「イオランタ」は生まれつき目が見えない王女の物語でチャイコフスキーのオペラです。
チャイコフスキー最後のオペラ
チャイコフスキーは1840年生まれで1893年に亡くなっているのですが、
イオランタというオペラは亡くなる前年に発表されています。
そしてこの作品がチャイコフスキーの最後のオペラ作品になっています。
- イオランタ:作曲チャイコフスキー
- 初演:1892年
- 場所:マリインスキー劇場(サンクトペテルブルク、キーロフ劇場と呼ばれていたこともある)
この作品は1幕もので約1時間半ほどのオペラです。
くるみ割り人形っていうバレエがありますよね。同じくチャイコフスキーの作品なのですが、
実はイオランタはこのくるみ割り人形と二本立てで上演するために作られたみたいなのです。
くるみ割り人形も1時間半程度の作品です。
一本だけだと確かに短いけど、一気に二本を見ると結構長くなったんだろうな思っちゃいますが
くるみ割り人形もイオランタも1892年の12月18日に、つまり同じ日に同じ場所で初演されているのです。
何よりバレエとの二本立てっていうのが珍しくてそれはチャイコフスキーならではなんじゃないかと思います。
チャイコフスキーってバレエもオペラも交響曲も協奏曲もなんでも作れる人で、全部有名ですよね。スゴイ!
ヴェルディのオペラなどは、途中にバレエの見せ場があって、あれはあれで好きなんですけど
二本立てでバレエとオペラを楽しめるっていうのは、少なくとも私は見たことがないです。
バレエとオペラっていう組み合わせもいいなあって思います。
おとぎ話が原作
さてイオランタというのは主人公の王女の名前です。
もとはアンデルセンの童話で、それをヘンリク・ハーツっていう人が戯曲化した「ルネ王の娘」っていう作品が元になっています。
ルネ王の娘の名前がイオランタ。
アンデルセンは1805年−1875年に生きた人で、デンマーク出身。
そしてヘンリク・ハーツっていう人も同じくデンマークの人でだいたい同じ時代を生きた人です。
ハーツが戯曲化した作品は、当時ヨーロッパ中でいろんな言語に訳されたらしく、ロシア語にもなったっていうことみたいです。
余談ですが、ロシアって今の首都はモスクワですけど、オペラの歴史を見ていても出てくるのはサンクトペテルブルクのあたりばかり。
マリインスキー劇場があるのもサンクトペテルブルクです。
ロシアには行ったことがありませんが、行くなら絶対サンクトペテルブルク、と常々思ってます。
当時って今見ると結構おとぎ話的なオペラが成功しているんですよね。
おそらく一番影響を与えたのはフンパーディンクのヘンゼルとグレーテルじゃないかと。
ヘンゼルとグレーテルって、おとぎ話だけど音楽はとびきり上級っていうのが私のイメージで
大好きなオペラの一つなんですけど、フンパーディンクってこういうメルヘンオペラで一躍有名になった人なんですよね。
いまはヘンゼルとグレーテルくらいしかあまり上演されてないけど(日本では)、他にもいくつかメルヘンチックなオペラを書いています。
で、何かが流行すると絶対に同じようなものって出てくるものですよね。
なんかもその路線で生まれたんじゃないかって思うのです。(勝手な想像ですが)
ただ、イタリアオペラをみるとメルヘンちっくなオペラってこの頃には見当たらなくて。
イタリアでは現実的なヴェリズモオペラがブームの頃なのです。
だからメルヘンオペラには興味がなかったのか、生まれる素地がなかったのかその辺はわからないです。
そもそもドイツ圏のオペラの方がおとぎ話系のものは多い感じですよね。
イタリアはおとぎ話というより神話なのかも‥。
ちなみにイギリスのギルバート&サリヴァンのオペラの中にも「イオランタ」っていう同名の作品があるのですが、こちらは妖精が出てくる別のお話ですね。
原作との違いもある
さてイオランタは盲目の王女の恋のお話なのですが
設定がちょっと変わっています。
生まれつき目が見えない王女は隔離されて育っていて、目が見えない事も知らされず
目は涙を流すためにあると思っているのです。
だから見えるようになりたいという欲求もそもそも無いのです。
生まれた時からそう教えられたら、暗闇の中で暮らすことが普通になるものなのだろうか、と
おとぎ話とはいえ、私はハタと考えてしまいました。
