青ひげ公の城・バルトーク・上演不能といわれたオペラ

オペラの中には軽い気持ちで見に行って楽しめるオペラと、そうでないオペラがあると思います。

バルトークの「青ひげ公の城」は、そうでない方のオペラだと思います。

一幕もので時間は短いのですが、軽い気持ちで見てしまうとよくわからずに終わってしまうオペラですが、

特徴を理解して見に行くととても興味深いオペラではないかと思います。

青ひげ公の城の初演

  • 作曲:バルトーク
  • 初演:1918年
  • 場所:ハンガリー国立劇場(ブタペスト)

作曲したバルトークは1881年ハンガリー生まれなので、初演の時は37歳ということになるのですが

実はこのオペラを作曲したのは初演より7年も前のこと、つまりバルトークが30歳の時でした。

作曲した当初バルトークはこの作品をコンクールに出したのですが、拒絶されてしまったんですね、

上演不能と言う理由で。

それは音楽的な理由だったと思いますが、内容もかなり不思議なストーリーです。

確かに聞きやすい音楽ではなく、無調音楽のようなこのオペラはすでに20世紀になった時代においてもかなり異種だったのでしょう。

そんなプロに上演不能とまで言われたようなオペラを音楽家でもない私が理解できるわけないよねと思うのです。

というわけで青ひげ公の城は、なかなか難しいオペラかもしれません。

そして最も特徴的なのはその内容で、私なりに言えば「青ひげ公の城」はオペラの中でも最もサイコパスな作品ではないかと思います。

怖さがひたひたと伝わってくるオペラで、だからと言って感情が爆発するわけでもないところが逆に怖さがあって、独特の世界観があるのです。

見終わった後のなんとも言えない不思議な感じ、何が言いたいんだろうと考えさせられるオペラで、ある意味哲学的でもあると思いますね。

ただ、その内容がバルトークの不思議な音楽と妙にマッチしているのは、ハンガリー出身のバルトークがハンガリー語で書いた作品だからこそ醸し出す世界なのかもしれません。

 

青ひげの伝説

青ひげ公の城のもとになっているのは、シャルル・ペローの童話集などで知られるヨーロッパの伝説です。

このオペラの台本を書いたのはベーラ・バラージュというハンガリーの作家で、バルトークは彼と組んで「カカシ王子」というバレエも作曲しています。

この「カカシ王子」は「青ひげ公の城」の前年に初演をしているんですね。

実は先にできたのは「青ひげ公の城」だったのですが、上演不能の烙印を押されてしまったため

いわゆるお蔵入りになっていたのですが、

カカシ王子というバレエの方は成功したため、青ひげ公の城も日の目をあびて上演されることになったという流れがありました。

カカシ王子の方はバレエなのでまた評価も違っていたということなのでしょう。

バレエの方は見たことがありませんが、バルトークの音楽に乗って踊るバレエはマリオネットのようにみえないのだろうか、とちょっと思うと同時に

バルトークの音楽だと場の情景が浮かびそうだなとも思います。

青ひげ公の城には拷問の部屋、涙の湖などが出てきますが、音楽の変化がとても多彩だと感じるからです。

さて、青ひげ城の伝説では、青ひげは城に住んでおり結婚した妻達は皆行方不明になり、殺されて城の中の秘密の小部屋に死体があるというもの。

その秘密を見てしまった新妻も殺されそうになるのですが、無事に逃げるというような伝説です。

基本的な設定は同じでもバルトークのオペラはちょっと違っていて、前妻たちは死んではおらず一応生きている、そして新妻もなぜか逃げずに同じ運命になるという不思議な展開になっています。

台本を書いたベーラ・バラージュの独特な世界観というわけなのでしょう。

 

 

時代背景

このオペラになぜ哲学を感じるかというと

音楽というより台本にあるのではないかと思います。

青ひげはいかにも怖い殺人鬼のような残酷な趣はなく

4番目の妻となるユディットに対していろいろ気にかけます。

こんな城に来て本当に後悔しないか

青ひげは7つの扉を開けてはいけないと諭すものの求められるままに鍵を渡してしまうところ、

そしてユディットは怯えるでもなく、7つ目の扉には3人の前妻の死体があるのでしょうと淡々と言いつつ見たがるところ。

そして最も不思議なのは7つ目の扉を見てしまったユディットは前妻達と同じ運命になるにもかかわらず対して抵抗せずそれを受け入れるようであること。

また青ひげについては、扉を開けてはならぬといった割には当然のようにユディットを同じ運命にしてしまいます。

終始冷静な青ひげがサイコパスに感じる理由なのかもしれません。

青ひげはこの成り行きをもともと予期していたのか、それとも望んでいなかったのか、彼の言動からは図れないのです。

ユディットのために 「夜」というポストが用意されていたのですから。

人間の本質ってこうなんだろうか、と哲学的なことを思ってしまうんですね。

 

さて、作曲したバルトークはリヒャルト・シュトラウスのツァラトゥストラはかく語りきを聞いて衝撃を受けたと言います。

ニーチェの作品が元になっている曲ですよね。

1900年初頭の時代背景はニーチェのような世界観がでてきて、心理学ではフロイトもでてきています。

物の本質を見つめると男女のあり方も青ひげの城で起こるような不思議な関係ができるのかもしれません。

 

見どころ

 

このオペラには巨大で丸い柱があるゴシック様式の城であること。

急な階段と鉄の扉階段の右に7つの扉

窓が無く、暗い洞窟のような城。

という基本的な舞台になっているはずです。

これを実際に舞台でどう表すのかは演出の見どころだと思います。

加えて7つの扉はそれぞれ

  1. 拷問の部屋
  2. 武器の部屋
  3. 宝の部屋と血の付いた財宝
  4. 秘密の庭と血の付いた花
  5. 広大な領地と血の空
  6. 涙の湖
  7. 3人の前妻達

となっています。

それをどう演出するのかはとても見どころになるでしょう。

今の時代なら映像を駆使するやり方もあるかもしれません。

また青ひげはバリトンが歌いますが、サイコパスな雰囲気が欲しいので

見た目が良くて、優しいのにどこか冷酷という難しい役だと思います。

またユディットについてはソプラノかメゾソプラノが歌いますが

詮索好きな女性なのか、強気の女性なのか、7つの扉を見たがる心理とその後の特に最後の自分の運命に対して、どんな風に演じるのかはとても興味があるところで見どころだと思います。

バルトークの音楽は不思議ですが、それぞれの扉の情景をよく表している音楽でもあると思います。

ハンガリー語以外に変換するのは難しいと言われるオペラですから、日本人がその魅力の真髄まで至るのはなかなか難しいとは思います。

とはいえ、この決して聞きやすいわけではないオペラを味わってみるという気持ちで聞くと、なんともやみつきになるのを感じるから不思議なのです。

 

一説にはこのオペラは、何かと詮索好きな女性の性質を戒めているとありましたが、

確かに知らなければ幸せなのに、なぜか詮索したがる女性というのは多いような気がします。

とても不思議なオペラ「青ひげ公の城」を見るときは、何を感じて何を思うのかを自分に問いかけてみると良いのではないでしょうか。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です