セビリアの理髪師はロッシーニの作曲で喜劇(オペラ・ブッファ)です。
ストーリーもわかりやすく、理屈抜きに楽しめるオペラだと思います。
序曲がとりわけ有名ですね。
またロジーナはおしとやかなタイプではなく、機転が利きちょっとしたたかな女性。
それもこのオペラの魅力じゃないかと思います。
モーツァルトのオペラの中に、フィガロの結婚という人気オペラがありますが、
元が同じ物語(ボーマルシェっていう人の物語です)なので、どちらにもフィガロが登場します。
セビリアの理髪師の方が、フィガロが多く出てきてフィガロが目立つオペラですね。
またオペラとして先にできたのは、フィガロの結婚の方ですが、原作は
セビリアの理髪師が先で、→その続編がフィガロの結婚
です。
この作品はアルマヴィーア伯爵がロジーナを射止めるまでで
フィガロはそのお手伝い役です。
そして続編のオペラ「フィガロの結婚」の方では、せっかく結婚できたのに夫妻にはすでに隙間風が吹き始めている状況なんですよね。
成立と初演
- 作曲:ロッシーニ
- 初演:1816年
- 場所:ローマ アルジェンティナ劇場
- 原語:イタリア語
作曲したロッシーニは1792年生まれですから、「セビリアの理髪師」を作曲したのは、
わずか24歳のときの初演になります。
ロッシーニは、このセビリアの理髪師がデビュー作ではなく、すでに10以上の作品を発表していますし
20歳の時にスカラ座において「試金石」というオペラも発表していますから
その活躍ぶりはすごいですよね。
初演のアルジェンティナ劇場というのは、1732年に、現在のローマのアルジェンティナ広場の、すぐそばに建てられていた劇場で
アルジェンティナ広場というのは、はるか紀元前のローマに遡る時代、カエサル(シーザー)が暗殺された場所でもあります。
「ブルータスおまえもか」と言う言葉を残したというのは有名ですよね。
セビリアの理髪師は、ボーマルシェという劇作家の作品が元になって成立しているのですが、
ロッシーニより先に、別の人がすでに作曲していました。パイジェッロという人です。
パイジェッロは同じ題材のオペラで1782年に大成功させています。
実はパイジェッロだけでなく、それ以前にもこの題材を使って幾つかのオペラが作られていたんですね。
それだけ人気の題材だったということだと思います。
現代は、世界で上演される人気のオペラの中には、同じ題名のオペラというのはそれほどないのですが、
実際のところは、かなり同名オペラというのは作られていたようです。
ただ、人気の無いものは忘れられていきますから、現在まで残っているものには少ないということなんですね。
セビリアの理髪師については、ロッシーニとパイジェッロの両方が今でも人気を集めている、珍しいケースかもしれません。
ちょっと題名は違うけどプッチーニのマノン・レスコーとマスネのマノンも題材は同じですけど。
さて、パイジェッロはイタリアの生まれですが、ロシアに招かれていたので、彼のセビリアの理髪師はロシアでの初演でした。
それが大成功したので、イタリアでもパイジェッロのセビリアの理髪師はとても人気があったんですね。
ロッシーニのセビリアの理髪師の初演は、パイジェッロの亡くなった年でもあり、当然のことながらまだパイジェッロファンが大勢いたことから、
初演は、パイジェッロ支持者からのバッシングとブーイングがひどかったと言います。
2幕では多くの人々が帰ってしまったほどだったと言いますからちょっと考えられないような状況だったのでしょう。
当のロッシーニは、あまり気にしていなかったと言いますから、もともと予想していたのかなかなかに太っ腹の人であることがわかります。
彼のオペラを見ても、明るい音楽が多いのはやはり性格が見て取れる気がしますね。
現在で見ると、パイジェッロの作品の方はロッシーニのセビリアの理髪師の影になってしまったのも事実。
初演はともかくとして時を経ての判定は、ロッシーニに軍配が上がったということでしょうか。
あらすじと上演時間
<上演時間>
- 第一幕:100分
- 第二幕:60分
二幕ものですが、正味2時間40分あるので、上演時間は決して短いわけではないのですが話が面白いので長さは気にならないと思います。
ボーマルシェの原作は3部作になっていて
- セビリアの理髪師
- フィガロの結婚
- 罪ある母
の3つからなりたっています。
セビリアの理髪師はこの中の最初のお話から作っているわけです。
2のフィガロの結婚についてはロッシーニより前に、モーツァルトがオペラ化していますね。
<セビリアの理髪師・簡単あらすじ>
アルマヴィーア伯爵が、たまたま見かけたロジーナに恋をしていて近づこうとしますが、
ロジーナにはちょっとバルトロという年取った後見人がいて、なかなか会えません。
