マノン・レスコー・プッチーニの若さムンムンのオペラ

美しいが、贅沢で、享楽的なマノン。

マノンに関わった男性がマノンへの愛のために破滅の道へいく、という原作を元にしたオペラです。

原作はフランスの小説家アベ・プレヴォー

作曲はイタリアのプッチーニです。

プッチーニの中では、ラ・ボエーム蝶々夫人に比べるとそれほど有名ではないオペラです。

それはなぜか、このオペラの魅力はなんなのかも探ってみます。

 

成立と初演

 

  • 作曲:プッチーニ
  • 初演:1893年
  • 場所:トリノのテアトロレジノ(イタリア)

 

3作目のオペラ

 

マノン・レスコーはプッチーニ3作目のオペラ。

1作目妖精ヴィッリが、ソンジョーニ社のコンクールで入選しなかったものの

リコルディ社から可能性を認められたプッチーニは、2作目のエドガールを作ります。

この時の台本は、1作目の妖精ヴィッリと同じフォンターナという人。

フォンターナはイタリアの劇作家で詩人、またジャーナリストでもありました。

 

ところがエドガールは残念ながら失敗してしまうんですね。

原因は台本にあったといわれています。

それでもリコルディ社は、プッチーニを見捨てず

次の作品も支援したのです。

リコルディ社って今もあるのですが、長く続いていますよね。

 

プッチーニは、2作目の失敗を繰り返さないため、かなり台本に気を使ったようで、

そのため3作目のマノン・レスコーには実に5人もの台本作家が関わっているのです。

5人の中には道化師を作曲したレオンカヴァッロもいました。

その結果マノン・レスコーはプッチーニの出世作になるんですね。

道化師(レオンカヴァッロ)

 

ジャコーザとイッリカとの出会い

 

プッチーニは、前作のオペラ・エドガールの失敗を繰り返したくなかったのでしょう。

台本にこだわった結果、マノン・レスコーは、若干台本がちぐはぐした感じは否めないものの

プッチーニに最初の成功をもたらしてくれました。

そして、マノン・レスコーの台本に加わったうち

  • ジャコーザ
  • イッリカ

の二人とプッチーニ黄金のトリオとして、その後

という3大ヒット作オペラを生み出していくことになるのです。

それを考えると、マノン・レスコーで、プッチーニがジャコーザとイッリカに出会ったことは

大変大きな意味があったのだと思います。

プッチーニとオペラの台本

初演・レジオ劇場

 

プッチーニのマノン・レスコーの初演は、トリノのレジオ劇場というオペラハウスでした。

プッチーニが失敗した2作目のエドガールは、ミラノ・スカラ座での上演でした。

スカラ座の方が有名なイメージですが、

この時代のスカラ座は、すでにイタリアで有数なオペラハウスではあったものの、

トスカニーニが築く黄金時代にはまだ突入していません。

 

対するトリノのレジオ劇場は、1740年建設で、ナポリやヴェネチアのオペラを引き継ぐ、

歴史のある、イタリアでも屈指のレベルのオペラハウスでした。

オペラの歴史

そんな歴史ある劇場で、プッチーニは初めての成功を収めたわけです。

リコルディ社の目は高いですよね。

そして、マノン・レスコーに続く、ラ・ボエームの初演もこのレジオ劇場です。

 

実は、レジオ劇場は、ワーグナーのローエングリンをイタリアで初めて上演した(1877年)劇場でもあります。

ワーグナーのオペラ

とかくオペラはイタリアが第一、という意識がずっと強く続いていたイタリアの中において、

早い時期からワーグナーの音楽性を理解していた数少ない劇場ということが言えるわけです。

 

イタリアにもワーグナーのファンはちゃんといたんですね。

トリノのレジオ劇場は、当時イタリアにおいて、ワーグナーが見られる貴重な場所の一つにもなっていました。

レジオ劇場は、一度火災で焼けてしまいましたが、現在も存在しています。

もしトリノに行かれる機会があれば、立ち寄ってみるのも良いのではないでしょうか。

 

 

マノン・レスコーの上演時間とあらすじ

 

マノン・レスコー上演時間

  • 第一幕:約35分
  • 第二幕:約35分
  • 間奏曲:約5分
  • 第三幕:約15分
  • 第四幕:約20分

 

4幕までありますが、

それぞれの幕は長くなく、合計で2時間弱です。

休憩を入れても3時間程度なので、それほど長くはありません。

このオペラは、シーンにより場所がポンポンとよく変わりますが、

それに加えて時の流れが急速に進むあらすじです。

 

マノンは、1幕でデ・グリューと一緒に逃げたかと思うと、

次の幕では別の男の妾になっていたり、

船着場で劇的なシーンがあったと思うと、

次はアメリカの荒野だったりと、

え?もうそこにいるの?という感じは否めません。

このオペラはあらすじと背景をあらかじめ頭に入れてから見るのが良いでしょう。

 

 

 

マノン・レスコー簡単あらすじ

 

