ニーベルンゲン叙事詩とワーグナーの指環は全く別物だけどおもしろい

ワーグナー好きなら絶対に観るのが「ニーベルングの指環」だと思います。

この楽劇の元になっているのはドイツの叙事詩ニーベルンゲンの歌北欧の古い神話・伝説集サガや、エッダ

そこで今回はドイツの叙事詩ニーベルンゲンの歌がいったいどんな物語なのか、ワーグナーの指環との違いを見てみました。

 

ドイツの叙事詩ニーベルンゲンって

 

ニーベルンゲンの歌は中世にドイツ語で書かれた叙事詩なのですが、元になっているのはさらに古い時代のことで5世紀にブルグント族がフン族によって滅ぼされる頃の話です。

ブルグント族の王国は今のフランスの東側、のちのブルゴーニュ地方のあたりです。

 

さて、叙事詩にはニーベルンゲンという題名が付いているくらいなので、正直なところ内容も似ているのだろうと勝手に想像していたのですが

結論から言うと、ニーベルンゲンの叙事詩と、ワーグナーのニーベルングの指環は、全く別物と言ってもよいくらい違う話です。

原作本があるものって映画やドラマになると、なんか違うとかちょっとがっかり、というのはよくあることだと思いますが

そんなレベルの違いではないです。

ワーグナーの方は神々が出てくるなど神話に近いのですが、ニーベルンゲンの叙事詩方はべったり地に足が着いた内容で特に後半は激しい戦闘の記述が延々と続きます。

日本でいえば戦国時代の武士たちの血なまぐさい戦いが描かれているような、

また中国でいえば三国志や、水滸伝を読むようなそんな勇ましい戦いの物語です。

このようにニーベルンゲンの叙事詩とオペラとは全くストーリーが違うのですが、でも違っていて良かったと思ってしまう理由は、

叙事詩の方はあまりにも血なまぐさくて人がザクザクと死んでいくこと、

そして、戦いの原因がクリームルト(オペラではグートルーネ)というたった一人の女性の恨みであるということ。

とはいえ、戦いの中には正義とか義理人情といった感動的なドラマも入っているので、これらすべてを表現するには

指環4作でも足りないんじゃないか、それこそ大河ドラマが1年続くぐらいの時間が無いと無理だよねと思いました。

 

というように内容は違うのですが、主な登場人物は似ています。

  • ジークフリート
  • ブリュンヒルデ
  • グートルーネ(クリームヒルト)
  • ハーゲン
  • グンター

は物語にもオペラにも登場するんですね。

あとラインの乙女に似た水辺の精もどちらにも登場しますが予言をするだけなので、役割としてはノルンに似ているかもしれません。

これら名前から想像がつくように、ワーグナーの指環の中で最も近いのは「神々の黄昏」です。

登場人物たち

ブリュンヒルデ

ところで、指環の4作のうちどれが好きでしょうか。

好みによりそれぞれだと思いますが、一般的にはワルキューレが人気があるようです。

双子の兄妹の愛兄の死親子の苦悩、それにワルキューレ勇壮な音楽は私も好きですが、

個人的には好きなのはラストの「神々の黄昏」なんですよね。

理由は音楽も良いのですが、何より話がおもしろいということ。

またブリュンヒルデの高貴かつ勇敢で深い情愛は神々しいのものがあるので、大好きな登場人物でもあります。

ブリュンヒルデはワルキューレジークフリート神々の黄昏出番が多く中心的な役柄なのですが、

叙事詩の方のブリュンヒルデ力が強く、グンターと結婚という所は同じなのですが、

美しいだけの怪力女で、気が荒く扱いにくい女性。

結婚初日に夫グンターの力を試すために縛り上げて吊るすというとんでもないことをして、閉口させています。

そこでジークフリートがグンターをふりをして忍び込むというところは同じなのですが、

いずれにしても叙事詩の方を読むとちょっとブリュンヒルデの人間的な良さが全く無くてちょっとがっかり。というより叙事詩の中ではさほど重要な人物ではないんですよね。

ワーグナーの指環でブリュンヒルデが高貴な心を持った素晴らしい女性であったのは、ワーグナーの台本のおかげだったようです。

 

ジークフリート

ジークフリートはニーベルンゲンの歌とワーグナーの指環の中では最も原作通りの人物だと思います。

やたら強くてバカみたいにまっすぐな心で、一点の曇りも無いようなタイプ。

オペラのジークフリートは、まさに恐れを知らない人物に描かれており、

オペラ同様、ニーベルンゲンの叙事詩でも簡単にだまされて弱点の背中を刺されて死んでしまいます。

ジークフリートにまつわる部分については、人物像をはじめとしてほぼ同じだなと思いました。

最も異なるのはジークフリートの妻になり、グンターの妹でもあるクリームヒルトです。

 

