東京からびわ湖ホールへ
- 2023年3月5日
- びわ湖ホールにて
- ワーグナー作曲
- ニュルンベルクのマイスタージンガー
今回はワーグナーの「ニュルンベルクのマイスタージンガー」を見るためにはるばる東京からびわ湖ホールに行ってしまいました。
その時の様子と感想を書いてみたいと思います。
びわ湖ホールはその名の通りびわ湖のほとりにある景色の良いホールです。
最寄り駅は京阪石山坂本線の「石場」という小さな駅。
びわ湖ホールは2020年の指揮者セミナー(3日間)を見に行って以来なのでちょっと懐かしい感じです。
今回は行く前に少し時間があったので、「三井寺力餅本家」に寄って名物のお餅を食べてきました。
やわらかくておいしい!
日持ちしないのでなかなかお土産にできない一品です。
さて、びわ湖ホールは芸術監督の沼尻竜典さんが2023年で任期を終えられるので最後のオペラということらしいです。
びわ湖ホールは時々ワーグナーをやっていたのでいつも気になっている劇場でしたが、それらは沼尻さんの采配だったのかなと最近知りました。
地方でワーグナー、しかもパルジファルもやるんだとちょっと不思議に思っていたんですよね。
行きたいけどさすがに遠いので休めないしお金もかかる…
でもマイスタージンガーは長いから行っちゃおう。そんなわけで行ったのでした。
休憩を入れて6時間
いつもなら「オペラは時間が長いと帰りが遅くなるからいやだ」とか、「プッチーニくらいの長さがちょうどいいや」なんて思っているのですが、
わざわざびわ湖ホールまでいくとなると話は別で「マイスタージンガーなら長いからわざわざ行ってもいいか」と思うからげんきんなもんです(笑)。
ニュルンベルクのマイスタージンガーは私が知っている中で最も時間が長いオペラです。
なので、なんなら長くてもいいやを通り越して「こんなに長いのに全部見た!」と逆に武勇伝のように語りたくなるんですよね。
今回の公演も13時に始まって終わったのは18:40分ころ。
休憩とカーテンコールを入れると6時間にも及ぶ長さでした。すごいですよねえ。やっぱり自慢していい気がする(笑)。
驚いたのはこの長さにもかかわらず会場につくと「完売御礼」「当日券はなし」だったこと。
こんなに長いオペラなのにまさかの完売でちょっとびっくり。
かなり前にチケットを買っておいてよかった…
最近のオペラ界はちょっと変わってきてるのかなとなんとなく感じます。
演じる(歌う)方達のレベルも海外の有名オペラハウス並みにすごくなっているけど、見る側も変わってきているというか。
そう遠くない頃、イタリア語と日本語が混在するオペラ(アリアだけ原語で歌う)や、オペレッタを完全日本語にして上演していたりしたのが信じられない気がします。
セミステージ形式
今回のニュルンベルクのマイスタージンガーはセミステージ形式。
最近この形式が少し増えてきた感があります。
以前はサントリーホールとか池袋の芸術劇場などオーケストラピットが無いホールでセミステージ形式をやるケース、あるいは費用が抑えられるということもあったかと思います。
今回の公演では舞台上にオーケストラがいること以外は、簡素なセットのオペラという感じでした。
映像が映されて変化していくし、舞台の上には椅子やついたてが置かれて、その場所も場面によって変化していたので、普通のオペラにもこういう簡素な舞台はよくあるかもという感じ。
さらに衣裳も変えてくれたので、ほぼ普通のオペラっぽくて
「オペラはオーケストラもしっかり見たい!」という人には一番良い形式なのでは?と思ったりしました。
音楽など
ニュルンベルクのマイスタージンガーの前奏曲はオペラの中でもとりわけ有名で個人的にも大好きな曲です。
何度か聞いているけれど、こんなにもなめらかで温かい心地のする前奏曲がかつてあっただろうかと感じる前奏曲。
始まってするに「遠くからわざわざ来てよかった」という思いが。
ワーグナーを生で聴くとしばしばなるのですが、ジワーンと熱いものがこみ上げる快感が…。
これだからワーグナーっていいのよねえと思う。
今回はセミステージ形式だったことで沼尻竜典さんの指揮も存分に見られたのも良かったです。
それにしても正味5時間タクトを振るって普通出来るんだろうかと改めて思ってしまいました。
腕の上げ下げって結構きついはずなのに…。
歌手について
今回ニュルンベルクのマイスタージンガーを見て一番感じたのは日本のバリトン(バスバリトン)の層が厚いのねということ。
マイスタージンガーってザックスをはじめとして低めの声が目立つオペラだと思うのですが上手な方が多くてびっくりでした。
