さまよえるオランダ人・新国立劇場・日本のワーグナーがすごすぎる〜!

新国立劇場のさまよえるオランダ人

今回は新国立劇場にワーグナーの「さまよえるオランダ人」を観に行ってきました。

  • 場所:新国立劇場 オペラパレス
  • 演目:ワーグナー「さまよえるオランダ人」
  • 日時:2022年2月2日 14時

今回も新型コロナの影響だと思いますが、出演者は当初の予定とはかなり変更になっていました。

コロナ事情も長引いて、出演者変更という状況にもすっかり慣れっこになってしまったかも。

テレビを見ていても、毎日そういう変更ばっかりだし‥。

元々の予定通り出ていたのはダーラント役の妻屋秀和さんと舵手の鈴木准さんのみ。

マリー役の山下牧子さんも今日急遽変更になったようで、声は陰から。舞台は別の人という、アフレコのような状態でした。

なので残念ながらマリーの声はあまり聞こえてこなかったけどまあ仕方ないかなと。

会場は平日なのにまあまあの人の入り。

1幕と2幕の間に一回の休憩。2−3幕は続けての上演でした。

喫茶は外のスペースで一応開いていました。でも冬なので寒い‥。

さて今回のさまよえるオランダ人を観た感想を一言で言うなら

「日本人だけのワーグナーでついにここまで!」という驚きでした。

ちょっと偉そうな言い方かもですが、以前は日本人はワーグナーは無理っていうイメージがどうしてもあって‥

そもそも日本の人は体型が華奢だしあんな大オーケストラに負けない声を出すなんて物理的に不可能だよね、

そんなイメージでした。

ところが今回の公演はまるでバイロイト?!(は言い過ぎなのかな)と言いたくなるような素晴らしい公演だったんじゃないかと私は思いました。

声ももちろんですけど、なんだろう演出とかオーケストラとか全部含めて感動でした。

またすぐに観たい、チケットがあるならもう一度来ようかなと真剣に考えたほどでした(最終的にはもったいないから辞めましたが‥笑)

実はさまよえるオランダ人という演目は、ワーグナーの主な作品の中ではこれまでそれほど好きな作品ではなかったんですよね。

ところが今回の公演を聴いて一気に大好きになりました。

それくらい私にとっては衝撃的に良かった。

あと、今回みていてちょっと思ったのは、合唱が多くてインパクトがあり、男性合唱、女性合唱、混声の合唱とはっきり分かれていること、

幽霊船の登場や、崖から飛び降りる乙女などのスペクタクル性、

3幕の冒頭はバレエがはいるのかなという感じなど、なんとなくですけどグランドオペラとかオペラコミックなどパリっぽい感じをとりいれているのかなと漠然と思ってしまいました(これは私だけなのかな)。

合唱についてはのちのビゼーのカルメンをちょっと思い出しました。カルメンの合唱も男性、女性、混声とはっきりしてるんですよね。

演出について

いつも新国立劇場の舞台演出はすごい!と感心するのですが、今回一番私にとってインパクトが強かったのは

幽霊船が出てくるシーン。

ダーラントの船の方は舞台の左の方からさーっと木の板が現れたんですけど、幽霊船は舞台の奥から迫り上がるように登場。これがかっこよかった。

大きな影も現れてそれが迫ってくる様子は、おー!来たーっていう感じ(笑)

幽霊船の背後には古いゴミが付いたかのような薄い幕があってこれがまた船の古さをうまく表していました。

舵だけはくっきりしていて色がわからなかったので新しそうに見えてしまいましたけど、後で光に当たると古い感じでしたね。欲を言えば舵も一部が欠けていたりしたらもっと古さが出たかも(勝手なことを言っております笑)。

ちなみにこの舵は後で出てくる糸巻きとおそらくと同じかな。

それにしても演出っていつもこういう見せ方があるのねと敬服しちゃいます。

船首の三角と影だけで大きな幽霊船が来たってわかるんですもんね。

あと今回の衣装についてですが、個人的にはオランダ人の衣装が良かったです。

とくに最初の暗い中でのオランダ人の衣装は不気味さの中に品の良さも感じられる装いで長い髪も合っていると思いました。

光の中で見るより、薄暗い中で見た時の方がよかったけど‥。

ダーラントも船長らしい服装。ただ、コートを脱いだら急に普通のお父さんの服になっていました‥笑

最後の方で「わたしこそあのさまよえるオランダ人だ!」と名乗るところは迫力あってよかったですよねー。

ちなみにローエングリンでも「私がローエングリンだ!」って名乗るけどワーグナーは「名乗り」が好きなのかなと今回思ってしまった。

歌手について

なんと言っても今回一番注目したのは歌手の人たち。

ダーラントの妻屋秀和さんが最初に堂々と出てきてまずはこの公演すごくなりそう‥っていう予感。

いつも妻屋さんには感動です。日本の宝って言っちゃっていいんじゃないでしょうか。

そしてゼンタ役が田崎尚美さん。この人が本当に素晴らしかった。

初めて田崎さんをルサルカで見た時からワーグナーを歌うのかなって思っていましたけど

タンホイザーのエリーザベト→そして今回のゼンタとやっぱりワーグナーにこの人ありだなあって。

そのうちブリュンヒルデとかもやっちゃうのかな。(もうやってたりして)

オランダ人の物語を歌う時の独特の歌は印象的でしたが、それすらすぐに忘れるほど、パワーは後半に行くほどにみなぎり迫力は増すばかり。

会場全体に彼女の声が轟いていました。本当すばらしい!

