ドビュッシーの唯一オペラ
今回はちょっと珍しいドビュッシーのオペラ「ペレアスとメリザンド」について書いてみたいと思います。
ドビュッシーの曲はそれほど聞いているわけではないのですが、私が持つドビュッシーのイメージは水が流れるような音楽。
幻想的というか‥。
ドビュッシーはいくつかオペラを作ろうとしたのですが結局できあがったのはたった一つで、それがこの「ペレアスとメリザンド」です。
ペレアスというのは男性の名前、メリザンドは女性の名前。
実は「ペレアスとメリザンド」というと私がまず浮かぶのはフォーレが作曲した方の作品です。
この中に有名なシシリエンヌと言う曲があってそれがとても良い曲なのです。
フォーレの「ペレアストメリザンド」は題名はドビュッシーと同じなのですがこちらは「劇付随音楽」と呼ばれていてオペラとはちょっと違います。
でも作られたのはほぼ同じ頃、そしてフォーレもドビュッシーと同じフランスの作曲家なんですよね。
ドビュッシーのペレアスとメリザンドの初演は1902年で、場所はパリのオペラコミック座でした。
そしてフォーレの方は1901年、つまりドビュッシーの前の年です。
実は二つの作品は原作も同じでメーテルリンクの「ペレアスとメリザンド」という戯曲でした。
当時メーテルリンクの戯曲が舞台で上演されていたようです。
ちなみに同名の音楽は他にもあります。
- シェーンベルクの交響詩 ペレアスとメリザンド
- シベリウスの劇付随音楽 ペレアスとメリザンド
もあって、これらも同じ頃に作曲されています。
たくさんありますよね。
当時このメーテルリンクの戯曲がかなりヨーロッパで人気があったということがわかる気がします。
メーテルリンクの物語
さて原作のメーテルリンクという人はベルギーの作家です。
日本では「青い鳥」で有名なんじゃないかと思います。
青い鳥は劇団四季が「ドリーミング」と言う演目でミュージカルに取り上げていまいしたが(これ結構好きで何度もみてました笑)
このメーテルリンクという人は象徴主義の作家と言われています。
青い鳥の場合「幸せの青い鳥を探しに行ったら実は幸せは一番近くにあった」とか「いのち」というテーマがなんとなく見えてくるので、そういうのが象徴主義なのかなと私は思っているのですが、
ペレアスとメリザンドについては正直なところ「うーん、何が言いたかったのかなあ」と言うのが私の正直な感想です。難しい‥
もっともペレアスとメリザンドは青い鳥より約16年ほども前に書かれているので作風が違うのかもしれないです。
さて、原作のペレアスとメリザンドの戯曲が出版されたのは1892年のこと。その後パリで戯曲が初演された舞台をドビュッシーも見ていたようです。
この時の舞台にはメリザンド役でサラ・ベルナールという人が出ていました。
この人は当時の超大女優です。
ミュシャっていう画家を知っているでしょうか。
細かいタッチの黄色っぽい独特な画風は一度見たら忘れないと思うのですが、そのミュシャの絵に度々出てくるのがこのサラ・ベルナールという人なのです。
というかミュシャはサラ・ベルナールの舞台のポスターで有名になった人なんですよね。
一方オペラの方の初演ではメアリー・ガーデンという歌手がメリザンドを歌いました。
この人も当時大人気の歌手だったようなのですが、実はメーテルリンクは恋人ジョルジュット・ルブランにこの役を歌って欲しかったみたいです。
だからちょっとしたすったもんだがあったのだとか。
このジョルジュット・ルブランっていう人はモーリス・ルブランの妹。
モーリス・ルブランって「アルセーヌ・ルパン」のシリーズを書いた作家です。
つまりルパンの生みの親なんですよね。
子供の頃やたら読んだ記憶があるので、個人的にはそのつながりにへえと興味がわきました。粋な盗賊はいかにもフランス風だなあとわくわくしていましたから(笑)。
ちなみに原作にはメリザンドが糸を紡ぐシーンがあるのにそれが削られていたのもメーテルリンクには心外だったようです。
メリザンドの特徴は長い髪なのですが、長い髪と糸を紡ぐ女ってなんかまるで鶴が自分の羽を入れながらはたを織る様子が浮かんでしまいましたが‥。
ここはきっとメリザンドのイメージの大事なところだったんだろうなあ‥。
青ひげ城から逃げてきた
さて、オペラの中でメリザンドは森に一人でいるときゴローに会います。
ゴローは彼女を城に連れ帰って妻にするのですが、メリザンドはどこからか逃げてきたかは言わない不思議な娘なのです。
実はメリザンドは青ひげ城から逃げてきたっていう過去らしいんですよね。
青ひげ城については私はバルトークの青ひげ公の城のほうで触れているのですが、とても不思議なオペラなのです。
こちらの元になっているのはペローという人の童話で、これも各地に伝わる伝説です。
バルトークの青ひげ公の城には複数の女性たちが幽閉されていてその中の一人がメリザンドだったという設定。
「あそっか、なるほどね」となんか自分の中でも繋がって妙に納得でした。
