プッチーニの栄えある2作目だけど‥台本がいまいち?
今回はプッチーニの中では比較的マイナーな作品「エドガール」についてです。
プッチーニは「ラ・ボエーム」とか「トスカ」など他に有名なオペラがあるのでこのエドガールというオペラはあまり知られていないんじゃないかと思います。
プッチーニってヴェリズモオペラで有名なマスカーニと全く同時代の人で、同じようにソンジョー二社の一幕オペラに応募してマスカーニに負けちゃったっていう過去があるんですよね。
でも今ではマスカーニより作品も残ってるし有名なのではないかと思います。わからないものです。
プッチーニが応募したオペラが一幕じゃなく二幕だったからダメだったとか‥。
なぜプッチーニは二幕にしたのか‥とかちょっと不思議ですが
いずれにしても優勝しなかったとはいえ、その時の「妖精ヴィッリ」はリコルディ社の目にとまって、リコルディ社の依頼で栄えある第2作目のオペラを作ることになったんですよね。
それがこの「エドガール」です。
エドガールっていうのは主役の男性の名前です。
- 作曲:プッチーニ
- 原作:アルフレッド・ド・ミュッセ
- 台本:フェルディナンド・フォンターナ
- 初演:1889年
- 場所:ミラノスカラ座
当時プッチーニは30歳。そこそこ年齢はいっていたとはいえ、初演がスカラ座なんだなあとちょっと思う‥。すごいというか。そこはリコルディ社の力なのか‥。
実はプッチーニのオペラって音楽がなんども盛り上がりすぎて「これはクライマックス!?、えっまたクライマックス?」っていう感じでお涙頂戴っていう感じが強すぎて、正直それほど大好きなオペラではなかったんですよね。
ところが‥
このエドガールはそんな私のプッチーニに対するイメージをガラッと変えてくれたのです。
やっぱりすごいわ!と。
実はエドガールって台本がよくないって言われているオペラなのです。
確かに、うーんなんか唐突だなあ、なんでそうなる?と思うストーリーです。
それなのに‥
こんなにいい音楽が付いてる‥もったいない!と思う。
というわけで台本がいまいちだからか逆にプッチーニの良さをすごく実感しちゃったんですよね。単に私があまのじゃくなのかもしれないけど‥笑
台本にはもったいない音楽
エドガールというオペラを見て一番感じたのは
「この話にこの音楽はもったいない!」の一言。これにつきる気がするんですよね。
ストーリーはフランダース地方(今のベルギー)の農夫たちの話なのですが、音楽はどう考えても、王宮、王様、王妃、国の興亡、祖国などそんな言葉がぴったりの重厚で劇的な音楽なのです。
まさにヴェルディ路線のもっと情熱的な感じ。
なのに話が庶民すぎる。(確かに殺すシーンとかはあるけど)
農夫の会話にこの重厚な音楽はもったいないというか合ってない!違う!。見ている間そんな気持ちがずっと続いてました。
台本が音楽負けしているっていうことかな。
原作のアルフレッド・ミュッセっていう人はフランスではかなり有名な作家らしくて、原作が悪いわけでもないと思うけど‥
また台本のフォンターナっていう人は1作目の妖精ヴィッリでも台本を担当しているんですよね。
ただ、プッチーニの台本への葛藤とか不満がわかるのは第三作目の「マノン・レスコー」ではすごくたくさんの台本作家が関係しているのです。
つまりエドガールのような失敗はしたくないっていうことで次々いろんな台本作家を投入しているんですよね。
マノン・レスコーに関わった台本作家はなんと5人も!
