オペラ仮面舞踏会は、スェーデンのグスタフ三世が仮面舞踏会において、背後から拳銃で撃たれ、暗殺される、という史実を元にしたヴェルディのオペラです。
ストーリーがが、皇帝の暗殺という内容だったため、検閲にひっかかり、当初予定していた劇場での上演ができなくなったオペラでもあります。
初演と成立
初演
- 作曲:ジュゼッピ・ヴェルディ
- 初演:1859年
- 場所:アポロ劇場(ローマ)
ヴェルディが45歳の時の作品です。
初演の場所は、ローマのアポロ劇場。
ヴェルディのイル・トロヴァトーレというオペラを初演した劇場でもあります。
グスタフ三世の暗殺
オペラ仮面舞踏会は、スウェーデンの国王グスタフ三世の暗殺事件が元になっています。
1792年、ストックホルムの仮面舞踏会に出席していたグスタフ三世は、
会場で背後からピストルで撃たれ、それが元になって、亡くなっているのです。
また、オペラ仮面舞踏会には、占い師が登場し、暗殺を予言しますが、
実際、グスタフ三世も、オペラのように、仮面舞踏会の直前では無いものの、
暗殺を予言されていました。
オペラでは剣で刺されるのですが、実際にはピストル。
いかにも後に戯曲や、芝居で語り継がれそうな、亡くなり方ですが
国王の暗殺という内容なだけに、オペラの成立と初演において、問題となり一悶着あったのも事実です。
なお、アメーリアとの道ならぬ恋愛については、史実ではなく、オペラで付け加えられた部分です。
初演がナポリからローマへ
仮面舞踏会は、もともとは、ナポリのサン・カルロ劇場からの依頼で、ヴェルディが作り始めたオペラでした。
(サン・カルロ劇場)
ところが、内容が国王の暗殺という内容が良くないとして、検閲に引っかかってしまったのです。
当局から、大幅な内容の変更を求められるのですが、作曲家ヴェルディとしても渾身の作品ですから、納得できず、
結果として、裁判にまでなってしまったのです。
その結果、仮面舞踏会は当初のサン・カルロ劇場ではなく、ローマのアポロ劇場で初演されることになりました。
すでに巨匠となっていたヴェルディの作品を、上演したいという、名乗りを上げる劇場はいくつも現れ、
その中からアポロ劇場になったのです。
内容的には、設定をスウェーデンからアメリカに変更しますが、それ以外、大幅な変更はせずに上演できたのです。
ナポリとローマはさほど離れていませんが、当時のイタリアは今のように統一されていたわけではなく
フランスや、オーストリア、スペインなどの勢力の元に分かれていました。
検閲も地域によって異なっていたのですね。
結果として、仮面舞踏会の、ローマでの初演は大成功だったと言います。
今となっては初演がどこだったかは、私たちにとっては、あまり大きなことではないのですが、
当時としては大変なことだったんですね。
仮面舞踏会の作風
グランドオペラの影響
グランドオペラというのは、フランスにおいて19世紀に流行したオペラの形式です。
仮面舞踏会が初演される4年前、ヴェルディは、パリオペラ座からの依頼で、
「シチリア島の夕べの祈り」というグランドオペラを、作曲していることからもわかるのですが、
ヴェルディの作品の中で、この時期に作曲したオペラの作風は、グランドオペラの影響が強く、中でも
- 仮面舞踏会
- 運命の力
- ドン・カルロ
は、壮大で、非常に見応えのある作品です。
それ以前のオペラ、例えば、リゴレットが父と娘の悲しい物語、
椿姫は、高級娼婦の恋愛のストーリーという様に
どちらかというと、小さい世界の設定の作風だったのに対し、
仮面舞踏会は皇帝とその周辺の、出来事。
またドン・カルロは、スペインの皇太子と王妃の悲恋を軸に、国王をはじめとした政治も絡める、
壮大で、劇的な内容で、まさにグランドオペラです。
その後のアイーダになると、セレモニー感が否めないのですが、
この時期のヴェルディのオペラは、非常に引き込まれる、魅力的な作風のオペラです。
アリアも前半がゆっくりで、後半が早めになるという、特有の形式も少なく、
ワーグナーの様に、劇と歌と音楽が一体になってきている、作風になっているのも特徴です。
そのため、とてもドラマティックなオペラです。
スクリープの原作とソンマの台本
オペラ仮面舞踏会は、もともとウージェーヌ・スクリーブという作家が、書いたものでした。
しかも、スクリーブの台本を元に、フランスのオベールという作曲家が、すでに
「グスタフ三世」というグランドオペラを、作曲し、1833年に初演しているのです。
