ヴァッカイのオペラと同じ台本が使われた
今回はイタリアのベッリーニのオペラ「カプレーティとモンテッキ」についてです。
- 作曲:ベッリーニ
- 台本:フェリーチェ・ロマーニ
- 初演:1830年
- 場所:フェニーチェ歌劇場(ヴェネチア)
カプレーティとモンテッキという題ですが私などには「ロメオとジュリエット」と言った方が馴染みがあるお話です。
カプレーティ家の娘がジュリエットでモンテッキ家の息子がロメオ。
このオペラを見てよく知っている「ロメオとジュリエット」とは少し違うなと思ったのは、
「ロメオとジュリエット」ではラストでロメオが死んでからジュリエットが目を覚ますのに対し、
「カプレーティとモンテッキ」の方ではまだロメオの生きているうちにジュリエットが目を覚ますところかなと思います。
あ、違うんだな‥と。
最後はどちらも二人とも死んでしまうところは同じです。
さてこの「カプレーティとモンテッキ」というオペラの一番の特徴は何かなというと
同じ台本で二つのオペラがあってそのうちの一つであるいうことではないでしょうか。
カプレーティとモンテッキの台本はフェリーチェ・ロマーニと言う人が書いているのですが、実はこの台本はヴァッカイと言う人の「ジュリエッタとロメオ」と同じなのです。
ヴァッカイのジュリエッタとロメオは1825年初演のオペラ。
つまりヴァッカイの方が先です。
ロマーニはヴァッカイのために書いた台本を手直ししてベッリーニに提供したようです。
今だったらこんなことありえないと思うのですが、当時ってまだ著作権とかそういう規約が確立していなかった時代だからなんでしょうね。
あとフェリーチェ・ロマーニっていう人は当時かなりの大御所で、ノルマとか愛の妙薬なども作った人です。
当時は台本作家の地位も明らかに強かったようだし、
完成を急がされていたっていう事情もおそらく影響してそうなったんじゃないかと。
これは私の勝手な想像も入ってます。
同じ題名や同じ題材のオペラっていうのは実はかなりあるのですが、同じ台本っていうのは私が知る限りあまり聞いたことがないんですよね。
いずれにしても現在はベッリーニのオペラの方が有名なので私もヴァッカイのオペラのことは全然知らず、なるほどねえと思ったのでした。
カプレーティとモンテッキの一部分をヴァッカイの曲に置き換えて上演したっていうこともあったようなのですが、これも同じ台本だからこそ出来たことですよね。
ロメオはメゾかテノールか
カプレーティとモンテッキのロメオ役はメゾソプラノがやることが多いと思うのですが、それがちょっと変わってるなという最初の印象でした。
ヘンデルなどのバロックの時代のオペラなら男性役を女性がやるっていうのはごく普通だったし、その後もフィガロの結婚のケルビーノとかばらの騎士のオクタヴィアンなど男性役を女性がやるっていうのはもちろんあるのだけど
同じような時代のロッシーニとかドニゼッティのオペラを見ると主役の恋人役っていうのはすでに男性(特にテノール)がやるっていうイメージがあるんですよね。
なのでベッリーニのオペラではまだ男性じゃなく女性がやるんだなあという漠然とした感想。
とはいえロッシーニのセミラーミデのアルサーチャ役(男性)はメゾまたはテノールとなっていたりするんですよね。
少し後のヴェルディの頃になるとヒーローとか恋人役ってもう男性(テノール)なんですよね。そういうのを見るとベッリーニの頃って過渡期だったんだろうかと思ったりします。
と言うより歌手ありきなのかなと。
いいメゾソプラノがいればメゾがやるし、いいテノールがいればテノールがやるとかね。その辺はまた私の想像の域です。
実は初演の時のロメオ役って「ジュリエッタ・グリージ」っていうメゾソプラノなんですよね。この人は名歌手だったらしくそういう歌手の存在も当時は大きかったんだろうなと、そう思います。
ちなみにジュリエッタ・グリージの妹のジュリア・グリージはノルマの初演とか清教徒の初演なんかにも出てるんですよね。
