後宮からの逃走2018.11月日生劇場鑑賞レビュー

モーツァルトのオペラ「後宮からの逃走」を見てきました。

場所は日比谷の日生劇場です。

会場は半分ちょっとかなという人の入り。

男女の比は半々くらい。思ったより男性が多いという印象です。

日生劇場

日生劇場は劇場としては古めなのですが、

場所が有楽町や日比谷駅から近いという立地が良いこと、

座席の傾斜が強いので、どの席からもよく見えること

収容人数が1300人程度と少なめで今回のモーツァルトのようなオペラにはちょうどいい感じがすること

などそんな条件がそろっているので、個人的には好きな劇場です。

そして、日生劇場のもっとも良いところは、劇場の各フロアのロビーにたくさん椅子があることです。

始まる前や休憩時間に席をちゃんと確保できるのは、この劇場くらいではないかと思います。

モーツァルトと後宮からの逃走

後宮からの逃走はドイツ語のオペラなんですよね。

モーツァルトの母国語はドイツ語なのですが、モーツァルトのオペラはイタリア語が多く、

ドイツ語のオペラは今回の「後宮からの逃走」と「魔笛」

そしてこれらはジングシュピールというセリフがあるタイプのオペラでもあります。

レチタティーヴォではないということですね。

後宮からの逃走は映像でしか見たことがなかったので、今回劇場で見られるということで楽しみにしていました。

さて生の舞台で後宮からの逃走を見て改めて感じたのは、

モーツァルトってやっぱりすばらしい、ということです。

オペラを見はじめてかなり経ちますが、オペラはヴェルディが一番とか

ワーグナーが一番など、時期によって好きなオペラも様々に変化してきました。

そして、ある人がやっぱりモーツァルトとバッハに戻ったよと、言うのを聞いてもピンと来ず、

モーツァルトのオペラには、音楽も軽めでストーリーにも物足りなさを感じていたのも事実だったんですよね。

ところが今回後宮からの逃走を見て、いやいややっぱりモーツァルトって素晴らしいと、改めて感じたわけです。

私は音楽家ではないので、専門的にどうのこうのはわかりませんが、もっとも感じたのは気品のある音楽ということ。

後宮からの逃走はストーリー的にはおとぎ話のようなお話でブッファのような感じです。

これがモーツァルトの手にかかると高級な音楽になるんだなというのを実感したのが今回の感想でした。

このオペラの初演はウィーンのブルク劇場

現在のブルク劇場とは場所も建物も異なりますが、当時ハプスブルグ家のヨーゼフ二世がドイツ語の上演を望んだという場所での上演でした。

当時オペラはイタリア語が優勢だった時代なのですが、ブルク劇場でこのドイツ語の上演を見た人たちはどんな感想を持ったんだろうと、想像してしまいました。

ブルク劇場のドイツ語上演の試みは残念ながら数年で終わってしまったようですが、

その後ドイツ語のオペラがめきめきと発達してきた背景には、モーツァルトのこの作品が果たした役割ってあったんじゃないかなと思いました。

ストーリーにはもったいないくらい高貴な音楽がついている、そんな印象です。

後宮からの逃走・演出

オペラというのは歌手に目線が行きがちです。

かくいう私もそうなのですが、最近は以前より演出がすごく気になるようになってきています。

演出というのは、いかようにでもできる分、実はとても多彩でおもしろいです。

大きな劇場で開催するオペラ公演の場合は、演出も話題になることがよくあります。

一幕ごとに舞台セットも変わり、豪華絢爛な舞台や華やかな衣装が話題になることも。

しかしながら、今回のような比較的こじんまりとした劇場での上演の場合が意外に面白いんですよね。

費用的なこともあるからだと思いますが、

一幕ごとにセットをすべて変えるというような大掛かりなことはしない代わりに、

同じセットがいろんな形に変形したり、見え方を変えたりするというような、工夫がなされていることが多いんですね。

今回の場合、最初に現れるのはちょっと薄汚れた倉庫のような四角い建物

これが後宮?と思うような物体。

