ハンブルクにかつてあったドイツオペラ

オペラはイタリアで始まり、18世紀にオペラセリアの全盛期を迎えます。

それ以来オペラはイタリアに限る、イタリアでなくちゃみたいな風潮が長くありました。

でも実はそれよりもっと前、ドイツのハンブルクにはちゃんとドイツオペラがあったんですね。

 

18世紀のドイツオペラ

 

18世紀のオペラ界の中心は何と言ってもイタリア。

ナポリから女性のような高音を出す男性歌手カストラートが次々とでてきて、彼らは大人気。

ヨーロッパのオペラは、主としてイタリア語のイタリアオペラが優位だったんですね。

 

それが19世紀になるとようやく各地で自分の国の言語で作るオペラが出てくるんですね。

ドイツ語圏はドイツ語で、ロシアではロシア語、チェコはチェコ語でという感じです。

ちなみに日本でも遅ればせながら日本語のオペラができますが、それは20世紀になってから。

日本はオペラの中心地からは遠く離れていますしね。

遅いのも仕方ないと思います。

日本に最初のオペラブームが来たのも20世紀のことなので、そんなに昔のことではないのです。

 

さてヨーロッパでは19世紀以降ドイツ語圏のオペラの勢いがめざましくて、

ウェーバーワーグナー、リヒャルト・シュトラウスといった有名どころがぞくぞくとでてきます。

さらに、オペレッタも盛んになって、ヨハン・シュトラウスのオペレッタはウィーンを中心に大人気になります。

ウィーンもドイツ語圏なんですよね。

 

今やウィーンやドイツ音楽の中心地の一つになっていますが、自国のオペラを作り上げていくまでは並々ならぬ道のりがあったのだと思うのです。

ところがですね、

実はドイツオペラは19世紀にやっと登場したわけではないんですよね

もっとずっと昔、イタリアのオペラセリアが全盛になる前に、ドイツにはドイツオペラがちゃんとあったのです。

その中心となったのがハンブルクという都市で、ハンブルクのオペラ劇場でした。

 

ハンブルクのオペラ劇場

 

ハンブルクは古くから自由都市、自治権を持った都市として有名です。

歴史で習ったハンザ同盟の都市でもありますよね。

場所的には現在のドイツの中の北の方です。

このハンブルクに17世紀後半オペラ劇場ができました。

しかも宮廷の劇場ではなく独立した国民のための劇場だったのですからすごいんですよね。

 

今でこそオペラ劇場は国民のため以外には考えられないと思いますが、当時オペラと言えば王侯貴族の娯楽だったわけですから。

その時出来たのがゲンゼマルクト劇場、現在のハンブルク州立歌劇場の前身です。

17世紀というと、イタリアオペラは中心地がヴェネチアからナポリに移りつつある時代。

オペラセリアが全盛期を迎えるまだまだ初期の頃です。

 

実は最初に私がハンブルクのオペラのことを知った時は、

イタリアオペラ全盛時代の前に、ちょこっとドイツオペラがあったくらいなのかなと思っていました。

ところが、ちょっとなんていう規模ではなく、例えばラインハルト・カイザーという人は100以上のオペラを作っているんです。

もっともハンブルクオペラの形式は独特で、全部がドイツ語ではなく、ドイツ語とイタリア語が混在するオペラだったようなんですよね。

全部がイタリア語だとやはり理解できないということがあったのでしょう。

レチタティーヴォにあたる部分はドイツ語、アリアの部分はドイツ語またはイタリア語、という形式だったと言います。

レチタティーヴォはストーリーの進行を説明するので、そこはドイツ語というのはわかるのですが、

アリアがドイツ語またはイタリア語だったというのは、不思議というかいったいどうやって使い分けていたのか、残念ながらそこはわかりません。

もっとも、アリアという形も当時はどんな形式だったかというのもあるのですが‥。

すでにイタリア語でなきゃ、という風潮が入ってきていたのでしょうか。

 

時代は違うのですが、つい最近日本で見たウェーバーの魔弾の射手は、

ドイツ語と日本語が混在していました。

オペラのセリフ部分が日本語だったのですが、それだと確かにわかりやすいんですよね。

この魔弾の射手を見た時は、二か国語が混在しているのであれ?という感じで最初こそ戸惑いを感じましたが、

こうしてオペラの歴史を振り返ってみて、ハンブルクではかつてこのやり方がごく一般的だったと聞くと、すごく納得しちゃったんですよね。

ましては、ハンブルクの時代は今のように電子版の字幕も無い時代ですから。

 