いずれにしてもカプレーティとモンテッキの初演の主要メンバーは錚々たる歌手だったようで、大成功をおさめたのだとか。
現在ではロメオ役はテノールがやることもあるようなので、オペラを見る時はまず、ロメオ役を女性がやるのか男性がやるのかっていうのは注目したいところかなと思います。
あくまで個人的な感想ですけど、第一幕は大勢の男性兵士の中にひとりロメオがいるシーンが結構あるんですよね。小柄なメゾソプラノだと大勢の男性に囲まれて威勢良くやってもなんか弱そうってちょっと感じちゃうかなあ、っていう気はします。
ただそうなると恋敵のテバルドもテノールなのでやっぱりメゾがいい!など勝手にいろいろ思うのでした(笑)
ついでに言うとカプレーティとモンテッキには、死んだように見える薬を勧めるロレンツォっていう医師の役があって、低音のバスが担当するんですけど、これについては途中で一度テノールになったのだとか。
理由は良いバス歌手がいなかったとか。なるほどです。
でもこの役がテノールっていうのは無いなあって思っちゃいました。
カプレーティとモンテッキ簡単あらすじ
ではカプレーティとモンテッキのあらすじを簡単に書いておきます。
カプレーティ家は先の戦いで息子をモッテッキ家のロメオに殺されてしまったために復讐を誓っています。
ところがカプレーティ家の娘ジュリエッタとロメオは恋人同士という関係。
ロメオは和解を求めてカプレーティ家にやってきます。(この時自分を亡くなった息子の代わりに思って欲しいというのですが、殺したのにそれは無いなあと思う、台本が弱いと言われるのはその辺なのかな)
ジュリエッタはテバルドと結婚させられそうになります。
両家の行く末とジュリエッタ達を心配した医師のロレンツォは、ジュリエッタに一定時間死んだ状態になる薬を渡し、ロメオと二人で逃げるよう勧めます。
ところがこのことをロメオに伝える前にロレンツォがカプレーティ家に幽閉されてしまったのです。
ジュリエッタが本当に死んでしまったと思ったロメオは自分も毒を飲み、
その時ジュリエッタが目覚めるのですがすでに遅く、ジュリエッタはロメオの剣で自らを刺して死んでしまうのです。
カプレーティとモンテッキ見どころ
このオペラにはバリトンがいないんですよね。ロメオがメゾソプラノで恋敵がテノール。あとはバス歌手というわけで、ロマン派オペラにありがちな恋敵はバリトンっていうわけではないです。
第一幕1場のテバルドのアリア「この剣で復讐をする」は復讐の歌ですがベッリーニらしくまるで恋人役のような美しい曲。逆言えば復讐っぽくはないけど。
テノールの聞かせどころなので見どころ。
第一幕1場はテバルドの見せ場が多いです。
第一幕1場後半はロメオの見せ場もあってこちらは甘いアリアから怒りのアリアへ。第一幕からこれを歌うのは大変だろうなあと思う曲で初演の歌手のイメージで作ったのかなと勝手に思って聞いてました。
またこれはベッリーニの特徴かもしれませんが、アリア以外の会話の部分も美しい音楽とともに進んでいくなと言うイメージ。バロックのレチタティーヴォとは全く別物。オペラって本当に時代により違いますねえ。
第二幕1場のジュリエッタの「私は死を恐れない」はとても良い曲。アリアから2重唱に自然に変わって最後はまたひとりのアリアになっていくというのもちょっとした特徴じゃないかとおもうので見どころ。
薬を飲んだ後のジュリエッタのアリアも美しい曲。
第二幕1場はジュリエッタの見せ場で見どころですね。
第二幕2場はロメオとテバルドのシーンでこの部分だけヴァッカイの曲に入れ替えたことがあるというところだと思います。
確かにパッとしない気もするけどでも終盤のロメオとテバルドの二重唱はなかなかいいけどと思ったりもします。
第二幕3場の最終章。ロメオは「天に上美しい魂よ」をうたいますが、これは普通かなあ。歌う人により違うかも。
とはいえやはりベッリーニは個人的に大好きな作曲家。美しいメロディーは涙を誘われます。
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