オルフェオとエウリディーチェ・グルックによるオペラの改革って

オルフェオはギリシャ神話に出てくるお話です。

神話では、黄泉の国から戻る途中に振り返ってしまったため、

エウリディーチェは消えてしまい、二度と会えないという悲しい結末なのですが、

オペラではハッピーエンドになっています。

初演と成立

初演

  • 作曲:グルック
  • 初演:1762年
  • 場所:旧ブルク劇場(ウィーン)

オルフェオとエウリディーチェは、もともと

マリア・テレジア(マリーアントワネットの母)の夫、フランツ1世のための、祝典用のオペラでした。

初演の旧ブルク劇場は、1741年にできた劇場で1200人程度の劇場。

式典の当時は、ハプスブルグ家の王宮から劇場までは直接通路があって行けたようです。

式典にしても直接行けるという構造にしても、さすが栄華を極めたハプスブルグ家という感じですよね。

初演の1762年という年は、モーツァルトが若干6歳でシェーンブルン宮殿でピアノの演奏をしたと言われている年です。

その時マリー・アントワネットは7歳

モーツァルトの演奏をマリー・アントワネットも聞いたんだろうかとか

オルフェオとエウリディーチェの式典には、マリー・アントワネットは、子供でも参列したんだろうか、

などと想像してしまいます。

今から250年以上も前のことです。

成立

18世紀のオペラ界はオペラセリアが流行していた時代です。

オペラセリアの時代

オペラセリアは、カストラートのようなスター歌手ありきのオペラになっていき、

台本も徐々に支離滅裂になっていき、作曲家は自由にオペラを作りにくくなっていた時代でした。

そのような状況に一石投じた一人が、グルックとグルックのオペラだったといいます。

グルックのオペラの成立は、その後のオペラに大きな影響を与えたのです。

  • わかりやすい台本
  • カストラートの技巧を誇示する部分を減らす
  • 音楽と劇が融合しつつある
  • レチタティーヴォがチェンバロ(チェロ)だけでなく、オーケストラになった

など。

もっと古いオペラセリアを聞いていると、レチタティーヴォとアリアの繰り返しで、

はっきり言ってしまうと、同じパターンで進んでいくので退屈に感じる時があります。

それに比べると、グルックのオペラは確かに音楽も歌も劇的です。

そこがもっとも違うところだと思います。

オルフェオとエウリディーチェ初演の時のグルックは48歳でした。

このオペラを作曲する以前もグルックは多くのオペラを作っていて、

いかにもオペラセリア、というタイプのものを多く手がけていたはずです。

そしてこれではいかん!と奮起したというところでしょうか(想像です笑)。偉い人ですね。

とはいえ、オルフェオとエウリディーチェも、カストラートたちが披露していたであろう、

コロラトゥーラなどの部分が全くないわけではなく、残っています。

また、もっと後の時代のヴェルディのオペラなどと比べると、

そうはいってもグルックのオペラはやはりバロックっぽくて

ストーリーの進行がゆっくりだなとは感じます。

要は比較はそこじゃなくて、グルックより古いオペラと比較すると明らかに改革!なんですよね。

このようにオペラも、時代とともに変わっているというところが、おもしろいのではないかと思いますね。

カストラートとカウンターテナー

ウィーン版とパリ版

初演はウィーンの旧ブルク劇場でしたが、初演のオルフェオとエウリディーチェはイタリア語でした。

当時オペラの言語は基本的にはイタリア語でした。

オペラって何語?