あと驚いたのは、カイザーが作ったというオペラの数です。

そんなにたくさん?と思ったんですよね。

実は同じ時期、ハンブルクにはテレマンとかヘンデルもいました。

当時カイザーという人はかなり有名だったようですが、今ではカイザーはあまり知られておらず、テレマンやヘンデルの方が有名ですよね

テレマンはターフェルムジークで有名ですが、他にもすごくたくさんの曲を作っていて

作曲数の多さでは最も多いといわれているくらいの人なのです。

でもオペラはほとんど知られてないのですが、実はテレマンもオペラを作っていたらしいんですよね。

そしてもちろんヘンデルも。

とまあこんな風に、それまでオペラは19世紀に入るまでイタリアオペラしかないと思っていたので、

ハンブルクに17世紀後半から18世紀にかけて、オペラの初期の時代にドイツオペラが盛んだった時期があったことに驚いたわけです。

さらに気になったのは、それほど盛んだったのにどうしていったんドイツオペラが廃れたんだろうと思ったんですよね。

 

 

イタリアオペラの波

 

ハンブルクのオペラ劇場にはカイザー、テレマンの他ヘンデルもいました。

カイザーのオペラもテレマンのオペラも現在上演されることは無いけれど

ヘンデルだけはちゃんと今も残っていて、今でも上演され続けています。

ヘンデルはバロックオペラで必ず名前が上がってくる人なんですね。

なぜ彼のオペラだけ残っているんだろうと思うわけです。

もちろん音楽が良いということが一番に来るのでしょうけどそれだけじゃなかったのかなと。

 

ヘンデルってしばらくハンブルクのドイツオペラの形式でオペラを作っていたのですが、

イタリアオペラの波がどどーッと来ちゃったわけです。

ヘンデルはそれに合わせたオペラに路線変更したようなんですね。

確かに今残っているヘンデルのオペラはこてこてのオペラセリアそのもの。

言葉もそれまではドイツ語を使っていたのにイタリア語になって、イタリア色に染まったとでもいうのでしょうか。

そしてヘンデルがイタリア風になったら、他の作曲家たちも同じようにイタリア式になって行っちゃったわけです。

それだけヘンデルの影響力が強かったっていうことですよね。

更にヘンデルってその後イギリスにわたってほぼイギリスで活躍しているんですよね。

そしてハンブルクのドイツオペラはその後イタリアオペラにのまれて

消滅していってしまったんですね。

昔の形式のドイツオペラがどんなだったのか、今は上演されることも無いので想像するしかないのですが、

いったいどんなオペラだったんでしょうね。できれば見てみたいものです。

ドイツオペラは消滅したと言いましたが、

実際には庶民向けの歌芝居となったようです。

そうやって残るしかなかったんですね。

一方イタリアオペラは主として王侯貴族向けのものとして発展していくわけです。

でもそんな風にイタリアオペラに押されていったん消えてしまったドイツオペラが再び19世紀から復活するんですよね。

その大きなキーマンはやはり、モーツァルトなんじゃないかと思うのです。

 

 

モーツァルトの時代

 

モーツァルトは18世紀半ばの生まれ。

時代はイタリアオペラ一色と言っていい時代です。

モーツァルトはウィーンの生まれ、

つまりドイツ語圏の生まれなのですが、モーツァルトが作ったオペラはほとんどイタリア語で書かれています。

当時のオペラの風潮ににならったということなのでしょう。

でも、ドイツ語圏の人たちもやはりドイツオペラの復活を望んでいたようなのです。

というのも1778年にヨーゼフ二世が今のウィーンにブルク劇場を作ってドイツ語のオペラ劇団を設立しているのです。

ただ、この劇団はわずか5年で無くなってしまったようなのですが…。

ドイツオペラの復活を目指していたに違いないですよね。

モーツァルトの殆どのオペラはイタリア語なのですが、

亡くなる直前に作った魔笛と、後宮からの逃走、の二つはドイツ語で書かれているんですね。

そして二つのうち後宮からの逃走は、この1782年にブルク劇場で初演されているのです。

なぜこの作品がドイツ語だったのかが、あ、そういうことなのねとわかった気がしました。

ブルク劇場ではドイツオペラを推奨していたからだったですよね。

でも様々な圧力や反対があって続かなかった。

 

モーツァルトは、本当はドイツ語でもっとオペラを作りたかったんじゃないかなと、思ったりしましたね。

とはいえ、モーツァルトはその後魔笛をドイツ語で作っています。

この時モーツァルトに作曲をすすめたのは、庶民向けの劇場をやっていたシカネーダという座長でした。

シカネーダがやっていた舞台は、かつて衰退したドイツオペラが庶民の歌芝居となった、まさにその流れだったのだと思います。

モーツァルトが魔笛を作ったのは、後々考えてみると、まさにドイツオペラの復活の最初だったんじゃないかって、そう思えるわけです。

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