芸術劇場で本格オペラができる
- 田舎騎士道(カヴァレリア・ルスチカーナ)と道化師
- 2023年2月5日(日)
- 場所:東京芸術劇場
池袋の芸術劇場でヴェリズモオペラの2本立てを見てきました。
マスカーニの田舎騎士道(カヴァレリア・ルスチカーナ)とレオンカヴァッロの道化師です。
今回の感想を一言でいうならかなり斬新な演出のオペラ。
見たことが無い感じで私はおもしろかったです。
日本人だからおもしろい、日本人向けのオペラと言ってもいいんじゃないかと思います。
イタリア物のオペラに「和」をふんだんに取り入れた舞台は、上田久美子さんという方の演出とのこと。
そもそもカヴァレリア・ルスティカーナをわざわざ「田舎騎士道」という日本語のタイトルにしているのも、
実際に舞台をみてみると、なるほどそういうことだったのねと思う内容でした。
今回の公演の趣旨は日ごろオペラを見ない人にも見てもらうということがあったようですが、
そのせいなのかお値段もあれ?と思うお安めの設定でしたが、内容はとても濃くてびっくり。
オペラを見慣れている(つもりの)私もこういうちょっと変わった試みは大歓迎。
そもそもオペラって日本発祥のものでもないので伝統とやらを守る必要も薄いと思うので、今回のように「和」をとりいれて日本人に見やすくするっていいかもと思ったのでした。
日本人が心を揺さぶられる感じがする舞台です。
それにしてももう一つ驚いたのは芸術劇場で本格的なオペラの舞台ができるのねということ。
こちらのホールはコンサート用だと思うので、オペラをやるときは演奏会形式でやるかちょこっと演技が入るくらいって思っていましたが、オーケストラピットは若干浅めで頭が出ている感はあったものの
大掛かりなセットがある本格オペラができるんですねえ。
あのオーケストラピットの高さだともしかしたら1階より2階以上の席の方が声がよく聞こえるのかな?とも思いました。
いずれにしても芸術劇場も便利な場所にあるので、本格オペラができるっていいですよね。
字幕が3種類
今回のオペラの斬新さのひとつが字幕が3種類あったこと。
原語上演の場合、これまでだと日本語の字幕のみだったのが、最近は英語の字幕も出ることが多くなっていました。
それに加えて今回は下町の話し言葉(どちらかというと上品とはいいがたい言葉…笑)の字幕。
これが3種の字幕の中で一番目立っていました。
時々内容とかけ離れすぎていて「あららー、それは飛躍しすぎやろ!」と突っ込みたくなりましたが、
後半の道化師が始まると冒頭で「内容が違うところがあるけどごめんな」(笑)と注釈があり、「あ、そうなのね」と納得。
もしや本当は字幕のことは最初に伝えるはずだったのが演目の順番を変えたらしいので最初に伝えられなかったのかな?と思いました。
まあ後でわかるのでも何ら問題ないというか、こちらは受け身で見るだけなので「今回は変な字幕やなあ(笑笑)」くらいに思っとりました(こっちも関西弁(笑))
ただ、最初のうちは「えーと、どっちをみたらええの?」と若干戸惑いがあったのは正直なところかも。
とはいえ、ほとんど下町ことばの字幕の方に目が行っていた気がします。
文楽風一人を二人で演じる
今回主要な役はすべて歌の担当と演技(ダンス)の担当の二人で演じるやり方。
そのためいつもより登場人物が2倍に増えるのですが、もともとたくさんの人が出るシーンが少ないので、これについてはあまり気にならなかったです。
ただ、どの人がカニオの担当だっけ?ペッペは?などとわからなくなってきた人も…
考えながら見ていたので目と頭はフル回転していました(笑)
そのせいかもともと短いオペラがさらに短く感じられました。
どちらのオペラもダンスについては女性がめだってましたね。
前半田舎騎士道でサントゥッツァ役をダンスで演じたのが三東瑠璃さんという方。
激しい踊りが続いていて迫力がすごかったです。終盤高く持ち上げられた時は落ちてしまうんじゃないかと思ったほど。
サントゥッツァの嫉妬や後悔などどろどろした心の迷いを表しているのかなと思って見ていました。
後半の道化師は劇中劇の一座が日本の旅芸人一座といった風情。
こちらがとても文楽風でおもしろかった。
特にネッダが最初からとても目をひきました。
音楽について
マスカーニのカヴァレリア・ルスティカーナはやはり美しい曲。
とりわけ間奏曲が有名ですけど冒頭からうっとりする旋律ですし、
「讃えましょう主よ…」と歌う教会のシーンも大好きなところです。今回も素晴らしかったー。ずっと聞いていたい気持ちでした。
そしてなぜかワーグナーが聞きたくなってしまった。似ているところがあるのか…その辺はわかりませんが。
今回の指揮者はアッシャー・フィッシュさんというか方。
経歴をみるとなんだかすごい人でしたが、主役のアントネッロ・パロンビといいすごいメンバーがそろっていました。
これもコロナの影響が無くなってきたから来られるようになったのもあるのか、いずれにしてもよかったです。
歌手など(田舎騎士道)
今回トゥリッドゥとカニオの両方の主役を歌ったのがアントネッロ・パロンビさん、テノール。
ずっと前に(と言ってもすでにその頃も有名でしたけど)なにで見たんだったかなあ。
愛の妙薬のネモリーノだったような違うような…
今や大御所感がありますが、たくさん聞くことができてありがたい限り。
声は美しくてつやつや。
安定していて華やかでさすが!のひとことです。
まさにイタリアのテノールっていう貫禄でした。(パチパチ!)