そもそも目が見えない動物って確かにいるわけだし‥。
まわりの人に恵まれていたら、そういうことってありうるかもと。
で、イオランタの目は手術で治る可能性があるけど、本人が治りたいという強い意志がないと治るものも治らないと、物語の中でお医者さんが言うわけです。
そこになると急に今の社会でも通じる重い主題になってますよね。
本人が治りたいっていう意志って、実際今の医学があってもやはり大事って言いますから。
で、その意志を持つのは好きな人ができたからっていうことになるわけで、愛の力は大きいわけです。
オペラでは、イオランタには婚約者がいるのですが、婚約者ではなくその友達の方を好きになります。
でも原作はちょっと違うみたいです。
婚約者とその友人がたまたまイオランタの元にやってくるのは同じなんですけど
原作では逆というか、
婚約者の男性は、知らない女性と結婚なんかしたくない→
たまたまイオランタと出会って婚約者と知らずに好きになる→
好きな人ができたから婚約は解消したいと申し出る→
実は婚約者とはイオランタのことだった、めでたしめでたし
となっていて、婚約者が主になってます。
ところがオペラでは、婚約者には別に好きな女性がいるので婚約を解消したがっていて。
一緒にいた友人の方とイオランタが恋に落ちると言うもの。
そこをどうして変えたのかと言うのはわかりませんが、まあ原作の感じはありきたりの気がしないでもないからちょっとひねったんですかね。
それとも原作のままだと友人の存在があまり必要無いとか?
オペラ・イオランタでは、もともとの婚約者はバリトンが担当、恋に落ちる友人役はテノールが担当で、
原作と違って友人が俄然目立つ存在になっているわけです。
やっぱりテノール声が真の恋人役よねなどと、なんとなく思っちゃいました。
いずれにしても、決められた結婚ではなく本当の恋愛ののちに結ばれるというところは、原作もオペラもどちらも同じということかも。
簡単あらすじと見どころ
では上にちょっと書いてしまいましたが簡単あらすじを。
イオランタ簡単あらすじ
ルネ王は、娘(イオランタ)の目が生まれつき見えないとわかって以来、城中の者に見えないことを娘に悟られないよう命じ、外部の人とは接触させないようにして来ました。
美しく成長したイオランタですが、何かが足りないと感じます。
医者は手術により治る可能性があるけど、見たいという意志がないと治らないといいます。
そんな頃、イオランタの許嫁が友人と一緒に迷い込んできます。
許嫁は好きな人が別にいるので、イオランタと結婚したくありません。
ところが友人とイオランタは愛し合うように‥。
イオランタは恋人を救うために目を治したいと強く思い、願いはかなってハッピーエンド。
イオランタ見どころ
おとぎ話と言うと、楽しくかわいらしいイメージが浮かんでしまいますが、
イオランタというオペラは(演出にもよるとは思いますが)幻想的というか、とても美しい大人のオペラです。
心に訴えてくるメロディーは感動的で、沸き起こるものを私は感じました。
3人が歌う子守唄は美しく、
ヴォーデモンとイオランタが恋に落ちるシーンは甘美なことこの上なく
目が見えた時のイオランタの喜びと可愛らしさ、その後の音楽の盛り上がりは感動もの。
チャイコフスキーの音楽は本当に美しいです。
そしてもう一つこのオペラの見どころは歌詞。
セリフがとてもいいんですよね。なんていうか「うんうん、そうだよね」っていいたくなるし、深いセリフもたくさん。
目が見えることは幸せだけど見えたから幸せっていうことでもないんですよね。
何よりこのオペラには愛情がたくさんです。イオランタの周りの人々やヴォーデモンの愛情。
とりわけ父ルネ王の苦悩と愛情に満ちた様子はなんとも良いので見どころです。
また目は空いているけど見えない役なので、イオランタの演技と声も注目で見どころだと思います。美しく純粋な心を感じる声であってほしいかな。
このオペラを聞いているとロシア語ってきれいと思ってしまうのはメロディーのせいなのか‥。セリフのせいなのか。
いずれにしても幸せを一緒に感じるオペラじゃないかと思います。
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