルをはじめチャイコフスキー、ドビュッシーなど

名だたる作曲家の多くはオペラも手がけています。

そして、ベートーベンもたった一曲とはいえ、もっともあぶらののった時期にオペラを手がけています。

とはいえ、ベートーベンもオペラにはかなり手こずったのか、何度も書き直し、前奏曲は4つも作ったんですね。

 

フィデリオのあらすじと上映時間

 

<簡単あらすじ>

フランスの実話を元にしているストーリーですが、

フィデリオの舞台はスペインで、舞台は国事犯の監獄です。

 

無実の罪でピツァロに監獄に入れられている夫フロレスタンを救うために、

レオノーレは男装してフィデリオと名乗り、

牢番ロッコの手伝いをしながら夫の救出のチャンスを待っています。

フィデリオが女性だと知らないロッコの娘マルツェリーネは、フィデリオに思いを寄せてしまっています。

ある日大臣が監獄に視察に来ると知って、ピツァロは自分の悪事がばれるのを恐れ、フロレスタンを殺してしまおうとします。

それに気づいたレオノーレは体を張って阻止して夫を救い出す、という、感動的な救出のオペラです。

 

<成立と初演>

  • 作曲:ベートーベン
  • 初演:1805年
  • 場所:アン・デア・ウィーン劇場(ウィーン)
  • 原語:ドイツ語

アン・デア・ウィーン劇場はウィーンに現在もある劇場です。

国立劇場に比べると規模は小さいのですが、歴史を感じさせる建物で、現在も使われています。

長らくミュージカル用の劇場になっていましたが、21世紀になってから再びオペラハウスとしてオペラを上演するようになりました。

劇場を作ったシカネーダーにちなんで、シカネーダーが作ったオペラ魔笛に出てくるパパゲーノから名前を取ったパパゲーノ門というのが有名です。

今は使われていない門です。

 

<上演時間(現行版)>

  • 序曲:7分
  • 第1幕:65分
  • 第2幕:45分
  • 第2幕途中のレオノーレ序曲:15分

 

2幕途中のレオノーレ序曲は演奏されないこともあります。

現代、主に上演されているフィデリオはこの現行版の2幕もので、二つの序曲を入れても2時間10分程度なのですが、

ベートーベンはなんどか修正を加えていて、初版のフィデリオは、3幕ものでした。

時間ももっと長く、2時間40分程度あったんですね。

 

なお、ベートーベンはもともとこのオペラの題名を「レオノーレ」にしたかったのですが、

すでに同名のオペラがあったので(現在は上演されていません)、やむなく「フィデリオ」に変更しました。

そのため序曲にはレオノーレという名前がついていたり、フィデリオになっていたりします。

ちょっとややこしいですよね。

 

フィデリオの特徴

 

ベートーベンのフィデリオにおいてもっとも特徴的なのは多くの序曲です。

モーツァルトやロッシーニが、あっという間にオペラをさらりと作っていたのに比べると

ベートーベンは、じっくりと練りながら作り上げていくイメージがありますが、

唯一作曲したフィデリオについても、ベートーベンはなんども直しながらつくっていきました。

 

ロッシーニなどは同じ序曲を複数のオペラに使い回ししていたというのに

ベートーベンはその逆で、一つのオペラのために4つもの序曲を書いていることからも、ベートーベンの作曲の姿勢がわかるような気がします。

ベートーベンが作った序曲は全部で4つ。

  1. 最初に作った序曲・・・ボツになり使われませんでした
  2. 2番目に作った序曲・・・レオノーレ序曲第2番
  3. 3番目に作った序曲・・・レオノーレ序曲第3番
  4. 4番目に作った序曲・・・フィデリオ序曲

最初に作った序曲は廃棄されたので

初演で使った序曲は2番目に作った15分程度の曲です。

ところが初演の評判がよくなかったため、ベートーベンはオペラを3幕→2幕に書き換えて

序曲も新たに作りました。

 

新たに作った序曲が、3番目のレオノーレ序曲第3番で、これがもっとも有名です。

 

初演の翌年にはオペラとしては第2版、序曲は3番目に作ったものを使ってフィデリオを上演。

ところがこの第2版もあまり評価が良くなかったんですね。

 

それから8年の間に、第2版のフィデリオがどの程度上演されたのかはわかりませんが

8年後の1814年の上演の前に、ベートーベンは再度フィデリオを修正しています。

 

そして4番目の序曲を作り、それが今日、主に上演されているフィデリオの序曲となっています。

 

