素晴らしい組み合わせの2本立てオペラ
- 2021年4月
- 新国立劇場オペラパレスにて
- 夜鳴きうぐいす/イオランタ
新国立劇場のシリーズの今期7番目の公演を見てきました。
ストラヴィンスキーの夜鳴きうぐいすとチャイコフスキーのイオランタです。
今期新制作のオペラの中で実は私が一番見たかったオペラでもあります。
何しろレアで滅多に上演されませんからこれを逃したら‥っていう感じです。
そして見終わって一言で感想を言うなら
とてもよかった!特にイオランタが感動的、そしてこの2本の組み合わせも素晴らしいなあっていう感想でした。
組み合わせとか順番って難しいし重要じゃないかって思うんですよね。
プッチーニが三部作を作る時にそれぞれ全く違う趣向のオペラにしたっていうのを何かで読んだ気がしますけど、それくらいオペラの組み合わせって難しいのかなと。
今回おとぎ話2作だけど全く違うオペラで満足度は最高!上演してくれてありがとうって私は思いました。
夜鳴きうぐいす
幻想的な雰囲気で始まった夜鳴きうぐいす。
漁師の乗る船は光で型どって表現。
漁師は船には乗ってはいないけど、ゆらゆらした光や微妙に動く木のせいか水の雰囲気を巧みに表していました。演出ってすごいですよね。最近演出にもすごく目が行くようになった気がします。
そして最初のフルートがとても美しい。今回は二つのオペラは共にフルートの出番が多い気がしました。
特にうぐいすはフルートが大活躍。きれいな音色でした。
夜鳴きうぐいすってもとはバレエ団が上演したっていうくらいなので、バレエが入るのかな、どうなのかなと思っていたのですが
今回は多分バレエの人はいなかったと思います。その代わり目を引いたのが衣装。衣装がとても凝っていました。
中国風だけど歌舞伎のようでもあり、綿入れ?と思うような独特の素材を使っていてとにかく派手。さらにドクロや白い仮面、サムライまでいました。
そもそも短いオペラだし、話の展開もわかりやすいので楽しめるオペラ。ただし音楽は私にはちょっと難しい。
綺麗な声だけど美しいメロディかというとそういうわけでもなくやっぱりちょっともののけ感があるなあと(笑)
あと個人的にすごく気に入ったのが日本から来たゼンマイ仕掛けの鳥。
本物の夜鳴きうぐいすとは全く対照的で、サイボークのような衣装とギクシャクした動きがなんともおもしろくてもっと見ていたかったくらい。
なんなら動かなくなるところまでやってほしかったかも(笑)。
コントローラーで動かすのも今風。
歌については、やはり一番期待していたのはうぐいす役の声ですが、
期待以上の素晴らしく透明感のある声。今回夜鳴きうぐいすを歌ったのは三宅理恵さんというソプラノ。
今回始めて聞いたのですが本当に日本の女性歌手は層が厚いなと。
かなりオペラは見ているつもりだけどこんな美しい声の人がまだまだいたのねーと思いました。
特に王宮に行った時の最初の声が素晴らしかった。オーケストラもならないのですごく目立つし。
木の陰から出てきた夜鳴きうぐいすはいかにも鳥っぽい衣装。上着が羽のようだし、黄色くとがった靴はくちばし。衣装が凝ってました。
夜鳴きうぐいすで癒し系の役、漁師を歌ったのは伊藤達人さんという人。
綺麗であたたかい声だけどちょっと控えめの声量。もっと大きく出そうなのになあと。まだとても若そうなので、きっとこれから変わるのかなと思いながらも心地よく聞いていました。
あと目立っていたのは料理人役で歌っていた針生美智子さんという方。この人の声もよく響いていました。
あと死神の山下牧子さん、この方は後半のイオランタにも登場。ふくよかなメゾだけどイオランタの方がピタッとはまっていた気がします。
夜鳴きうぐいすはハッピーエンドに終わるのだけど、終盤また来るからねと鳥が去るあたりはなぜか闇を感じる音楽‥なんで?とちょいちょい不思議に感じるストラヴィンスキーの音楽でした。
ストーリーはわかりやすいしテンポがいいけどおとぎ話だからって子供が見たらきっと怖いよねとも思う、そんな夜鳴きうぐいすでした。
イオランタ
同じくおとぎ話なのにガラリと雰囲気が変わってイオランタは舞台に愛がいっぱい!
