珍しいオペラを見てきました。
エマニュエル・シャブリエという人が作曲した「エトワール」(星占い)というオペラブッフ(喜歌劇)。
2019年9月15日。場所は新国立劇場の中ホールです。
エトワールというのはフランス語で「星」という意味があるらしく、そういえばエトワールって言う言葉を社名につけたりしているけど、星って言う輝かしい意味があるからだったのねと思っちゃったりしました。
今回のエトワールの主催は東京オペラ・プロデュース。
前回はグノーのロメオとジュリエットを見させてもらいましたが、
いつもめずらしいオペラを扱ってくれるので、私にはとても嬉しい団体さんです。
シャブリエっていう作曲家は私は知らなかったし、オッフェンバックが作ったブフ・パリジャンで上演されていたというのもとても興味深く、
そんなわけで楽しみにしていた演目です。
見たことのないオペラが見られるっていうのはワクワクするものです。
エトワールってどんなオペラ?
一言で言うとストーリー的には、しょうもない王様が出てくるし、インチキ臭い占い師がいるし、
くだらない話なんですけど、よくできた話だなという感想。
オペラってたくさんあるけど、全体的にはストーリーがどうもねとか、あっけなく終わりすぎるとか、パンチが無いとか、台本が弱いとかあって
なかなか、これだ!すばらしい!っていうものが意外に少ないと思うんですけど
エトワールっていうオペラは、最後に万事うまく収まっていく流れが絶妙、ハッピーに終わるところはなんとも気持ちがいい感じなんですよね。
その点ではブッファ(喜歌劇)の方がストーリーってよくできてるような気がします。
人を笑わせたり楽しませたりするのは、それだけ難しいって言うことなのかも。
エトワールはもともとフランス語ですが、今回はセリフは日本語、アリアや合唱はフランス語
という混在型の上演でした。
おかげでとても話がわかりやすかったですね。
全3幕ですが、思ったより長くて特に第一幕は1時間程度もありました。
ハズキルーペのCMのまねとか(字が小さすぎて見えない!というやつ)
働き方改革を意識してか、給与と残業を気にする占星師のくだりとか
ミサイルを飛ばす国のこととか
日本の時事ネタに合わせたセリフも多かったので、セリフによって時間が変わるということなのかなと。
こういうのがあるからおもしろいんですけどね。
「愛しちゃったのよ」の歌(マヒナスターズの曲?)をもじって→「害しちゃったのよ」
って歌ってましたけど、これはさすがに古すぎて‥笑。
内容的には当時の風刺が多かった時代ということで、それは国王の
「政治が長く続くと王に反対する者がいない」とか
「星占いで政治をしないと、わしは何をしていいのかさっぱりわからん」というくだり。
これきつい風刺だよねと思いつつ、日本の政治家もポリシーを持ってもらいたいなあ、なんてこともふと思ったりしました。
セリフに時事ネタを入れているのは個人的には楽しかったですね。オペラセリアにはありえないですから。
今回の演出
舞台にはおとぎ話のイメージのセットを置いてあってこれが回るという演出。
ワクワク感のする出だしの音楽で始まり、しばらくするとピエロの格好をしたパントマイムの人が登場。
パントマイムはあまり生で見たことが無いので、よくわからないのですが、
意外にゆっくりの動きなんだなという印象。
パントマイムは各幕の最初に登場していましたけど、これって今回の演出なのか、もともと台本にあるのかはわかりませんが、楽しそう!っていう雰囲気でもなかったから
語り部的な存在だったのかな。個人的には楽しい雰囲気が欲しかったけど‥。
串刺しの刑に使うという椅子は下からナイフが飛び出てきて、痛そうだけどくだらなくて‥笑
第二幕では同じ舞台だったので、変わらないのねと思っていたら、始まりと同時に動き始めて。
この手法って、舞台の変化を見るのもおもしろいので、いいですよね。
角度によってこんなに違うんだと感心します。
第二幕の最後と三幕のラストはフレンチカンカンでも入るところなのかなという感じ。
さすがにそこまで求めちゃいけないとは思うけど、この流れだと見たいなあとは思ってしまった。
お話の中で出てきていた「シャルトリューズ」というお酒、実際にあるんですね。
薬草入りでリキュールの女王と言われているとか。どんな味なんだろ、そのうち飲んでみたいけど。
