2018年9月17日。東京文化会館で
ローマ歌劇場「椿姫」を観てきました。
当日は、9月の三連休の最終日。
終わったら上野は土砂降りの雨。傘が無いので、しばらく雨宿りでした。
(写真がヘタで‥。開始15:00〜終演18:30です。)
ローマ歌劇場の引っ越し公演
会場は女性の方が少し多いかなという割合。
今回の椿姫は、ローマ歌劇場からの引っ越し公演です。
引っ越し公演とは、劇場ごと、オーケストラも、合唱も、舞台も、全部やってくる公演です。
歌劇場の雰囲気や個性が出る公演だと思います。
今回の公演は、ソフィア・コッポラの演出と、ヴァレンティノの衣装が話題になっていましたね。
そのせいなのか、関係者なのかはわかりませんが、今回は豪華な衣装の観客が目を引きました。
ファッション関係の人たちなのか。
今回の公演が、ローマ歌劇場の特徴なのか、最近の傾向なのかは、正直なところわかりませんでしたが、
今回のローマ歌劇場の椿姫の演出は、
奇をてらわず、大げさでも無く、ヴィオレッタの美しい内面が出ている感じがし、
また衣装も上品で美しかったです。
今回、あれ?と思ったのは、第二幕の1場と2場の間で休憩があったこと。
通常、一旦幕が降りて、舞台を動かすことはあっても、あまりちゃんとした休憩は入れないことが多いように思います。
ただ、確かに、静かなビオレッタ達の家から、すぐにフローラのパーティ会場に移る演出は、
いつも若干違和感があったので、
今回のように、休憩が入るやり方は、時間的な経過が、ちょうど良いなと思いました。
通常の公演は、少しでもオペラの時間が長引かないようにと、休憩は少なくすることはあっても、多くすることはあまり無いので、
ちょっと意外でしたが、結果よかったです。
椿姫ローマ歌劇場・演出
演出面では、パンフレットにも乗っていた、巨大な階段がまず目を引きました。
少しだけ螺旋になっている形の階段。
階段を必ず使う宝塚でも、こんなにインパクトのある階段は使わないんじゃないかと思うような、美しい階段でした。
しかも使われるのは最初の1幕だけなのに、とても大きな階段でした。
第二幕のヴィオレッタの郊外の家は簡素ながら、瀟洒な雰囲気が出た舞台。
二幕の前半は、登場人物が皆、全体にあまり感情の起伏を感じさせる、動きが少なく、
どちらかというと突っ立って歌ってる感があったのですが、
ヴィオレッタが父ジェルモンに、娘と思って抱きしめて欲しいと駆け寄るあたりから、
動きが出てきて、静かな感動が徐々に大きくなっていったのも演出だったのかなと。
第二幕2場のフローラのパーティー会場では、全員が黒い衣装の中に、
ヴィオレッタの赤いドレスがとても効果的に、輝いていました。
ヴィオレッタのドレスを引き立たせるために他の人は全員黒だったのかと。
バレエは、男女ともいて、これも黒い衣装。これだけ黒い衣装を多く使うのもちょっと珍しい気がしましたが、
オペラの中のバレエは、ちょっとスパイス的で、いつも私にとっては楽しい時間です。
また、第三幕の瀕死のヴィオレッタの白い衣装もかなり凝った作り。
確かに、今回は衣装にかなりこだわりがあったようです。
全体を通して、演出で感じたのは、衣装に限らず、非常にヴィオレッタを美しく見せる演出だったということ。
ヴィオレッタの仕草からは、原題にあるような、堕落したとか道を踏み外したと言う感じや、
やけになるような雰囲気は、微塵も見えず、
ひたすら美しい心の女性、ということが前面に出ていた気がします。
女性をテーマにした映画を得意とする、ソフィア・コッポラならではの、演出なのかもしれません。
過去に椿姫のヴィオレッタを演じた、美貌の歌手は多くいましたが、今回ほど心の美しさを感じたビオレッタはいなかったような気がします。
歌手について
椿姫は、主要な登場人物が少なく、
- ヴィオレッタ
- 恋人のアルフレード
- アルフレードの父ジェルモン
の三人しかいないのですが、
今回の3人は、見た目も雰囲気も歌もぴったりとはまっていたような気がします。
ヴィオレッタ
何と言っても秀逸だったのは、やはりヴィオレッタ役のフランチェスカ・ドットでしょう。
一幕の最初の頃だけちょっと硬さがあったものの、1幕後半の、階段のそばで一人で歌うあたりから、
素晴らしく艶のある声がでていました。
この人は一人で歌うときに、一番発揮できるタイプの人なのかなと思ったくらい、一人になった途端、素晴らしい声が響いてきました。
