今日は久しぶり(でもないか、4月にエロディアードを見て以来です)に新国立劇場でオペラ「ドン・ジョヴァンニ」を見てきました。
実はドン・ジョヴァンニはこれまではっきり言ってあまりおもしろくない印象を持っていたのですが
今回の公演を見てこのオペラの印象がガラリと変わりました。
喜劇の要素が今回ちゃんと見えて楽しかったし、音楽はピカイチだし高度なアリアが満載なオペラ。
というわけで好きなオペラに仲間入りです。
ドン・ジョヴァンニ演出
最近日本のオペラの演出とか技術って実はすごいんじゃないの?としばしば思うようになっているのですが、
今回も工夫された演出でとても楽しめました。
序曲が始まると同時に幕が開くと、珍しくあまり舞台上に物は無くて奥行きだけが妙にある舞台。
左側には扉が並んでしました。
すると時間差で奥のもう一つの幕が開き、右から階段が出てきて‥と
徐々にセットが出てくるのはなかなか目におもしろい。
今回ゴンドラのような船も出てきたのであれ?ドンジョヴァンニの舞台ってどこだっけ、ヴェネチア?と一瞬思いましたが、
いやいやドン・ファンが元だからね、スペインでした。
大きな階段や、上から登場する橋のような廊下。
メリーゴーランドまででてくるし前半は演出が楽しかった。
これもオペラに引き込まれた要因かもです。
さらに極め付けは上から降りてきた巨大な女性のマネキン。
手が動くしまるで紅白の小林幸子かと思う大きさでしたが、ラストでこの人形は壊れていたので
おそらく好色なドン・ジョヴァンニの象徴ということなのかなと。
できれば騎士長の石像もあれくらい大きくなってほしかったなあ(笑)
騎士長は少し後ろで歌ったということと、バックが真っ黒だったからか、背が高い妻屋さんでも少し小ぶりに見えてしまったんですよね。
バックが黒一色だったのでもしや何か起きるの?壁が割れるとか?と思いましたがさすがにそれは無く、
代わりに机から白い手がニョロニョロ出てきていました。
奈落に落ちた後のどこから聞こえるかわからなかった合唱が妙に不気味でした。
話が急に最後まで飛びましたが、第2幕の舞台はガラリと変わって、ついたてて作った木立のセットが続きますがこの頃になるとオペラに集中してるので、
奇抜なセットとかもうあまり必要なくなるのは確かで、多分そういうのも考えて演出とか舞台セットとかって作られているんだろうなと感心しながら見てました。
衣装や髪型は貴族の人たちの衣装と、村人達の庶民的な服(男子も花柄)はまったく違っていてわかりやすく、それぞれに個性があって雰囲気が出てましたね。
音楽
序曲で頻繁に出てくるティンパニーの音。これを聞くといかにもモーツァルトという感じがするのはなぜなのかなと今回思いました。
そういえばよく普通のコンサートで聞くティンパニーとは音が違うような‥
ちょっと荒っぽい太鼓みたいな音がするのでそもそも違う楽器なのかも。
このティンパニーは1幕が始まると出番がないらしくしばらく席をはずしてました。
今回はバンダも多く衣装を着て舞台にでたりと、あちこちから出てくる生音があるのも楽しさの一つ。
また、第二幕でドン・ジョヴァンニが「窓辺においで」と歌うアリアのときに聞こえてきていた音色はマンドリンのような楽器だったのかと思いますが、そっちにも聞き惚れちゃいました。
アリアも良かったけど演奏にもパチパチしたつもり!
