カーリュー・リヴァー能「隅田川」から生まれたオペラ

ブリテンには有名なオペラがたくさんあるのですが、おそらくオペラ好きの人の中で「オペラはブリテンから入った」という人はあまりいないのではないでしょうか。

私にとってブリテンは、まだよくわからないけどちょっと興味が出てきたという状態です。

今回はそんなブリテンのオペラの中からカーリュー・リヴァーについて書いてみたいと思います。

日本とすごく関係があるオペラなんですよね。

カーリュー・リヴァー初演は教会

  • 初演:1964年
  • 場所:イギリスのオーフォード教会
  • 原語:英語
  • 全1幕
  • 台本:ウィリアム・ブルーマー

1964年初演ですからオペラとしてはすごく最近の作品です。

ブリテンは1913年生まれですから51歳の時の初演作品ですね。

このオペラは教会の中で上演するのを前提として作られた作品らしいです。

だからおそらくカーリュー・リヴァーを上演する時は、教会では無くてもあまり大きくないホールを使うと思います。

音楽、楽器もすごく少ないですし。

初演時の主役の狂女を歌ったのはピーター・ビアーズという人。この人はブリテンというと必ず出てくる人で、生涯パートナーだった男性です。

初演の時の狂女の死んだ子供の声は少年がやったのか、ソプラノがやったのかはわからないのですが

最初の録音は少年だったみたいだから少年なのかなと思います。

能「隅田川」から生まれたオペラ

カーリュー・リヴァーはおそらく能楽師なら誰でも知っているオペラなんじゃないかと思います。

このオペラの特徴は何と言っても日本の能「隅田川」が元になっているオペラだからです。

元になっているというとヒントを得たくらいに思うかもしれませんが、ストーリー的には隅田川そのまんまなんですよね。

海外の隅田川とカーリュー・リヴァーの同時公演で日本の能楽師が行く、っていう企画もかつてあったみたいです。

ブリテンは1956年に日本に来て能を見ているんですよね、それが「隅田川」という能です。

隅田川って私の世代だと、教科書に出てきたんですけど今ってどうなんでしょう。

出てきたと言っても当時は正直言って

よくわからない、つまらない、

なんか帽子かぶって能面つけた人が子供を探している悲しい話

っていうくらいのイメージでした。

大人になってからもいくつか能は見てみたけど、やっぱり言っちゃ悪いけど退屈‥。

幽玄の世界とか言われてもわかるようなわからないような‥。申し訳ないけど。

とは言いつつ嫌いではないです。ちょこっと謡を習ってみたくらいですから。

さて、ブリテンっていう人は隅田川を見て感銘を受けたらしいんですよね。さすがというか。

でもって自国に戻って作ったのが「カーリュー・リヴァー」というオペラだったわけです。

台本は同じく日本に行ったことがあるウィリアム・ブルーマーという人にたのんで。

カーリューと隅田川で川の名前は違いますけど、ストーリーは隅田川そのまんまなんですよね。

オペラを見るまでは日本の能を参考にしたくらいかなと思っていたんですけど、ほとんどそっくりなストーリーなのです。

同じくイギリスのオペラでサリヴァンっていう人の「ミカド」っていうオペラがあるんですけど、

題名だけ見るとそっちの方が日本ぽいのですが、全然そうではなくて、カーリュー・リヴァーの方が断然日本的じゃないかと思います。

カーリュー・リヴァーと隅田川ストーリーはほぼ同じ

カーリュー・リヴァーと隅田川は衣装はもちろん違うし、音楽も楽器も声の出し方も何もかも違うけど、ストーリーはそっくり。

違うのは、両方とも最後に死んだ子供が出てくるのですが、隅田川の方はあっさり行ってしまって母の悲しみは残る感じなのに対し、

カーリュー・リヴァーの方の亡霊の子供は母に優しい言葉をかけるので救われる感じの終わり方なところ。

能では子役が声を張り上げて

母にてましますか」と(ここは若干物理的に聞こえてしまう)