さて、ブフ・パリジャンの人気のせいで、フランスではシリアスなイタリアオペラの人気が落ちたというけど
ブッフ・パリジャンの方は言葉もフランス語だし、この楽しさだし、
もし当時私がいたなら、どっちに行きたいかと想像すると
チケットの値段にもよるけど、チケットが安くて華やかな踊りがあるなら日頃はブフ・パリジャン劇場の方に行ってしまうかもしれない、
でも時々は豪華なグランドオペラも見たいかなあ。
音楽と歌手について
序曲の後オケが全員が起立するのは、前回もそうだったけど東京オペラ・プロデュースの特徴の一つです。
真摯な印象ですよね。
さて、今回の出演者でもっとも印象的だったのはやはり主役のラズリを歌った醍醐園佳さんというソプラノ。
よく響くし、まったく濁りの無い声は安定度が抜群で素晴らしかったです。
見た目もかっこいい青年という感じでラズリにぴったりなのですが、
一点残念だったのは全体に動きが小さかったこと。
ラズリは若さ溢れる元気な青年だと思うのですが、
ほぼ手が下に下がっていて、動きが無い印象。
自分が殴ったのが国王だったとわかっても反応が無いし、
もっと体も使って表現してくれたら、さらに声も素晴らしく聞こえてきそうな気がしました。
多分演出じゃ無いと思うけど、頭をごつんとぶつけちゃいましたよね、あの時会場からもちょっと笑いがあったし、頭もなでられていたけど
「痛い!」とか「痛っ!」のアドリブが一言欲しかったなあ。
本当に痛かったんじゃないかと思いますしね‥ゴンって音が聞こえてたから。
ただ、王様の「わしは恋したことが無いからわからん」に対して
「ボーッと生きてんじゃねーよ!」とまったくその通り。会場の私もちょっとドキッとする言葉でした。
王様のウーフ1世を演じたのは青柳素晴さんというテノール。
王様がテノールというところからしてちょっと軽い感じですよね。低い声のイメージがあるから。
もっともセリアでは王様はキンキンのカストラートが歌ってましたけど。
しょうもない王様だけど憎めない感じがぴったりで、演技も光ってました。
この方イエヌーファとかタンホイザーとか結構重い役をやっているんですね。
このオペラのタイトルにもある星占いの占星術師のシロコ役はバリトンの米谷毅彦さん。
普通の大学をでてからオペラを目指した方みたいですが、こういう経歴の方って意外に多いんですよね。
以前はみなさん最初から音大に行くのかなと思っていたんですけど。
他の人もそうですが、セリフも出番も多いので、オペラでこんなにセリフを覚えるのって大変じゃないのかなと思っちゃいます。
一番受けたのは、舞台が回った時に「あ!、回っている」と言ったこと。受けてましたよねー。
笑いのツボが私的にはドンピシャで、今思い出しても笑いが‥。
あれまさかアドリブじゃないですよね。
ラウラ王女を歌ったのは江口仁美さんというソプラノで、さりげない演技が上手だなと。
ラウラと入れ替わるアロエスを歌ったのはメゾの岩﨑愛さんという人。
岩﨑さんという方はメゾだったのねという感じ、高い声もよく出ていたのでソプラノかとちょっと思ってました。
4人で歌う四重唱はきれいでしたね。
エリソンを歌ったのは西塚巧さんというテノール。途中から東北弁になっちゃってましたが、どこ出身?と思ってパンフレットをみましたがわからず→青森の方なんですね。
東北弁ってあったかい感じで好きなんですよね。
パンフレットといえば、
先日東京文化会館で英国ロイヤルオペラのファウストを見たんですが、その時のパンフレットは3000円。
高いなあ‥。
でもS席が59000円だから3000円くらいどうってことないのかもとも思うけど、やっぱり高い。
そもそも私はあまりパンフレットは買わない方なんですが
今回は知らない作曲家の知らないオペラなので500円でパンフレットを購入しました。
出演者のプロフィールがすぐにわかるので、あればあったで楽しいです。
それにしてもブフ・パリジャンってもっとくだけた感じかと思っていたんですが、音楽はきれいだし思ったよりまじめなオペラだなという印象。
超絶技巧の歌とかそういうのは無いけど、その分気楽に見られるし、肩の凝らないオペラっていうのも良いもんです。
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