第二幕では舞台上のバンダがフィガロの結婚の曲を演奏するのですが
そういえばドン・ジョヴァンニの初演の場所はプラハ、
なぜプラハで初演だったかというと、フィガロの結婚がプラハで大成功したからモーツァルトは次の作品を依頼され
でき上がったのがこのドン・ジョヴァンニだったんですよね。
フィガロが大好きなプラハの人のために、モーツァルトはフィガロのフレーズをいれたのかなあとハタと思いました。真偽はわかりません。
ラストの騎士長のシーンは観客が固唾を飲んで見ているのが会場の雰囲気でわかりましたが、
個人的には騎士長の成敗する声をフルに聞き取りたかったので
(何しろ悪者をこらしめるという一番の見どころだと思うんですよね)
若干ですが、オケがもう少し静かにしてもらいたいなあと思ってしまった時もありました。
具体的にどこが、と聞かれると困りますが。
歌手と歌
新国立劇場はいつもレベルが高い人を揃えるイメージがありますが、
今回もやはりそうでした。
タイトルロールのドン・ジョヴァンニを歌ったのはニコラ・ウリヴィエーリという人。
背が高くて見た目がかっこよくて声が大きくてうまくてちょっと悪そうという、まさにドン・ジョヴァンニにぴったりの人。これならモテるのもわかる‥。
バリトンというよりバスじゃないの?というくらい低い声も響く人です。
第一幕でツェルリーナと歌う二重唱はやはりいい曲でした。
公演によってはドン・ジョヴァンニよりレポレロの方がかっこよく見えてしまう時がある(レポレロの方が声がひくいからかもしれません)のですが、
今回はレポレロ役のジョヴァンニ・フルラネットがいい感じでヨレヨレ感が出ていて、主人と従者のバランスが良かった気がします。
ドン・ジョヴァンニの見どころの一つは3人の個性の違うソプラノだと思うのですが、
今回ドンナ・アンナを歌ったのはマリゴーナ・ケルケジという人。
舞台姿がテオドッシュウに少し似ている人で、貴族のお堅い感じの雰囲気がぴったり。
ストーリーが進むごとに声が出ている感じで、第二幕終盤の一人で舞台に立つアリアがもっとも素晴らしかったかと。このアリアは難しそうでした。
強い芯のある直線の声とビブラートがきいた声のメリハリが心地よく、凛とした感がありましたね。
今回のオペラですごく際立っていたのはドンナ・エルヴィラ役の脇園彩さんという人。
最初の印象はアジリタがめちゃくちゃうまいという感じ。だからと言って堅苦しいわけでも無いし。
ドンナ・エルヴィラって出番が多いしすごく重要な役だと思うんですよね。ずっとドン・ジョヴァンニのことが好きだし、どこか良い人。
難しいアリアも多い役だと思うのですが、脇園彩さんという人は素晴らしい安定度と美声で弱音が特に美しかったです。うまいなあと感心。
そうそう、「人相の悪さは心の表れ」っていうエルヴィラの言葉ってちょっとドキッとしませんか。
一点だけちょっと気になったのは、ドン・ジョヴァンニだと思っていたのが実はレポレロだったとわかったときに、エルヴィラがどんなに驚くかと思ったらかなりあっさりしていたのであれ、驚かないの?と思ったのは私だけなのか‥。
ドンナ・アンナの恋人役のファン・フランシスコ・ガテルという人も大きな拍手をもらっていました。
つやつやしたテノールの声。このオペラには低い声の男性が多いので、とりわけ高く感じました。
というわけで今回の新国立劇場で、ドン・ジョヴァンニが好きになりました。
フィガロの結婚もそうだけどこの時代は入れ替わって悪さをするというのがはやりだったんでしょうか。
最近だと映画「君の名は」で入れ替わりがありましたけど、いつの時代も入れ替わるストーリーっておもしろいものなのかも。
ドン・ジョヴァンニはイタリア語で書かれたモーツァルトのオペラですが、ロッシーニの喜劇とは全然別物。
ロッシーニもいいけどモーツァルトって聞けば聞くほどよくなる気がします。
喜劇は喜劇でも高級な音楽で聞き応えのある喜劇でした。モーツァルトやっぱすごい!と思ったのでした。
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