今回はとても珍しいオペラを見ることができました。
2019年12月場所はサントリーホールです。
チャイコフスキーのマゼッパです。
音楽って「心の充電」と感じることがありますが、今回のマゼッパはまさにそれを感じた上演でした。
久々の感動かも。チャイコフスキーってオネーギンより、スペードの女王よりマゼッパが一番いいじゃない!と思っちゃいました。
チャイコフスキーの珍しいオペラ・マゼッパ
前日に指揮者マリス・ヤンソン氏が亡くなったということで、会場全体の黙祷からはじまりました。
私は亡くなったことを知らなくて、最近のパンフレットでも見た気がしていたのに‥と。
さてマゼッパというオペラについては、存在は知っていたけど生で見るのは初めて。
海外で見た方の話を聞いて、見てみたいと思ってたオペラなので、今回はそれが叶ったわけです。
ただ、日本では上演されないし、いろいろ見てもマゼッパってそんなにいい感じで書かれているわけではないので
きっとオネーギンやスペードの女王に比べると見劣りがするオペラなんだろうなと
あまり期待せずに行きました。
そもそもこのところの私は一週間でリナルド→スペードの女王→マゼッパと3つ続いていたのでさすがに見る疲れもあり、
仕事もこのところ忙しいし、つまんなかったら途中で帰っちゃおうくらいの気持ちだったんですよね。
ところが行ってみたら予想と違っていたわけです。
一言で感想を言うなら、チャイコフスキーもやっぱりロシアらしい軍記物オペラを作っていたのねということ。
チャイコフスキーというと私の中ではエウゲニー・オネーギンのイメージがどうしても強いので、ボロディンやグリンカのような土臭い軍記物とは縁がない作曲家というイメージがあったのですが、
今回の作品を見て、やっぱりチャイコフスキーもロシアの人なんだなあと。(当たり前ですが)
チャイコフスキーってウラル山脈に近いヴォトキンクスっていう土地で生まれているんですね。
サンクトペテルブルクとはかなり離れたところです。
音楽に集中できた演奏会形式
音楽の印象をざっくり言うと第一幕は民族音楽色がたっぷり、迫力の第二幕、そしてはかなく美しい第三幕。
このコントラストがはっきりしていた気がします。
特に第一幕はチャイコフスキーってこういう音楽も作るのねという印象。
ロシアの民謡風を取り入れているのかなという感じでした。
今回演奏会形式だったのですが、この形式でよく思うのは舞台セットや演技があまりない分音楽がすごく入ってくる気がするということ。
この形式だと残念ながら踊りはないけど、ああここは踊りが入るんだなとか
処刑のシーンや戦闘のシーン、そしてピョートル大帝側が勝ったんだなということが、音楽だけでちゃんと見えてきたんですよね。
セットとか演技が無くてもわかるなあと。
一見演奏会形式ってつまらないと感じる人もいると思うんですけど、なぜか深い感動を与えてくれる場合が多いのは実は演奏会形式である気がします。
いやーよかった!。何度かジワンとくる感動もきました。二幕の金管が鳴るシーンと最後の子守唄のところなど。
当初休憩は2回と書いてあったので、これは長くなるなと覚悟していましたが、当日になって休憩は1回とのアナウンス。
6時開演でしたが、2回の休憩だと10時を過ぎちゃいそうなのでよかったです。
演奏会形式の場合、歌手用の譜面台が4台くらい置いてある場合もありますが、今回は一つもなし。
その分、倒れこんだり、胸ぐらをつかんだりしながらの歌だったのでより引き込まれましたね。
それくらいこのオペラを何度か上演している人たちばかりだったのかなとも。
もっとも迫力があったのは第二幕。
第二幕は場も多くて処刑あり戦いあり、心の葛藤ありでもっとも盛り上がるところ。
それにしてもチャイコフスキーって台本も自分で手がけていますけど
これだけの長く重いストーリーなのにわかりやすいなと感じました。
第二幕冒頭の地下牢では「まさかこんなことになるとは‥」というコチュベイの苦痛の言葉からはじまりますが、
この一言でコチュベイの策が全て失敗したことがわかるし、全体として端的でわかりやすいと。
ただ、ポルタヴァとかロシアとスウェーデンの関係とかその辺は知っていた方がよりおもしろいかも。
合唱はサントリーホールの後ろ側P席に、その後ろにはバンダ隊もいて、二つの音楽が不思議に絡み合って聞こえてくるシーンがあってこれも印象的でした。
こんな風に聞こえるんだと。
そうそう今回のコンサートマスター(コンサートミストレスというのかな)は若い女性でした。
スペードの女王の時は見えなかったのですがあの時も彼女が?
