セルセのオンブラ・マイ・フ実はヘンデル作ではなかった?

今回はヘンデルのオペラ・「セルセ」またの言い方を「クセルクセス」についてです。

クセルクセスは古代ペルシャ語アケメネス朝の王様の名前、そしてセルセはそのイタリア語読みです。

アケメネス朝っていうのは世界史をかじった人なら覚えがある人もいると思いますが、西洋史を勉強していない人とっては多分それなに?っていう感じですよね。

まあ多少勉強しても私などはほぼ覚えていませんが‥

とにかく古代オリエントの中の王様です。紀元前5Cくらいの人ですね。

ヘンデルがセルセを作った頃ってどういう時?

 

作曲したヘンデルという人はドイツの生まれですがイタリア式オペライギリスで多く発表した作曲家

というのが私の大まかなヘンデルのイメージなのですが、

オペラ「セルセ」はヘンデルのオペラの中ではもっとも最後の方に作られたオペラでヘンデルが53歳の時の作品です。

彼はこのあとほとんどオペラを作らなくなるんですよね。

まずセルセについて最初に気になったのが初演の年とその場所のこと。

ヘンデルのほとんどのオペラはヘイマーケット王立劇場というところで初演されているんですよね。

ヘイマーケットっていうのは現在もあるロンドンの地名というか通りで

かつてそこに王立の劇場がありました。

現在あるハー・マジェスティーズ劇場の前身といってもいいと思いますが、

ハー・マジェスティーズ劇場というのは、オペラ座の怪人をずっと上演している劇場といった方がわかりやすいかもしれません。

原作ガストン・ルルーはフランス人ですがミュージカル・オペラ座の怪人を世界で初めて上演したのはこのハー・マジェスティーズ劇場なんですよね。

それが1986年のこと。

ガストン・ルルーは1927年に亡くなっているので、まさか自分の小説がミュージカル版になってこれほど有名になっているとは知らないわけなんですよね。

ミュージカルの話はさておき、

ヘンデルってもともと足場にしていたヘイマーケット王立劇場を追われてコヴェントガーデンに行かざるを得なかったはずなのに、

このセルセはまたヘイマーケットに戻っているんですよね。

それでなんか行ったり来たりしているのかなと思ったわけです。

 

というのもヘンデルってイギリスで王室音楽アカデミーを設立しているのですが、それが1720年

これは今の日本でいうなら新国立劇場運営財団みたいなものだと思います。

当時オペラは貴族が中心だったので運営も貴族たち

で、運営がうまくいかず倒産(いかにもありそうなことですが‥)

その後もヘンデルは頑張って活動を続けるんですが今度は貴族オペラっていう団体が現れてヘンデルグループと競う形になり、結果ヘンデルってヘイマーケット劇場から追い出されて(というと言い過ぎですが、使えなくなって)

仕方なくコヴェントガーデンで上演したっていう経緯があるんですよね

まあこれによってというわけでもないけど今やコヴェントガーデンの方がオペラの殿堂みたいになっちゃってるのも皮肉というか、おもしろいことですが‥。

貴族オペラっていうのはかつて「カストラート」っていう映画があったのを覚えている人もいると思いますが、

あの時出てきていたやつです。覚えてないかな。

ボルポラ(イタリアの作曲家)を筆頭に貴族オペラがヘイマーケット劇場でオペラをやり、

ヘンデルはコヴェントガーデンでオペラをやっていたという1730年代の頃のことが背景にある映画なんですよね。

実はカストラートだからイタリアが舞台だと勝手に思っていた私ですがあれはロンドンのオペラ闘争も絡んでいたわけです。

今更ながらうーんなるほど、あの映画はそこを切り取っていたのか、と妙に納得しちゃいました。

結局貴族オペラも倒産しちゃうんですが。それが1737年のこと。

そしてセルセの初演がその1年後の1738年ですからヘンデルはまたヘイマーケットを使えるようになったのかなと、多分そんな流れだと思うんですよね。

ただそもそも当時はバロックオペラの人気がガタ落ちしていたからセルセはダメだったみたいですけど。

ヘンデルにまつわる一連の流れは権力闘争っていう感じがして、オペラの世界も大変なんだなと思うんですよね。

さてそういうことはさておき、なぜセルセがそこそこ有名かっていうとオンブラ・マイ・フが有名だからということがあります。

オンブラ・マイ・フは誰の作?

オンブラ・マイ・フっていい曲ですよね。

おそらく題名は知らなくても、またオペラの中の曲だということは知らなくても

あ!聞いたことがある、という人がほとんどだと思います。

もともとはカストラートが歌っていたアリアなんですけど今はソプラノの人が歌ったり、男性も歌ったり、

誰が歌ってもいい曲には間違いなしの曲。

ところがこれって実はヘンデルが作ったわけじゃなさそうなんです。

当時って古いオペラをリメイクして発表するっていう、今なら著作権とか問われそうなことが普通に行われていたんですよね。

で、ヘンデルのセルセっていうオペラも元の作品があるわけなんです。

フランチェスコ・カヴァッリという作曲家が作った「セルセ」

これはヴェネチアで1654年に初演。当時のヴェネチアではかなり有名な作曲家だった人らしく

あのルイ14世にも呼ばれてオペラを上演したくらい。

フィレンツェで始まったオペラがちょうどヴェネチアが主流になっていた時期だなとも思います。

ただ、当時のフランスではイタリア語のオペラは興味をもたれなかったらしいですが。

でもこの人は作品もずいぶん作っているんですよね。

今は忘れられていますけど。

で、カヴァッリのセルセにすでにオンブラ・マイ・フの原型がどうもあったらしいのです。

 

