今回はグノー作曲のオペラ「ファウスト」についてです。
ファウストには悪魔が出てきます。
悪魔が出てくるストーリーというのはなぜか人気があると思うのですが、かくいう私も好きで
ウェーバーの魔弾の射手や今回のファウストは、なんども劇場で見たいオペラです。
ガストン・ルルーの小説「オペラ座の怪人」でシャンデリアが落ちるのはまさにこのファウスト上演の最中なんですよね。
原作はゲーテのファウスト
ファウストの原作はゲーテの同名戯曲です。
ゲーテの作品を基にして作られた作品はオペラに限らず多くて
シューベルトの魔王や野ばらは有名ですよね。
モーツァルト、ベートーベンもゲーテの作品を元に作曲しています。
マーラーの交響曲8番はゲーテのファウストから歌詞を取っています。
合唱を含め1000人を超えることから1000人の交響曲と呼ばれている作品ですね。
さて現在ゲーテが原作のオペラで有名なものは
など。
上の3つはいずれもファウストを元にしたオペラなのですが
実はゲーテのファウストを元にして作られたオペラは、なんと50曲に及ぶと言いますから
いかにファウストが人々に人気があったかということだと思います。
下二つの「トマ」と「ウェルテル」は比較的おとなしい作品なので同じ原作とは思えないよう感じなんですけどね。
またこれらの作品はボーイトを除きフランスの作曲家によるオペラなので
あれ、ゲーテってフランスの人だっけ?と一瞬思ったのですがゲーテはドイツ出身。
オペラに関してはなぜかゲーテ作品はフランスものが有名なのです。
ゲーテの作品でドイツものオペラって意外に無いんですよね。(私の知る限り)
初演はリリック劇場
- 作曲:シャルル・グノー
- 初演:1859年
- 場所:リリック劇場(パリ)
- 原語:フランス語
- 台本:ジュール・バルビエ&ミシェル・カレ
ファウストの初演はパリのリリック劇場です。
グノーはリリック劇場の当時の支配人カルヴァロからすすめられて、このオペラを作りました。
最初はセリフがあるオペラコミックの形式だったのですが、約10年後にパリオペラ座で上演するのに際し、セリフをレチタティーヴォに直し、
パリオペラ座の慣習に合わせてバレエを入れました。
現在上演されるものは改定後が主になっていると思いますが、バレエの部分についてはあったりなかったりするようなので、観る際は要チェックですね。
こういう改訂版とか、上演による違いっていうのもオペラを観る際はなかなか楽しいものです。
セリフのある最初の版はどんな感じなのかとか、そっちも気になったりします。
あまり上演されないような版(ファウストなら初演版のように)が上演されるとなれば、それはそれでとても興味深いわけです。
そしてファウストの台本はジュール・バルビエとミシェル・カレのコンビ。
ファウストの他、ロメオとジュリエットも同じ台本作家で当時の人気作家たちで、
これも現在まで人気がある成功の所以かもしれません。
上演時間とあらすじと見どころ
ファウストの上演時間
<上演時間>
- 導入曲:約5分
- 第一幕:約20分
- 第二幕:約25分
- 第三幕:約50分
- 第四幕:約40分
- 第五幕:約40分
という具合で上演時間は正味約3時間あります。
休憩をどこに入れるかは上演によりますが
いずれにしても合計で4時間程度にはなるでしょう。長いですね。
長いし場面がよく変わるグランドオペラ時代の演目はなかなか上演が大変なわけです。
合唱も大勢必要だしバレエもあるしスペクタクルなシーンも多いし。
とはいえ、長くても場面が変わるしストーリーも音楽もメリハリがあるので、あまり長さを感じないんじゃないかと思います。
ファウスト簡単あらすじ
年老いたファウスト博士は、自分の人生の意味はなんだったのかと悲観し一度は死のうするものの、
思い直し悪魔を呼び、魂と引き換えに若さを手に入れることになります。
若い身体を手に入れたファウストは、美しいマルグリットに言い寄り、妊娠させてしまいます。
それを知ったマルグリットの兄は怒りファウストと決闘になりますが、悪魔の手助けで兄は死んでしまいます。
兄は死ぬ間際に妹のせいで死ぬ、呪われろと言いながら死んでしまったためマルグリットはおかしくなってしまいます。
そしてマルグリットは生まれた我が子を殺してしまい、牢屋にいる状態。
マルグリットを不幸に陥れたファウストは悔いるのですが、またしても悪魔は現れます。
結局マルグリットは息絶えて天国へ召され、メフィストフェレスとファウストは地獄へ落ちていくという簡単あらすじです。
ファウストのモデルは16世紀にドイツに実在した人物なんですね。
占星術、錬金術士だったヨハン・ゲオルク・ファウストという学者で、
黒魔術士とも言われるのは当時の人々には理解できないようなことをやってのけていたのでしょう。
実在のファウストは実験中の爆発で死んでおり、噂が噂を生んで魔術師として後世に語り継がれたようです。
ゲーテはそれを題材に書いたわけですね。
ファウスト見どころ
オペラもいろいろなストーリーがあるとはいえ、老人が若くなるというのはなかなか無いと思います。
現代のテレビドラマや映画ならありそうですけどね。
第一幕でどんな風に若返るのかはまず見どころでしょう。
第二幕は登場人物も多く最も豪華でメリハリがありおもしろい幕だと思います。
全体として第二幕は見どころです。。
しっとり聴かせるマルグリットの兄ヴァランタンの歌があるかと思うと
対照的なメフィストフェレスの「金の子牛の歌」があり、これがおもしろい曲。
また、グノーらしいワルツ曲もあってこれも良い曲です。
ストーリーもおもしろいけど音楽がとても多彩で飽きないんですよね。
