マスネのシンデレラ(サンドリオン)

今回はマスネのオペラ「サンドリオン」についてです。

「サンドリオン」というのは「シンデレラ」のことで、サンドリオン(Cendrillon)はフランス語読み、

英語だとシンデレラ(Cinderella)、そしてイタリア語だとチェネレントラ(Cenerentola)

と言います。

オペラの世界でシンデレラといえば

の二つが有名ですが、二つのうちマスネのサンドリオンについてです。

マスネのサンドリオン

  • 作曲:ジュール・マスネ
  • 初演:1899年
  • 場所:オペラ・コミック座(パリ)

マスネは1842年生まれなので57歳の時の作品になります。

マスネというとタイースの瞑想と言う曲がとても有名ですが、この曲は「タイース」というオペラの中の曲です。

タイース自体はそれほど有名でもなくどちらかというと

ウェルテルとかマノンの方が有名じゃないかと思います。

さて、私の場合ロッシーニのチェネレントラの方を先に見たので、どうしてもそちらのイメージが強かったのですが、マスネのサンドリオンの方を見た最初の印象は

自分が知っているシンデレラのお話はこちらの方が近いのねという印象でした。

シンデレラが継母と連れ子の姉にいじめられているところに

魔法使いが現れて、舞踏会へいきガラスの靴を片方落としてしまうというあのお話です。

ロッシーニのチェネレントラブッファ(喜劇)の要素が強くて、王子と従者が入れ替わるなど知っているシンデレラとちょっと違うところもあるのですが、

マスネのサンドリオンの方はまさに知っているシンデレラそのものなんですよね。

ペローの童話からきている

サンドリオンの元になったのはペローの童話だと言われています。

ペローというのはシャルル・ペローのことで、ペローは1628年生まれのフランスの詩人です。

17世紀の人なんですよね。

童話というとグリム童話もうかびます。

グリム童話にもシンデレラのお話はあるのですが、グリム童話って結構残酷なところがあるんですよね。

いじめた姉たちが目を潰されたり、足を切り落とされたりなど。

ちなみに日本のシンデレラにはそういう残酷さは全くなくなっています。

かといってペローのものとも少し違うけど、でも概ねこちらに近いかなという気がします。

そもそもシンデレラは、古くから伝わる民間伝承のお話で、似たようなものは世界各地にあるらしいんですよね。

日本にもあって「落窪物語」というお話がちょっと似ています。

本当は身分の高いお姫様なのだけど継母にいじめられているところを身分の高い男性に救われて幸せになるというもの、

設定が似ていますよね。

グリム童話が作られたのは19世紀で、ペローの童話が作られたのは17世紀のことなのでペローの童話の方がずいぶん古いのです。

実は私はシンデレラというとグリム童話っていうイメージしかなかったんですけど、そもそもは民間伝承の物語なわけだし違う話があって当然なんだなと改めて思いました。

そして元になったペローの童話が17世紀っていうのもそんなに古い時代なのねと思ったのですが、

ペローの童話っていうのは韻文詩のようなものだったらしいです。

韻文詩のような物語というと浮かんでしまうのはロシアのプーシキン。

たくさんのロシアのオペラの題材になっています。

ロシアの上流社会はかつてフランス語が主流で、小説類もフランスから入ってきていたらしいんですけど

17世紀にすでに韻文詩の形式の童話ができていたというところからも、フランスの文学が進んでいたんだなと垣間見える気がしました。

マスネのオペラは童話もあればヴェリズモもある

マスネという人は1842年のフランスの生まれで、オペラの世界でみると

ワーグナーやヴェルディより少しあとに生まれて、プッチーニよりは少し早いという

私の中ではオペラの黄金時代とも言える時の人なんですよね。

そしてマスネっていう作曲家は聞けば聞くほど好きになる作曲家です。

一言で言うと叙情的という言葉がもっとも合う気がしますが、実はいろんな作風があるんだなとも思うんですよね。

ウェルテルを見た時はまさにゲーテの詩にぴったり!と思い

その甘美なメロディーはフランス的と感じたのですが、

一方で今回のような大人向けのおとぎ話も作るし、

さらにナヴァラの娘のようなヴェリズモオペラも作っているのです。

以前はマスネのオペラって日本ではそれほど有名ではないけど

残っているオペラの演目も多いのはなぜかなと思っていたんですよね。

で、いくつか見ていく度になるほどこんなに良いんだからたくさんの演目が残るわけねと納得しちゃうのです。

