火刑台上のジャンヌ・ダルク/オネゲル

スイスフランにもなったオネゲル

今回はアルテュールオネゲルという人が作曲した「火刑台上のジャンヌ・ダルク」というオペラについてです。

日本ではなかなか上演されないオペラだと思います。

実際に見てみるとかなり引き込まれる印象的なオペラなのですが、芝居要素が強く、フランス語なのでこれを見たい人は少ないだろうなあとは思いました。かなりマニアックな部類のオペラかなと。

作曲したオネゲルという人はフランスのル・アーブルという港町で生まれています。

1892年の生まれで20世紀前半に主にフランスで活躍した人です。

比較的最近の作曲家ということですよね。

いきなり余談ですが、ル・アーブルというとプッチーニのマノン・レスコーが浮かびます。

囚人としてアメリカに連れていかれるマノンが船に乗るのがこのル・アーブルの港。

デ・グリューはル・アーブルまでマノンを追いかけて来るんですよね。

さて、この時代に活躍した音楽家でフランスの6人組と呼ばれる人達がいるのですが、オネゲルはその中の一人でもあります。

6人組には他にプーランクとかミヨーという作曲家もいて、プーランクは「テレジアスの乳房」というオペラを、

そしてミヨーは「罪ある母」というオペラを作った人です。

「罪ある母」っていうのはボーマルシェという小説家が書いた三部作の一つなんですよね。

セビリアの理髪師」→「フィガロの結婚」→「罪ある母」と続く三つの物語の最後の作品で、ミヨーはそれをオペラ化した作曲家でもあります。

残念ながら「罪ある母」は、セビリアの理髪師フィガロの結婚に比べるとオペラとしてはあまり知られていないんですよね。

そのミヨーは6人組の一人でオネゲルと同じく1892年生まれ。パリ音楽院では二人は同級生だったのでした。

こんなふうにオペラのことを調べていて知っている地名とか作曲家の名前が関連して出てくるとなんとなく自分の中でちょこっと繋がって楽しいんですよね。

そんなわけでオネゲルというとフランスの作曲家というイメージが強いのですが、両親はスイス人ということもあり、実はスイスとフランスの両方の国籍を持っていた人なのです。

スイスフランのお札にも載っちゃっているんですよね。それくらいだからおそらくスイスの人も自分の国の作曲家ってきっと思っていますよね。

オネゲルの代表作が今回の火刑台のジャンヌ・ダルクです。

  • 作曲:オネゲル
  • 台本:ポール・クローデル
  • 初演:1938年
  • 場所:スイスのバーゼル

初演はスイスで演奏会形式だったようです。

舞台を使っての上演は1942年のこと。これも場所はスイスでチューリッヒ歌劇場でした。

最初に演奏会形式というケースはちょいちょいありますが、たいていは舞台できちんとできなかったのかなと感じるケースの気がします。

でもこのオペラに関してはそもそも演奏会形式が合っているからそうしたのかなとそんな気がします。それくらい語り要素が多いんですよね。

イダ・ルビンシュタインに捧げた

このオペラはある一人のダンサーのために作られたといいます。

それがイダ・ルビンシュタインという人。

1885年、ロシアで生まれでフランスで活躍したダンサーです。

バレエをやっている人なら知っている名前かなと思いますが、20歳で始めたにも関わらずパリで20世紀前半

一世風靡したダンサーと言っていい人だと思います。

有名なのはボレロ。上半身裸の男性たちの中で踊り続けるバレエは一度見たら音楽も踊りも忘れられないくらいインパクトが強いですよね。

このボレロはイダ・ルビンシュタインのためにつくられた踊りだと聞くとなんとなく彼女のイメージが湧くのではないでしょうか。

バレエの技術というよりも演技力、妖艶さなど惹きつけるものがすごかったらしいです。

ボレロは同じ旋律が延々続く、まことに不思議な踊りですよね。

ちなみにボレロの振り付けは有名なニジンスキーの妹ニジンスカなんですよね。

そのほかイダはシェヘラザードもやっているとか。

やはり妖艶で個性的な踊り手だったんだろうなと想像がつきます。

またイダ・ルビンシュタインはリュスというバレエ団に所属していて、リュスといえばストラヴィンスキーのエディプス王夜鳴きうぐいすの上演に関係しているバレエ団なのです。