特に宮廷でやるようなオペラの言語は、イタリア語上演と決められていたんですね。

オペラの世界では、イタリアがもっとも伝統があると言われるのはこのようなことからもわかります。

そして、初演のオルフェオ役はやはりカストラートが担当しました。

グルックと一緒に台本を担当したのはカルツァピージという人で、彼はもちろんグルックの改革に賛同していたのでしょうが、

思うに、初演で歌ったカストラート歌手もそうだったのではないかと思います(これも想像です笑)。

明らかにそれまでの、オペラセリアとは異なるわけですから。

そして、初めてこのオペラを見た人たちの感想は、あれ?いつもと違うという感じだったのでしょうか。

グルックは改革オペラを作った作曲家と言われていますが、

賛同する人たちは実は多くいたのかもしれません。

さて、このオペラはその後パリでも上演されるのですが、

フランスはフランス語での上演を好む国でした。

そのため、パリ版はフランス語になっています。

また、フランスではカストラートの人気があまりなかったのでテノールが歌いました。

ただ、テノールといっても、女性の音域まで出せる声域を持つ特殊なテノールでした。

また、パリ版は有名な「精霊の踊り」(フルート曲として有名)が入れられました。

私の場合、もともとオペラよりこの精霊の踊りの方を先に知っていました。

なのでウィーン版を見た際に、この曲が入っていなかったので非常に不思議に思ったのを覚えています。

精霊の踊りはとてもきれいな曲で、これを吹きたいからフルートを始めたという人もいたんですよね。

なので、この曲をどうしても聞きたいのであれば、オルフェオとエウリディーチェのオペラを見る時は、

ウィーン版かパリ版かを確認した方がいいと思います。

ただ、折衷版もあるのでそれも注意です。

上演時間とあらすじ

上演時間

  • 序曲:約5分
  • 第一幕:約25分
  • 第二幕:約40分
  • 第三幕:約35分

正味1時間45分ほどなので、

休憩を入れると2時間半程度でしょう。

パリ版は、これよりもう少し長くなると思います。

精霊の踊りは、2幕2場に入ります。

簡単あらすじ

最愛のエウリディーチェが毒蛇に噛まれて死んでしまい、オルフェオは嘆き悲しんでいます。

あまりの悲しみようなので、愛の神アモーレが試練をクリアしたらエウリディーチェを戻してあげると言います。

そして無事にエウリディーチェが生き返ったのですが、

黄泉の国から出るまでは、決して妻の顔を振り返ってはいけない、

という約束があったにも関わらず、耐えきれずオルフェオは振り返ってしまいます。

そのためエウリディーチェは消えてしまいます。再び嘆き、自殺しようとするオルフェオ。

それをみて、アモーレは再度エウリディーチェを元に戻してあげてハッピーエンドというあらすじです。

見どころと録音

見どころ

ヘンデルの音楽も美しいので、比較するにはちょっとどうかとは思いますし、

当時の典型的なオペラセリアは、今ではあまり上演されないのですが、

比較的上演されているヘンデルのオペラと比較しても

その違いはよくわかります。

レチタティーヴォについては、チェンバロやチェロだけではなく、様々な楽器が演奏していることが一つの見どころと聴きどころでしょう。

そして、ストーリーがドラマティックで劇的なことも注目箇所で見どころです。

また、オペラセリアは最後にみんなで合唱と言うパターンが多いのですが、

オルフェオとエウリディーチェでは、合唱も効果的に随所に入れられています。

またその合唱が美しいのも見どころの一つだと私は思います。

パリ版、または折衷版を見る場合は「精霊の踊り」がやはりきれいです。

そして、アリアでもっとも魅力的で見どころなのは、振り向いてしまったばかりにエウリディーチェが死んでしまうシーンで、

オルフェオが嘆くアリア

これは一度聞いたら忘れない名曲で、見どころではないでしょうか。私は大好きです。

そしてオルフェオ役は元々はカストラートでしたが、現在ではテノールやバリトン、カウンターテナーが歌ったりするので、どの音域の人が歌うのかはぜひ注目したいところですね。

録音

カストラートが担当していたオルフェオは、現在ではメゾソプラノやアルト、またはカウンターテナーが担当します。

オクターブ下げて、バリトンが歌うことも。

オルフェオ役としては、録音では

ちょっと古くは(かなり古いかも)、メゾソプラノの

  • シミオナート
  • シャーリー・ヴァーレット
  • グレース・バンブリー
  • ヤノヴィッツ

など。そしてソプラノの

  • ユリナッチ

このユリナッチは、ソプラノですが低い声も出る名歌手だったので、

オルフェオもエウリディーチェ(ソプラノ)もどちらも歌えた人でした。

比較的最近の人の録音では

  • アグネス・バルツァ(メゾソプラノ)
  • アニタ・ラチエリシュベリ

そしてカウンターテナーも、オルフェオを歌っています。

  • ヨッヘン・コヴァルスキー
  • ルネ・ヤーコプス

特にヨッヘン・コヴァルスキーは、まろやかで力強く、すばらしい声です。

オクターブ下げてバリトンでは、

  • フィッシャー・ディスカウ

が歌っています。ディスカウのオルフェオならバリトンも良いかも、と思ってしまいます。

また、テノールのファン・ディエゴ・フローレスもあります。

テノールでこの役に挑戦するとは、ちょっと信じられないことなのですが、

彼の突き抜けるような高音なら可能なんですね。

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