アッティラ(ヴェルディ)フン族の王・原作とオペラ・ヒルデグンデが不気味

今回はヴェルディ作曲のオペラアッティラについてです。

アッティラというのは名前ではフン族の王5世紀に実際にいた人物です。

西洋史を習った人ならフン族という言葉は聞き覚えがあるんじゃないかと思います。

実は初めてこのアッティラというオペラを見た時の印象は、パッとしないというか印象が薄かったのですが、原作を読んでみると結構おもしろいんですよね。

ヴェルディが33歳の時にヴェネチアのフェニーチェで初演されたのですが、

ヴェネチアにゆかりのある内容でもあるんですよね。

原作・アッティラ・フン族の王

アッティラの原作は戯曲で、つまりお芝居用のものでヴェルナーという人が書いたものです。

実は私は戯曲をあまり読むことがなくて、正直なところあまりおもしろくないイメージを持っていたのですが、これが読んでみるとなかなかおもしろいのです。

そもそもアッティラをなぜ読もうと思ったかというとワーグナーのニーベルングの指輪が発端なんですよね。

ニーベルングの指環のもとになっているのはいくつかありますが、その中のニーベルンゲンというドイツの叙事詩があるのですが、

これが結構強烈な物語なんですよね。

ハーゲン(ハーゲンはワーグナーの指環にも登場する悪役)の策略でジークフリートを殺されたクリームヒルト(ワーグナーではブリュンヒルデ)はその後二度目の結婚をします。

クリームヒルトはその嫁ぎ先で凄惨な復讐劇を引き起こすのですがクリームヒルトが嫁いだ先がエッツェル王という人で、

このエッツェルというのが実はフン族のアッティラのことなのです。

それで俄然アッティラが気になるようになったわけです。

ワーグナーとヴェルディが意外なところで繋がっているのね、なんて思い‥。

ニーベルンゲンの中のアッティラ(エッツェル)は徳のある落ち着いた人物になっていて、実際のアッティラとはちょっとまたイメージが違うのですが、

いずれにしても妻に裏切られる王で、勇猛だけどちょっとかわいそうな孤高の虎という感じがします。

そのイメージはヴェルディのオペラ「アッティラ」を見た時に感じたものとも似ていて

オペラにおいてもアッティラは花嫁オダベッラに刺し殺されるという運命なんですよね。

史実においてもアッティラは婚礼の席で死んだと言われていて、それは自然死だったのかもしれないのですが、こういう場合って毒殺とか殺されたとかそういう憶測が色々出るものだと思うんですよね。

ましてや5世紀の頃のことですから。

ヴェルナーの原作には二人の女性が登場していて

一人がアッティラを殺すヒルデグンテ。戦にもでるところは叙事詩ニーベルンゲンに出てくるブリュンヒルデの様ですが、

ヒルデグンデはブルグントの王女という設定で、父親をアッティラに殺されているので、ニーベルンゲンで言えばクリームヒルトが復讐劇を繰り広げた後の時代のことになるのだけど、

ブルグント王国はフン族により歴史的にもほぼ壊滅しているんですよね。

悪魔がのりうつった恐ろしい女性という点では、ニーベルンゲンで言えばクリームヒルトにあたるかなと。

 

もう一人は敵の娘ながら、アッティラに心を寄せる穏やかなホノーリアという女性。

実際にローマの王女がアッティラに結婚して欲しいという書簡を送ったとか送らないとかそんな逸話もあるようで、ホノーリアの存在はそこから来てるんだなと思うわけです。

 

そしてオペラ「アッティラ」で登場する女性は一人のみで、オダベッラという女性。

敵の女性であるのに復讐のためにアッティラと結婚して刺し殺すところは

原作の二人の女性を合体させた様な存在です。

 

ヴェルナーの原作にはアエティウスという実在の人物も登場していてカタラウヌムという戦いでアッティラと戦ったローマの将軍なんですよね。

オペラではエツィオという名前で登場。

という具合に、

叙事詩ニーベルンゲンを読んでアッティラの原作を読んで史実を照らし合わせると、微妙に設定が違うけどでも繋がるところも結構あって、

そこがなんとも私にはおもしろいんですよね。

オペラにはローマ教皇レオ1世らしき人物も謎の老人(レオーネ)として出てきてアッティラを諌めるのですが、これも実際にローマ教皇の言葉で軍を撤退したと言われる逸話があるわけで、

諸所に歴史が垣間見えるんですよね。実におもしろい!(と思うのは私だけ?)

