- セビリアの理髪師(ロッシーニ)
- 2022年6月11日
- 場所:日生劇場にて
セビリアの理髪師を見てきました。
生でこのオペラを見るのはかなり久しぶりです。
今回感じたままをまず言葉にするなら
演出でこんなに変わるのねという印象。とにかく楽しかったです。
演技する人も楽しんでいたのかなって思うくらい楽しい雰囲気が伝わってきました。
セビリアの理髪師は、オペラを見始めた頃に何度か見たのですが、最近ではまあ見なくていいかなって言う部類になってしまっていました。
でも今日の公演を見たら認識が変わったと言うか‥
なんなら山形公演にも行っちゃおうかしらと思ってしまうほどもう一度見たくなる公演でした。
それにもう一つ改めて感じたのは「このオペラってめちゃめちゃ難しそう」ということ。
内容とは裏腹にコロラトゥーラがハンパないなと思いました。
バリトン声もコロラトゥーラをやりますしね。
回る舞台と楽しい振り付けがたまらない
会場に入ると木製の一段高い台がありその後ろにはカーテンのように見える大きなついたてがありました。
この舞台が180度まわったり90度回ったりします。
こう言う風にぐるぐる回る舞台は少し前の時代はよく見かける演出だった気がするのですが、最近は減ってきていた気がします。
最近は映像を駆使したり、動くとしても上下とか左右とか‥。
でも実はこういう演出って個人的には好きで、舞台が回る時ってどうなるんだろうって言うワクワク感はやはりあります。
角度が変わるとこんな風に違って見えるのねと言う不思議は楽しいです。
今回は大きな階段も運ばれてきたりと、舞台の変化がとても楽しかった。
衣装についても時代が感じられてそれぞれ個性があってセビリアの理髪師らしいというのか。
お忍びのアルマヴィーヴァ伯爵に比べてフィガロが派手な闘牛士のような服装で現れた時はおや?派手!と少し驚きましたが、あそっか主役だもんねと思い直し‥笑。
個人的には派手な衣装は大好きなので、バルトロの派手目な衣装もよかったです。
最近のオペラでは仮面をちょいちょい見かけるのですが、(先日見たオルフェオとエウリディーチェにも仮面が‥)今回も合唱に仮面ありで、この仮面さんたちの仕草が結構おもしろくて密かに笑ってました。
オペラ歌手の人たちってこういう動きできるんだっていう意外さが楽しいというか。
男性が履いていた靴は時代を感じるヒールありの不思議な靴。あれはあの時代っぽい靴っていうことなんでしょうね。
今あれを履いてたらかなり不思議(笑)。
今回のセビリアの理髪師がおもしろかったのはしぐさかなと思います。
オペラ歌手さんって演技うまっ!ってすごく思いました。
首をふりながら歩く仮面の人とか、フィガロの軽やかな身のこなし、
ドン・バジリオがゴシゴシアルコール消毒するとか
怒りで棒を折り曲げるロジーナの怪力に驚くフィガロのしぐさや
アルマヴィーヴァとロジーナのコロラトゥーラに一緒に入って唱和するフィガロとか。
そして兵隊の作戦1はあまり印象に残らないのですが、伯爵が音楽教師に変装する作戦2の方はやっぱり楽しい。
伯爵が大袈裟にピアノを弾く様子はなんとも滑稽。ここのアルマヴィーヴァ伯爵はノリノリでしたよね。
そして前半はそうでもないけど後半のバルトロも変な人すぎて憎めないキャラが爆発!
足がつったロジーナの足を触ろうとしてスライディングしたり
鼻を噛んだハンカチを返そうとしたり
伯爵の手紙にショックを受けるロジーナをみて踊って喜ぶかと思うと
年寄りなのに喜びすぎてそのあと腰をトントンする様子とか
ロジーナとメヌエットを踊ってるつもりがフィガロの手を握っていたり(笑)
もうバルトロがかわいいとすら思えてこういうバルトロいいなあって思いました。
細かいしぐさって振り付けの人が考えるのか演技の指導なのかその辺のことはわかりませんが、
喜劇の人に教わったのかなと思うようなノリの良さで、そもそも私がお笑い大好きだからか、言い出したらキリがないくらい楽しい瞬間がたくさん。
その瞬間を何度も見たいとそんな気持ちになりました。
そうそう嵐の様子もよかった。自然にパチパチがでて‥。ここでパチパチってめずらしいんじゃないかな。
自然にやっているように見えるけどすごい練習を重ねているんでしょうねえ。
歌手について
さて今回は歌もよかった。ベテランと若々しい恋人同士がいてがっちりっていう感じかな。
フィガロを歌ったのは須藤慎吾さん。
どちらかというとリゴレットとかトスカのスカルピアとか重厚で渋い役のイメージだったんですけど今回のフィガロを見てとても身が軽いのでちょっとびっくりでした。
演技とか表情がすごく絶妙で、個人的には怪力ロジーナに驚いて棒を覗きこむ様子が一番受けてましたけど、あとは
登場の時に観客に右、中、左と手をあげて挨拶したところ。ああいうのがさりげなくできるのってすごいなあと。
あれをされると観客としてはとても嬉しいです。なんかちょっと歌舞伎の「みなみなさま〜!」って感じですね(笑)
最後に一瞬一オクターブ上げていたのも須藤さんならではなのかなって。
