今回は「売られた花嫁」というオペラについてです。
作曲はチェコのスメタナという人で
チェコの国民的オペラともいうべき作品です。
何よりチェコで書かれているというところが珍しいです。
プラハ国民劇場
チェコの街
スメタナのオペラ
- 作曲:スメタナ
- 初演:1866年
- 場所:プラハ国民仮劇場(現在のプラハ国民劇場)
売られた花嫁っていうオペラはチェコ語なんですよね。
オペラってそもそも何語なの?と思う人もいるんじゃないでしょうか。
オペラは日本語で歌っていても何を言っているのかわかりにくいときがあるくらいですから、何語かなんてあまり気にしない人だっていると思います。
現に私がそうでした。
オペラを見始めた頃はそのオペラが何語で歌われているかなんて全然気にしなかったんですよね。
それがいろんなオペラを見るようになると、イタリア語が多いんだなとか、ドイツ語もあるのねというのが徐々にわかってくるわけです。
でもチェコ語のオペラがあるっていうのはずいぶん後になってから知りました。
最初にみたチェコ語のオペラはヤナーチェクのオペラだったのですが、当時は何語かなんて全然気にしてなかったのでチェコ語だとわかったのは後のことで、
当時はただ字幕を見ていればそれでよかったんですよね。
ヤナーチェクはスメタナよりもっと後の人なんですけど、
実はチェコってスメタナ以前のオペラってひとつも載ってないんですよね。
つまり最初がスメタナなわけです。
売られた花嫁はスメタナの中では最初の作品というわけではなくて、実際には2作目のオペラなんですけど
現在まで残っていて世界中で上演されている最初のチェコ語のオペラというと「売られた花嫁」なんですよね。
当時のチェコ、というかヨーロッパは大きく言うとそれぞれの国が自分たちを取り戻す国民主義という考えが広まってきた時代なのです。
スメタナっていうと一番最初に浮かぶのは「わが祖国」の中の「モルダウ」じゃないかと思います。
モルダウはこのオペラより約10年ほど後に作られた作品なんですけど
売られた花嫁の音楽を聞いていると時々、モルダウだなあと感じたりします。
わが祖国っていう題名からも当時の国民主義が伺えるんですけど、売られた花嫁がチェコ語で作られたっていうのもそういう流れだったみたいなんですよね。
国民劇場 売られた花嫁のポスター
実はスメタナはドイツ語しか話せなかった
実はスメタナはドイツ語しか話せなかったって聞くとエッ?って思いませんか。
スメタナが生まれたのは1824年で、チェコの西側ボヘミアと呼ばれるところの生まれなんですけど
当時のチェコって歴史的に見るとオーストリア帝国の支配下だったときなんですよね。
その後1867年からはオーストリアハンガリー帝国の支配下となるのですが、
いずれにしても当時の公用語はドイツ語だったのです。
だからスメタナもドイツ語で話していたわけです。
でも、もともとはチェコ語っていうのがあったわけで、19世紀前半からチェコの国民のための劇場とかチェコ語の演劇やオペラを作ろうという流れが出始めていたらしいんですよね。
そしてその後やっとできるのが今のプラハ国民劇場の前身となるプラハ仮劇場でそこで売られた花嫁はチェコ語で上演されたわけなのです。
このプラハ仮劇場ができるより前に、プラハにはティル劇場と呼ばれる古い劇場もあって
そこはモーツァルトがフィガロの結婚を上演して大成功した場所、
そしてその後ドン・ジョヴェンニの初演の場所になった場所でもあります。
ティル劇場って18世紀の後半からあるんですが、
もともとここは「ドイツの演劇」と「イタリアのオペラ」を上演するために作られた劇場だったらしく
そこにチェコはもちろんのことドイツのオペラも無いんですよね。
いかに当時(18世紀後半は)イタリアオペラが主流だったかがわかりますよね。
ただこのティル劇場っていうのは、モーツァルトのオペラが成功したり、その後はドイツのウェーバーが芸術監督になったりして、ドイツ語色が強い地域だったんですよね。(フィガロの結婚とドン・ジョヴァンニはイタリア語でしたが)
でもヨーロッパの情勢が変わってきて、19世紀の比較的早い時期からチェコ語の演劇やオペラを!という声はでてきていて、1824年にはなんとドン・ジョヴァンニが(別の劇場でですが)チェコ語で上演されているのです。
ウェーバーが魔弾の射手というドイツ語のオペラをベルリンで初演したのが1821年で
これがドイツオペラの金字塔などと呼ばれているんですね。
でもチェコの国民主義はドイツよりかなり遅いというイメージだったのですが、チェコ語のドン・ジョヴァンニから2年後にはチェコ語の新作オペラも実はできていたようなので(見たことはありませんが)、
ひたひたとチェコ語のオペラを作ろう、という動きは早い時期から出ていたんだなと思うのです。
そんな流れもあり、国民の為のオペラ劇場ができて、スメタナもチェコ語でオペラを作ったということじゃないかと思います。
ウェーバーがドイツオペラの金字塔なら、スメタナはチェコオペラの金字塔っていうところなのかな。
日本ではチェコの作曲家というと、ドヴォルザークの方が有名な気もしますが、
スメタナ劇場とか博物館もあるくらいでチェコではスメタナってドヴォルザーク以上に有名みたいです。
もともとはジングシュピールだった
売られた花嫁の初演は1866年ですが、初演当時は実はジングシュピール形式のオペラだったらしいんですよね。
