オッフェンバックはオペレッタで有名です。
その代表作は天国と地獄(原題:地獄のオルフェ)ですが、
オッフェンバックは亡くなる直前に、シリアスでちょっと不気味なオペラも作りました。
それがホフマン物語です。
3つの物語
ホフマン物語は、主人公ホフマンの3つの恋愛の物語です。
第1幕ではゼンマイ仕掛けの人形に恋して
第2幕では高級娼婦に恋をして
第3幕では歌を歌い続けて死んでしまう歌姫に恋をする
(第2幕と3幕は順番が入れ替わることがあります)
このように、3つの物語すべてに、ホフマンがかかわっているのですが、
3つはの物語はそれぞれ独立していて、続きではありません。
通常のオペラは、1幕〜3幕まであっても、話は続いているので、
このような形式のオペラは、珍しいと思います。
プッチーニの作品に、三部作というのがありますが、こちらはまたちょっと違っていて
主人公も内容もすべて別ものの、短いオペラ3つです。
三部作は分けて上演されることの方が多いくらいなので、また違う形式なんですよね。
ホフマン物語は、原作が短編小説なので、オペラも短い短編小説を見ているような気持ちにもなるのではないでしょうか。
また、ホフマンの3つの恋の物語というと楽しいイメージが浮かびそうですが、
実際のところは、それぞれ悪魔がかかわってくる、怖いオペラ。
でもなんとも言えず、引き込まれるのは、
音楽が素晴らしいことと、不思議なストーリー性ではないかと思います。
E.T.Aホフマンの原作本
ホフマン物語の原作は、E.T.Aホフマンという人の短編小説です。
中でも1幕目のコッペリウスが作った人形にホフマンが恋する話の原作は、砂男という小説で、
これがとっても怖いのです。
砂男というのは、夜になっても眠らない子供の目玉をとってしまうといわれる悪魔。
主人公は、砂男が本当にいるんじゃないかと怯えて精神がおかしくなっていくのです。
この小説で、主人公は向かいの窓に見える人形のオランピアに恋をしてしまうのです。
そして、見え隠れするコッペリウスという不気味な男の存在。
不思議で怖い物語です。
ところで、日本でもありましたよね。
眠らない子供にいつまでも眠らないとおばけが来るよ、といわれること。
私などは、昼間の3時は人間のおやつの時間、夜の3時はおばけのおやつの時間だと言われ、
幼い時は、本当におばけが来ると思って一生懸命寝ようとしたのを思い出します。
また、この砂男を元にして、バレエも作られていて、それがコッペリアというバレエです。
コッペリアを作曲したのは、ドリーブという作曲家ですが、
こちらは原作の不気味な雰囲気は排除して明るいバレエになっていますね。
ホフマン物語には、第2幕、第3幕にもすべて悪魔が出てくるのですが、最も有名なのは人形のオランピアが出てくる第1幕ではないかと思います。
初演と多くの版
<初演>
- 作曲:オッフェンバック
- 初演:1881年
- 場所:オペラコミック座(パリ)
オッフェンバックが亡くなったのは1880年なので、初演の1年前です。
オッフェンバックは、ホフマン物語を完成せずに亡くなってしまったんですね。
そのため、ホフマン物語にはいくつかの版が存在するのが特徴です。
最初は友人のギローという作曲家が未完の部分を補完し、これがギロー版とよばれるもの。
その後シューダンス社による楽譜ができ、これがシューダンス版と呼ばれ、主としてこの版が上演されてきたのですが、
その後さらに、エーザー版というのもあり‥。
と言う具合に、作曲家が完成せずに亡くなってしまうと、このようにいろんな版ができることが多いです。
主な違いは、ギロー版は高級娼婦ジュリエッタの幕が無いこと、
最初に人形のオランピアの幕があるのは、共通していますが、
歌姫アントニアと高級娼婦ジュリエッタの順番が逆になったり、
また、プロローグでミューズが出てきたり、でてこなかったり、アリアが多かったり。
と言う具合に、版によって微妙に順番や内容が異なっています。
ホフマン物語については、このことをちょっとだけ頭に入れておくのがいいかもしれません。
上演時間とあらすじ
上演時間
- プロローグ:約25分
- 第一幕:約40分
- 第二幕:約30分
- 第三幕:約40分
- エピローグ:約15分
正味2時間半なので、休憩を入れると3時間ちょっとというところだと思います。
通常休憩は、第一幕の後と、第二幕の後の2回入ると思います。
簡単あらすじ
いろんな版があるのですが、ミューズが登場、またオランピア→アントニア→ジュリエッタの順で書きます。
プロローグは、ホフマンが酒場で学生たちに求められて、3つの恋物語を始めようというところ。
ミューズが登場し、彼に詩人として芸術に愛を捧げるよう言って、その後ミューズは友人ニクラウスになるのが通常。ミューズ(ニクラウス)は一貫してホフマンを心配して、助けようとする役。
第一幕は人形オランピアの幕。オランピアを本物の女性だと思って恋するホフマンですが、
人形は壊れてしまい、ホフマンは笑い者に。
第二幕は、歌えば歌うほど体を蝕む歌姫、アントニアの章。
これ以上歌ってはいけないのに、悪魔のミラクルが歌え歌えと迫っていき、死んでしまう様はなんともシュールな幕です。
そして第三幕では、高級娼婦ジュリエッタは悪魔に心を売り、言いよる男性の魂を奪ってしまうというもの。
ホフマンは、魂を与えると言ってしまうのですが、結局ジュリエッタは去ってしまいます。
エピローグでは物語が終わって最初の場所。酔いつぶれたホフマンがいます。
こんな感じのあらすじです。
見どころ
全体にシュールなオペラで、私はとてもおもしろいと思います。
愛や恋を讃えるオペラが多い中、異質で全体に不気味というか不思議感が漂うオペラだからです。
音楽もオッフェンバックらしく躍動的かつ繊細で、聴きどころ見どころがたくさんだと思います。
特に注目したいのは、第1幕のオランピアの章。
ゼンマイ仕掛けの人形が歌うアリアは、単独でもよく取り上げられますが、
歌もさることながら、人形の感じをどうやって演出するか、どうやって演技するかがとても興味あるところで見どころだと思います。
特にゼンマイが切れそうになって慌てて巻くあたりの音楽はとても楽しいと思います。
またプロローグで歌われる「クラインザッハの物語」は一度聞いたら忘れない旋律ではないでしょうか。
ここも見どころ聴きどころで、私も大好きな曲です。
そして、ホフマン物語で最も有名な曲は、ジュリエッタとニクラウスが歌う二重唱の「舟唄」
ゆったりとした美しい曲は単独でも有名な曲ですが、このオペラに出てくる曲だということは意外に知られていないのではないかと思います。
リンドルフ、コッペリウス、ミラクル博士、ダペルドゥットは、通常すべて一人のバリトンが歌い、
ステッラ、オランピア、アントニア、ジュリエッタの四役も一人のソプラノが担当します。
でも、今年見たホフマン物語では、女性は別々の人が歌っていました。
ここら辺もその公演によって、違うのでチェックしてみるといいかもしれません。
ホフマン物語をみると、オッフェンバックが鬼才と言われた理由がわかる気がします。
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