早いパッセージもちゃんと聞こえてて技術がさすがなんだなあと改めて思いました。
ロジーナを歌ったのは富岡明子さんという人。
この方ははじめてだったんですけど、すごく安定した声。
低音がきれいだったので多分メゾかと思いますけど、ロジーナってソプラノがやることもあるくらい高音があるんですよね。
それもすごく力強くきれいに出てました。
コロラトゥーラがすごく上手なんですけどそれに加えて緩急と強弱がうまい人だなあと思って聞いてました。
ロジーナってかわいいだけの弱い女性ではないのでこういう安定した少し強めの声の人って合うんですね。
あと見た目がとてもかわいらしく、パンフレットの写真よりずっときれいでした。舞台姿が映える感じかな。
「今の歌声が‥」のアリアはやっぱり心に染みる曲ですねえ。
チェネレントラのシンデレラ役なんかも合いそう。
そしてアルマヴィーア伯爵を歌ったのは中井亮一さんという人。
若々しくてツヤツヤの声はロッシーニ系のオペラにぴったりの感じです。
最初のあたりであれ、オーケストラと合ってる?ってちょっとだけ思いましたが(少し硬い感じも)、それも最初だけで後半は演技がうまくて特に歌のレッスンの時はおふざけ具合が絶妙(笑)。
この役ぴったり!と思う演技と歌でした。
それにしてもこのアルマヴィーアっていう役はとりわけ難しそう。
最初のアリアからそして最後のアリアまでコロラトゥーラだらけだし、しかもなかなかに長いんですよね。
これが歌える人って少ないんだろうなあと感じてしまいました。
かつてロクウェル・ブレイクが、最近ではファン・ディエゴ・フローレスがロッシーニを得意としていたけどこれを完璧に歌える人少ないんじゃないかしらとさえ‥。
でも中井亮一さんという方はまだまだ声に余裕がある感じだったので、きっとこれからもロッシーニとかドニゼッティとかその辺を得意にして磨きをかけていくのかなって勝手に想像してました。
そうそう、リンドーロの時に自らギターを弾いて歌ってましたよね。
あれ?ほんとに弾いてるって思ってびっくり。肩紐もかけずにサラッと引いていたけどあの部分が実は一番よかったかもって個人的には思いました。
そうそうあと、中井さんレチタティーヴォが上手いなって。よく声が響いて聴きやすかったんですよね。
このオペラにとっても大事な役バルトロを歌ったのはベテランの黒田博さん。
黒田さんというとどうしても重くて重厚な役のイメージなのでこの役ってどうなんだろうって正直思ってたのですが、結果はピッタリすぎてむしろこっち系だった?と思うほど(笑)
前半は圧が強くて怖いだけのバルトロなのかなあ‥って思ってしまったのですが、
途中からそんな懸念を払拭して!えー、こういう演技してくれるんだという驚き。
腰をトントンしてましたけどほんとに大丈夫だった?と思うくらい演技に歌に楽しませてもらいました。
上手い人ってどんな役もこなしちゃうんだなあと改めて思いました。
そしてドン・バジリオ役が伊藤貴之さん。
この方は昨年の新国立劇場の「清教徒」で大事なジョルジョ役を歌っていたかと。
あの時にすごいいい声だなあと思ってましたが、今回も素晴らしい声。
こんないい声のドン・バジリオはじめてみたっていう感じです。
「陰口はそよ風のように」はよかったです。
そして最後にベルタ役を歌ったのは種谷典子さん。
この方は2021年の魔笛でパパゲーナ役、2022年2月のフィガロの結婚ではスザンナ役で拝見。
この人の声を聞くと「あ、ソプラノ声がいた」って思いました。
セビリアの理髪師は合唱も男性だし、ロジーナ以外もすべて男性声なのでソプラノがこのベルタ役だけなんですよね。
なのでそう思ったんだと思います。
この人のアリアも安定の声と技術でよかったですねえ。
そういえば前半最後のロッシーニらしいクレッシェンドはやはり聴きたかったのでとてもよかった。
それに後半最後に一人一人挨拶するように歌うところ。あれって今回独特なのかな?あのやり方はとてもよかったのでとてもお気に入り。ちょっと宝塚っぽくて楽しかったです。
今回の指揮者は沼尻竜典さん。今回久しぶりにセビリアの理髪師を見ようと思ったきっかけはこの方が指揮者だったっていうこともあります。
数年前に琵琶湖ホールにヘンゼルとグレーテルの指揮者セミナーを見に行って以来かな。
あの時のセミナーではオペラが出来上がっていく様子が楽しくて‥。
セミナーでは沼尻先生はいろんなことを言われていたけどその中で印象に残っているのが腕を下げるな!っていう言葉。
今日は座席からは残念ながらあまり腕は見えなかったのですけど‥。
この難しいアリア満載のオペラを作り上げるのって大変なんだろうなあってそんなことも思いながら見てました。
最後に今回のパンフレットの中でQ &Aになっていたページがありました。長屋晃一さんという方が書かれた中高生向けのページです。
このページがすごくわかりやすくて、中高生だけじゃなく私にはすごく親近感が持ててよかったです。
オペラってやっぱり楽しく見たいですもんね。
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