日本の歌舞伎の世界も源平の戦いとか蘇我兄弟の仇討ちとか、実際にあったことを微妙に名前や設定を変えて物語にしていると思うのですが、

オペラの世界も似た様なものを感じます。

アッティラはオペラとしてはそんなに人気が無いけど、ヴェルディの中ではかなり歴史や言い伝えを感じる演目ではないかと思うのです。

 

ヴェネチアゆかりの演目でもある

ヴェルディのアッティラというオペラの初演はヴェネチアのフェニーチェ歌劇場というところです。

フェニーチェ歌劇場は現在も存在する古いオペラハウスで、日本にも引っ越し公演でちょいちょい来てくれてる劇場ですね。

ヴェルディはフェニーチェ歌劇場の依頼でオペラを作るわけですが、アッティラを作ったのは歴史的意味もあったようなのです。

フン族はアッティラの頃にヨーロッパで猛威を振るっていたわけなのですが、

オペラ「アッティラ」の舞台がアクイレイヤという都市にアッティラが侵入しているところから始まるのですが、これは史実にもあることです。

アクイレイヤは現在のイタリアの北部、湾に面した国境にも近いあたりです。

アクイレイヤの人々はフン族が追って来にくい湿地帯や島に逃げ延びて、そこに住み着いたといいます。

それが現在のヴェネチアのもとになったわけで、知っての通り、ヴェネチアというところは水の都、何年か後には無くなってしまうともいわれる場所で、島も多くあるところですよね。

観光で行った人もいるんじゃないかと思いますが、そんな昔に、そういう理由で住み着いたのかと思うと感慨深いんですよね。

そしてオペラを通していろんな発見があることも楽しくなります。

ヴェネチアはガラスで有名ですよね。

その後ヴェネチアにユダヤ系のガラス職人が来て、ガラスが発達し…という具合になっていくわけで。

ヴェネチアのムラーノ島のガラス、大好きなんですよね。

そんなこともあり、アッティラからいろんなことに思いを馳せちゃいました。

アッティラ簡単あらすじ

ではアッティラの簡単あらすじを書いておきます。

アクイレイヤの町を占領したアッティラの軍。

オダベッラはこの町の領主の娘で、女ながらに果敢に戦ったことで敵ながらあっぱれとアッティラに気に入られますが(アッティラはそういうタイプ)、オダベッラはアッティラへの復讐を誓います。

プロローグではエツィオ(歴史上はアエティウス)も出てきて「イタリアは俺に任せろ」(この部分がイタリアでは当時人々に響いたよう)といいますが、決裂。

オダベッラには恋人フォレストがいて二人で復讐を誓います。

第一幕ではローマ法王ならぬレオーネという老人が出てきてアッティラに撤退するよう諫めます。(これは歴史的逸話にもあるところ)

第二幕はフォレストとエツィオによるアッティラの毒殺を試みるシーン。

毒を飲もうとしたところをオダベッラが止めて難を逃れ、アッティラはオダベッラと結婚することになる。

第三幕では花嫁のオダベッラがアッティラを刺し復讐するというあらすじ。

取り立てて有名なアリアや曲もないけど、33歳のときのヴェルディの作品だと思うと

なかなかやっぱりすごいねと思います。

 

あらすじを読んでわかるように、流れがしっくりいかないところもあるのですが、

その理由の一つは台本を書いていたソレーラという人が途中で放棄したため、途中からピアーヴェに変わっているからとも言われています。

ソレーラはナブッコの台本を書いた人、またピアーヴェは椿姫とかリゴレットを書いている人ですがアッティラの場合どうなんだろう。

勝手な想像だけど途中で放棄された作品の最後だけやるってピアーヴェにとって楽しい仕事ではないだろうなあと。

ただし、原作を読んでいればあーなるほどあの部分を取ったのね、と諸所でわかると思います。

というわけで、アッティラについてはできれば原作の戯曲を読んでおくのがおすすめかなと。

いずれにしてもちょっと悲哀を感じるアッティラ王なのでした。

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