そして第4作目から黄金トリオと言えるイッリカとジャコーザと組んでラ・ボエームとかトスカなどの第ヒット作を作り出していったわけで‥。なんとなくプッチーニの葛藤が見えるような気がするのです。
こんな風に台本がギクシャクしている時って
原作を変更しているとか、短くするために変えているとかそんな陰の理由が結構ある気がするんですけど、エドガールの原作もどうもそういうのがあったみたいで、
火を放ったのはエドガールじゃなくフランクの方みたいだし、ちゃんと読んでないからわからないけどきっとそんな事情もあったんじゃないのかなと勝手に想像してます。
3幕版と4幕版がある
そんなわけでエドガールの初演はいまいちな結果になってしまいました。
こんなに良い音楽なのにいまいちはないよねと個人的には思いますが‥。
初演のエドガールは4幕仕立てだったのですが、プッチーニはこれを3年後の1892年に3幕仕立てに直して再度上演することになります。
しかしそれでも納得できなかったようで、さらに修正をかけて1905年にまた改訂版を発表するのです。
その時の劇場がコロン劇場だったとか。コロン劇場ってブエノスアイレスにあるんですけどすごくいい劇場らしいんですよね。
遠くてとてもいけないけど。三大劇場に入るとも言われるくらいの劇場。
で、それが現在に至るエドガール版だと言われているんですが‥。
実はその後に初演版のスコアが見つかったらしく。
最近は初演版も貴重だとして上演されたりしますよね。確かに最初ってどんなだったんだろうっていうのは私ですら気になるところ。
そんなわけでエドガールを見る際には3幕版なのか、4幕版なのか、初演版なのか改訂版なのかっていうのを少し気にするといいのかなって思います。
エドガール簡単あらすじ
ではエドガールの簡単あらすじを書いておきます。
このオペラは歌手の音域の配分がよくて
T(テノール)、Br(バリトン)、B(バス)、S(ソプラノ)、MS(メゾソプラノ)が各1名ずつ主要な役にいるので、その点はいろんな声が楽しめるし、誰が誰なのか声でもわかりやすいので聞きやすいと思います。
主役のエドガールはテノールですね。
そしてエドガールには正反対の性格の女性が出てきます。
簡単あらすじは、
のどかな村の広場。
清純な村の娘フィデーリアとエドガールはいい雰囲気。
そこにはすっぱな娘ティアグラーナが現れます。
ティアグラーナは節操がなく性格がひねくれた女性。
破廉恥な歌を歌うティアグラーナを村人たちは責めるのですが、エドガールは村人たちの仕打ちに怒りティアグラーナをかばいます。
そしてなんと自分の家に火をつけてティアグラーナを連れて二人で逃げるのです。
(まずここはあれ?フィデーリアを好きなんじゃないの?という不思議、そしてなんで自分の家に火をつけるの?という台本の不思議なところ)
第二幕はティアグラーナとの愛欲生活に嫌気がさしていて、エドガールはちょうどやってきた兵隊の一団に入団することになります。もちろんティアグラーナは引き止めますが。
第三幕ではエドガールは戦死したことになっており、エドガールの葬儀の際中。
でも実はエドガールは生きていて頭巾で顔を隠してその場にいます。(なんで?とよく理由がわからない、最後まで)
フィデーリアはエドガールが悪く言われても、ひたすら悲しみに暮れてエドガールのことを思い続けています。
そこにやってくるティアグラーナ。
エドガールはティアグラーナの性根を暴こうと、宝石をチラつかせて嘘の証言をさせます(エドガールも相当性格がゆがんでる‥)
そしてエドガールが生きていたことが皆にわかり、とりわけ喜ぶフィデーリア。
二人は結ばれることになりますが、それを放っておかないティアグラーナは、フィデーリアを刺し殺してしまうのです。なんともかわいそうなフィデーリア。
3幕版は葬儀からフィデーリアが殺されるところまで一気にいきますが、
4幕版の4幕ではエドガールとフィデーリアの幸せな様子がしばしあり、そこにティアグラーナが殺しにくるという展開です。(なぜティアグラーナが殺すまでになるのかもちょっと意味不明かなあ)
エドガール見どころ聞きどころ
タイトルロールはエドガールですが、悪女ティアグラーナが目立つ役どころで、数あるオペラの中でもかなりの悪女なので悪女ぶりは見どころ。
また清純なフィデーリアとの対照も見どころです。
第一幕のフランク(フィデーリアの兄でティアグラーナが好き)の「この愛は僕の恥」というアリアは心に染み入る感動的なアリアなので聞きどころ。
また第一幕の教会のシーンの合唱もとても美しいので見どころ聞きどころ。敬虔な気持ちになってしまいます。
また、村人たちがティアグラーナを非難する時の合唱曲も勇壮すぎてこのシーンにこの曲?と合ってないなあとは思うものの、でもいい曲なので聞きどころです。
第一幕の終盤で父親のグアルティエールが歌うシーン、この歌も良いし、その後の全員での合唱も見応え十分で美しいので聞きどころ。
第二幕でエドガールがフィデーリアを思って歌う「愛欲の宴」これも切なく悩ましいアリアで見どころ聞きどころ。
またティアグラーナのエキゾチックなアリアも情熱的でおもしろい。ティアグラーナの悪女ぶりは見どころですね。
そして兵隊の一団が入ってくる時の音楽はかっこいいのでこれも注目。
第三幕に入る前に前奏曲が入りますがこれがちょっと不思議な曲で個人的にも好きでおすすめ。
プッチーニがもう少し早く生まれていたらグランドオペラの花形作曲家になっていたのかなとふと思ってしまいました。それくらい劇的で重厚な音楽なのです。
3幕冒頭の合唱などはなんとなくワーグナーかなんかを聞いているような錯覚になってしまいました。
棺を前にしたフィデーリオの絶唱はここがクライマックスと思うような熱唱の曲なのでこれも見どころ。
そしてそのあとに歌うティアグラーナのアリアは出だしが変わっていてフィデーリアとは対照的なアリア。
第三幕はフィデーリアの見せ場がたくさんありますね。
いずれにしてもなんの罪もないフィデーリアが殺されてしまうのは理不尽すぎて後味があまりよくないかも。
見どころはとにかくプッチーニの音楽ばかり。この作品が台本がイマイチだからと埋もれてしまうのは本当にもったいないなと思うのでした。
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