ヴァッカイのジュリエッタとロメオというオペラ

ヴァッカイという人の作品

ロメオとジュリエットというのはシェークスピアの戯曲の一つとして有名で映画やバレエなど作品が多いので知っている人が比較的多いんじゃないかなと思います。

私の場合ロメオとジュリエットというと、まず映画が浮かびます。

次にプロコフィエフのロメオとジュリエット、そしてオペラだとベッリーニカプレーティとモンテッキ、それにグノーのロメオとジュリエットが浮かびますね。

カプレーティと言うのはジュリエットの家の名前、モンテッキというのはロメオの家の名前です。

オペラでは、ベッリーニグノーのロメオとジュリエット(ベッリーニの方の題名はカプレーティとモンテッキですが)が有名なんじゃないかなと思っているのですが、他にもいくつか同じ題材のオペラはあって、今回のヴァッカイのオペラもそんな一つです。

そんなわけで「ロメオとジュリエット」のオペラと言うとまず誰の作品かな?と思います。

ヴァッカイの題名はジュリエッタとロメオなので名前の順番がグノーとは逆ですが‥。

私はヴァッカイっていう人を最初は全く知らなくて誰?っていう感じでした。

ニコラ・ヴァッカイはイタリアの作曲家で1790年生まれ、イタリアのペーザロというところで育っています。

ペーザロっていうのはイタリアのちょうど真ん中より少し上の東側、アドリア海側にありますね。

このニコラ・ヴァッカイという人は、ナポリ学派の最後の作曲家の一人とも言われているらしいんですよね。

ナポリって18世紀はヨーロッパの大都市だったようで、特に音楽の中心地だったのです。

多くのカストラートが養成されたのもナポリでした。

ナポリ学派の人っていうとスカルラッティとかベルコレージ、パイジェッロなんかがそうだと思いますが、ヴァッカイはパイジェッロの弟子でもあったらしいのです。

ナポリのサンカルロ劇場は今も残っている貴重な劇場ですが、まさにナポリ学派の全盛期に建てられた建物ですね。

ナポリのサンカルロ劇場

あと、ペーザロと言うとなんか聞いたことがあるなと思ったのはロッシーニが生まれた所だからでした。

毎年ロッシーニフェスティヴァルなんかもやっているところです。

ロッシーニは1792年の生まれなのでヴァッカイとほぼ同年代なのですが、

ロッシーニはちょっと路線が違っていてもうナポリ学派とは呼ばれないですね。

さて、ヴァッカイって実は音楽をやっている人にはちょっと馴染みのある名前らしく、

と言うのも「VACCAI」とつく声楽用の教本がたくさんあるんですね。ソプラノ用とかテノール用とか‥。

今から200年以上前に生まれた人の教本が今も使われているって、さすがオペラの歴史は古い!なんて思っちゃいました。

さて、同じ題材でオペラを作ったベッリーニとヴァッカイも比較的年齢が近くて、ベッリーニは1801年生まれ。ヴァッカイより11歳年下になります。

ヴァッカイはかなりの数のオペラを作っていたのですが、残っているのはあまりなく、比較的有名なのがこのジュリエッタとロメオですが、

実はこのオペラもベッリーニのオペラの影になってしまったと言われているのです。

台本が同じ人

ヴァッカイのジュリエッタとロメオの初演がミラノで1825年

ベッリーニカプレーティとモンテッキの初演が1830年で、場所はヴェネチアのフェニーチェ歌劇場。つまり5年後なんですけど、この二つは題材も同じで、台本も同じ人が作っているんですよね。

台本を書いたのはフェリーチェ・ロマーニという人でこの人は当時すごくたくさんのオペラ台本を書いていたようです。まさに台本の第一人者という感じでしょう。

特に多いのはドニゼッティとベッリーニの台本で、ベッリーニのノルマドニゼッティの愛の妙薬なんかもこのフェリーチェ・ロマーニなのです。

当時は今と違って台本作家がすごく力を持っているというか、作曲家より有名?っていう感じだったみたいなんですよね。

ヴァッカイのジュリエッタとロメオの台本はフェリーチェ・ロマーニが書いたのですが、台本の元になっているのはシェークスピアの方ではなくて、ルイージ・ダ・ボルトという人の「ジュリエッタ物語」だと言われていて、

ジュリエッタ物語をルイージ・スケヴォラという劇作家が戯曲家したものが元になっているようです。

ジュリエッタ物語は1530年の出版なのでシェークスピアが生まれる前で、すでにこの物語はあったわけですね。

フェリーチェ・ロマーニはヴァッカイのために書き下ろした「ジュリエッタとロメオ」台本を5年後に手直ししてベッリーニに提供、題を「カプレーティとモンテッキ」にして似たようなオペラが出来上がったのです。