とだけ言って、抱きしめようとした母をすり抜けてささっといなくなってしまうんですよね。

母は悲しい‥と思う。

それに対しカーリュー・リヴァーでは美しいボーイソプラノかソプラノが

go your way in peace my mother

やすらかにあなたの道を進んでください、母上

って歌うんですよね。美しい声で。

ブリテンはこのラストの部分については、能とは違う感じにしたかったのだと思うし、実際このシーンはカーリュー・リヴァーのもっとも素敵なところだと私は思います。

このラストを見たいからこのオペラを見ると言ってもいいくらいとすら私は思っちゃいますね。

能面の効果を再認識

カーリュー・リヴァーは形式もすごく能の隅田川に似せてると思います。

ってあげ幕からしずしずと無音で出てきて

私は誰それで、ここはどこで‥

っていう感じで説明してから始まりまって最後は地謡の人たちが、謡を歌って

またしずしずとあげ幕の方に無音で戻っていく感じですけど

カーリュー・リヴァーの方も最初はずらずらと出てきて、

「これからこんな劇をやります」って説明してから始まるんですよね。

で、最後も終わると

「これで終わりです」っていう感じのことをいって行列して出て行くのです。

これって能を真似ているんだろうなと。

あと能って全員男性ですけど、オペラの狂女もテノールつまり男性がやるんですよね。

オペラって女性が男性の役をやることはよくありますけどテノールが女性の役をやることってあまりないと思うのです。

しかも演出にもよると思いますけど女性らしく見えるようなメイクとかカツラや服装をしないと(お面とかつけるときもあるらしいですけど)

普通に男性が母親役をやるので、やっぱり少し違和感があるんですよね。

「この人は女性だ」と思って見るようにするんですけど、カーリュー・リヴァーは淡々とした演技(これも能風なのだと思う)なので、やっぱり男性にしか見えない!と思っちゃうのは私だけなのかな?

で結論として、やっぱり能面ってあるのとないのではずいぶん違うなと思ったわけです。

能面って表情が無いように見えてちゃんと喜怒哀楽を表せるっていうのはよく言われることだと思うのですが、誠にそうだなと感じたのはカーリュー・リヴァーを見てからかもしれないです。

お腹の出たおじさんでもシワシワのおじさんでも(笑)面をつけただけで、声は男性であってもちゃんと女性に見えるのです。

若干うつむくだけで気持ちが沈んで見えるし、手を目頭に近づけるだけで悲しいのがわかるのです。

でももろに男性の顔が出てると、一生懸命「この人は女性なんだ」と自分に言い聞かせないと、なかなか女性に見えてこないです。

というわけで母の悲しみは能の方が伝わってくるかなあ。と私は思いました。(比べる必要はないのですが笑)

カーリュー・リヴァーあらすじとみどころ

簡単あらすじ

歌とともに出演者たちが現れて、

「これより劇をおみせします」という観客への言葉からはじまります。

狂女が私も船に乗せてくださいとやってきます。狂女はさらわれた我が子をさがしているのです。

船の中で渡し守は1年前の話を始めます。

人さらいにさらわれてきたかわいそうな少年がここで力尽きて死んでしまったと言う話。

話を聞いていた狂女はそれが自分の息子だとわかり、墓の前で悲しみます。

するとどこからか亡くなった少年の霊の声がして母を気遣う言葉を言います。

正気に戻った母。母は墓に跪きます。

 

見どころ

このオペラには指揮者がいないとか。たしかに楽器がほとんど鳴らないシーンも多く、ここで息子が亡くなったとわかったときなどはフルートと狂女の掛け合いだけになったりします。

前半目立つのは何と言っても太鼓

なんの太鼓なのかはわからないのですが、ティンパニーのような繊細な感じではないです。

またオルガンだと思いますがまるで雅楽の笙のような音がしばしば聞こえてきて日本的な感じがする箇所が何度もあります。

全体にはまるでお祈りかおまじないを聞いているかのよう、

音程ってどうなってるの?とも思いました。

その不思議さが見どころかな。

とにかく不思議な音楽なので、それが見どころ聞きどころじゃないかと思います。

これもオペラなのねという感じ。

大げさな演技が全くないところもオペラには珍しくて、これも能に習っているのだろうと思います。

このオペラを演じる人は、日本の隅田川を勉強したりするんだろうか、おそらくするんでしょうね。

カモメに話しかけたり、少年が亡くなったことを聞いた狂女が

いつのことか?、少年の年齢は?、その名前は?、両親は来たか?、母は?

と渡し守に再度尋ねたりするシーンは能の隅田川そのまんまなんですよね。

亡霊の子供の声が聞こえてくるところはなんとも感動的なので一番の見どころかな。私はうるうるしちゃいました。

ブリテンって私が最初に興味を持ったのはノアの洪水を聞いたときでした。

ドキン!としたんです。魂に響いてくるような音楽だったので。

カーリュー・リヴァーにはその感じはないので、まだまだブリテンって私には未知な作曲家です。だからこそ興味があるっていう感じかなと思います。

イギリスオペラの歴史・オペラが育たなかった時期がある

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