サントゥッツァを歌ったのはテレサ・ロマーノさん。
サントゥッツァはメゾが歌うことも多いと思うのですが、今回この人はソプラノみたいできれいな声。
不倫されるのがうそでしょうと思う美しい人でした。
ローラを歌ったのは鳥木弥生さん。メゾソプラノ。
最近だとオネーギンでタチヤーナの妹オリガを歌っていた時に見て以来。最近といっても2019年かな…。
ちょっと色っぽい見た目と声にも少し特徴があるので印象に残る方です。
ローラの夫でトゥリッドゥと決闘するアルフィオ役は三戸大久さん。さんのへさんとお呼びするんですよね。
(最初みとさんだと思ってしまいました、すみません)
今回はシリアスな役柄ですが、天国と地獄やフィガロの結婚のバルトロなどコミカルな役もはまっていろんな役がこなせる人なのねと思います。
存在感があって声も安定している方。今回の役でもどこか憎めない感じがいいなあって思いました。
母親のルチア役を歌ったのは森山京子さんはフィガロの結婚の時にマルチェリーナで拝見。
こういう母親役が合っている感じなのかなと。安定の声でした。
個人的にはこのルチアっていう役はどんな人となりなのかがあまりわからない人だなあというそんな印象なんですよね。歌うの難しくないのかな。
歌手など(道化師)
後半はレオンカヴァッロの道化師。
カニオ役はこちらもアントネッロ・パロンビさん。
後半のはじまりではパロンビさんも一緒に舞台づくりをしたり「マエストロ!」と指揮者をよんだり…
こういうちょっとした演出は見ている人の気持ちをほぐしてくれていいですね。
「衣裳をつけろ」はやはり何度聞いても感動のアリア。
ネッダを歌ったのは柴田紗貴子さん。ソプラノ。
登場した時からかわいらしい雰囲気がネッダにぴったりと思っていましたが
笑った表情がとてもほっこりする感じの人。声もきれいでした。
カニオが劇中劇で我をわすれて怒り始めた時に
ネッダが「あらこわいのね、あれはアルレッキーノよ」と言いながら一生懸命お芝居で平静を保とうとするシーンは個人的に好きなんですよねー。
それでもカニオは怒り狂うんですけど…
ネッダの人形役を演じたのは蘭乃はなさん。
宝塚の方みたいですが、華やかな着物姿、舞台姿がとても美しくてさすが宝塚!。すごく目を引きました。
プロフィールをみると「ドリアングレイの肖像」でシビル・ヴェイン役もやっていてますます嬉しくなってしまいました。あの小説好きなんですよね。
以前ウェーバーの「魔弾の射手」で宝塚の方が黙約で悪魔役として出ていたことがありましたが、今回のように華やかな舞台になれた役者さんが出ると舞台全体も華やかになるものなんだなとと感じました。
トニオを歌ったのは清水勇磨さん。パルジファルでアムフォルタス王を歌っていた時は若そうな王様だけどよく声が出る人という印象でした。
今回もインパクトのある出だしの声でよかったです。
ペッペを歌ったのは中井亮一さん。
日生のセビリアの理髪師でアルマヴィーア伯爵を歌っていた人、この人の声も澄んだ声で、もう少し聞きたいと思ってしまいました。
ところで今回上田久美子さんが書いていた中で
「歌にのせたシンプルなストーリー展開」という言葉がありましたが、「え、そうなの?」とちょっとびっくりでした。
ヴェリズモ系のオペラやプッチーニのオペラは、時間も短いしストーリーがおもしろいので「テンポが速くてあっという間におわる」っていう感覚だったんですよね。
なのでちょっと自分の感覚が違ってしまっているのを感じてしまいました。
バロックオペラの1幕2幕あたりは私も正直退屈しちゃうんですけど…。
今回のようなスピード感のあるオペラを見てしまうと飽きないしちょっとワクワクします。
これから日本のオペラが変わっていくのかもって思いました。
最後は長い長い拍手。会場全体が満足したのかなっていう楽しい余韻の公演でした。
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