能とオペラの共演
- 2020年10月18日(日)
- 横須賀芸術劇場大ホールにて
横須賀芸術劇場で能の「隅田川」とオペラ「カーリュー・リヴァー」を見てきました。
能とオペラの二本立てというとても貴重な体験でした。
公演の感想を一言で言うなら、とりわけ感動するアリアがあったわけでも無いし、突出した人がいたというわけでもなかったのに、とても心が満たされた気持ちになった公演でした。
それはストーリーのせいなのか音楽なのか演技なのか演出なのか、よくわからないのですが、とにかく良いものを見させてもらったとそんな気持ちです。
今回の会場となった横須賀芸術劇場に行ったのは初めてですが以前からずっと行きたかったところです。
きれいな劇場でどの席からもとてもよく見えそう。5階でも。
京急汐入駅からすぐなので思ったより行きやすい場所でした。
豪華で美しい会場に最初からテンションは上がっちゃいましたけど、実は小ホールの方なのかなと勝手に思っていました。
どちらの演目もその方が合っていると勝手に思っていたからです。
でも終わってみれば見応えのある舞台は大劇場にぴったりだったのかなと思いました。
新型コロナ対応として席は一つおきになっていたようで、会場は満席には見えないけど満席とのこと。半分とはいえこんなマニアックな演目なのに満席というのはちょっと意外でした。
着物姿の人が多かったのは能楽関係者なのでしょう。来場者の年齢も高め。
入り口でサーモによる検温はありましたが、一人一人紙に記入するのはなかったですね。
パンフレットが縦書きなのはちょっと和風でおもしろいです。
初めての「隅田川」に感動
能はずっと昔に観たことがあるけど、隅田川は初めて。
会場が暗くなるとろうそくがつけられて、能舞台のまわりの光を順次点灯するのも人の手で行われ、そんな様子がとても厳か。
そして次第に美しい現代的な和の世界が出来上がっていきました。
青の舞台と黄色い光がとてもきれい!。
ろうそくも本物のろうそくなんだなあと。
おそらくマイクを使っていたのだと思うのですが、大きすぎず良い感じで声がしっかりと聞こえてきて聞きやすかったです。
そして字幕があったのもうれしい。
能の言葉遣いって現代の言葉とはもちろん違うし、時代劇なんかで聞く古い言葉とも違っていて、それがなんとも良いところじゃないかと思うんですよね。
字幕があるとそんな言葉使いがよりわかって、こんな風な言い回しなんだなと、古き良き日本の言葉を聞くようで私にはここちよかったです。
鼓も笛もきれいに響いてましたし、やっぱり和のものっていいなあと。ブリテンが隅田川の舞台を観て感銘を受けたのもわかる気がする。
字幕で「物狂の登場」となっていたのはちょっと内心笑ったけど‥。
「かけり」っていうのはオペラで言うところの狂乱の場なのかな。
これも初めて知りました。
隅田川はとても悲しいストーリーだし、能の方は最後に救われるかというとそういうわけでもないのでハッピーエンドでもない、
それでもなんだかすごく心が温まる気がするのです。
それは、亡くなった子供が世を恨むでもなく、死んでいったからなのだろうか。
「この場所に埋めて欲しい、都の人の足、手、影までも懐かしいから」という言葉が12歳の子供が言うとは思えない言葉だけどなんだか深すぎて‥辛いけどしみじみする。
ブリテンもそうだったんだろうか‥。オペラにも「旅人の影が墓にささるから」と言う言葉を入れているんですよね。
わかっているのに狂女が名前や、場所をもう一度聞くところも切なすぎる。これもオペラもそのまま使ってますね。
隅田川ってなんていうのかな、こんなに悲しい話なのに、わめきちらすような悲しがり方じゃないんですよね。それがとても心に伝わってくるのです。
中学の教科書で見ても全くピンとこなかったけど、舞台で観て隅田川の良さがわかった気がします。日本のものっていいですね。
南無阿弥陀仏に子供の声が混じるのも、ブリテンはそのままの手法を使っていますよね。
言葉はほぼわからなかっただろうに、ブリテンはこの難しい日本語の能をどんな感性で観て、聞いて、感じたんだろうって、
観たときのすぐに感想ってどんなだったのかなとちょっと思ってしまいました。
オペラ「カーリュー・リヴァー」は結末が少し違うけど隅田川そのまま
隅田川が終わって、後半はオペラ「カーリュー・リヴァー」。
ろうそくは減ったものの少し残されて、舞台向かって右側が楽器の場所。
カーリュー・リヴァーって楽器が不思議な音を出すんですけど、とりわけ目立つのが太鼓。
ティンパニーとは音が違うのでどんな太鼓なのかなと思っていたら、円柱形の少し小ぶりの太鼓が5つかな、並んでいました。
このオペラは太鼓とフルートがとりわけよく聞こえてくる気がします。
ティンパニーよりなんていうのかちょっと原始的な音がするんですよね。
最初の登場はオペラなのに能の鼓と笛が演奏。これは今回の演出ですね。
ずっと一緒に演奏するのかなと思ったらさすがに最初だけでした。
舞台に三角の帽子があるのかと思ったら、それが少年のお墓でした。
巡礼者たちの衣装は黒っぽい服に目しか見えない衣装。一瞬ちょっと怖い感じだけどもしかしてコロナ対策もあるのだったりして。