ところがこれが変幻自在に形を変えて行くんですね。

その演出が見事で、すっかり魅了されてしまいました。

いやいや演出ってすごいなと、思うこの頃です。

倉庫の裏側は金色で全く別物に見える豪華さ、

そしてハーレムの女性たちの衣装も金が主で、異国情緒の雰囲気が出ていました。

主要な登場人物は6人は現代的な服装をしていたので、最初は現代解釈の演出なのかなと思いましたが、

そういうわけでもなくて。

というより倉庫の変幻が興味深くてそちらに目が行き、全体として現代風の衣装がどうのこうのというのは

全く気にならなくなってました。

歌手について

後宮からの逃走は主要登場人物が6人だけ。

太守は台詞だけなので、歌うのは5人だけなんですよね。

でもって、悪役のオスミンだけがバス

残りの4人はテノールとソプラノだけ

高音は良い役、低音は悪役という当時の典型的な役割分担ですね。

全体として感じたのは、ソプラノ二人もテノール二人も全く声のタイプが違っていたので

わかりやすかったです。

時々似たような声質のソプラノが二人出てくるとどっちかわからなくなる時があるのですが、

その点今回のオペラははっきりと違っていました。

コンスタンツェを歌ったのは松永知史さんというソプラノ。

今回は1幕と2幕が休憩なしで進んだので、高度で長いコロラトゥーラを歌うのは大変だなあと。

前半が90分で長かったですしね。

ほんとストーリーは軽めなのにテクニックがむちゃくちゃ難しそうな役どころ。

スコーンと抜けるような声とは異なりますが、強い意志を感じる声質で、よく通る声です。

怒っている時の顔がちょっと怖いけど、優しい顔がとても美しい人です。

ルサルカなんかも合いそう、と勝手に思ってました。

コンスタンツェに仕えるブロンデ役は冨平安希子さんというソプラノ。

華やかな見た目と、抜けるような高音でとても安心して聞けました。

恋人ベルモンテ役は金山京介さんというテノール。

よく通る甘い声で、今回の公演ではオスミンとこの人が最も印象的でした。

誠実な役柄にぴったりの声、という感じです。

男性にも難しいコロラトゥーラが求められるので、この役もなかなか大変そうでした。

ベルモンテの従者役は升島唯博さんというテノール。

出番が最も多いのが実はこの役かなと思います。

小柄で身軽、ドイツ語も上手な感じ。

従者にしてはイケメンすぎる(笑)感じがありますが‥。

歌っていない時の表情がちょっと怖い時もあったけど、演技も上手でオペレッタも合いそうと思いました。

最後にオスミン役ですが、このオペラでは最も重要な役所だと思います。

悪役ぶりがひどくて人間味を全く感じさせない役なんですよね。

おとぎ話風だと思えば納得ですが、最後までずっと悪役一辺倒。こんな役もめずらしいなと。

演じていたのは加藤宏隆さんというバス。

若そうですが、とても迫力ある声で、悪者ぶりが堂に入ってました。

二幕での海パン姿がちょっと笑えました。

今回のセリム役は俳優の大和田伸也さん。

ドイツ語と日本語の両方を喋るという異色の演出でしたが、

日本語部分は付け加えた内容なのかな。

最近はオペラ歌手以外の人を起用するオペラが目立ちますが、今回のセリム役にはぴったりの感じ。

とにかく存在感がすごくて、一言一言が上手すぎる。

さすが俳優さん!と思いました。

しゃべりだけなのに、歌手に負けないあれだけの存在感を出せるなんてすごいことです。

ドイツ語と日本語が入り混じった公演は初めて見ましたが、思い切ってこれをやったのは勇気あるなあと思っちゃいました。

最後に、今回はトルコ軍隊の太鼓らしき楽器も出てきて、

「何?このうるさい音の太鼓は」と思ったりしましたが、そうかそうかあの太鼓ねと思ったり、

全体としてとても楽しめたオペラでした。

入り口でもらったチラシの中にマスネのエロディアードがありました。めずらしい‥

次はエロディアードに行こうかな。

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