コンサートを聴きに行ったことはあるけど、オペラを観に行ったことは一度もないとか
オペレッタは見るけどオペラは見ない、
という人は比較的多いんじゃないでしょうか。
オペラは、オペラ歌手、合唱の歌手、舞台セット、演出などなど必要な物が多いので手間も費用もかかります。
だから上演回数自体がそもそも少ないということはありますが
もう一つの理由は、オペラを上演出来る形式の歌劇場が少ないということもあると思います。
歌劇場の形式
オペラは、通常のコンサートと異なり、オーケストラピットというオーケストラ用のスペースがある形式の歌劇場が必要です。
どこでもできるわけではないんですね。
まあ、普通のホールでもできるといえばできるし、実際そういう上演もあるんですけど、
オーケストラが同じ高さだとやっぱり声が届きにくいと思うし、できればちゃんとした劇場で聴きたいと私は思うんですよね。
ただ、古いオペラなんかはそもそも誰かの邸宅で上演したとか、宮殿の中で上演したとか
おそらく今みたいに整った劇場ではなかったと思うのですけどね。
オーケストラピットというのは舞台の下に少しもぐるようになっているスペースで、
そこにオーケストラの人たちが入って演奏するようになっています。
歌手の声が客席に通るような構造の形式になっているんですね。
東京の場合、オペラが上演できる主要な歌劇場といえば有名なところは
- 東京文化会館
- 新国立劇場
があげられます。
主要なオペラはこの二箇所で上演されることが多いです。
日生劇場、オーチャードホール
などでもオペラは上演されていますが、日生は小ぶりでピットも狭めなので、こじんまりしたオペラ向き。(実は個人的には聴きやすいのでここも好きなのですが)
またオーチャードホールはどちらかというとコンサート向きで、平土間の傾斜が少ないので
オペラを見るにはちょっと見にくいのが残念です。
かつてはオペラはNHKホールでも行われました。
特に有名どころの引越し公演なんかは、おそらく観客もなるべくたくさん呼ばないといけないからかキャパの多いNHKホールを使っていたのだと思いますけど、最近は ほとんど使われなくなっています。
NHKホールはかなり古いし、新国立劇場ができたこと、広すぎて見にくいので私もあまり好きではなかったのは確かですが。
さて東京以外の地域については、実はきちんとオーケストラピットがある形式の歌劇場はほんとに少なくて、
- 神奈川県のよこすか芸術劇場
- 滋賀県のびわ湖ホール
- 愛知県の愛知芸術劇場
- 兵庫県の芸術文化センター
などが主なところです。
オペラを見ようと思っても歌劇場があまりないので
オペラを見るためには遠くまで出かけないといけないんですね。
ただ、きちんとしたオーケストラピットがなくても、オペラを上演していることはよくあります。
前の方の座席をつぶしてオーケストラピットの代わりにしたり、
舞台の上にオーケストラを乗せてしまい、舞台の残りのスペースでオペラの舞台もやってしまうとか。
半分は下、半分は舞台に乗るということもあります。
またはコンサート形式と言って歌手は演技をせず前に立って歌だけを歌うオペラのやり方もあります。
サントリーホールはコンサート用のホールですが、ここでオペラをやるときはこのコンサート形式でやっていますね。
海外の歌劇場
馬蹄形の歌劇場
海外、特にヨーロッパには馬蹄形の歌劇場が多くあります。
日本では見かけない形式の、歌劇場です。
- イタリアミラノのスカラ座
- オーストリアのウィーン歌劇場
- フランスのパリオペラ座
に代表するような、これらの馬蹄形の歌劇場はホール全体が馬の蹄につける馬蹄の形をしているんですね。
馬蹄形は横の席は舞台の方を向いているわけではないので、必ずしもオペラが見やすいかというとそうでもないのですが、
昔は、歌劇場は社交の場でもあったので、ずっと舞台を熟視して観ているという感じではなかったのです。
アリアが始まると話をやめて聴く、またはお気に入りの歌手が歌うと聴いていたと言われています。
馬蹄形の歌劇場の中でも、上記の様な歌劇場は2階以上がボックス席になっており、それぞれのボックスには5~6人の座席があるようになっています。
小さなプライベート部屋のようになっていて、一つ一つの部屋にはちゃんと扉がついているんですね。
今では知らない者同士が同じボックスに入って座っていますが、