青ひげ城の女性たちは逃げればいいのになぜか逃げないでそこにいるという不思議な設定だったのですが
あそこから逃げた女性もいたのねという感じかな。
メリザンドの不思議な雰囲気とバルトークの青ひげ公の城で感じた不思議感が個人的にはなんだかすごくマッチ。
さて、バルトークのことを書きましたけど、青ひげ城から逃げてきたっていうことはバルトークのオペラから分かるわけではないんですよね。
というのもバルトークの青ひげ公の城にはメリザンドという女性は出てきませんし‥。
そもそも「青ひげ」っていうのはもともとヨーロッパに伝わる伝説です。
実はメーテルリンクはペローの童話を元にポール・デュカスっていう人のために「アリアーヌと青ひげ」っていうオペラの台本も書いているのです。
こちらは私はまだ見たことがないのですが(見てみたいですけど)、そこにはもともと5人の妻たちがいてアリアーヌは6番目の新妻という設定。
で、もともといた妻の中に「メリザンド」っていう名前が出てきているのです。
ペローの原作「青ひげ」にはメリザンドっていう名前は出てこないのですが、
「青ひげ」を元にしてメーテルリンクが書いた「アリアーヌと青ひげ」にでてきているメリザンドという女性。
そして同じくメーテルリンクが書いた「ペレアスとメリザンド」に出てくるメリザンドという女性。
という風に両方にメリザンドという名前が出てきているわけです。
なんか分かりにくいかもしれないけど‥
ペレアスとメリザンドの主人公は青ひげ城から逃げてきたっていう、そんなつながりらしいのです。
うーん、おもしろいなあって個人的にはちょっと繋がりにわくわくしちゃいました。
ちなみに青ひげの伝説っていうのはいろいろあって、前妻たちは生きていたり死んでいたり、最新の妻も同じ運命を受け入れたり逃げたりと、いろんなパターンがあるみたいですが
ペローの童話での前妻たちは全部殺されていて、アリアーヌだけは逃げることができるのです。けっこう残酷‥。
この辺についてはペローの原作「青ひげ」も読んでみるとおもしろいかも。短いお話ですからすぐに読めます。
ちょっと興味深いのは「アリアーヌと青ひげ」の初演でアリアーヌを演じているのがメーテルリンクの恋人のジョルジェット・ルブランなのです。
メーテルリンクはここでようやく恋人を主役にすることができたのかなと思いました。
オペラの歴史を見ているとちょいちょいこうした話、つまり恋人を主役にできたできない‥という類の話が出てくるんですよね。いつの時代もそんなもんかあなんて思ったりするのでした。
簡単あらすじと見どころ
ではペレアスとメリザンドの簡単あらすじをさらっと書いておきます。
森で道に迷ったゴロー(ゴローはお城に住んでいて前妻に死なれ幼い息子が一人います)は泉のほとりで泣いている一人の美しい女性に会います。それがメリザンド。
メリザンドは遠いところから逃げてきたとしか言わない不思議な娘です。
ゴローはメリザンドを連れて帰り妻にします。
ゴローには弟がいてそれがペレアス。
ペレアスとメリザンドは惹かれ合うようになってしまい、それを知ったゴローはついには弟を刺し殺し、メリザンドにも傷を負わせ、やがてメリザンドも死んでしまいます。
という簡単あらすじです。
嫉妬したゴローがメリザンドの長い髪をもって引きずるとか、幼い息子に妻の様子を覗き見させるところがあって、こうして書くと普通によくある不倫話に見えますが
全体には幻想的な雰囲気が漂うオペラで、ドロドロした感じは全くないのがドビュッシーなのかなと思います。
このオペラの見どころはやはり何と言ってもメリザンドで、美しく不思議な女性をどんな風に演じるのか、当時舞台では演技派のサラ・ベルナールが演じて大人気だったという役柄ですから、やはりメリザンドの演技と歌が見どころだと思います。
どんなソプラノの声を持ってくるのかも興味あるところかな。
メリザンドのもう一つの特徴はその長い髪。
第三幕では窓から身を乗り出すメリザンドの長い髪が下にいるペレアスに届くと言うシーンがあってそこの演出も見どころだと思います。
5幕版と4幕版があるようなので、そこもどっちかなとちょっと注目。
そして音楽はずっと抑揚のあるレチタティーヴォが続いているかのような感じ。
それがドビュッシーらしい特徴で見どころ聞きどころではないかと思います。
ペレアスとメリザンドの初演は1902年ですが、同じ頃フランスではマスネもサンドリオン(シンデレラ)を初演していてこちらもペローの童話のひとつ。
ペローはフランスの作家なのでフランスオペラにはペローの作品ががよくでてくるのかなと思いました。
初演の1902年頃は、イタリアではプッチーニとかマスカーニが活躍していた頃。やっぱりイタリアとフランスではオペラの作風が違うなあとそんなことも感じました。
このちょっと不思議なオペラを見終わって人はそれぞれ何を感じるんだろう、そんなことを考えてしまうのもこのオペラの魅力かもしれないです。
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