タンホイザー・あらすじと解説・いくつかの版がある

オペラの中には、いくつかの版があるものがありますが、

ワーグーナーのオペラ「タンホイザー」のその一つで

ドレスデン版と呼ばれるものとパリ版と呼ばれるものがあります。

 

タンホイザーの成立と初演

  • 作曲:リヒャルト・ワーグナー
  • 初演:1945年
  • 場所:ドレスデン宮廷歌劇場

オペラタンホイザーの正式な名称

タンホイザーとヴァルトブルグの歌合戦」と言います。

一般的にはタンホイザーと短くなっていますね。

初演は場所でわかるようにドレスデン版の方です。

 

タンホイザーのストーリーは

中世の放蕩癖のある吟遊詩人タンホイザーの伝説

ドイツのヴァルトブルグ城で中世に実際に行われていた、歌合戦を融合させたものです。

 

オペラの中でタンホイザーの友人としてでてくるヴォルフォラムや

恋人役のエリザベートなども実在の人物から取っている名前ですね。

 

中世における歌合戦というのは、現在のテレビで見るような歌の対抗戦のようなものとは全く異なり

歌の形式が決まっていて審査され競われるもので、高貴な歌い手たちは宮廷に抱えられてかなりの高い地位に付いていたとも言います。

実際、音楽にも種類はありますよね。

現代はクラシックもポップスも演歌も民謡だって、誰もが好きな音楽を鑑賞できる時代ですが、かつては今より身分によって音楽もかなりはっきり分かれていたのかもしれません。

中世の歌合戦の歌は、今でいうならオペラのアリアや歌曲のようなそんな類だったのじゃないかと、これは私の想像です。

 

さて、タンホイザーを作った時のワーグナーはすでにリエンツィというオペラで成功していましたが、

リエンツィと同じ劇場(ドレスデン)で初演したタンホイザーの方は、いまひとつの反応だったようです。

リエンツィがパリのグランドオペラの形式の影響が強いのに対し、

タンホイザーは、現在ワーグナーらしいと思える形式で、劇と音楽が融合、管弦楽と声も融合するという特徴に変わっており、

聴衆がまだそれについてこられなかったことにあります。

 

長大で難しいということもありますが、現在ではリエンツィがなかなか上演されないのに対し

タンホイザーの方が頻繁に上演され、世界中にファンがいることを思うと皮肉なものだと思います。

 

また、ワーグナーのタンホイザーは1861年にパリ・オペラ座においても上演されましたが、

こちらも残念ながら大失敗でした

 

当時のパリ・オペラ座というのは、フランス語による上演で必ずバレエが入るグランドオペラの形式が主流だったので、

ワーグナーのタンホイザーについてもその形式が要求されたわけです。

ワーグナーはタンホイザーをフランス語に直し、バレエは序曲に続く部分をヴェーヌスの官能の森のバレエとして挿入しました。

つまりバレエを最初のところに入れたわけです。

これがタンホイザーのパリ版と呼ばれるものです。

ところが当時のパリ・オペラ座の常連客には、産業革命後に台頭してきた進行ブルジョワジーいわゆる成金紳士も多くいて、

彼らはオペラよりも2幕か3幕に登場するひいきの踊り子が目当てで来ており、踊り子の出番に間に合うように2幕の頃にやって来るという観客だったんですね。

ただし、このように遅れてくるという観劇の仕方は、椿姫の原作などを読んでもマルグリットはオペラの途中に優雅に桟敷席に登場するというようなシーンが何度か出てくるんですよね。

今と違ってかつては自由に出入りしながら鑑賞すると言うのはマナー違反でもなく、普通だったんだなと思います。

 

ワーグナーがオペラ座の依頼を断って、2幕ではなく冒頭にバレエを挿入したことでそんな常連客の怒りに触れ、その妨害は口笛だけでなくラッパまで出て、上演を続けれないほど酷かったと言います。

現在の日本では考えられないようなことが、オペラの世界であったんですよね。

 

ところがそんな最悪の事件が、逆にワーグナーの名前を広めることになったのも事実だったようです。

良かれ悪しかれ話題に登るということは、名前を知ってもらうためには悪くはない、

というのは現在の芸能界なども一緒?と思っちゃいます。

 

 

簡単あらすじと上演時間

<タンホイザーの上演時間>

  • 序曲:約13分
  • 第一幕:約45分または55分(ドレスデン版は45分、パリ版は55分)
  • 第二幕:約70分
  • 第三幕:約55分

上演時間の正味は3時間ちょっとありますから、

2回の休憩を入れると全体としての上演時間はだいたい4時間ちょっとというところでしょうか。

結構長いですが、ワーグナーは長いオペラが多いので普通の方です。

 