もっとも実際には4番目の序曲は間に合わず、初日は、トルコ行進曲で有名な、「アテネの廃墟」という劇音楽の序曲を、代わりに使っています。

そして4日後に出来上がった4番目の序曲を初披露しています。

 

ベートーベンもさることながら、4日後に序曲が変更になるとは、演奏したオーケストラも大変なことだっただろうな、と想像してしまいます。

 

とはいえ、一つのオペラにこれほどまで情熱をかけて修正を加えることを見ても、

ベートーベンという人の音楽に対する思いがわかる気がします。

 

3番目に作られた序曲は現在、2幕の1場ー2場の間に演奏されることが多く

そのため、フィデリオには二つの序曲が入っているという、一見不思議なオペラになっています。

 

でも、実際にオペラをみると、夫を救い出した後に流れるこの序曲はとても、このシーンに合っているんですね。

2幕にレオノーレ序曲3番を入れるようになったのはマーラーの案だと言われていますが、

マーラーにとっては捨てがたいものがあったんでしょうね。

 

ワーグナーの壮大なオペラ「リング」第3夜「神々の黄昏」の中にも、途中でオーケストラだけの演奏が延々と流れる箇所があります。

これは、ジークフリートの死を悼む葬送の曲なのですが、

 

フルトヴェングラーという指揮者が、フィデリオの途中の序曲を、ワーグナーのリングのそれに例えたと言われています。

 

なるほどというか、確かにワーグナーにおける葬送曲は、もっとも感動するところの一つなんですよね。

 

2017−2018年の新国立劇場オペラでもフィデリオ公演がありますが、

2幕でおそらくレオノーレ序曲3番が入ると思いますが、楽しみな部分ですね。

フィデリオ2018.5月鑑賞レビュー

 

フィデリオのみどころ

 

フィデリオは、地声のセリフがあるジングシュピールという形式のオペラです。

ジングは歌、シュピールは娯楽という意味があり、本来は大衆向けの娯楽性が高い演目で

オペラだとモーツァルトの魔笛のようなものを指しますが、

フィデリオについては、形式はジングシュピールでも、内容が重いので、大衆娯楽向けと言うのとはちょっと違います。

というか全然違います。

内容が死ぬか生きるかの救出ですしね。

ジングシュピールの歴史

フィデリオは正義と勇気ある救出のオペラなので、

ヨーロッパでは、高校生の授業の一環で見せることが多いと言います。

教育の一環としては向いているのでしょうが

かなり重いテーマのオペラを見た高校生が、どんな感想を持つのかちょっと聞いてみたいものです。

 

フィデリオの歌手には、強い声が要求されるので、ワーグナーを歌う歌手が担当することがしばしばありますが、

難しいオペラなので、日本での上演はとても少ないと思います。

日本ではかつて、フィッシャー・ディスカウとルートヴィッヒの組み合わせで上演がありましたが、

なるほど、と思える二人です。

 

<フィデリオのみどころ>

1幕のみどころ

  • 序曲は、終わりの方のコーダが勇壮で印象的。
  • 1幕・・マルツェリーネが歌うアリア「ああ、あなたと一緒になれたら」
  • 1幕・・マルツェリーネ、ロッコ、ヤッキーノ、フィデリオの4重唱
  • 1幕・・ロッコのアリア「人は金を持っていなければ」
  • 1幕・・ピツァロが歌う「ああ、なんという瞬間だ」
  • ☆1幕・・レオノーレが歌うアリア「悪者よ、いったいどこへ急ぐのか」怒りがこみ上げる劇的なアリアで有名。
  • ☆1幕・・囚人たちの喜びの歌「おお、なんという嬉しさ」これも有名な歌です。

 

2幕のみどころ

  • 牢屋のフロレスタンが歌う感動的なアリア「神よ、ここはなんと暗いのだ
  • 救い出した後のフロレスタンとレオノーレの力強い2重唱
  • レオノーレ序曲3番・・もともと冒頭で演奏されていたんだなと思って聴くのも面白いと思います。
  • 最後の壮大な合唱もみどころでききどころです。

 

最後に余談ですが、第3版(現行版)のフィデリオ初演を行ったのはケルントナートーア劇場というところです。

ウィーン国立歌劇場の設立に伴い、現在は無くなってしまった劇場なのですが、

かつて、ウィーン国立歌劇場の裏手にあり、現在ではザッハトルテで有名なホテルザッハーが立っている場所なんですね。

<今後の公演>

2019年8月29、9月1日 フィデリオ(ベートーベン)演奏会形式オーチャードホール

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