簡単に言うと台詞入りのオペラです。
その後スメタナ自身が何度か直しを入れて、1870年にパリで初演した時のものが決定稿になり、
現在私たちが目にするのはこちらの方なんですね。
台詞のところがレチタティーヴォになったものです。
オペラの内容的にはオペレッタにあるような軽い恋のお話で、確かにジングシュピールになりそうなんですけど
もしこれがジングシュピールだったらかなり軽い感じのオペラになるんだろうなと思うんですよね。
というのもかなり台詞の量が多かったと思うので。
特に第二幕、ケツァルとイエニークのやり取りのところ。ここのやり取りは話の進行上かなり要だと思うんですけど、長めなんですよね。
ここのボリュームが割とあるので、台詞かレチタティーヴォかでずいぶん変わると思うのです。
もっとももともとは2幕までしかなかったので、この部分が今のように全部あったのかまではわかりませんが。
最初が台詞がある形式で→作り直してレチタティーヴォにして成功している例としては
ビゼーのカルメンもそうなんですよね。
でもカルメンを見ても別にこれが台詞だったら‥なんていうことはあまり考えなかったけど
売られた花嫁では、なぜか妙に考えてしまいました。
売られた花嫁って、ポルカとかフリアントっていうチェコの舞曲がふんだんに出てきて、チェコの雰囲気がたっぷりななので軽いオペレッタ的な感じかと思うと
踊り以外の部分については、軽快さではロッシーニのようでもあるし、メランコリックなシーンではまるでドニゼッティあたりを見ているかのような思ったよりちゃんとした(と言ったら失礼ですが)オペラなんですよね。
踊りはチェコ風、それ以外のところは従来のオペラっていうそんな印象を持ちました。
国民劇場のロビー(暗い‥)
台本は革命家だった?
売られた花嫁って恋人たちの幸せな物語で、ちょっとハラハラしたりするところはすごく台本が良いと思うんですよね。
スメタナの中でもっとも有名なのは音楽もさることながら、台本の良さもあると思うんですけど
その台本を書いたのはカレル・サビナというチェコの作家で、革命家でもあった人です。
1813年生まれだからスメタナより約10歳年上で、スメタナの最初のオペラ(ボヘミアのブランデンブルク人)もこの人が台本を提供しているんですね。
で、不思議なのはこんなに明るくて楽しいストーリーを作っている人なのに、かなり悲惨な人生を送っていること。
もともと作家ですけど革命家でもあったようで、警察に捕まっていてなんと死刑判決を受けているのです。
実際には死刑にならずに出てきますが、それでも18年間も投獄されていたらしく‥。
そして売られた花嫁を作ったのは刑務所から出てからのこと。
ずっと貧困に苦しんだ人らしく、細かいことまではわかりませんが、少なくともこの明るいオペラからは想像できないんですよね。
最後も貧困で亡くなったらしいし。
わからないものです。
とはいえスメタナの売られた花嫁は私としてはかなりおすすめなオペラです。
音楽は結構重厚で、チェコ風舞曲と踊りが見られること、そして第三幕もかなり見どころです。
売られた花嫁・簡単あらすじと見どころ
簡単あらすじ
マジェンカとイエニークは愛しあっているのですが、イエニークがよそ者だからと、マジェンカの親は二人の結婚を認めてくれません。
それどころかマジェンカは村の大地主の次男と結構するよういわれて困っています。
お金目当てにその大地主との間を取り持っているのはケツァルというずる賢い結婚仲介人。
ケツァルはイエニークにお金を渡してなんとかマジェンカをあきらめさせようとするのですが、
実はイエニークは家出した大地主のもう一人の息子なのです。
ケツァルの証文を逆手にとることにしたイエニークは、お金をもらって大地主の息子とマジェンカが結婚することを認めます。
それを知ったマジェンカは自分はお金で売られたと嘆くのですが、
証書には大地主の息子と書いてあっても具体的に名前は書いてなかったため、
実は自分こそ大地主の長男であると名乗り出て、めでたしめでたしとなります。
見どころ
チェコらしい見どころはやはり、第一幕の村人たちのポルカの音楽と踊り、
それに第二幕のフリアントというやはりチェコの舞曲です。
ヴェルディのオペラなんかをみると踊りというとバレリーナが出てきて踊ると言うイメージがありますが、
売られた花嫁に出てくるのは、フォークソングのような踊りで音楽も踊りも全く別物です。
登場人物としては、ずる賢いケツァル役が物語のキーマンで出番も多く、音域がバスでブッファの流れだなと思いました。
愛の妙薬のドゥルカマーラをちょっと思い出す感じですね。
あと大地主の次男のヴァシェクがどもりでおとぼけな役なんですけど、なんとも癒し系でオペラになくてはなら無い存在だと思います。
どんなケツァルとヴァシェクは主役じゃないけど結構見どころな役かなと。
あと二重唱、三重唱もとても美しいですね。
第三幕も見どころで、サーカスのシーンをどんな風にするかは演出が楽しみなところです。
ちょっとしたサーカスもどきが楽しめるようならラッキーじゃないかなと思います。
スメタナの売られた花嫁はぜひ一度はみたいチェコのオペラです。
プラハ国民劇場のロビー
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