シリアスなオペラも作るし童話のオペラも作るし、いろんな顔をもつマスネはますます興味深くて、私の中ではもっともっと聞きたい作曲家なのです。

また、マスネって前奏曲がかなり個性的だと思うんですよね。

ナヴァラの娘の時もすごく感じたし、このサンドリオンも。

だからマスネを聞く時はどんな前奏曲かなと、とりわけ耳を済ませて聞くようにしてます。

最初にも書いたようにシンデレラというと、ロッシーニとマスネが有名ですが、

マスネのサンドリオンを見た時に浮かんだのは、ロッシーニじゃなくてフンパーディンクのヘンゼルとグレーテルの方だったんですよね。

ヘンゼルとグレーテルも童話をオペラにした作品で、ストーリーは子供向けだけど音楽は大人向けっていうイメージです。

そんなイメージをこのサンドリオンでも感じたのです。

ストーリーは子供向けだけど音楽は大人向け。

そしてところどころワーグナーを感じるところもフンパーディンクのオペラを思い出しちゃいます。

フンパーディンクのヘンゼルとグレーテルの初演は1893年のことで

サンドリオンが1899年初演なので6年後なんですよね。

やっぱり影響を受けたのかなと思っちゃいますよね。

サンドリオンあらすじと見どころ

サンドリオン簡単あらすじ

ではサンドリオンの簡単あらすじを書いておきます。

サンドリオン(灰を被った娘)の本当の名前はリュセット。

意地悪な継母と連れ子の姉たちはお城の舞踏会のために着飾って出かけていきます(ただし趣味の悪い服で)が、リュセットは一人留守番です。

そこに妖精が現れてサンドリオンを美しく着飾ってくれ、舞踏会に行くことになります。

舞踏会で王子は一目でサンドリオンを好きになります。

急いで戻ったサンドリオンは靴が片方無いことに気がつきます。

一方舞踏会から戻った継母たちの悪態に愛想をつかした父は、二人でこの家を出ようとサンドリオンに提案します。

でもサンドリオンは父に迷惑をかけたくないと一人で出ていってしまいます。

妖精は森にいるサンドリオンと王子を引き合わせ二人は愛を誓います。

その後王子は靴が合う女性を探し、再びサンドリオンと王子は会うことができてめでたしめでたし。

という簡単あらすじです。

森で王子とサンドリオンが合うところ以外は知っているシンデレラのあらすじとほぼ同じですね。

サンドリオン見どころ

おとぎ話にしては長く第四幕まであります。小さい子供を連れて行くにはちょっと長めかも。

やはり大人向けおとぎ話かなと。

あとサンドリオンに限らずなのですが、マスネのオペラって結構メゾソプラノが多いなという気がします。

ウェルテルのシャルロットもメゾだし、ナヴァラの娘もメゾ(またはソプラノ)。

サンドリオンは役柄的にいじめられているかわいそうな女性なので、高温でコロコロと歌うより、しっとりとしたメゾがいいんだなとは思います。

ちなみにロッシーニのチェネレントラの主役もメゾが歌うことが多いですね。

私もメゾの落ち着いた声は好きなので、いいなと思うんですよね。

ただ、メゾソプラノってお母さん的な役や意地悪な役が結構多くてお姫様的な役は少ないし、そういう華奢な雰囲気を持った人ってそんなに多くない気がするんですよね。

オペラは歌がうまいと見た目は気にならなくなるとはいえ‥。

かつてフレデリカ・フォン・シュターデというメゾソプラノがいて、

この人はメゾソプラノなのにで華奢で可憐な容姿で、かつ歌がうまいという人だったんですよね。

彼女はロッシーニのチェネレントラも、マスネのサンドリオンもレパートリーにしていましたけど、

彼女のような見た目と声とを兼ね備えた人ってそんなにはいないから引っ張りだこだったんだなと思います。

サンドリオンが最初に歌う「炉端でおやすみ‥」のしっとりとしたアリアはとても美しいし、

王子が歌う悩ましいアリアもさすがマスネってこういうのぴったりだよねと思います。

舞踏会に現れたサンドリオンに王子が「美しいあなたは誰?」と聞くあたりもいいですね。

バレエのシーンも結構長くあり、演出的にちゃんとバレエも入るならかなり華やかなオペラになるのでそれも見どころの一つだと思います。

そしてサンドリオンのもう一人の重要な役は妖精で、妖精は出番も多いしソプラノで技術的にはもっとも見せどころが多いと思います。

妖精の高音とコロラトゥーラも見どころだと思います。

日本ではあまり上演されないけど、大人向けのおとぎ話をぜひもっと見たいものです。

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