クリームヒルト(グートルーネ)の復讐劇

オペラではグンターの妹はグートルーネという名前で出てきますが、グートルーネは普通の娘であまり存在感の無い人物ですよね。

ところがニーベルンゲンの歌の叙事詩の方では中心になっているのは、このクリームヒルトという女性で、

彼女の長年のハーゲン一人への恨みが元でついにブルグント国の兵士達が皆殺しになってしまうという、恐ろしい女性なのです。

戦いで死んでしまう兵士の中にはなんと愛する自分の兄弟たちがおり、その争いのせいで自分の息子まで殺されてしまうにもかかわらず最後まで恨み続けるのです。

日本の戦国時代を見ても兄弟で戦うとかいがみ合うというのは珍しくは無いことですが、

クリームヒルトの場合は、兄弟は愛しているのにハーゲンへの恨みのために兄弟も死んでもいいという恐ろしさ。

たった一人の女性の恨みからくる企みで延々と戦士たちの首が飛び、剣が体を突き抜け、兜が割れ、血の海となる光景が続くのですから、最後に「女悪魔!」と呼ばれても仕方の無い人物です。

そもそもの恨みの原因は夫を殺したハーゲンなのですが、クリームヒルトは再婚して子供が生まれてもなお、10年以上も恨み続けていたんですよね。それが怖すぎる!

ワーグナーはグンターの妹の名前をクリームヒルトではなく、また別の神話で妹として出てくるグルズーンでもなくグートルーネにしていてその理由はわかりませんが、

叙事詩の方はクリームヒルトが中心的な存在でかつ残酷な性格であるのに対し、オペラではちょい役の普通の娘なので名前を変えたんだろうか、となんとなく想像してしまいます。

そういう意味ではブリュンヒルデもかなりイメージは違うのですが‥。

ハーゲン

ニーベルンゲンの歌もワーグナーの指環においても、一貫して悪者なのはハーゲンです。

叙事詩もオペラもジークフリートを殺すのはハーゲンだし、ふてぶてしい人物像もそのままだと思います。

叙事詩の方を読んでいると、クリームヒルトがあまりに長い年月ハーゲンを恨み続けるのは確かに怖すぎて気味の悪ささえ感じるのですが、

とはいえもとはといえばハーゲンが悪く、そのハーゲンがなんの罰も受けずにのうのうと生きているのは、クリームヒルトならずとも読み手の私もずっと気にはなっていたことです。なんで?おかしいでしょと。

これについては、本の中でハーゲンが責められない理由をちゃんと明確に欲しかったなあと思うのですが、

いかんせん、もとは中世の読み物なのでした。

戦いが続くとハーゲンが王に忠実な人物で、ジークフリートに勝るとも劣らぬ勇敢な人に見えてくるんですよね。

最終的にはクリームヒルトがハーゲンの首を落とし、クリームヒルトも自分の家臣から殺されるのですが、

だったら最初から自分でハーゲンだけを殺しに行けばよかったでしょとどうしても歯がゆい気がしたのは事実です。

いずれにしてもやはり王妃の命令は絶対なのでしょうか。「歴史の影に女あり」ですね。

前半はきらびやかな王族の世界

ニーベルンゲンの歌の叙事詩は、前半はきらびやかな王族の世界が描かれていて、後半は戦いのシーンが延々と続きます。

きらびやかといっても、実は個人的には理解しがたいところが多く

前半にやたらと多いのは洋服の記載と容姿の記述、そして時々野蛮なことも普通にでてきます。

きらびやかの服を着ていることがそんなに大事?と思ってしまうほど実に身につけているものの記載が多いのです。

  • 他国へ行く時は派手な洋服を揃えることが大事
  • 男女とも豪華な洋服を着ているから偉い
  • 女性は顔の美しさだけが重要
  • 金や宝をたくさん持っているのが偉い
  • たくさん宝物をくれる人が良い人。
  • 盾にも宝石が多いほど良い
  • 美しい女性達に見せるために闘技がある
  • 一方男性がやけに着飾っているというだけで気に入らないと殺す
  • 女性については顔の美しさ以外に性格の記載はなし

など、なんとも理解できない世界に思えてしまいます。

ただ、これは日本人的な感覚なのかもしれないし、もしかしたら本質は同じなのかもと思ったりもしました。

これだけはっきりと男性は強いのが大事、女性は顔が美しいのが大事、そして男女共にお金持ちが偉い

と言われてしまうと、この本は一体なんなのか?とさえ思うのですが、この本は長い年月ヨーロッパで読まれてきている文書でもあるわけなんですよね。

という具合の前半なのですが、後半の戦いのところになると、正義とか忠義とか友人への思いなどが出てきて感動の物語になるので、いきなり引き込まれるものを感じます。。

ニーベルンゲンの歌は、ワーグナーの指環とはずいぶんかけ離れたストーリーなのですが、

後半のブルグント族とフン族の戦いは壮絶で、特に広間での戦いの光景が目の前に浮かび、息苦しささえ感じるのですが、それだけに非常におもしろく

指環とは別物としてぜひ読んでみるといいのではないでしょうか。

ちなみにクリームヒルトが再婚するフン族の王エッツェルは

ヴェルディのオペラ「アッティラ」と同じ人物なんですよね。そう思うとこちらも興味深いです。

最後にストーリー的には、サガという北欧の伝説集の中のウォルスンガ・サガの方が、ワーグナーの似ているようなので、折を見てそちらも読んでみようと思います。

ワーグナーのオペラとワグネリアン達

<参考文献:A・リヒター/G・ゲレス 市場泰男訳 ドイツ中世英雄物語1ニーベルンゲン>

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