アルマヴィーア伯爵は、身分に関係なく自分を愛してくれるかを確かめるために、ロジーナには自分は貧乏学生のリンドーロだと言っているのですが、ロジーナは身分など関係なく愛しています。
一方バルトロの方は、ロジーナの財産目当てにロジーナと結婚までしようと目論んでいます(気持ち悪いですよね、笑)。
そこに現れたフィガロに、伯爵はなんとかしてくれと頼むわけです。
フィガロの手引きでアルマヴィーア伯爵は音楽教師のふりをしてロジーナと接触しますが、それがばれてドタバタへ。
勘違いもあってロジーナはバルトロとの結婚を一旦は承諾してしまいそうになりますが、誤解も晴れて最後はハッピーエンドに。
と、そんなあらすじです。
セビリアの理髪師にはたびたび手紙やメモが登場します。
ロジーナがバルコニーから下にいるアルマヴィーア伯爵に落とすメモや
ロジーナが伯爵に対して書く手紙、
そして伯爵がロジーナに渡す手紙など。
手紙がこの物語の進行のキーになっていて、それをうまく使うフィガロの立ち回りも見どころだと思います。
フィガロは、モーツァルトの「フィガロの結婚」にも登場しているのですが、
どちらかというとセビリアの理髪師に出てくるフィガロの方がインパクトがあって、楽しい役ではないかと思います。
このオペラはナンバーオペラと呼ばれる作り方の頃のオペラなので、
- レチタティーヴォ
- アリア
- 重唱
- 合唱
- 楽器演奏のみ
などに分かれて番号が付いていました。
番号が付いていると練習とか合わせはたぶんやりやすかったんだろうなと思います。
「何番のところをやってみましょう」とかいえますもんね。
現在は、何小節目からやりましょうとかそういう感じになると思うので。
セビリアの理髪師・見どころ
セビリアの理髪師というオペラは、それぞれの登場人物のキャラクターの個性が立っていて見どころが多く、
それが人気の要因の一つではないかと思います。
フィガロの活躍も見どころなのですが、
ロジーナもかわいいだけの娘ではなく、積極的で機転の利く賢い女性。
手紙を書いてはどうかと進めるフィガロに、「もうすでに書いてあるわ」と積極的というかちゃっかりなところもあり、
指のインクを見て「手紙を書いただろう」、と咎めるバルトロに言い逃れする様子などは
一筋縄では行かない女性であるところも見どころです。
ロジーナはメゾソプラノが担当することが多いのですが、高音もあるのでソプラノがやることもあります。
お茶目な雰囲気が出るといいと思います。
また、このオペラの重要な役の一つは、後見人のバルトロで、この人がちょっと気持ち悪くいやな人物であるほど話はおもしろくなり、それも見どころの一つかと。
ベテランのバリトンが演じることが多いのですが、
「いやいや、こんな人とは結婚しちゃダメよ」
「フィガロと伯爵、頑張れ!」とつい思ってしまうような上演だと楽しいと個人的には思います。
また、アルマヴィーア伯爵は、モーツァルトのフィガロの結婚の方のストーリーではガラッと変わってしょうもない人物の設定なのですが、
セビリアの理髪師では純粋な若者という感じで、若いテノール歌手にぴったりの役ですね。
アルマヴィーア伯爵の純粋な歌声も見どころでしょう。
ロッシーニの音楽の特徴として弱音からはじめて、同じ旋律を繰り返し、徐々に大きくなっていく
ロッシーニクレッシェンドと呼ばれるものがあります。
ジャンジャーン!のあとに小さい音から徐々に大きく。
これがオペラで何度も登場しますのでそれも見どころかな。
序曲は単独でよく演奏されるので、聞いたことがある人も多いと思いますが、
軽快で調子が良いメロディーと、ちょっと切なく繊細なメロディー、そしてロッシーニクレッシェンドが入るとても楽しい序曲だと思います。
ロッシーニの時代は、著作権の法律がきちんとできていなかったこともあり、
ロッシーニは同じ曲を複数のオペラに入れ込んでいます。
この序曲も実は他ですでに使われていたのですが、今ではすっかりセビリアの理髪師の序曲として有名になっています。
音楽として聞きどころは
- 序曲
- 1幕でフィガロが歌う「私は街のなんでも屋」
- 1幕でロジーナが歌う「今の歌声は」
- 1幕で音楽教師のドン・バジーリオが歌う「陰口はそよ風のように」
あたりじゃないかと思います。
続編のフィガロの結婚では、フィガロの父親が実はバルトロだということがわかるので
それを思って見るのもちょっといおもしろいかもしれません。
余談ですが、ロッシーニという人は大変美食家でもありのちにパリでレストランを開業していました。
牛フィレ肉のロッシーニ風というメニューは現在もあるんですよね。
フォアグラとトリュフが乗った高級料理で
こちらもおいしそうですよね。
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