とにかく目が離せない歌手さんです。

最後にどうやって飛び込むのかな、または昇天?って思ったら、一度上がってそのあと下がっていきました。

ここは演出難しいよねえ。あれ?地獄に落ちちゃったかなって思ったけど、まあ歌がいいからそこはなんでもいいって感じです。

さまよえるオランダ人って嵐の音楽とかゾクゾクするしオーケストラも迫力満点だけど、全体としては歌手の声が聞きやすいんだなとも思いました。

歌ってる時はオーケストラの音量が小さめというか。それともこれは指揮者の采配?

オランダ人より後ののワーグナーだと歌っていてもガンガン鳴っていたりしますもんね。

今回の公演では後半に行くほどさらに田崎さんの声は朗々と響き、いったいこの人はこんなすごい声でこの公演を何回こなしているんだっけ‥と信じられない気持ちでした。

そして今回もう一人すごく良かったのはエリック役の城宏憲さんというテノール。

以前グノーのロメオとジュリエットでロメオ役を見た時にすごく上手い人だなあって思った人です。

その時はイタリアオペラにぴったりと思ったのですが、今回はワーグナーのエリックで登場。

これまでエリックって公演によっては、うーんなんていうのかな、邪魔者に見えちゃう時があったんですよね。

せっかくゼンタが悲しい運命を救おうとしているのに、チョロチョロとエリックがでてきてゼンタにつきまとうから台無しになっちゃったじゃない、まったく!っていうイメージです。

ところが今回のエリックは違ってました。その情熱とゼンタへの想いがひしひしと伝わってきて、

「あれ、やっぱりオランダ人のところに行かない方がいいのかな‥」って思えるエリックだったんですよね。

こんな風に思ったのははじめて。それくらいエリックはよかったです。

そしてタイトルのオランダ人を歌ったのは河野鉄平さん。独特の顔立ちで束ねた長い髪と前述した衣装がよく似合っていました。

ちょっと悪魔っぽい感じもあり。

声については同じ低音でもダーラントとは全く違う声質でちょっとうらぶれ感も出て良かったんじゃないかと思います。

後半に行くにつれ前半の不思議なイメージがなぜか薄れていったのは、やはりオランダ人は薄暗い方があっているのかなと。

ちょっと驚いたのは河野鉄平さんって夏の夜の夢で妖精パックを演じていたんですよね。パックはほとんど歌がないから声にも気づかなかったし、何より180度違う役だったのでちょっと驚きでした。

オランダ人の役ってむずかしいと思うんですよね。

今回のダーラントのようなどっしり風格のあるオランダ人の場合もあると思うし、

また河野鉄平さんのようにちょっとクセのある若干すさんだ感じのオランダ人もありだと思います。

いったいどういうオランダ人が正解なんだろうって考えてみたんですけど‥やっぱりわからない。

結局正解って無いと思うんですよね。そもそもおばけみたいな存在な訳だし。

怖い人なのか、亡霊みたいなのか、悲しい人なのか、風格や品が大事なのか‥。

今回は少なくとも苦悩がとても感じられたオランダ人でした。

まあだからどんなオランダ人かなと何度見てもおもしろいっていうのはあるのかも。役作りはきっと大変ですよね。

それにしてもダーラントとオランダ人の2重唱はなにげに美しかった。あれは6拍子なのかなブンチャ・・・・というところ、気品があって。

あとゼンタとの2重唱感動的でした。せっかく運命的な出会いをしたのに舞台上の二人がやけに離れすぎている感もありましたが、あれはコロナ対策だった?

あと舵手役は鈴木准さんというテノール。この人はカーリュー・リバーっていう難しいオペラで確か狂女役をやっていた方なんですよね。

本当にあの時の人?って思うくらい。今回は若々しい役で全然雰囲気が違っていたので意外な感じでした。

私はもともと合唱も好きなんですけど、さまよえるオランダ人は合唱も多くてしかも迫力があってこれもよかった。

今回もブラボーは禁止。思わず拍手が聞こえてきたところも何度か。(したくなる気持ちわかるわあと内心納得)

もしブラボーが認められていたらきっとたくさん「ブラボー!」っていう声が飛んでいたと思います。

アカペラから入る男声合唱もよかった!

そして最後にオーケストラにもとりわけ大きな拍手が送られていました。オケの良し悪しはよくわからないけどこの感動はきっとオーケストラも良かったからっていうことだったんですね。

それにしてもワーグナーって麻薬のようです。ワーグナーの音楽を聞くとなんとも言えない快楽物質が体から沸き起こる感じがするんですよね。

日本でこんなに素晴らしいワーグナーがみられてありがたいです!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です