ヴェルディが仮面舞踏会を初演する26年前のことです。
ヴェルディに限らず、原作が同じオペラを複数の作曲家がオペラにする、というのはよくあることではありますが、
スクリーブという作家は、当時、数々のオペラの台本を書いて、成功させている作家でした。
その、スクリーブを使わずに、ヴェルディは、アントニオ・ソンマという劇作家に台本を依頼しています。
これは、なかなかの決断だったのではないかと思うのです。
人気作家だったスクリーブの台本を、使わなかったのは、
オベールの同作品を意識したからなのか、
それともシチリア島の夕べの祈りで、スクリーブと組んだものの、結果として今ひとつだったからなのでしょうか。
結果として、仮面舞踏会は、ヴィエルディの中でも人気演目のひとつとなっています。
ただ、アントニオ・ソンマとはその後、組んではいません。
もともとソンマは舞台劇の作家だったから、ということもあると思いますが
次の作品「運命の力」では、またピアーヴェという台本作家に依頼しているのは、
やはり、リゴレットや椿姫を手がけたピアーヴェとは相性が良い、ということもあるのでしょう。
上演時間とあらすじ
上演時間
- 序曲:約5分
- 第一幕:約50分
- 第二幕:約30分
- 第三幕:約50分
正味2時間15分ですが、内容が濃いので、あっという間に過ぎていくと思います。
簡単あらすじ
総督リッカルドは、腹心の部下レナートの妻、アメーリアを密かに愛してしまっている。
ある日占い師ウルリカに見てもらうと、ウルリカが言うには、リッカルドは、最初に握手をした友人に暗殺されると予言。
そんなリッカルドと、最初に握手をしたのは、最も信頼するレナートでした。
アメーリアとリッカルドが真夜中の郊外で、会っている時、謀反人の危険を知らせにレナートがやって来て、妻とリッカルドの仲を知ってしまいます。
妻の裏切りを知った、レナートは仮面舞踏会での、リッカルド殺害を企てます。
アメーリアはリッカルドに危険を知らせるのですが、願いもむなしくレナートは、ナイフでリッカルドを刺してしまいます。
リッカルドは、すべての人を無罪にすると言い残して、死んでいくのです。
(アメリカが舞台の場合の名前です)
見どころ
ストーリーのおもしろさ
第二幕から三幕にかけての、緊迫するストーリーはまさに、劇的で、見どころそのものです。
妻だとはわからずに、リッカルドと逢瀬をしていた女性に付き添い、謀反人から守ろうとする、忠実なレナート。
顔を隠していたベールが取れて、妻だと知ってしまうあたりは、まさに緊迫する見どころシーン。
そして、リッカルドの方も、忠実なレナートのことを考え、アメーリアを諦め、レナートを栄転させることを決意するのですが
その気持ちを知らずに、リッカルドの殺害を企てるレナートにハラハラするストーリーの展開はまさに見どころです。
そして、自体は最悪の方向へ。
それでも皆を許す、リッカルドには感動もので、最後まで見どころです。
とにかく劇的で迫力があり、引き込まれるのが、オペラ仮面舞踏会です。
ヴェルディが、ソンマに台本について、細かく指示をした、というだけあって、細かいところまでよくできたストーリーだなと、とても感心してしまいます。
スウェーデンかアメリカか
仮面舞踏会は、皇帝の暗殺事件を元にしているので、
舞台がスウェーデンからアメリカに書き直されました。
長らく、アメリカ版で上演されていましたが、
現在では、もともとのスウェーデン版も上演されています。
仮面舞踏会を見る時は、舞台がスウェーデンなのか、アメリカなのか、どっちの版なのかをまず確認するのがいいでしょう。
アメリカ版では、総督リッカルドになっていますが、→スウェーデン版ではグスタフ三世
レナートもスウェーデン版では→アンカーストレーム伯爵
という風に、名前が異なっていますので、それをチェックするのも見どころのひとつでしょう。
またアリアはありますが、単独で浮いているようなアリアではなく、劇の進行と融合しているところも、ヴェルディの初中期のオペラとの違いで、見どころです。
最後に、余談ですが、
仮面舞踏会というと、ハチャトリアンの曲も有名です。
こちらも、とてもインパクトのある曲ですが、ハチャトリアンはヴェルディよりずっとあとの1903年生まれ。
こちらの仮面舞踏会は、演劇用に作られた曲ですね。
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