でも布越しでも声はよく聞こえてました。
目に独特のメイクをしていていい感じの雰囲気が出てましたね。
舞台の床はステンドグラス風の模様になって、たぶん教会のイメージかと。
例の変わった太鼓とブリテン音楽が始まると、不思議な世界にいざなわれ‥。
渡し守りが長い杖を持って出てきた時はなぜかオルフェオの三途の渡し守りが浮かんでしまった(なんでだろう)
カーリュー・リヴァーの方は、いきなり「1年前に弔いがあって‥」っていう感じで、もうその話?早っ!ってちょっと思ってしまうのだけど、
その分最後のお祈りのシーンが長くて、そこが一番の盛り上がり。淡々と進んでいく能とはそこらへんは違うかも。
狂女の母はかなり派手な衣装だけど、やはり巡礼者たち同様、目しか見えてないので女性に見えてよかった。
狂女役はテノールの鈴木准さんという方。
ちょっとアラブの巫女っていう感じだけど‥。金鶏のシェマハの女王とかこの衣装でいけそう、ナンテ)
面もなし、メイクもなしの男性のままだとどうも母に見えにくいので、狂女がどんな衣装かなというのは気になっていました。
カーリュー・リヴァーって能に習ってなのか、あまり大げさな動きはないのだけど、こうして二つを比べると、能っていうのは本当にそぎ落とされた究極の演技なんだなと、能ってすごい!って改めて思ってしまいました。
こんなに動かない劇ってきっとほとんど無いですよね。それなのに感動しちゃうわけですから。
それにしても、渡し守りはすごく出番というか歌が多いですよね。狂女よりずっと多くて、重要な役。能もそうだったけど。
渡し守りは与那城敬さんというバリトン。
今月はブリテンの夏の夜の夢も見たのですが、なんていうのかな、
ブリテンの音楽ってああいうファンタジーっぽいオペラにも合うし、カーリュー・リヴァーみたいな悲しいストーリーもいけちゃうし、
だからますます不思議なブリテンです。
もう少し見ないとまだまだ私にはわからなそう。(そういう意味では楽しみでもあるかな)
そして今回やっぱり子供役のボーイソプラノに心が洗われました。
この役はソプラノがやることもあるみたいですけど、子供の澄んだ声はやはりいいですね、涙が誘われます。子供の霊の役は町田櫂さん。
お祈りの音楽が盛り上がったなあと思う時にまさに子供の声が入るんですよね。だからここがおおっ!って感動。
能もそうだけどお祈りをしていると霊の声が入ってくるという手法は本当すごいと思っちゃいます。このシーンは楽しみでやっぱり見どころですよね。
そして霊の子供が母の分身のように同じ動きをしていたのもよかった。
全体には能を踏襲しているなあと。これほどまでに細かいところもって思います。日本の能をこんなに理解した外国の作曲家なんて普通いないですよね。(日本人の私もずっとわかってなかったくらいだし‥恥ずかしいけど)
そして最後は元に戻った感じの最初の音楽が聞こえてきて、床もステンドグラスの柄に戻って。ああわったんだなと。
能とオペラとどちら?
二つのよく似たストーリーを能とオペラで見て、どっちかに好みが寄るんじゃないかと実は思っていました。
そしてそれはやっぱり音楽により動きがあるオペラの方じゃないかとも思っていたんですよね。
ところが見終わってみると、優劣つけるのは無理でした。
二つはストーリーはそっくりだけどやっぱり別物。
能の方は最後はあっさり終わってしまうけど、
死んだのが自分の子供だとわかった時に同じことをなんども聞き直す狂女の様子や、少ない所作から滲み出る世界からは、より伝わってくるものがあった気がするんですよね、全然動きがないのにそれはほんと不思議です。
能を見た後にオペラが始まると、能よりも体を動かして演技をするので(普通のオペラよりはすごく動きが少ないんですけど)、なんか最初のうちは違和感すら感じちゃいました。
でもオペラの方はやはり最後のお祈りのシーンが能よりしっかり長くて、ここが見どころだと思うし、ボーイソプラノあっての感動の物語になってますよね。また子供が母を思ういいセリフを言ってますし。
だから全然別物だなあって。別物なのによくここまで同じように作ったのねと。思います。なんか矛盾してること言ってる気もするけど‥。
言えるのは、日本人だから能とオペラの両方ともを理解できるわけですよね、だからそれがありがたいというかうれしい。
だって「隅田川」と「カーリュー・リヴァー」の両方を見た感動と
「カーリュー・リヴァー」だけを見た感動ではきっと全然違うんじゃないかと思うんですよね。
だからこの二つの組み合わせってもっともっと若い人にも見てもらいたいなあって、思いました。
最後には能の狂女役の観世喜正さんも出てきてくれました。
全員でお辞儀した時のこの方のお辞儀がとてもきれいだったのも印象的でした。さすがですね。
そうそう後でパンフレットをちゃんとみたら、フルートは上野星矢さんでした。びっくり。楽器は少なかったけどきっと一流どころの方達だったんですね。
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