ピーター・グライムズ(ブリテン)イギリスにオペラが戻ってきた

ブリテンのオペラ/初演は終戦の年

今回は比較的新しいオペラ、ブリテンの「ピーター・グライムズ」についてです。

ピーター・グライムズはブリテンの代表作と言ってもよい作品で、初演は終戦の年である1945年のことでした。

  • 作曲:ベンジャミン・ブリテン
  • 初演:1945年
  • 場所:サドラーズ・ウェルズ劇場(ロンドン)

このオペラの原作はジョージ・クラッブという人の作品がもとになっています。

ジョージ・クラッブという人は18世紀の生まれの詩人で、ピーター・グライムズはこのジョージ・クラッブの自治区という物語詩(長編詩)に出てきます。

ジョージ・クラッブという人は医者で牧師だったようで、彼の詩は現実的では人間や社会が持っている暗い部分、本性や狂気などを描きその対象は主に中産階級や労働者でした。

ピーター・グライムズの舞台もイギリスの東部の小さな漁村です。

ピーターの周りでは何人も子供が死んでいくのですが、それが彼のせいなのかそれとも幻覚なのか事故なのか、結局わからないし、わからない中で社会では彼を避難し排除していく様子が描かれていてなんとも重苦しいオペラになっています。

ロンドンのコヴェントガーデン

不毛のイギリスに久々の本格オペラ

初演のサドラーズ・ウェルズ劇場というところは戦争中は閉鎖されていて、このピーター・グライムズが再開オープニングの公演だったようです。

なぜこの暗い児童虐待か?とも思えるような作品がオープニングに選ばれたのかはわかりませんが、何はともあれ公演は成功だったのだそうです。

その成功は、戦争が終わり劇場が開いたという感動が後押ししたのか、私にとっては難しいと感じるこのオペラが当時のイギリスの人々にどんな風に響いたのか、そこら辺はわからないのですが、

とにもかくにもブリテンは約2世紀もの間オペラ不毛の地だったイギリスに新たなオペラの歴史を再開させたと言っていいのです。

イギリスっていうと、パーセルの「ダイドーとエアネス」っていうオペラが有名なんですけど、これは1689年つまり17世紀という古い昔のことで、

そのあと18世紀前半にヘンデルがイギリスに拠点をおいて活躍していて、「セルセ」とか「リナルド」などを全部イギリスで発表しているんですね。

まさにヘンデルの黄金期はイギリスでのことだったと思います。

でもヘンデルはイギリスの人じゃなくドイツ出身の人。

そしてペープシュがヘンデルなどバロックオペラを揶揄したかのような乞食オペラを作って、それが爆発的に売れてしまうと、その後は本格オペラがほとんど出てきてないんですよね。あったのかもしれないけど今まで残って上演されているものはほぼ無し。

そんなオペラ不毛の国になってしまったイギリスに、イギリス生まれの作家のオペラが本当に久しぶりに登場したのですから、やはり感動はあったんだろうなあと思います。

ピーター・グライムズ簡単あらすじ

ではピーター・グライムズの簡単あらすじを書いておきます。

最初にプロローグがあってその後3幕まで。正味2時間半、休憩をいれると3時間を超えるかもしれません。

プロローグはピータ・グライムズの裁判で、ピーターの弟子が漁で死んだことについての公判です。

人々は疑っていますが(人々はこの後も疑い続けます)、グライムズはしけで海上をさまよううちに死んでしまったといい、結局証拠が無いので無罪になります。

1幕では助手無しではやはり大変ということで、グライムズは孤児院から男の子を連れて来てもらうことになりますが、村人たちは誰も連れてくる役をやりたがらず、唯一好意的なエレンが連れに行くことになります。グライムズもエレンが好きで漁でお金を貯めたらエレンと結婚したいと思っているのです。

2幕では孤児院から来たジョンの首にあざがあるのをエレンがみつけてグライムズがやったのではないかと問いただしますが、はっきりとした返事をせず事故だというグライムズ。さらにエレンが責めるのでグライムズはエレンを殴ってしまいます。それを知った村人たちは群集化してグライムズを問い詰めにいきます。

グライムズは前に亡くなった助手のことが幻覚となり精神がおかしくなり始めている様子。そんな時村人たちがくるとわかり、グライムズはジョンに崖伝いに船に行くように指示するのですが、運悪くジョンは足を踏み外してしまいます。

3幕では村人たちはジョンをグライムズが殺したのではないかと疑い、そんな中海岸にエレンが編んでやったジョンの上着だけが打ち上げられます。

グライムズはやつれて錯乱状態になり、エレンが名前を読んでもわからない。

老船長のボルストロードはけじめとして船を沖でしずめるようにグライムズに言い、エレンは止めるのですがグライムズは悟ってむなしく海にでていきます。

その後沿岸警備隊の報告で沈みかけている船があると話すのですが、望遠鏡で見てももう何も見えず、村人たちは何もなかったように元の生活に戻ります。

見どころと特徴

ピーター・グライムズは見終わるとなんとなくやり切れなさとモヤモヤ感が残るオペラです。

村八分のようにグライムズを悪者扱いする村人の心理も怖いのですが、何より本当はどうなのか、前に死んだ助手は本当に事故だったのかそれとも‥

それが結局わからないのです。ジョンの首にあざがあるということは虐待はしていたのだろうし‥。

原作ではもっとグライムズははっきりと悪人らしいのですがブリテンのオペラでは何が悪いのか誰が悪いのかグライムズはなぜ精神がおかしくなっているのか、いろんなことがモヤモヤするオペラなのです。

そういう意味では現代の映画によくあるような考えさせられるオペラという特徴があるのかもしれません。

オペラでグライムズ役はテノールが歌うのですが、暗い声のテノールというのはあまりいないので、どうしてもこの微妙な役なのに澄んだテノール声が歌うと私は若干違和感を覚えてしまいます。

グライムズはどう見ても性格は良くないと思うんですよね。

なぜバリトンあたりじゃないのかなあと。

初演のグライムズ役はブリテンの伴侶とも言えるピーター・ピアーズがやっていて、それ以外の役はありえなかったんだろうなとは思うのですが‥。

また、このオペラの音楽の特徴としては間奏曲が多いということで、普通はあるとしても一つくらいのところが6個もあります。

静かな海や荒々しい海を思わせる音楽などそれぞれ違うので見どころ聞きどころだと思います。中でも第2幕1場と2場の間のパッサカリアは私にはとても不気味な音楽にきこえます。

パッサカリアというのは17−18世紀にかけての音楽形式といわれるんですけど、これがそうなの?とそこはよくわからないのでどう感じるか聞いてみて欲しいところです。

終始何かが起きそうな、事件が起きそうな雰囲気のオペラで演劇性が強いところも特徴で、これって演出とか演技によってずいぶんグライムズのイメージはかわるんじゃないかとそんな気がしますのでそこらへんも見どころかと。

私にとってブリテンは今まで聞いたことがないような音楽というイメージです。でも心に訴えかけてくる感じもなぜかある、そんな音楽です。

ブリテンは好きな人にとっては「はまる」らしいのですが、まだ私はそこまでいってないです。これから変わるかもしれないので、ちょっと楽しみではありますが。

いずれにしても楽しいオペラではないので、自分がどんな風に感じるのかを思いながら観るといいんじゃないかと思います。

こちらはヨークのグランドオペラハウス

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