ペレアスとメリザンド新国立劇場2022年7月・現代解釈ってこういうこと?2人のメリザンド

シーズン最後のオペラ

毎年10月から始まる新国立劇場のシーズンオペラの最後の演目が今回の「ペレアスとメリザンド」。

今シーズンのオペラの中で個人的にはニュルンベルクのマイスタージンガーと並んで最も楽しみにしていたオペラです。

それくらい珍しいオペラ。

知り合いがパリで見てきたと聞いて「うらやましい!」と思っていたオペラです(笑)。

今回の新国立劇場は入り口で入場者リストの記入がようやく無くなり、会場内で飲食の販売も再開していました。

ただし、食べたり飲んだりするのは扉の外でということ。猛暑の中なので外で飲食している人はちょっと少なめかも。

私のように飲み物は買えないと思って持参している人も多かったのではないでしょうか。

(いつもあるシュークリームはちょっと食べたかったけど我慢しました笑)

ペレアスとメリザンドは5幕までですが、今回は前半を1、2、3幕まで、そして後半が4、5幕でしたね(グランドオペラの時代でもないのにそもそもどうして5幕なんだろう‥)

休憩は1回でした。前半が結構長かったですね。

メリザンドが2人?現代解釈ってこういうことなんだろうか

今回のペレアスとメリザンドの感想を個人的に一言で言うと

演出のことも色々言いたいのだけど、でも一言だけなら

こういうストーリー(つまり不貞と嫉妬から殺人へっていう実はドロドロのストーリー)なのにドビュッシーの音楽がつくとめっぽう上品になるんだなという印象です。

服を脱いでズボンを下げても官能のシーンでもやっぱり上品というかドビュッシーってそういう音楽なんだなと。

私はそんなにドビュッシーについては正直なところあまり知らないのですが、

音楽とシーンが高揚するところで、同じく高揚してもプッチーニのそれとはまた全然違うんですよね。

ドビュッシーは独特。どこまでもドビュッシーとでもいうか‥。

といいつつも今回はやはり演出もとても印象的でした。

かなりエッジの効いた演出だったんじゃないかと思います。

よく現代解釈っていう言葉を聞きますけど、こういうのを指すんだろうか。

演出のケイティ・ミッチェルっていう人のことを少し見ていたらヴァージニア・ウルフオーランドとかでてきたのでうーんそっかあ、なるほど‥とわからないなりに自分の中で納得するところもあり‥。

今回の演出は「メリザンドの夢」であるっていう設定をたまたま事前にネットで読んでいたのですが(パンフレットは買ってなくて‥)それを知らなかったら最初から全然わからなかったかもです。

夢ってわかっていても分からない部分は多々あったけど‥

森でゴローがメリザンドを見つけるシーンも森ではなく部屋の中。

森じゃないんだ‥

から始まり

の替わりに温室にあるかのような古びたプール

城らしいものもなく王様は背広を着てる‥

長い髪が2階から垂れるシーンもない‥

そもそもあまり髪も長くない

これが現代解釈ってやつなんだろうなと。自分なりになんとか解釈しようとするものの

なんでメリザンドが2人なのか、というのは結局よくわからなかったです。

2人いるからしばしばアフレコに見えちゃったりもして。

赤ん坊の意味もなんかあるんだろうなあ。

メリザンドが口から何かを出したのはなんだったんだろうとか。

ただ言えるのはそもそもメリザンドは不思議な女性なので、終始なぜ?っていうのがつきまとうのもこのオペラらしさなのかもしれないって。

それにもともとお芝居ではメリザンドをサラ・ベルナールがやっていたんだっけなあって思ったりすると、この不思議で退廃的な雰囲気はあっているのかもしれないと思ったりもしました。

そして、ゆっくりゆっくり歩くところは夢だからなのかしれませんが、ドビュッシーの音楽とはとても合っていたと思います。

新国立劇場の大きいはずの舞台が今回のペレアスとメリザンドでは

右側に小ぶりな部屋、左側にはらせん階段、それに時々見える2階になっていてどれも小ささを感じました。

カーテンが動いて各部屋を見せたり隠したりする演出だったのですが

これって‥もっと小ぶりな会場に合っているんじゃないんだろうかと勝手に感じたり‥。

2階はあってもなくてもいい感じだったし‥。

派手系な舞台が好きな私なので思ってしまったのだと思いますがこれも現代解釈っていうことなんだろうなと。

途中から一生懸命理解しようとするのをやめていた気がします。こういうものだと‥

古典的な舞台だと「そうそうこんな感じだよね」って誰もがわかるのに対して

「不思議!」「よく分からない!」っていうのが現代風の代名詞かなと思ってます(笑)