マノンは享楽的な性格のため、修道院に連れて行かれる予定ですが、マノンの美貌に惹かれたデ・グリューは

二人で逃亡してしまいます。

2幕では、すでに二人は引き裂かれていて、マノンは裕福なジェロンテの愛人になっているところへ、

マノンが忘れられない、デ・グリューがやってきて、再び一緒に逃げることに。

ところが、愚かなマノン宝石をかき集めるうちに、警察に捕まってしまいます。

3幕ではマノンがアメリカに追放されることになっており、アメリカ行きの港のシーン。

デ・グリューはなおも忘れられず、一緒に乗せてくれと。

そして4幕では、また時は進みアメリカの荒野

原作ではアメリカでもトラブル続き。

疲れ切ったマノンはついにデ・グリューの腕の中で死んでいくというあらすじ。

 

あらすじを見てわかるように、設定と、舞台、時間がどんどん変わって行きます。

原作が長編小説なので、それを網羅しようとしたからか、台本を多くの人が担当したからなのか、わかりませんが、

いきなりシーンが変わるので、前知識無しに見るとあれれ?と思うかもしれません。

 

同じ題材でマスネがマノンというオペラを作曲していますが、

そちらのあらすじは、アメリカまで行っておらず港に行く前にマノンは死んでしまいます。

 

マスネのマノン

 

マノン・レスコーを題材にした戯曲やオペラはいくつかありますが、

プッチーニが手がけることになった当時は

すでにマスネが同じ題材を元に、「マノン」というオペラを作曲して成功を収めていました。

マスネのマノンの初演は1884年ですから、約10年前です。

 

そのため、リコルディ社は、マノン・レスコーを題材にオペラ化することに、当初は難色を示したと言います。

当然ですよね。

比較されてしまいますから。

特に後から作るものは不利になるものです。

 

ところがそこがプッチーニらしいというか、良いものを作る自信があったのでしょう。

マノン・レスコーの題材を使うことを譲らずに、作曲していくわけです。

結果として、現代で見てみると‥。

 

個人的にはマスネのマノンの方を先に知りましたが、だいたい著名度では、二つのオペラは、ほぼ同列の印象があります。

メトロポリタン歌劇場の上演回数を見ると

  • マスネのマノン・・32位
  • プッチーニのマノン・レスコー・・・40位

と、さほど差が無いことがわかります。

現代に置ける二つの著名度は同じ程度ということでしょうか。

同じ題材の演目で、現代まで残っているオペラとしては

もありますが、こちらについては、現在では、ロッシーニのオペラの方が人気があります。

 

マスネとプッチーニのように、

同じ題材で、どちらも同じように上演され続けていることは、

珍しい、と言えるのではないでしょうか。

 

見どころ

 

  • 第一幕で、マノンに一目惚れしたデ・グリューが歌うアリア「見たことも無い美人」
  • 第二幕で、裕福だけど退屈な生活を送るマノンが歌うアリア「この柔らかいレースの中で」
  • 第三幕で、船に一緒に乗せてくれとデ・グリューが歌う感動的なアリア「狂気のこの私を見てください」
  • 第四幕で、死にそうなマノンが歌うアリア「一人寂しく」
  • 第三幕にはいる前の間奏曲

 

などは、見どころ、ききどころです。

 

場面としては、第三幕の港のシーンがもっとも盛り上がり、

デ・グリューの必死の懇願は、テノールの演技力と歌唱が見どころです。

 

またそれほどまでに、男性を虜にしてしまうマノンという女性を演じるのもなかなか大変な役どころ。

美しいけれど、財宝や贅沢が好きでどうしようもないところ、

そして、身を滅していくところは、まさに人間の性かもしれません。

そのあたりを歌と演技でどうやって見せるかは、難しいところで、見どころだと思います。

そして、三幕に入る前の間奏曲はとても美しい曲です。

ここだけはなんども聴きたくなるところで、見どころ聴きどころだと思います。

 

歴代の歌手

マノン・レスコーの映像やCDを見ると

  • プラシド・ドミンゴとミレッラ・フレーニ
  • プラシド・ドミンゴとレナータ・スコット
  • プラシド・ドミンゴとキリ・テ・カナワ

 

のようにデ・グリューはドミンゴが得意としていたことがわかります。

演技がうまく、情熱的なドミンゴには港の泣きのシーンなど確かにぴったりの気がします。

 

もっともドミンゴという人は何をやってもうまいと思ってしまうのですが‥。

 

最近ではデ・グリューをヨナス・カウフマンもやっています。

声が重く、向いているかもしれませんが、この人の外見を見る限り、どちらかというと、

マノンを好きになるより、女性の方が虜になるタイプのような気もしますが‥(笑)。

 

古くはマリオ・デル・モナコとレナータ・デバルディ

デバルディのマノンは美しかったでしょうねえ。虜になってしまうのもわかる気がします。

 

プッチーニのその後の数々のオペラは、台本ともども素晴らしいものが多いため、

マノン・レスコーはどうしても上演回数が少なめになってしまっていることもあるのではないでしょうか。

でもパワーが有り余っているのを感じるこのオペラは、プッチーニの若さがムンムンと感じられる熱い音楽で、私は好きです。

マスネのマノンと、プッチーニのマノン・レスコー

この二つを見比べてみるのも、楽しいのではないでしょうか。

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