そしてそれは後半になるほど、冴えていき、第三幕の瀕死の場面で
もっとも彼女の美しい高音が、はえていたのではないでしょうか。
フランチェスカ・ドットという人の経歴は知りませんが、高音の弱音が安定していてとにかく美しい人です。
そして、それが長丁場のヴィオレッタを演じる間ずっと、緊張が途切れることなく、続くところは、この人のすばらしいところではないでしょうか。
タフなのか、若さなのか、訓練の賜物なのか、最後まで美しく透き通る高音を聴かせてくれました。
第二幕で、アルフレードと別れる前に、「私を愛して」と叫ぶように歌うシーンは、やはり音楽も盛り上がりますし、感動でしたね。
アルフレード
今回はアルフレードとヴィオレッタが、見た目も背の高さもちょうどよく、年齢的にも二人とも若く、
とても合っていたと思います。
アルフレード役はアントニオ・ポーリ。
イタリアオペラにぴったりの艶のある声で、甘いマスクは、純真なアルフレードにもぴったり。
特に第二幕から、美しい声がでていました。
この人のもう一つの特徴はその表情。
体の動作はそれほど大きくないのですが、
遠くから見ていても、その切ない表情や、悲しげな表情は、なんとも言えず、
歌とともにアルフレードの心情を、よく表していたと思います。
イタリアオペラの優しい恋人役にはぴったりの人ではないでしょうか。
ジェルモン
椿姫で、ヴィオレッタの次に目立つのは、実はジェルモンではないかと思っています。
今回のジェルモンは、アンブロージョ・マエストリという人。
最初はちょっと嫌な感じの父親役で、登場しますが、徐々に、人間味を見せていくところは、難しい役どころだと思います。
最初は杖をついて突っ立って、歌う様は、確かに嫌な人、でしたが、
徐々に、味のある父親像へ。
このジェルモン役は、レオ・ヌッチというバリトン歌手が得意としていて、あまりにも有名で、どうしても比較してしまいがちなのですが、
今回のジェルモンも父親らしい風貌と歌で、ぴったりでした。
この人は他にどんな役を得意としているのかはわかりませんが、実は表情が豊かそうですし
ブッファも合いそうな気がします。
その巨体から出る声は、最初ちょっと、声が割れる感じで、ン?と思ったところもありましが、
徐々にそれも気にならなくなりました。
そして有名なアリア、「プロヴァンスの海と陸」は、よかったですね。
最後ちょっとだけ音程が上がっちゃったかなと思ったけど、
すごく一生懸命に、歌って伝えようとしているのが、わかって、
そんなことどうでもいい、と思ってしまう良さが、彼の歌にはありました。
結局、技術とかそういうものを超える感動ってあるんだなと。
会場からも大きな拍手。よかったです。
ヴィオレッタの死とヴェルディ
今回のヴィオレッタ役、フランチェスカ・ドットは、とにかく弱音がぶれることなく、美しい人でしたが、
それがもっとも発揮されたのが、第三幕の瀕死のシーンだったと思います。
第三幕は、ストーリー的は、あまり内容が多く無く、瀕死のヴィオレッタが、アルフレードに会えたけど、死んでしまうというシーン。
ヒロインが死んでしまうシーンはよくありますが、椿姫の死のシーンは、かなり時間的に長い方だと思います。
これまで、この第三幕は、どうしてこんなに長いのかなと感じてしまうこともありました。
ところが今回、このヴィオレッタの死の幕の音楽がとても美しいことを、再発見した気がしたのです。
これは、ヴィオレッタ役が素晴らしかったということもあると思うのですが、同時に
作曲したヴェルディは実はこのシーンをとても大事にしていたのではないかと、感じました。
椿姫というオペラは、乾杯の歌がある第一幕が、華やかで、何かと注目されがちですが、
第三幕の、瀕死のヴィオレッタのシーンが、これほど美しいメロディだったということを、今回改めて知った気がしました。
最後に、
ローマというと、ちょっとイタリアオペラの歴史上では、それほど有名ではない場所だし
どうなのかなと、実は思っていたところもあったのですが、
今回のローマ歌劇場の引っ越し公演をみて、ローマのオペラのイメージが変わったのは確かです。
それくらい良かったですね。
ローマ歌劇場2024スケジュール
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