マリインスキー劇場のコンサートマスターがこんなに若いとはという驚き。
そして彼女が奏でるバイオリンの独奏のシーンの音色がまたとても美しかったです。
マゼッパ歌手について
タイトルロールのマゼッパを歌ったのはウラディスラフ・スリムスキーというバリトンの方。
この人はスペードの女王でもトムスキー伯爵で登場していた人です。
三日連続で歌い続けていて、最後がこの重い役だったんですね、すごい!。
老人には見えなかったけど、野心と苦悩が見えてよかったです。
第一幕を見る限りだとマゼッパはすごく悪者に見えるので、そもそもマゼッパってウクライナでは英雄じゃないのかな、いいの?こんな風に扱って‥と思うほど。
でも2幕以降に人間味や苦悩が見えてホッとしました。
最後には会場からとりわけ大きな拍手が。
マリアを歌ったのはマリア・バヤンキナというソプラノ。
まだ若くてロシアのオペラを中心に活躍している人のようですが、なぜか彼女を見ているとローエングリンのエルザが浮かんでしまいました。
そのうちワーグナーとかやるようになるのかなあ。
最後の気がおかしくなったマリアの子守唄は、はかなく染み入るような素晴らしい歌声でした。ここにも感動。
個人的にもっともよかったのはコチュベイ役のスタニスラフ・トロフィモフというバスの方。
第一幕の父の怒りがあってこそのその後の破滅のストーリー。
娘を欲しいというマゼッパの信じられない要望に対し、徐々に怒りをあらわにしていく様子はすごくよかった。
あまりにも悲惨すぎるコチュベイの苦悩は見ていても胃が痛くなりそうなほど。
コチュベイを演じるにはかなり若そうですが演技力があって声の深みと迫力がすばらしかったです、ブラボー!
そしてもう一人マリアの幼なじみのアンドレイ。
アンドレイを演じたのはエフゲニー・アキーモフというテノール。
見た目はちょっと若い幼なじみに見えないんですけど、声が若々しいテノールで特に第三幕ではつやつやした声が会場全体に響いていました。
見た目とか全く気にならなくなるのが声のすごさ。この人もよかった。
すごくいろんな役をやっている人みたいですが、私はなぜかマタイ受難曲の福音史家が浮かんでしまいました。濁りのないきれいな声だったからかも。
そして母親のリューボフをを演じたのはスペードの女王で伯爵夫人を演じたアンナ・キクナーゼというメゾソプラノ。
こちらは出番はそれほど多くないけど雰囲気はこちらの役の方がぴったりだった気がしました。
合唱も多くの人数の人がいました。最初のうちこそあまり合ってないような感じも受けましたけど
第二幕以降のシーンでは合唱なしには考えられない迫力の歌声でした。
シーンが多いしスケールが大きい設定のマゼッパを舞台でやるのは確かに大変かもしれません。
でもこんなにおもしろいならもっと上演してもいいのにと思ったのも事実。
今回終わると大きな拍手拍手。会場には満足感がただよっていたと思います。
これから増えていく演目かも。
ロシアのオペラってやっぱりいいなあと思ったのでした。
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