<タンホイザー簡単あらすじ>

ヴェーヌスがいる禁断の場所ヴェーヌスベルクの異世界で、官能的な日々を過ごしていたタンホイザーですが、

ある時ふと故郷に帰りたいと思いはじめます。

ヴェーヌスは引き止めるのですが、タンホイザーは振り切って故郷の世界に戻ります。

故郷ではちょうどヴァルトブルク城で歌合戦が開かれるということで、タンホイザーも参加することに。

お題は「愛の本質」。

タンホイザーは最初はおとなし目に歌っていたのですが、徐々に高揚しついには禁断のヴェーヌスベルクに居たことがばれてしまい人々が騒然となります。

懺悔のためにローマ巡礼の旅に出るタンホイザーと、祈り続ける恋人のエリザベート。

しかしながら、ローマに行っても許されなかったタンホイザーなのですが、

献身的なエリザベートの死を持って

タンホイザーの罪は浄化され、彼自身も死んでいくというあらすじです。

 

 

タンホイザーのあらすじからもちょっとわかるかと思いますが、このオペラのテーマは「愛による救済」といわれています。

このワーグナーのオペラを見る限り、救済の部分は最後のところだけで比較的あっさりなんですよね。

逆にヴェーヌスの洞窟のシーンが非常にインパクトがあります。

当初ワーグナーがオペラの題名をヴェーヌスベルクと考えていたことからも、ワーグナー自身もそちらのイメージが強かったのではないかと思うのですがどうでしょう。

それくらい、ヴェーヌスベルクのシーンの音楽は官能的で刺激的なんですよね。これは演出とかバレエにもよりますが。

 

見どころ

 

最初の頃は、ワーグナーのタンホイザーにドレスデン版とパリ版があることを知らなかったので、

タンホイザーを見に行った際に、序曲に続いて延々と官能的なバレエが始まったので不思議に思ったことがありました。

 

その前に見たワーグナーのタンホイザーにはそのシーンは無かったからです。

 

今思えばバレエが入っていたのはパリ版と呼ばれるものだったのだと思います。

ただ、言葉はドイツ語でしたから、完全なパリ版ではなく折衷版(ウィーン版ともいわれます)だったのでしょう。

オペラには、このように作曲家が劇場に合わせて書き直したり、本人が納得するように書き直していることがしばしばあります。

 

さてタンホイザーの題材になっている歌合戦については、

ワーグナーのニュルンベルクのマイスタージンガーでも題材となっています。

こちらはタンホイザーよりも少し後の時代をモチーフにしていますが、

全体に明るいブッファのような作品で、二つを比べてみるのも、おもしろいと思います。

タンホイザーの有名な音楽としては

  • 序曲
  • 第二幕でエリザベートが歌う「歌の殿堂」
  • 第三幕で友人ヴォルフォラムが歌う「夕星の歌」

中でも序曲は有名で、しばしば単独で演奏されるポピュラーな曲になっており、

劇中に出てくる旋律が使われています。

 

また、ヴォルフォラムの夕星の歌は、バリトンが歌うしみじみとした心に染み入る名曲。これもいいんですよね。

 

タンホイザー第一幕のヴェーヌスの官能の異世界と、通常の世界が全く雰囲気が別というのがこのオペラの特徴の一つですが、その中でヴェーヌス役は第一幕で歌い続けるので大変な役です。

 

このオペラでは通常の世界に住む清純なエリザベート官能のヴェーヌスとは全く交わらず、出番が異なるため

この二役を一人の歌手が演じるという超人的な歌い手もいます。

 

ヴェーヌスだけでも大変なのに、タイプが異なる二役をやってしまうことはありえない!と思っちゃいますがいるんですよね、そういう歌手も。

私が知るところでは、過去にビルギット・ニルソンという歌手と、ギネス・ジョーンズという歌手が一人二役を演じています。

いやほんと、ものすごいパワーですよね。

ヴェーヌスとエリザベートは、人には表の感情と秘められた裏の感情があるということの象徴なのかもしれませんが、並大抵の歌手では無理だろうと思います。

 

また、タンホイザーを演じるのはヘルデンテノールと呼ばれる、強くドラマティックな声の歌手で

タンホイザーの歌唱も見どころだと思います。

  • ヴェーヌスがいる官能の世界
  • エリザベートやヴォルフォラムがいる純粋な世界

二つの世界が対照的なワーグナーのタンホイザーは、何度見ても飽きないオペラですね。

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