主役のハンス・ザックスを歌ったのは青山貴さん。
2021年に新国立劇場で同じ演目を見た時は確かフリッツ・コートナー役だったと思いますがその時も歌がうまっ!って思ったのを覚えています。
比較的小柄なのにどうしてあの素晴らしい声が出るのかと不思議なくらい魅力的な声。
温かみのある声と見た目は思慮深いハンス・ザックスに合っているし、エファが男性として意識していたのも納得。
ヴァルターの新しさを斥けることなく、「感じることができてもわからない、どんな規則にも当てはまらないが間違いではない…」と悩むくだりは個人的にもとても好きな言葉で好きなところ。
そして荒削りな朝夢の歌をさりげなく直して歌の規律を教えていくところは
「教え方うまいなあ」と感心しちゃうのでこれも大好きな部分。
最後の口上については実は今まであまりピンと来ていなかったんですけど、今回解説を読んでしっかり聞いてみると、この最後の言葉がドイツの人たちを熱狂させたのもなるほどとわかる気がしました。
「瞑想だー」のところの青山さんの声とりわけよかったです。
ポーグナーを歌ったのは妻屋秀和さん。一体レパートリーはどれだけあるんだろうと思うくらいいろんな役でお見かけしますがいつも安定して素晴らしい声。いいパパ感でした。
フリッツ・コートナーを歌ったのは大西宇宙さん。
この人もすごく声の良さで印象に残りました。よく見たらベックメッサーのカヴァーでもあったんですね。確かにそちらも合っていそう。見てみたいです。
1幕でくるりと回って見せたのはちょっとおもしろくてよかったです。(最後も回ってちょっと照れ臭そうにしていたのがまた好感度上がっちゃいました)
歌の会のルール説明の時の歌い方が若干バロックっぽくて、そういえば2020年のヘンデルのリナルドでアルガンテを歌っていたと思うので、バロックも得意なのかなと。
いろんな役ができそうだしまた見てみたいと思いました。名前が「宇宙」さんでそれも印象に残ります。
そしてマイスタージンガーでとっても大事な役だとおもうベックメッサーを歌ったのが黒田博さん。
2022年日生劇場のセビリアの理髪師でバルトロをコミカルに演じてこういう役もするんだ‥と思っていたら今回もベックメッサーという性格が悪いけどちょっと間抜けなおとぼけ役。
バルトロの時に続いて今回も腰を痛めてトントンしていてちょっと笑った。
やっていることはドジだけどちゃんと歌い出すと、歌がうますぎてとろけるようなその声に笑うより聞き惚れてしまいました。
ベックメッサーって実はすごく歌がうまい人が演じるっていうイメージがあって、そのギャップも実は個人的に大好き。
なので今回のベックメッサーもすごくよかった!
騎士ヴァルターを歌ったのは福井敬さん。
今回の公演はすごいメンバーばかりなんですよねー、ほんとびっくり。
個人的には2021年のサムソンとデリラのサムソンがとても良くていまだに印象が残ってます。
そんな福井さんもそろそろ還暦?それでも若々しい騎士を演じて何の違和感も無いところがオペラの不思議で良いところかと。
いつもよりちょっと抑え気味で歌っているのかなと思ったら歌ができていく過程でここぞというと恋素晴らしい声が朗々と…。
全体の流れをちゃんと考えてのメリハリだったのかなあと。さすがというか。
朝夢の歌の完成版はほんといい曲!
エファを歌ったのは森谷真理ささん。
ワーグナーの中ではあまり個性の無い女性ということですが、今回の森谷さんのエファは心の中のもどかしさや気持ちの変化がいつもより見えた気がしていました。
きつめの性格の役から今回のような純真な役までこなせる方ですよねえ。
第三幕の衣装がとても似合っていました。
今回マグダレーネも素晴らしくて歌ったのは八木寿子さん。
はじめて聞いた方ですが、なんていうのか同じメゾでも高貴な感じがする声。
こういう声質って人それぞれ生まれ持ったものもありそう…
ズボン役も多いみたいでなるほどな感じもするけど、ノルマのアダルジーザなんかも合いそうって思っちゃいました。
そしてダフィトを歌ったのは清水徹太郎さん。
澄んだテノールの声はダフィトにぴったり。
第一幕に延々と続くダフィトの歌のところはとても大変そうなのに余裕で歌っている感じはすごいと思いました。
なんだかびわ湖ホールが大好きになってしまいました。
これからは東京だけでなく他の場所でもオペラを楽しめそうで嬉しい限りです。
今回のニュルンベルクのマイスタージンガー、終わると拍手が鳴りやまず…。
こんなに長いカーテンコールははじめてかもと思いました。
はるばるびわ湖ホールに来てよかったです。
コメントを残す