ロマーニのオリジナルの話じゃないとはいえ、そっくりの台本を別の人にも提供するってなんとなく現代なら不思議な感じがするんですけど、当時は普通だったのかなと。

音楽が違うから成り立つとはいえ、たった5年しか経ってないし、ヴァッカイはどう思うんだろう?ってつい考えてしまいました。

ジュリエッタとロメオはヴァッカイのオペラの中では一番有名なので当時もそれなりに人気があったと思います。

パイジェッロのセビリアの理髪師がすごく人気があったのに、ロッシーニのセビリアの理髪師に取って代わられたっていう話が浮かんでしまいますね。

人気があるからこそ他の人にも似たようなオペラを作らせようという、商業的な意図もあったりしたのかなと、これは勝手な妄想‥。

ベッリーニが最初にロマーニと組んだのは1827年「海賊」というオペラからで、二人を結びつけたのはバルバイアという敏腕マネージャーだし‥とか。また妄想が進みそう‥(笑)

二つのオペラを合体

と言うわけでヴァッカイの「ジュリエッタとロメオ」とベッリーニの「カプレーティとモンテッキ」は筋書きがとても似ているわけです。

だからこそ可能だったんだと思うんですけど、カプレーティとモンテッキの最後の部分をヴァッカイの方から持ってきて上演するっていう合体が行われていたらしいのです。

それを提唱したのはマリア・マリブランっていう歌手だったんですよね。

マリブランって当時すごい人気だったらしく、カプレーティとモンテッキでは重要なロメオ役。(初演は別の人ですけど)

彼女の意見で二つのオペラの合体ができちゃうなんて、それだけ影響力があった歌手だったこともわかる気がします。

現在はそういう置き換えとか合体はあまりやらないと思うのですが、著作権が切れているわけだし、公演によってはあっても不思議じゃないですね。

ただ、言われないと見ている方にはわからないと思いますけど‥。

ちなみにヴァッカイのジュリエッタとロメオの初演でロメオ役を歌ったのはイザベラ・ファブリカというコントラルトだったようで、女性が演じたわけです。

まだこの時代はそれも普通だと思いますけど、過渡期かなとも。

ベッリーニになると男性役は男性が演じるのが増えてますし。

男性役に女性を使ってることからもヴァッカイがナポリ学派の最後って言われる所以なのかなとちょっと思いました。

いずれにしてもイザベラ・ファブリカという人はコントラルトというからにはかなり低い声が出たんでしょうね。女性の一番低い声と言われるのがコントラルトなので。

演技もうまく、力強い声が魅力だったらしいです。

しかもロメオを歌った時は20代前半という若さ。昔のオペラをいろいろ見ていると、今より全体に年齢が確実に若いんですよね。

以前は私もオペラはそういうもので、20歳の役を40歳以上がやるのは当たり前って思っていたんですけど、昔はそうじゃなかったのね、今はどうしてなのかな?と最近感じてます。

声を壊してしまわないようになのかな。

確かに声ってずっと若々しい人もいて、年齢が気にならなくなるっていうのはありますけど‥。

ジュリエッタとロメオの見どころ

ヴァッカイのジュリエッタとロメオを見る時に何が興味があるかというと私の場合はやはりまずロメオをどんな人が歌うのかということ。

メゾソプラノかまたは場合によってはテノールあたりが歌うのかなと思いますがまずそれをチェックして、

あとはやはりナポリ学派最後の作曲家と言われるヴァッカイってどんな曲なのかなということ。

そしてマリア・マリブランがカプレーティとモンテッキに使いたいと言った最後から2番目のシーンってどんな曲なのか、それが気になるところで見どころじゃないかと思います。

ちょっと余談ですが、女性が若い男性役をやることや、悲劇の恋愛ものっていうと、宝塚が得意そう!って思っちゃいます。

実際宝塚もロメオとジュリエットをやっていますし。

バロックのオペラって女性が男性を演じることが多いので、考えてみると全部女性で演じる現代の宝塚に根本的には似てますよね。

以前宝塚の人が魔弾の射手だったかなに出ていたことがありましたけど、宝塚ファンがバロックオペラをみるとどんな風に思うのかな。

宝塚の場合は男役の女性は男性に徹しているからかっこいいけど、オペラの場合男性役を演じたり女性役を演じたりするので、そこまで男役に徹してないから、あまり男性っぽく見えない時が多い気がします。

その点バロックじゃないけど、バラの騎士オクタヴィアンとかフィガロの結婚ケルビーノあたりになると、もちろん曲もいいからっていうのはあるけど、宝塚的な男性だから二人のキャラクターは人気があるのかなとちょっと思いました。

バロックの「女性が演じる男性役」をもっと男らしく演じたらまた見る目が違ってくるかも(なんてまた勝手なことを言ってます)。

いずれにしてもロメオ役には注目かなと思います。

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