ミニョンというオペラは、華やかさがあまりない、というか主人公が地味なオペラ、という印象です。
それなのに、なぜが印象に残るオペラの一つでした。
一つには主人公があまりに地味だった、と言うことがあるかもしれません。
ミニョンとゲーテのヴィルヘルム・マイスター
ロシアのオペラの場合、原作者としてプーシキンという作家の名前が、よく登場するのですが、
ヨーロッパのオペラの原作として、よく出てくるのは、シェークスピアとゲーテの名前ではないかと思います。
アンブロワーズ・トマのオペラミニョンもその一つで、
ゲーテのヴィルヘルム・マイスターの修行時代という話が、元になっています。
トマは、フランス出身の作曲家ですが、ドイツ生まれのゲーテの作品はヨーロッパ全体で、有名だったということでしょう。
ゲーテの作品が元になっている、その他の音楽としては、
- シューベルトの「野ばら」や「魔王」
- グノーのオペラ「ファウスト」
- マスネのオペラ「ウェルテル」
などが有名ですね。
なんとなく聞いたことがあるのではないでしょうか。
トマのオペラ・ミニョンの主人公であるミニョンは、
ゲーテのヴィルヘルム・マイスターの修行時代という、小説のなかに出てくる、
幼い時さらわれてジプシーとなっているかわいそうな娘です。
ミニョンについては、作曲家シューマンも
「ミニョンのためのレクイエム」と言う曲を作っているんですね。
トマのミニョンは、ハッピーエンド版と、死んでしまう版がありますが、
原作のミニョンは死んでしまうので、レクイエムとなっているのでしょう。
さて、ヴィルヘルム・マイスターの物語は、教養小説と呼ばれる作品です。
教養小説(きょうようしょうせつ、 ドイツ語: Bildungsroman)とは、主人公が様々な体験を通して内面的に成長していく過程を描く小説のこと。 ドイツ語のBildungsroman(ビルドゥングスロマーン)の訳語で、自己形成小説、成長小説とも訳される。(ウィキペディアより)
ヴィルヘルム・マイスターは、様々な経験をして成長していく、そんな小説なのですが、
ミニョンはその中に出てくる、かわいそうな娘というわけです。
ミニョンは、オペラや歌曲にしたくなる、存在だったのですね。
ミニョン感想
初めてこのオペラを見た時、
あまりに主人公が地味な女性なので、逆にインパクトがあるという感想でした。
全体に、おとなしいオペラだけど音楽が美しいなという感想を思ったのも覚えています。
フランスオペラをあまり見ていなかった時に見たので、ちょっと違うという印象もありました。
やはり、一番不思議だったのは主人公の地味さです。
演出もあると思いますが、ジプシーとはいえミニョンは髪はぼさぼさ、
服装も汚いし性格も嫉妬深いので、
どうしても、もう一人の女性フィリーヌの方が、
綺麗だしかわいいし歌も華やかで、フィリーヌがモテるのは仕方ないなあというそんな感想でした。
そして、こういうオペラもあるんだという感想でした。
主人公ミニョンの設定は、少女と呼んでもいいような若い娘なので、
少し大人のフィリーヌを羨み、嫉妬するのも仕方ないのかもしれません。
ただ、実際にミニョンを演じているのはオペラなので、かなり年の行った女性で、
しかもメゾソプラノなので、声が暗めで落ち着いています。(フィリーヌは年上ですが、明るいソプラノが担当)
そこが、このオペラのなかなか難しいところではないかなと感じてしまいました。
ただ、君よ知るや南の国のアリアは、しみじみとして良い曲です。
そして、もう一つの救いは、ロタリオの存在です。
ロタリオは、実はミニョンの父親だと、あとでわかるのですが、
このオペラの中では、ほのぼのしてあたたかい存在です。
ただ、ミニョンのために家に火をつけるのはどうかと思いますが‥。
上演時間とあらすじ
上演時間
- 序曲:約10分
- 第一幕:約60分
- 第二幕:約50分
- 第三幕:約40分
正味3時間弱ありますから、割と長めのオペラです。
休憩を入れると、3時間半ほどになってしまいます。
生の上演は、残念ながらまだ見たことがありませんが、
あまり上演されない理由の一つは、上演時間の長さにあるかもしれません。
初演
- 初演:1866年
- 場所:オペラ・コミック座(パリ)
- フランス語版とイタリア語版あり
1811年生まれのトマが、55歳の時の初演です。
少し後の1819年には、オッフェンバックが生まれていて、彼はのちにブッフパリジャンという楽しい劇場を作り大人気なります。
比較的軽い演目を上演していた、オペラ・コミック座にとって、ブッフパリジャンの存在は脅威だったはずですが、
そんな中、このトマのミニョンは当時のこの劇場の大ヒットオペラとなったのです。
コミック座にとっては救いの神だったに違いありません。
日本でも、もっと上演してもらいたいオペラの一つですね。
簡単あらすじ
原作は、ヴィルヘルム・マイスターが主人公ですが、
このオペラの主人公はミニョンで、ミニョンが想いを寄せるのが、ヴィルヘルムです。
ジプシー仲間から辛い目にあわされている、かわいそうなミニョンをみたヴィルヘルムは、
シプシーにお金を渡して、ミニョンを自由の身にしてあげます。
救ってもらった、ミニョンはヴィルヘルムについていき、恋い焦がれるのですが、
ヴィルヘルムは美しいフィリーヌの方を見ているので、嫉妬するミニョン。
一方ロタリオは、遠い昔、娘をさらわれて以来、各地を放浪している悲しい老人。
ロタリオは、ミニョンに何かと優しく接しますが、実は、ミニョンの父親です。
最後は、ヴィルヘルムもミニョンへの愛を悟り、ロタリオとミニョンが親子であることもわかり、
ハッピーエンドのあらすじです。
初演はフランス語で、パリでの上演でその時は、
死んでしまうあらすじでしたが、コミック座にしては暗いということで
トマは、暗い結末のミニョンの他、上に書いたようなハッピーエンド版のミニョンも作ります。
また、フランス以外の地域ではイタリア語が好まれたため、
イタリア語版も作られました。
イタリア語版は見たことがないので、はっきりしたことは言えませんが、
ミニョンはやはりフランス語で聞きたいような気がします。
見どころ
まず、ストーリーで、ミニョンが死んでしまうのかハッピーエンドなのかというところが
見どころの一つでしょう。
また、言語がフランス語なのかイタリア語上演なのか、というところも見どころで、
気にしてみてみると良いかと思います。
トマの音楽はとても柔らかく聴きやすいと思いますが、
特に有名なのは第一幕で、ミニョンが自分のことを歌う
- 君よ知るや南の国
のアリア。これは単独でもよく歌われる曲でしみじみとした良い曲です。
ミニョンは、通常メゾソプラノが担当すると思いますが、ソプラノが歌う場合もあるので、
そこらへんも、見どころ聴きどころですね。
また、フィリーヌは女優の役なのですが、第二幕の劇中劇で歌う、
- 私はティタニア
というアリア。
こちらはとても聴きやすく、楽しくコロコロと歌うコロラトゥーラもありで、
ミニョンのアリアと同じくらい、おすすめで見どころです。
それからミニョンには、ミニョンのガボットという有名な曲もあります。
フィリーヌに言い寄るフレデリックが歌うのですが、
バイオリンの練習曲としても有名。
バイオリンの楽譜で、トマの名前を見た時は、とても嬉しく感じたものです。
こちらも覚えやすく楽しい曲。
ミニョンは地味だけど、トマの音楽はなんとなく品があって美しいと思います。
そこがフランスらしさなのかもしれません。
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