当時のパリのオペラはバレエ色がちょいちょい強いなと感じるのですが、そんな一端をまた垣間見た気がしました。

火刑台のジャンヌ・ダルクではこのイダ・ルビンシュタインが主役のジャンヌを演じたわけです。

もっともイダ・ルビンシュタインは1885年生まれなのでジャンヌ・ダルクを演じたときは50歳くらいかなと。

その年齢で19歳のジャンヌを演じたんだなあと、そんなことも頭をよぎりました。

この役はのちにイタリア語版にされてナポリのサン・カルロ歌劇場でも上演されているのですが、イングリット・バーグマンがジャンヌをやっていたりするんですよね。ちょっとびっくりでした。

イングリット・バーグマンは映画のイメージしかなかったので、そういうのもやっていたんだなと。

オラトリオ風オペラ

イダ・ルビンシュタインが主役をやっていたことからも想像つくと思うのですが、このオペラはとても変わっていて主役が歌手ではないのです。

あともう一人ドミニクという僧侶がジャンヌの次にたくさん出て来る役なのですが、ドミニクも歌手ではないのです。

このオペラは二人の俳優の芝居によって進んでいって、オペラで歌手はどちらかというと脇役。

もともとオペラというよりオラトリオと呼ばれているのもそのためだと思いますが、よくあるオラトリオともちょっと違うのかなと。

劇的オラトリオっていう言い方もされていますけどこれが個人的には一番合っているような気がしています。

シーンは火刑台の前夜から当日にかけてジャンヌが過去をフラッシュバックさせている様子です。

最後は怯えながら火刑台に行くも、天からの声が降りるという感動的な作品なのです。

題材自体は15世紀のことなので古いのですが、完全に俳優と歌手が融合したオペラというところがとても現代的だなと感じました。

現代のオペラはオーランドを見た時もそうでしたが、とてもお芝居要素が強いものがあると思っていたからです。

でもちょっと考えてみると古いオペラでも歌わない役ってあるんですよね。

モーツァルトの後宮からの逃走のセリム役とかウェーバーの魔弾の射手のザミエルもそうだったなあと。

やっぱりオペラっていろんな形があると改めて思ったのでした。

ジャンヌはほとんど一人芝居のような部分もあり、セリフも多く確かにすごく大変そうな役ですが、このオペラの台本を書いたポール・クローデルっていう人がまた有名な人なんですよね。

フランスの文学会ではなくてはならない人らしいですけど、一方で外交官の仕事もしていて、日本に駐在していたこともあるという人。

日本びいきだったというこのクローデルの台本が素晴らしいからこの作品ありというそんな気もします。

火刑台上のジャンヌ・ダルクあらすじとみどころ

最後に少しだけあらすじと見どころを

場面はジャンヌ・ダルクが火刑に処される直前のこと。

なぜこんな事になったのかよくわからないジャンヌの元に層ドミニクがやってきて語りかけます。

ジャンヌは過去を振り返ると、おかしな裁判は豚や驢馬たちが進めており、また王はトランプで負けたのでジャンヌを差し出すという体たらく。

一方でジャンヌの活躍で国王がランスで戴冠式を挙げるという輝かしい思い出も出てきます。

そして現実に戻り火刑台へと。

でもそこに聞こえる天の声。ジャンヌは勝利を叫ぶのでした。

最初は落ち着いた様子のジャンヌが静かに語るところから始まります。

トランプゲームのシーンの音楽などはなぜかちょっとバロックっぽい感じも。

また王がランスに向かうシーンの前半は徐々に盛り上がり、合唱も良くて個人的には好きなところです。

最初ジャンヌは、わけがわからないという静かな様子から始まりますが、終盤に向けてジャンヌは徐々に強く雄弁に語り、音楽や歌も助けてとても感動的になっていきます。

1時間少しのこのオペラですが、見始める最初の印象から高揚していく様子がとても素晴らしく感じられると思います。

全く新しい音楽で、他のどれとも違うオペラではないかと思いますから全部が見どころかな。

最後の合唱もとても感動的で見どころです。

全体にセリフも多く芝居色が強いので、演出は舞台によってかなり違うのではないかと。

そしてジャンヌの語りと演技はやはり一番見どころだと思います。

全然関係ないんですけど、ロッシーニのオペラで「ランスへの旅」っていうのがあります。

こちらはシャルル10世の戴冠式に行くオペラで19世紀のお話なので時代が違うんですけど、やっぱりランスなんだなあというのもちょっと思いました。

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