ヴェルディ作曲のオペラ・運命の力についてです。
運命の力という題名から予想する内容はどんなものだと思いますか。
私は力強い運命、英雄的な運命を想像してしまったのですが、実際の内容の運命はむごすぎるもので
「運が良い」か「運が悪い」かで言えば明らかに運が悪い方で、それは銃の暴発から始まります。
プッチーニのトスカは主要な登場人物が3人とも死んでしまう悲劇ですが、
運命の力も主な登場人物が死んでしまうオペラです。
ヴェルディのオペラは悲劇物が多いのですが、主人公がもっともかわいそうなのが運命の力じゃないかと思います。
自分は悪くないのにどんどん悪い方向に運命がいってしまうのです。
初演がロシア
さて、運命の力というオペラの特徴の一つは初演がロシアだということではないかと思います。
当時のヴェルディは既に超有名人だったので、イタリアだけでなくパリのオペラ座のためにもオペラを作っていましたが、
ロシアからのオペラ作曲の依頼があり、作られたのがこの運命の力というオペラです。
そんなわけなので初演はペテルスブルクの帝室歌劇場(現在のマリインスキー劇場)なのです。
1862年のことでヴェルディが49歳の時です。
前後に
という作品を作っているので、重厚で壮大なオペラを作っていた頃の作品で、実際そういうオペラです。
当初運命の力は1861年に初演の予定だったのですが、良い歌手が揃わなかったため予定が伸びたといいます。
ヴェルディと言う人は歌手の出来については妥協を許さなかったようです。
ヴェルディ自身の妻ジュゼッピーナも、オペラ歌手だったので全盛期はさぞかし素晴らしい声だったのだろうと思います。
ジュゼッピーナはもともとスカラ座のプリマドンナだったんですよね。
ジュゼッピーナはソプラノなのにノルマのアダルジーザも歌っていたらしいので(アダルジーザはメゾソプラノ)、それだけ聞いても上手そう‥。
そして運命の力はヴェルディ本人により改定された版があるのですが、その改定版を初演したのもスカラ座で、その時レオノーラを歌ったのがシュトルツというソプラノでした。
このシュトルツという歌手はヴェルディの愛人と言われた人なんですよね。
スカラ座というところはヴェルディの女性関係もいろいろ発生する場所のようで‥。
そっちの運命的な出会いの力もあった?なんて勝手に思ったりしました。
ちょっと話がそれましたが、とにかく運命の力というオペラはロシアからの依頼で作られた作品だったわけです。
ロシアの今の首都はモスクワですが、当時はモスクワよりサンクトペテルブルグの方が大都市でした。
長らくロシア帝国の首都でしたし。
残念ながらロシアには行ったことがありませんが、もし行くならやはり音楽の都でもあるサンクトペテルブルクに行きたいですね。
ロシアの劇場の名前の変遷
初演のマリインスキー劇場という場所の名前ですが、これがよく変わるのでちょっと面倒というかわかりにくいんですよね。
もともとこの劇場の前身は18世紀にエカテリーナ2世によって建てられた劇場で、場所はサンクトペテルブルク。
現在の名前であるマリインスキーというのはかつてのロシアの皇后マリアの名前にちなんでつけたものですが、
私などはキーロフ歌劇場とかレニングラード歌劇場という名前の方が実は馴染みがあるんですよね。
ロシアは1991年までソビエト連邦という国名だったことを覚えている人はまだ多いと思うのですが、
その時代はキーロフ歌劇場という呼び方でした。
さらに言うとその前はレニングラード歌劇場と呼ばれていたので、1990年頃は
キーロフ歌劇場(レニングラード歌劇場)
というような書かれ方をしばしば見かけたものです。
レニングラードというのは州の名前で、サンクトペテルブルクはレニングラード州の中にあるので、この呼ばれるのはわかるのですが、
なんでキーロフってなりませんか?
というのもキーロフってサンクトペテルブルクよりかなり西の方にある都市の名前なのです。
キーロフ歌劇場っていうのはソビエト連邦時代の名前で、共産党の指導者だったセルゲイ・キーロフの名前にちなんでキーロフ劇場と呼ばれていたわけです。
セルゲイ・キーロフが生まれた場所はヴァトカという都市なのですが、
彼にちなんでヴァトカは→キーロフと名前を変えたので、サンクトペテルブルクにあるにも関わらずキーロフとなっていたわけなんですよね。
1990年頃はまだソビエト連邦時代でしたが、セルゲイ・キーロフはずっと前に暗殺されてしまっているので、名前も知らず不思議に思ってしまったわけでした。
運命の力簡単あらすじ
運命の力にちなんでマリインスキー劇場の余談が長くなってしまいましたが
運命の力の簡単あらすじを書いておきます。
主要な人物は
- レオノーラ
- レオノーラの恋人ドン・アルヴァーロ
- 二人の結婚を許さないレオノーラの父
- レオノーラの兄ドン・カルロ
レオノーラとドン・アルヴァーロは愛し合っているのですが二人の結婚に反対する父公爵。
許されないならと駆け落ちをしようとした矢先父親に見つかってしまうのですが、
ドン・アルヴァーロはレオノーラをかばって、悪いのは自分だけだと持っていた銃を手放すのですが、
途端に銃が暴発し不幸にもレオノーラの父が死んでしまいます。
これがそもそもの不運の始まり。
二人は逃げるのですが分かれ分かれになり、
レオノーラの兄ドン・カルロは父の仇を打つため二人を探し続けます。
兄はドン・アルヴァーロの顔を知らず、また3人共名前を変えているためまたしても不幸な運命が訪れることになります。
レオノーラは一人山の中で神に祈り続ける生活へ。
一方ドン・アルヴァーロがドン・カルロとは知らず命を助けたことから、皮肉にも二人は固い友情を結ぶことに。
ところが実は宿敵アルヴァーロだと言うことがわかり、ついに二人は決闘することになり、その場所はレオノーラのいる山の中という運命。
兄のドン・カルロはアルヴァーロの剣に倒れるのですが、そこに現れたレオノーラを瀕死の状態ながら剣で刺し妹を殺してしまいます。
ドン・アルヴァーロは絶望し神を呪う。
という辛い運命のあらすじです。
このオペラにはメリトーネとプレツィオジッラという役もかなり目立つ重要でな役で、二人の歌がアクセントとなっておもしろいと感じると思います。
それから序曲も良い曲で単独でもしばしば演奏されるので聴きどころだと思います。
こんな辛い運命はオペラの中だけにしてもらいたいと思う、そんな運命の力です。
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