このオペラの感想を一言で言うとなぜこんなにいいオペラがこれまであまり上演されてこなかったんだろうということ。
チャイコフスキーはエフゲニー・オネーギンの方が有名だけど比較するとイオランタの方が好きかもしれない。
いずれにしてもチャイコフスキーの音楽はやっぱり美しいです。
舞台には白い階段と大きな炎のモチーフ。
イオランタの舞台セットは基本的に最初のまま変わらずですがこのイオランタというオペラは音楽と歌とそして「セリフ」を楽しみたいオペラだなと改めて思いました。
見ていて思ったのが「このオペラの台本って誰だっけ?」ということ。後で見たらチャイコフスキーの弟だったんですけどね。それくらい見ていて言葉がいいなあと思ってしまいました。オネーギンもそうですが、チャイコフスキーのオペラって言葉が美しいのが特徴なのかも。
そして今回始めて字幕制作の人も誰か気になって確認しちゃいました。イオランタは金沢友緒さんという方。オペラってたくさんの人がかかわってできてますよね。
今回タイトルのイオランタを歌ったのは大隈智佳子さんという方。この人の声は始めて。前半の三宅理恵さんが透き通るようなソプラノなのに対して、大隈智佳子さんの方はまろやかさがあるソプラノ。
同じソプラノでも人によって声はいろいろですよね。三宅さんの声はうぐいすにぴったりだなと。そして大隈さんの声はこの優しいオペラの主人公にぴったりだと思いました。
おそらくイオランタの設定は20歳前くらいの娘かなと思います。実際に歌う歌手はおとぎ話とは全然違うのにオペラが進むにつれ設定通りの人物に見えてくるのは、やはり声の力なんだと思うんですよね。
人の声ってやっぱりすごい。
そして今回最も感動したのがルネ王役の妻屋秀和さん。
妻屋さんはもうなんども見ていて最初に見たときから大好きですけど、今回のルネ王役は本当によかった。
見た目もぴったりだけど、王の苦悩と深い愛情、そして珠玉の音楽がたまらない!あのシーンから見ている私の心もほかほかと温かくなった気がしました。
会場からもとりわけ大きな拍手でした。
許嫁のロベルトを歌ったのは井上大聞さん。この方は少し前に悩める劇場支配人で見たばかり。そのときに若いのに年取った役をやっていて演技も歌もうまかったので、印象的でした。今回もやはりキラリと目立っていた気がします。
恋人役のヴォデモン伯爵を歌ったのは内山信吾さんという方。
見た目がちょっとお父さんに見えちゃったのと(もう少し若々しい衣装でもよかったのでは?)、ずり上げるタイプの歌い方は久しぶりに聞いた気がしました。高い声のときなどちょっとハラハラだったかなあ。体調悪かったのかも。
医者役のヴィタリ・ユシュマノフさんは最近ちょいちょい見る方。唯一外国の人で、異国風の衣装と雰囲気がよかった。新型コロナで海外の人が来られない今、この人の存在はとても貴重なのかなと、これは勝手な想像ですが‥。
村上公太さんも出ていて最近よく見るイメージ。すごく通る良い声で、私の中ではこうもりのアルフレード役がすごく印象的だった人です。
マルタ役は夜鳴きうぐいすで死神役だった山下牧子さん。この方を最初に見たのはヴェルディのレクイエムのとき。よかったんですよねその時も。声ってやっぱり残るもんです。あ、この人聞いたことあるかもって思うんですよね。マルタ役とてもよかった。
という感じでとても良いものを見たっていう満足感でいっぱいになった今回の公演でした。パチパチ!
最後に強いて言うなら、目が見える時もっと感動するイメージをもっていたんですけど、いきなり見えちゃった感があったのはなんでかな。
個人的には包帯は白がいいなあとか、ゆっくりとって欲しかったとかっていう細かいところはありました(細かッ!)。
あとイオランタが「お父様抱きしめて」と言ってるのにそばによらない父王。あれ?と思ったけどこれは新型コロナでソーシャルディスタンスを保ったということなんだろうと(笑)。早く普通に戻るといいですねえ。
もう一度父王のアリアのところだけでも見たいな。それくらいあそこは特によかったです。
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