それにしても日本がこういうのを取り入れることはすごいと思う。それだけ見る人のレベルが高いっていうことなんですよねきっと。

それにしてもあのプールはどうしてあんなに汚いんだろう‥笑。

らせん階段とそのバックの感じもいかにも現代、なんなら未来を感じる色合い。これも現代風解釈なんだろうなあ。

脱いだり着たり

今回の演出でもう一つかなり驚いたのがメリザンドの下着姿

いきなり最初の服を脱がされて下着姿になった時はちょっとびっくり。

オペラ歌手が服を脱ぐことは時々あるけどモロ下着姿になることはそんなにないですよね。

ところが不思議なもので、その後何度も脱いだり着たりが繰り返されるのですが、

最初に下着姿を見せられちゃうと見ている方も徐々に当たり前になっていって次はどこで脱ぐのかなあと思うし全く驚かなくなってしまいます。

最初に赤いワンピースに着替えたあと足を上げて後転して起き上がった時はちょっとまたびっくりしましたけど‥

人形のように着替えをさせられるメリザンドを見ていると、これは場の変化を表すためもあるんかな?と思ったりもしました。(それにしては全部の場で着替えていたわけではなかったけど)

下着が見えそうな際どい姿勢を度々するのですが、そもそもこちらは下着からずっと見ているのでそこにはドキドキもせず、見えても別に‥ってなってしまうのは不思議なもんです。

そんな流れがあるので、後半ペレアスとメリザンドが2人とも洋服を脱いで抱き合う官能のシーンになっても(ここの音楽と歌がすごくよかった)変ないやらしさとかは全くなくて、なんだか見慣れたものを見るような不思議な感性にこちら側もなっちゃってました。

これも演出の効果なんだろうなと。いきなりあのシーンだけを見たら「え?!」って目が点になってた気がしますから笑。

今回のメリザンドは服も現代風なら食事中の机に土足で乗ったり、ペレアスに飛びついたり(飛びつき方が野生的)祖父の王に体を撫でられたりと

美しくてしとやかというよりどちらかというとはすっぱな女性のイメージでしたね。でも音楽があるからそうは見えないのが不思議。

歌手について

今回はフランス語のオペラということで歌手の方もフランス語系の人が多かったのかなと思います。

ペレアスを歌ったのはベルナール・リヒターという人。あの中ではすごく若々しく見えましたけどそれでも49歳にはなっていたんですね。

きれいなテノールの声。後半のプールでのジュテームから刺されるまでのところが個人的にはすごくよかったです。

メリザンドを歌ったのはカレン・ヴルシュさん。こちらはフランスのソプラノ。

なぜか顔が覚えにいなあと思ったのですが、声がとてもきれい。語尾の伸ばしのビブラートが特に独特で美しかったです。

低音もきれいだったので一瞬メゾなのかなと思いました。

意識せずに男をダメにしていくところや成り行きに任せる感じがベルクのルルをちょっと思わせましたが、やはり今回この人ありきの舞台だったなあと思います。

そしてゴロー役がロラン・ナウリさん。フランスのバスバリトンだそうですが

個人的には一番好きだったのがこの人の演技と声。温かみのある声は声だけでうっとりさせられてしまう魅力があります。

今回ゴローの苦悩がすごく感じられてよかった。

メリザンドは一眼あった時からペレアスが好きだったんですもんね。ゴローがかわいそうすぎる。

とはいえ、ゴローがペレアスを刺し殺したあと「理由もないのに殺してしまった」「2人は兄弟のように‥」はないよね。理由はありありなのに、認めたくないのか‥。

そうそうこのナウリさんってナタリー・デセイさんの夫なんですね。実はビッグカップルでした。

この人の声はまたぜひ聞きたいです。

そしてアルケル役はいつも安定の妻屋秀和さん

王役がピッタリ。

母役のジュヌヴィエーヴは浜田理恵さん。この方はドビュッシーの放蕩息子で母役になっていたかと思います。

同じくドビュッシーなのでこの人だったのかな、フランス語がうまいのかなと。

そして子供イニョルド役は九嶋香奈枝さん。今回イニョルドに2人を覗き見させるシーン、ここは唯一ちょっと雰囲気が違っててよかったです。

声もよく響くきれいな声。子供の緊迫感が伝わっててよかった。一緒に見ているはずのゴローをそっちのけで

メリザンドが一緒にのぞいているのが何ともシュールで不思議ではありました‥。

そして医師役は河野鉄平さん。夏の夜の夢では妖精パック、ワーグナーではオランダ人といろんな顔を見せてくれる方です。顔に特徴があるので一度見たら覚えちゃう方です。

そしてメリザンドの分身役が安藤愛恵さん。今回は黙役でしたが出番がとても多くて不思議な存在感。

最後に本物のメリザンドにクッションを押しつけられて窒息させられてた?

タイミングとか演技実は大変なんだろうなあと思いました。

というわけで不思議な不思議なペレアスとメリザンドでした。

最後のカーテンコールも狭いお部屋のみ開けていましたけど、最後は全部開けて欲しかったなあと私は思っちゃいました。

なんだかわからないけど最後に開放感が欲しかった。

そして今回の退廃的なこのお話は、別の音楽をつけたら全く別物だなあ(当たり前なのですが)というのを強く感じてしまいました。

それくらいドビュッシーの音楽が上品で美しかったです。

ドビュッシーのすごさが今回のオペラでちょっとだけわかった気がしました。

ペレアスとメリザンド青ひげ城から逃げてきた

もよかったらどうぞ。

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