このオペラはタイトルロールはファウストですがメフィストフェレスもとても存在感があるオペラなので、
メフィストフェレスがどんな演技と歌唱を見せてくれるかが見どころですね。
個人的にはサイコパスで、怖いけどかっこいい悪魔であってほしいと‥。
第三幕の見どころはファウストが歌う有名なアリア「この清らかな住まい」。とても良い曲です。
三幕はしっとり系の幕ですね。
第四幕の見どころは兵士が帰ってくる時の合唱曲。勇壮でこれも好きな曲。
ヴェルディを思わせるような音楽です。
物語としては兄にバレて決闘になるところがハラハラもので緊張感たっぷり。
また、第5幕にパリオペラ座用に入れたバレエ音楽があります。(無い場合もあり)
これもなかなか有名な場面で、これについてはどんな演出やバレエになるかが見どころですね。
というわけで見どころ満載のオペラです。
オペラ座の怪人はグノーのファウスト
さて「オペラ座の怪人」をオペラだと思っている人もいるようなのですが、
あれはガストン・ルルーが書いた、パリオペラ座を舞台にした小説で
ミュージカルや映画になってますね。
ガストン・ルルーはフランスの推理作家で、「黄色い部屋の秘密」という代表作があります。
私もモーリス・ルブランやガストン・ルルーばかり読んでいる時期がありましたが
ガストン・ルルーのオペラ座の怪人を改めて読むとかなりオペラに関する史実と合っている詳細な記述があるんですよね。
オペラ座の怪人にはグノーのファウストの上演シーンが出てくるのです。
オペラ座の地下に住む怪人エリックは、若い歌手クリスティーヌが好きになり
クリスティーヌにファウストのマルグリット役を歌わせたいのに、別の女性が歌うことになると、その女性の声が出なくなり
さらにシャンデリアが突如落ちるという怪奇現象が起きるのは有名なところです。
改めて読むとリリック劇場が出てきたり、リリック劇場のカルヴァロ夫人に勧められてクリスティーヌが歌うという記述もあります。
カルヴァロ夫人とは多分ミオラン・カルヴァロのことで、彼女はリリック劇場の支配人の妻であると同時にソプラノ歌手で
リリック劇場におけるファウストの初演でマルグリットを演じた歌手でもあるのです。
一方オペラ座の初演でマルグリットを演じたのはクリスティーナ・ニルソンという人です。
同じくマルグリットを当たり役としていたカルヴァロ夫人が、本当に他の歌手をパリオペラ座初演に後押ししたのかどうかはわかりませんが、
年齢が16歳違いますからありそうなことではあります。
小説の中で、若きクリスティーヌはロメオとジュリエット(同じくグノーの作品)を歌って認められているとか(これも大いにありそうな設定です)
また、オペラ「ファウスト」はリリック劇場とコミック座では上演しているけど、まだパリオペラ座では上演していない、という時期設定になっていて、(実際ファウストの初演はリリック劇場で、パリオペラ座はその約10年後なのです)
パリオペラ座の上演でクリスティーヌが候補に上がっているという、細かい状況設定はまさに史実にそった流れなんですね。
ガストン・ルルーがどれほどオペラファンだったのかはわかりませんが、
え!ここまでちゃんと事実に基づいた内容にしていたの!?
と改めて驚いたと同時にガストン・ルルーって、そこまで調べて書くとはすごいなと思ったわけです。
ファウストを観てから、改めてオペラ座の怪人を読むのは、きっとおもしろいと思うのでオペラファンにはおすすめです。
クリスティーナ・ニルソンはオペラ座の怪人のクリスティーヌのモデルになったと言われていますね。
名前もそっくりですし。
小説の中のクリスティーヌは新進の若手歌手なのですが、
パリオペラ座でマルグリットを歌った時のクリスティーナ・ニルソンも25歳という若さだったんですよね。
アメリカと日本の初演
クリスティーナ・ニルソンがいかに人気があったかというのは
1883年新しくメトロポリタンが劇場が開始する際のオープニングとして
演目をファウスト、そしてマルグリット役としてクリスティーナ・二ルソンを破格の出演料で呼び寄せていることからもわかるのです。
一夜の出演料が当時の楽団員の10ヶ月分の給与だったといいますが、
その結果赤字を出してしまったとか。
当時クリスティーナ・ニルソンは40歳。歌手としては脂ののった時期だったのでしょう。
どんな声だったのか聞くことはできないのが残念ですが。
さて、実は日本の最初のオペラもこのファウストなのです。
1894年(明治27年)現在の東京芸大の奏楽堂において、大使館員による上演だったといいます。
こんな長いオペラをまさか?と思いましたが、上演は第一幕だけ。
一幕だけならせいぜい20分ちょっとくらいか。
なるほど‥だよね。
それにしても最初のオペラがフランスオペラだったとは。
なんとなくイタリアかと思ってました。
最後に、
ファウストを観ているとフランス語ってやはりいいなと思います。
フランス人が作ったフランス語のオペラだからというのもあると思いますが、
他にもフランスのオペラはあるのになぜかフランス語の美しさを感じるのはグノーのオペラなんですよね(私だけかもですが)。
それと、これまではグランドオペラは成金資本家が好きな派手派手オペラ、というようなイメージがちょっとあったのですが、
この時代のフランスのオペラを見ると、当時の華やかな舞台を想像できるような気がするのです。
そして私もみたかったと思っちゃうんですよね。
当時の本当のグランドオペラをタイムスリップしてみてみたいと。
グノーのオペラはそんな気持ちになってしまうオペラですね。
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