そして次にジョヴァンニ・ボノンチーニという作曲家が、カヴァッリのセルセに手を加えて発表。

場所はおそらくローマ。

このボノンチーニっていう人は、ジュリオ・チェザーレでも書いたけど1720年代にロンドンにやってきて、ヘンデルの敵とも言われていた人なんですよね。

でもセルセを見る限り、あれ?ヘンデルってボノンチーノの作品をリライトしているんだなあと。

そもそもボノンチーニの方がかなり年上ですしね。

ヘンデルが注目した作品であったことは確かっていうことですよね。

実は敵っていうわけではなかったのでは?と思ったり‥。

セルセってあらすじだけ見るとこれってブッファ?と思うようなストーリーなんですよね。

当時まじめなオペラセリアが人気なくて乞食オペラのような庶民的な作品が人気だったから

オペラもそれに寄ったのかとも思います。

もともとのカヴァッリのセルセやボノンチーノのセルセがどんな感じだったのかっていうのはちょっと興味があるところです。

すごく違うのか、それともかなり似ているのか。

もしオンブラ・マイ・フの原型があるのなら聞いてみたいものです。

 

カストラートの役を誰が歌うか

 

さて、セルセに限らずヘンデルのオペラ(というかこの時代のオペラ)っていうのは、役をどの声の人が歌うかっていうのが公演により違うっていうのがすごく特徴じゃないかと思います。

というのもカストラートは現代ではもう存在しないけど、当時はカストラート全盛の時ですごくでてくるので代替で歌うしかないんですよね。

実は私はカストラートって花形歌手っていうイメージがあったので、

オペラに一人だけ出るのかと勝手に思っていたんですよね。

主役の王様役がカストラートとか、主役の英雄がカストラートとかそういう感じで。

でも実際のところ一つのオペラに複数人のカストラートが出ていたようなんですよね。

そうだったのか、そこまでカストラートは人気があったんだなと思うわけです。

ウリッセの帰還を見たときはカウンターテナーが二人でていて、

オー!二人もカウンターテナーが出ているなんて!

と喜んだ私ですが(そもそもそんなオペラほとんどありませんから)

セルセの場合はさらに多いんですよね。

特に元になったボノンチーノ編の初演の配役を見ると

  • セルセ(男役)・・ソプラノカストラート(男)
  • ロミルダ(女役)・・ソプラノカストラート(男)
  • アデランタ(女役)・・ソプラノカストラート(男)
  • アルサメーネ(男役)・・アルトカストラート(男)
  • アマストレ(女役)・・アルトカストラート(男)
  • エルビロ(男役)・・ソプラノカストラート(男)
  • アリストン(男役)・・テナー(男)
  • アリオダーテ(男役)・・バス(男)

といった感じなんです。

1694年初演の配役です。これすごくないですか?!

カストラートだらけ。

この時の場所は教会でもないのですが、女性を入れちゃいけない公演だったのかどうかわわかりませんが、

場所はローマの公共劇場だったようなんですよね。よく見ると男性ばかり

女性がいないですよね。

そもそもカストラートがなぜできたかというのが、教会に女性が入れず女声が必要だったからという歴史があったようなのですが、

女性役も男性役もカストラートだらけだったオペラって、いったいどんなだったのかと。

現在見るオペラとは全く違うということですよね。おもしろいなあと思うのです。

このセルセの1738年の公演、つまり約40年後のヘンデル初演の時はどうかというと

  • セルセ(男役)・・ソプラノカストラート(男)
  • ロミルダ(女役)・・ソプラノ(女)
  • アデランタ(女役)・・ソプラノ(女)
  • アルサメーネ(男役)・・コントラルト(女)
  • アマストレ(女役)・・コントラルト(女)

っていう感じになっているんです。

うって変わって今度は女性歌手がぐっと増えているんです。

この違いって歴然としてますよね。時代なのか場所のせいなのか。

ついでに言うと、ロミルダとアデランタっていうのは姉妹なんですよね。

この姉妹役をボノンチーノ版ではカストラート二人で姉妹役をやっていて

ヘンデル版ではソプラノ二人で姉妹役をやっているわけです。

実におもしろくないですか?!

でもって今セルセをやる時ってどうなのかっていうと、

やはり公演によっていろいろなんですよね。

カストラートは今はいないから仕方ないけど例えば主人公のセルセ役は

メゾソプラノがやったり、カウンターテナーがやったり、またはバリトンがやることも

っていう感じなのです。

だからヘンデルのオペラを見る時は、どの声の人が何の役をやるのかっていうのがまず気になるし見どころだと思うんですよ。

昔はカストラートは男性役も女性役もこなしていたけど

今は女性が男性役をやることはあっても、男性が女性役をやることってほぼない気がします。

かつてカストラートがやっていた女性役は女性がやり、

そして男性役は、カウンターテナーがやるかまたはメゾがやるかバリトンがやるかっていう感じかなと。

いずれにしても比較的新しいオペラでは役と音域はガチッと決まっているのに、ヘンデルの頃のオペラはそれが決まってないところがおもしろいと思うんですよね。

 

セルセのあらすじも書こうと思ったけど長くなったので、やめることにしました。

あらすじは他でみてくださいねー笑。

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