おそらく昔は知っている者同士が同じボックスをとって見ていたのだと思います。
私も実際にボックス席で観劇してみたことがあるのですが、
歌劇場自体が歴史がある古い建物なので仕方がないとしても、思ったほどきれいではなく狭くてちょっと閉鎖感がありました。
また、両側が壁なので、場所によっては若干見にくさは否めません。
ボックスの中は前列と後列の2列、または3列になっていて
特にボックスの中の後列だととても見にくいのですが、立って観ても構わないのは助かりますね。
後列なら眠っていても全然わからないでしょう。
また、歌劇場にもよりますが、歴史ある歌劇場の2階の真正面にはボックスではなくオープンな特別席があって、かつては王族などが観劇する際に座っていた席だったといわれています。
一番見やすい席ですね。
そこはチケットの値段も高めでした。
17~18世紀のイタリアにおいて歌劇場の形式は馬蹄形以外にもU字型の歌劇場や
釣り鐘型、楕円型、半円型、長方形型などがあったのですが、
形式別の歌劇場の建設数を見てみると、
やはり最も多く作られていたのは馬蹄形の歌劇場でした。
馬蹄は馬の蹄につけるものですが、今のように電車や車がなかった時代は、移動の手段は馬だったので
どの家庭にも馬蹄はあったんですね。
特に倉庫にあるような古くなった馬蹄は魔除けとか、福を呼ぶといわれて、
ヨーロッパの人々にとっては特別な存在でした。
そんなことも影響して、馬蹄形の劇場が生まれたのではないかと思います。
もちろん観客同士が見えた方がいいという当時の事情もあったのでしょう。
余談ですが馬の蹄の形はチーズにもなっていて、フランスには馬蹄形の形をしたバラカというチーズがありますね。
日本にも入ってきていますが、外がふわふわのおいしいカマンベールタイプのチーズです。
ドイツ式の歌劇場
日本の歌劇場をはじめ、近年つくられている歌劇場のほとんどは、椅子が全て舞台の方を向いています。
馬蹄形の場合、左右のボックス席は舞台ではなく、完全に向かい側のボックスの方を向いているんですね。
現在のような舞台の方を向いた劇場をつくる先駆けになったといわれるのがワーグナーが作った歌劇場です。
ワーグナーはしゃべりながらとか、雑談をしながら見るような観劇の仕方ではなく、
オペラの舞台に集中して観るための歌劇場の構造にとてもこだわったんですね。
ドイツのバイロイトにあるバイロイト祝祭劇場は、ワーグナーの強烈な個性の元に作られた劇場で、ワーグナーのオペラを上演するための歌劇場です。
建物は音楽が最良の音で鳴るような構造で造られ、オーケストラピットは斜めに傾斜して舞台の下に入るようになっており、オーケストラに遮られず、歌手の声が響くようになっているんですね。
このバイロイト祝祭歌劇場は歌劇場の中でも特別な存在で、世界中のワグネリアンとよばれる熱狂的なワーグナーファンたちの殿堂の場所といわれています。
一生に一度は行きたいバイロイト詣でという言葉もいわれるくらいなんですね。
現在の日本の歌劇場やコンサートホールのほとんどはこのバイロイト祝祭歌劇場の造りの流れを組む形式で
扇形形式に作られているところが多く、東京文化会館も新国立歌劇場もこの形式で、池袋の芸術劇場もそうです。
また、東京のサントリーホールは舞台の後ろにも席があり、舞台をぐるりと囲む形式になっているので、アリーナ型とよばれ、
オーチャードホールはシューボックス(靴箱)と呼ばれる完全長方形型の形式になってますね。
歌劇場と呼ばれる以前にはサーラとかスタンツァといわれるホールがあってかつてはそこでオペラを上演していたのですが、
16世紀前後のこれらのホールはまだオペラ専門というわけではありません。
オペラを劇場で見るということ、またオペラ自体まだちゃんと形になっていなかったということもあります。
形もほとんどシューボックス型だったといわれています。
要するに普通の部屋の形ですね。
その頃は貴族の私邸や宮殿の一室を使っていましたから四角い部屋でやっていたということだと思います。
もし海外でオペラを観る機会があれば、ぜひ馬蹄形の歌劇場に行ってみるといいと思います。
雰囲気も豪華さも全く別世界のようです。
その際はイブニングドレスを持って行って着て行くのもいいと思いますよ。
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